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「……知り合いの“冒険者”から聞いたんですよ」
「“冒険者”に……? しかしあのダンジョンのことは私の一族が秘密にしてきたものですよ?」
「秘密なんてずっと守り続けられるものではないですよ。その証拠に、あなただって遺跡調査を騎士団に頼んだじゃないですか。たとえ口止めしていても、人はふとした時に口を滑らせたりするものです」
「ふむ。それはもっともな話ですな」
「それに、オレたちより先にダンジョンに入っていた奴もいましたし」
「ああ、報告にあった謎の召喚者のことですな」
「はい。アイツが何者か分かりませんが、所長さんが好意的に話すような人物でないことは分かります。何せいきなり攻撃を仕掛けてくるような奴ですしね。所長さんも心当たりはないですよね?」
「そうですね。遺跡調査の依頼をしたのも今回が初めてですし」
「それよりも何故調査依頼なんかを? 秘密まで教えて」
「…………実はこれを見てください」
所長さんが懐から出して見せてくれたのは、一冊の本。
「これは……?」
「それは歴代の所長さんが綴った、遺跡に関する調査書とでもいえばいいですかな」
「なるほど」
「ページ数を振ってあると思いますが、232ページを見てくだされ」
そう言われてパラパラとページを捲り、所長さんに言われたページを開く。
そこにはこう書かれてあった。
“明日、私の後を継ぎ、ジンクが所長になる。これで私の役目も終わりを告げた。【アビッソの穴】に関しては、できれば今後とも誰にも触れらずに終わりを迎えてほしいが、あれは突然変異でできたダンジョンであり、それが閉じるのもまたいつになるかか不明だ。何とかジンクが守り通してほしいが、一度開いてしまった扉はもう閉じることはないのかもしれない。まさか私の代で扉を開いてしまうことになるとは。軽々しく開いてしまった私を先代たちは許してくれるだろうか。もしかしたら、開いてしまったダンジョンから凶悪なモンスターが出てくるかもしれない。だからジンクよ、もし遺跡に異変が生じたら、一刻も早くその原因を突き止めてほしい。たとえダンジョンの秘密を教えようが、異変を鎮めることを第一とせよ”
そんなふうに、先代所長の手記が続いている。
「なるほど。つまり元々は閉じていたダンジョンが、何十年前かに開いて、それから今まで異変なんてなかったけど、二週間前に初めて異変が生じたから、所長さんはこの手記に従って、遺跡調査に乗り出したということですね」
「その通りです。本当は遺跡そのものを無くすことができれば一番なのでしょうが、下手に刺激をしないようにとも書かれてあり……」
確かに手記を確認していると、そのようなことも書かれてあった。
「……今までは異変なんてなかったんですか?」
「ええ。先代から引き継いでから一度も。それが度々夜中に変な呻き声が聞こえたり、人影が目撃されたりと」
「……やっぱりアイツが原因なのかもしれませんね」
「アイツ……というと、例の謎の召喚者ですか?」
「はい。下手にあれ以上関わると危険だと思ったので放置しましたが、あれから遺跡の様子はどうですか?」
「料理長が出てきてからは特に変わったことは」
ということは、あれからすぐに奴は出て行ったのだろうか。それともまだダンジョンの中に……?
まあ、考えても分からない。それを調べる方法もない。今は様子見を続けるしかないだろう。
「……その召喚者が、もし暴れたらと思うと気が気でなくて。もしダンジョンが暴走でもしたらこの街は……」
仮にダンジョンが暴走した結果、中に生息しているSランク以上のモンスターが溢れ出て来たら、こんな街などすぐに惨劇と化してしまうだろう。
それはオレも望むところではない。
「仮に、もし仮にダンジョンからモンスターが出てきて暴れたら即オレに言ってください」
「え……」
「その時は、オレが何とかします」
「……できるのですか?」
「こう見えても、メルヴィスに上司になってくれって頼まれるくらいは強いですから」
「そ、それは本当ですか!」
「ですが、オレは平和にのんびり過ごしたいので、望んで闘ったりはしません」
「なるほど。だから小料理屋を」
「そうです。ですがモンスターが暴れたら、せっかくのこの【楽あり亭】も無事じゃすまないでしょうし、守らなければなりません」
「では、その時は頼ってもよろしいと?」
「はい。ですがその他の厄介事は関わりませんよ」
「おや、これは釘を刺されましたかな」
「あくまでもいち料理人なので」
何でも屋を使うように声をかけられても困るのだ。あくまでもオレが動くのは、守るべきもののためだけにしたい。
「所長さんはこの話をしにきたってことでいいんですか?」
「はい、実はダンジョンに関して、中に入って出てきた者である料理長に情報を得ようと思ったのですがね。残念ながらダンジョン内の情報はあまりないので」
「多分知ってることはそれほど多くないですよ。実際に入ったメルヴィスとそう変わらない知識量だと思います」
まあ、嘘だけど。かなり詳しく知っている。しかし話せば何故そこまで詳しいのか聞かれるし、言ったところで無意味でもある。それにあの中にSSSランクのモンスターウヨウヨしているなんて言ったら所長が卒倒するかもしれないし。
「そうですか。それは残念です。でもこうして会いにきて良かった。君の力を借りることができて」
「だ、だからダンジョンに関係して、なおかつオレたちに類が及びそうになった時だけですからね」
「もちろんです」
とっても良い笑顔で答える所長さん。これは……いろいろ気をつけなければならないかもしれない。
しかしまあ……何とかなるだろう。
オレは持ち前の楽観的思考を発揮させることにした。
「“冒険者”に……? しかしあのダンジョンのことは私の一族が秘密にしてきたものですよ?」
「秘密なんてずっと守り続けられるものではないですよ。その証拠に、あなただって遺跡調査を騎士団に頼んだじゃないですか。たとえ口止めしていても、人はふとした時に口を滑らせたりするものです」
「ふむ。それはもっともな話ですな」
「それに、オレたちより先にダンジョンに入っていた奴もいましたし」
「ああ、報告にあった謎の召喚者のことですな」
「はい。アイツが何者か分かりませんが、所長さんが好意的に話すような人物でないことは分かります。何せいきなり攻撃を仕掛けてくるような奴ですしね。所長さんも心当たりはないですよね?」
「そうですね。遺跡調査の依頼をしたのも今回が初めてですし」
「それよりも何故調査依頼なんかを? 秘密まで教えて」
「…………実はこれを見てください」
所長さんが懐から出して見せてくれたのは、一冊の本。
「これは……?」
「それは歴代の所長さんが綴った、遺跡に関する調査書とでもいえばいいですかな」
「なるほど」
「ページ数を振ってあると思いますが、232ページを見てくだされ」
そう言われてパラパラとページを捲り、所長さんに言われたページを開く。
そこにはこう書かれてあった。
“明日、私の後を継ぎ、ジンクが所長になる。これで私の役目も終わりを告げた。【アビッソの穴】に関しては、できれば今後とも誰にも触れらずに終わりを迎えてほしいが、あれは突然変異でできたダンジョンであり、それが閉じるのもまたいつになるかか不明だ。何とかジンクが守り通してほしいが、一度開いてしまった扉はもう閉じることはないのかもしれない。まさか私の代で扉を開いてしまうことになるとは。軽々しく開いてしまった私を先代たちは許してくれるだろうか。もしかしたら、開いてしまったダンジョンから凶悪なモンスターが出てくるかもしれない。だからジンクよ、もし遺跡に異変が生じたら、一刻も早くその原因を突き止めてほしい。たとえダンジョンの秘密を教えようが、異変を鎮めることを第一とせよ”
そんなふうに、先代所長の手記が続いている。
「なるほど。つまり元々は閉じていたダンジョンが、何十年前かに開いて、それから今まで異変なんてなかったけど、二週間前に初めて異変が生じたから、所長さんはこの手記に従って、遺跡調査に乗り出したということですね」
「その通りです。本当は遺跡そのものを無くすことができれば一番なのでしょうが、下手に刺激をしないようにとも書かれてあり……」
確かに手記を確認していると、そのようなことも書かれてあった。
「……今までは異変なんてなかったんですか?」
「ええ。先代から引き継いでから一度も。それが度々夜中に変な呻き声が聞こえたり、人影が目撃されたりと」
「……やっぱりアイツが原因なのかもしれませんね」
「アイツ……というと、例の謎の召喚者ですか?」
「はい。下手にあれ以上関わると危険だと思ったので放置しましたが、あれから遺跡の様子はどうですか?」
「料理長が出てきてからは特に変わったことは」
ということは、あれからすぐに奴は出て行ったのだろうか。それともまだダンジョンの中に……?
まあ、考えても分からない。それを調べる方法もない。今は様子見を続けるしかないだろう。
「……その召喚者が、もし暴れたらと思うと気が気でなくて。もしダンジョンが暴走でもしたらこの街は……」
仮にダンジョンが暴走した結果、中に生息しているSランク以上のモンスターが溢れ出て来たら、こんな街などすぐに惨劇と化してしまうだろう。
それはオレも望むところではない。
「仮に、もし仮にダンジョンからモンスターが出てきて暴れたら即オレに言ってください」
「え……」
「その時は、オレが何とかします」
「……できるのですか?」
「こう見えても、メルヴィスに上司になってくれって頼まれるくらいは強いですから」
「そ、それは本当ですか!」
「ですが、オレは平和にのんびり過ごしたいので、望んで闘ったりはしません」
「なるほど。だから小料理屋を」
「そうです。ですがモンスターが暴れたら、せっかくのこの【楽あり亭】も無事じゃすまないでしょうし、守らなければなりません」
「では、その時は頼ってもよろしいと?」
「はい。ですがその他の厄介事は関わりませんよ」
「おや、これは釘を刺されましたかな」
「あくまでもいち料理人なので」
何でも屋を使うように声をかけられても困るのだ。あくまでもオレが動くのは、守るべきもののためだけにしたい。
「所長さんはこの話をしにきたってことでいいんですか?」
「はい、実はダンジョンに関して、中に入って出てきた者である料理長に情報を得ようと思ったのですがね。残念ながらダンジョン内の情報はあまりないので」
「多分知ってることはそれほど多くないですよ。実際に入ったメルヴィスとそう変わらない知識量だと思います」
まあ、嘘だけど。かなり詳しく知っている。しかし話せば何故そこまで詳しいのか聞かれるし、言ったところで無意味でもある。それにあの中にSSSランクのモンスターウヨウヨしているなんて言ったら所長が卒倒するかもしれないし。
「そうですか。それは残念です。でもこうして会いにきて良かった。君の力を借りることができて」
「だ、だからダンジョンに関係して、なおかつオレたちに類が及びそうになった時だけですからね」
「もちろんです」
とっても良い笑顔で答える所長さん。これは……いろいろ気をつけなければならないかもしれない。
しかしまあ……何とかなるだろう。
オレは持ち前の楽観的思考を発揮させることにした。
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