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真面目というか、直球というか、【楽あり亭】の定休日――早朝。
まだ日が昇って間もない時間帯に、店の扉が叩かれる。無論、それを成しているものが誰かは分かっていた。
「たのもうーっ! イックウ殿ぉーっ! 来ましたぞーっ!」
「だぁーもうっ! 早えよっ!?」
勢いよく扉を開けると、そこには満面な笑みを浮かべたメルヴィスがいた。
「何を申される。定休日には顔を出すと申したではありませぬか」
いや、確かに言ってたけど……。
どうやらこの娘は少し一般常識を欠いている部分があるようだ。
「はぁ~、とにかく中に入って待っててくれ。ふわぁ~」
幼い頃から騎士を目指して一直線に突っ走ってきたせいで、庶民の常識に疎いのかもしれない。というよりも、思いついたら脇目も振らずに即行動という面倒なタイプなのかもしれないが。
オレが朝食の支度をしていると、ポアムとオリク婆、そしてヒノデも姿を見せた。三人ともがメルヴィスの早過ぎる登場に驚いている。
「お~い、メルヴィス、朝飯は食べてきたのかぁ?」
「おお、そういえば忘れていましたぞ」
「んじゃ、作るから一緒に食べろ」
「忝いですな、イックウ殿」
別に一人分増えたところで問題はないし、彼女だけに食べさせないというのはどうかと思ったので作ることにする。
「――おお~! これがイックウ殿たちが毎朝食しておられる朝食なのですな!」
感動しているメルヴィスだが、出したのはごく一般的な朝食である。
昨日の釜めしに使っていた《なめ茸》を使った《なめ茸ご飯》に《焼き魚》、そして《漬物》と《味噌汁》だ。
皆で食卓を囲って朝食を頂くことに。
「「「「いただきます!」」」」
仲良く手を合わせて箸を持つ。
「はむ……んん! やはりイックウ殿の料理は美味しいですな!」
「そりゃ良かった。ってまあ、凝ったもんは別にねーんだけどな」
「そんなことはありませぬぞ。この《なめ茸ご飯》は、ちょうど良い酸味のお蔭で、朝から無理なく喉を通りますし、《焼き魚》についても味付けが抜群で、この《大根おろし》がまた良く合って美味しいです。それにこの《味噌汁》…………はぁ、あったまりますなぁ」
やはり爺臭い言葉をする少女だなとオレは思うが、満足してくれているようなので嬉しい。何だかんだいっても、こうして作った料理を美味しく食べてくれるのは料理人冥利に尽きる。
「それでイックウ殿?」
「あ? 何?」
「今日はさっそく手伝ってくださるのかな?」
「先約を済ませてからな」
「先約?」
「ポアムとヒノデの修業だよ」
「ほほう、修業とな」
キラリとメルヴィスの目が光る。
「それが終わった後に、クエストは手伝ってやるから、待っててくれ」
「ふむ。……イックウ殿、その修業に私も参加してもよいですかな?」
「はあ? 待て待て、修業っていってもこの子たちはまだ中級者にもなってないレベルだぞ。師団長のお前が満足できる修業なんかじゃねーと思うけど?」
「いえいえ、イックウ殿がどのように二人を鍛えるのか興味があるのです。こう見えて私も部下を持つ身。学ぶべきところがあるやもしれぬ」
「ふぅん。まあ、好きにしたらいいけどさ」
別に今更見られて困るようなことはない。
「んじゃ、朝食食ったら街の外へ行くか」
「はい、イックウ様!」
「で、ござる!」
ポアムとヒノデが打てば響くような反応を返す。
――――【ベリアット草原】。
オレたちが住む【アビッソタウン】の西側に広がる広大な草原のこと。時間があれば、いつもここでポアムに修業をしてやっているのだ。
「よーし、準備運動はしっかりやっておけよー!」
オレはポアムとヒノデに言いながら、自身の身体を動かし念入りにストレッチをしていく。いくら鍛え抜かれた身体とはいえ、こうして解しておかなければ本領発揮は望めないのだ。こういうところはゲームとは違い、現実感を覚えさせる。
「んじゃ、初めて修業をするヒノデには、これを付けてもらうぞ」
オレは《アイテムボックス》から、ポアムにも渡して装備させている《グロースリング ジョブタイプ》と《グロースリング EXPタイプ》を渡した。
「えっと……これは?」
「それを付けて経験値を稼げば、通常の1,5倍の経験値を得られるんだよ」
「何と!?」
「ほう、やはりイックウ殿もお持ちでしたか」
「ああ、メルヴィスが指につけてるのもそうだろ」
そう、彼女の指にも同様のものがつけられてある。
「それ上げるから、レベル上げをする時にはいつも付けるようにな」
「こ、このようなものを頂いてもよいのでござるかっ!? か、か、忝いでござるぅ!」
大げさかと思うほど頭をブンブン下げてくるヒノデ。
「気にしない気にしない。さて、次に二人には――コレだ」
そう言って、再び《アイテムボックス》から取り出したのは、一冊の本。
まだ日が昇って間もない時間帯に、店の扉が叩かれる。無論、それを成しているものが誰かは分かっていた。
「たのもうーっ! イックウ殿ぉーっ! 来ましたぞーっ!」
「だぁーもうっ! 早えよっ!?」
勢いよく扉を開けると、そこには満面な笑みを浮かべたメルヴィスがいた。
「何を申される。定休日には顔を出すと申したではありませぬか」
いや、確かに言ってたけど……。
どうやらこの娘は少し一般常識を欠いている部分があるようだ。
「はぁ~、とにかく中に入って待っててくれ。ふわぁ~」
幼い頃から騎士を目指して一直線に突っ走ってきたせいで、庶民の常識に疎いのかもしれない。というよりも、思いついたら脇目も振らずに即行動という面倒なタイプなのかもしれないが。
オレが朝食の支度をしていると、ポアムとオリク婆、そしてヒノデも姿を見せた。三人ともがメルヴィスの早過ぎる登場に驚いている。
「お~い、メルヴィス、朝飯は食べてきたのかぁ?」
「おお、そういえば忘れていましたぞ」
「んじゃ、作るから一緒に食べろ」
「忝いですな、イックウ殿」
別に一人分増えたところで問題はないし、彼女だけに食べさせないというのはどうかと思ったので作ることにする。
「――おお~! これがイックウ殿たちが毎朝食しておられる朝食なのですな!」
感動しているメルヴィスだが、出したのはごく一般的な朝食である。
昨日の釜めしに使っていた《なめ茸》を使った《なめ茸ご飯》に《焼き魚》、そして《漬物》と《味噌汁》だ。
皆で食卓を囲って朝食を頂くことに。
「「「「いただきます!」」」」
仲良く手を合わせて箸を持つ。
「はむ……んん! やはりイックウ殿の料理は美味しいですな!」
「そりゃ良かった。ってまあ、凝ったもんは別にねーんだけどな」
「そんなことはありませぬぞ。この《なめ茸ご飯》は、ちょうど良い酸味のお蔭で、朝から無理なく喉を通りますし、《焼き魚》についても味付けが抜群で、この《大根おろし》がまた良く合って美味しいです。それにこの《味噌汁》…………はぁ、あったまりますなぁ」
やはり爺臭い言葉をする少女だなとオレは思うが、満足してくれているようなので嬉しい。何だかんだいっても、こうして作った料理を美味しく食べてくれるのは料理人冥利に尽きる。
「それでイックウ殿?」
「あ? 何?」
「今日はさっそく手伝ってくださるのかな?」
「先約を済ませてからな」
「先約?」
「ポアムとヒノデの修業だよ」
「ほほう、修業とな」
キラリとメルヴィスの目が光る。
「それが終わった後に、クエストは手伝ってやるから、待っててくれ」
「ふむ。……イックウ殿、その修業に私も参加してもよいですかな?」
「はあ? 待て待て、修業っていってもこの子たちはまだ中級者にもなってないレベルだぞ。師団長のお前が満足できる修業なんかじゃねーと思うけど?」
「いえいえ、イックウ殿がどのように二人を鍛えるのか興味があるのです。こう見えて私も部下を持つ身。学ぶべきところがあるやもしれぬ」
「ふぅん。まあ、好きにしたらいいけどさ」
別に今更見られて困るようなことはない。
「んじゃ、朝食食ったら街の外へ行くか」
「はい、イックウ様!」
「で、ござる!」
ポアムとヒノデが打てば響くような反応を返す。
――――【ベリアット草原】。
オレたちが住む【アビッソタウン】の西側に広がる広大な草原のこと。時間があれば、いつもここでポアムに修業をしてやっているのだ。
「よーし、準備運動はしっかりやっておけよー!」
オレはポアムとヒノデに言いながら、自身の身体を動かし念入りにストレッチをしていく。いくら鍛え抜かれた身体とはいえ、こうして解しておかなければ本領発揮は望めないのだ。こういうところはゲームとは違い、現実感を覚えさせる。
「んじゃ、初めて修業をするヒノデには、これを付けてもらうぞ」
オレは《アイテムボックス》から、ポアムにも渡して装備させている《グロースリング ジョブタイプ》と《グロースリング EXPタイプ》を渡した。
「えっと……これは?」
「それを付けて経験値を稼げば、通常の1,5倍の経験値を得られるんだよ」
「何と!?」
「ほう、やはりイックウ殿もお持ちでしたか」
「ああ、メルヴィスが指につけてるのもそうだろ」
そう、彼女の指にも同様のものがつけられてある。
「それ上げるから、レベル上げをする時にはいつも付けるようにな」
「こ、このようなものを頂いてもよいのでござるかっ!? か、か、忝いでござるぅ!」
大げさかと思うほど頭をブンブン下げてくるヒノデ。
「気にしない気にしない。さて、次に二人には――コレだ」
そう言って、再び《アイテムボックス》から取り出したのは、一冊の本。
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