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「――あれ? 誰か来られてたんですか?」

 ポアムが店の奥からやって来て、テーブルの上にある二つのコップを見て来客があったことに気づく。

「うん。所長さんがね」
「所長さんが?」

 オレはここで話したことをポアムに伝えた。

「そう、ですか。話には聞いていましたけど、思った以上に【アビッソの穴】ってすごいダンジョンなんですね」
「まーね。クリアできる奴なんて多分、数えるくらいしかいねーかもな」
「そ、そのダンジョンをクリアできるようになれば、かの者にでも勝てるでござるか!」
「うおっ!? い、いたのかよ、ヒノデ!」

 いきなりの登場はビックリするから勘弁してほしい。

「あ、申し訳ござらん! 臣下の身分で失礼を!」

 すぐさま距離を取って跪くヒノデ。……ああ、やりにくい。

「えっと、別にそこまで畏まらなくていいから。えっと、何だっけ?」
「ヒノデくんは、【アビッソの穴】をクリアできるように強くなりたいということですよね?」
「そうでござる、ポアム殿!」
「う~ん。確かに“リョフ”の奴ならクリアできるだろうしなぁ」
「つ、つまりそこをクリアできなければ、“リョフ”にも勝てぬということでござるな?」
「あ、でも勝手に挑むのは絶対ダメだから。あそこはヒノデが考えているよりずっと危険な場所だ。今のヒノデじゃ、入って十分もしないうちに――死ぬ」

 その言葉に顔を青ざめるポアムとヒノデ。

「それに、あそこは元々パーティでクリアするような場所でもあるんだよな。オレはたまたま一人でもクリアできる実力があったか……ら…………え?」

 何故か異常なほどキラキラさせた瞳でオレを見てくるヒノデ。

「と、と、殿はやはり拙者の見込んだ通りの傑物にござる! 拙者はお仕えできて光栄でござるよっ!」
「あ、そう?」

 正直に言えば褒めてもらうことに関しては嬉しいが、あまりに重い期待をされても辛い。

「殿に師事すれば必ず“リョフ”に届く! 今、そう確信したでござる!」
「い、いやぁ、それはどうかなぁ」

 だって多分、アイツってばオレ並みに強いし。多分。まあ、ゲーム時にタイマンでやり合った時は、オレが勝ったけどさ。

「ま、まあ頑張ればいつかは……かな?」
「そ、そうでござるかぁ! よし! 殿のお墨付きも頂いたところで、これから頑張るでござる!」
「ふふ、一緒に強くなりましょうね、ヒノデくん」
「はいでござる、ポアム殿!」

 何だかとっても面倒な事態になってしまったが……。

 これってオレがヒノデがオレくらいになるまで鍛えろってフラグだよね? うっそぉ……。

 自分の軽はずみな言動に後悔してしまう。

「あ、あの殿!」
「え、あ、何?」
「今後ともご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いするでござる!」
「……………………はい」

 こんな純粋な子、裏切れないってぇぇ~。

 すでに賽は投げられた。もう諦めて、流れに身を任せるしかない。こういう時は……。

 そうだそうだ。何とかなる何とかなる。何かが起きたらその時考えればいいんだ!

 持ち前の楽観さに身を委ねることにした。



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