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「私もこの目で見たわけではないので確証はありません。しかし文献などで伝えられている姿ととても酷似していたということです」
「ふむぅ……」
「しかし、それよりも気になることがあるのです」
「は? レッドフェンリルよりも?」
「そうですよ、レンジャー師団長。もしそのレッドフェンリルを追い払った何者かがいる、という話があれば信じることができますか?」
「お得意の冗談では?」
「いえいえ、これは真実らしいですよ。情報では、レッドフェンリルらしきモンスターが現れた直後、襲われそうになっていた者たちの前に、ある一人の人物が姿を見せたと」
「一人……? 少し待ってほしい。レッドフェンリルを一人で対峙した?」
「あくまでも情報では、ですが」
「ならやはりレッドフェンリルではない可能性が高いでしょう」
「私もそう思いますが、そのレッドフェンリルと、その人物との戦いは、常軌を逸していたということですよ?」
「常軌を……逸していた?」
「そうです。レッドフェンリルが大地を割り、草原を燃やせば、その謎の人物は一太刀で巨大岩を切断し、蹴りでレッドフェンリルの巨体を吹き飛ばした……と。そして、とうとう追い払うことに成功したらしいですよ」
「っ!? ……まるでそれは」

 レングゥ殿の言葉と同時に、その場にいた者の視線がある人物一人に集中する。
 その方こそ、“ガラクシアース騎士団”の統括騎士団長であり“第一師団”の師団長でもある――ロスファン・グレン・ギア。騎士を目指す者なら誰もが目標にする方である。

 武芸百般で才色兼備、一般の女性たちからも憧れを集めているほど美しいルックスだ。
 羨ましいと思うほどのサラサラとした黒い髪。見る者を釘付けにするような真っ赤な瞳。男性にも負けないほど高い身長と、その非の打ちどころのなさに、もはや神の親族ではないかと疑ってしまう。

 SSSランクのモンスターすらも一人で倒すことができるのは、ここでは恐らく彼女ただ一人だと思う。何せレベルも72という驚異的な数字を持っているのだから。
 皆の視線を集めたロスファン様が静かに口を開く。

「――もし、本当にレッドフェンリルが相手だとしたら、私でも不可能でしょうね」
「と、統括騎士団長様でもですか!?」

 思わず私は声を張り上げてしまった。彼女ならと思っていたのは私だけではないはずだ。

「レッドフェンリルはレイドボス級ですから、いくら私でもそのような相手を一人で退治するのは不可能に近いです」

 彼女は自分を正しく分析できる方だ。そんな方がそう言うのであれば、それは本当のことなのだろう。

「しかし、騎士団長殿ですら不可能な相手を、一人で追い払うとは……。仮に本物のレッドフェンリルを相手にしていたとして、そこまでの武人が何故今まで名を馳せていなかったのだ?」

 顔をしかめるレングゥ殿だが、確かに彼の言う通り、それほどの武勇を持っていて、どうして今まで野に埋もれていたのか……。
 その時、不意に私の脳裏に一人の少年の顔が思い浮かぶ。

 そういえば、イックウ殿もまたあれほどの強さを持っていたにも関わらず勇名を馳せてはいなかったな。

「そこで、あなた方に頼みたいのは、その人物の詳細を突き止めることです」
「……まさか、陛下が?」
「その通りですよ、レンジャー師団長。例の悪い癖が発動しちゃいました」

 その場にいる者全員が溜め息を吐く。無論私もだ。

「相変わらずだな、陛下の人材マニアぶりは。どうしてこうも強え奴を集めるのが好きなのかね~」
「そう言うな、ジャックフリート。それに強き者ではなく、有能な者……だ」

 そう、レングゥ殿が言うように、陛下――我らの王は、有能な人材を集めるのが趣味の域に達している。陛下が欲しいと思ったら、それは最優先事項になり、手に入れるために奔走しなければならないのだ。
 まったく、我が王にも困ったものだ。これほどの人材がいて、まだ欲するとは。

 とはいっても、自分もイックウ殿を所望していたので反論はできないが。
 だがそこでハッとなった。そういえば、イックウ殿もSSランク以上のモンスターを一人で討伐していたではないか。

 もしかしたらそのレッドフェンリルを追い払ったのももしや彼の可能性も無きにしも非ず。
 たとえ違っていても、イックウ殿の強さは我々には大きな助けになるやもしれない。

「あ、あの、一つよろしいかな?」
「ん? どうされましたか、オートリア師団長?」
「実はですね……」




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