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いきなり呼び出しを受けるとは一体何事だろうか。
私――メルヴィス・オートリアは、先日席を置く【コスモス聖王国】へと遠征から帰ってきたばかりだった。
今回の遠征では、いろいろ考えさせられることが多かった。特に【アビッソタウン】にある【アビッソ遺跡】でのことは、生涯忘れられない経験になっただろう。
一歩間違えば、大切な部下たちを失っていたのだから。だからこそ、窮地を救ってくれた一人の少年には感謝してもし切れないほどの恩を感じている。
あれほどの武勇。できれば騎士団に誘い、私の直属の上司となってほしかったが、結局何度も勧誘してみたが、小料理屋が忙しいからといって断られた。
だが私は諦めん。必ずイックウ殿を“ガラクシアース騎士団”に入団させる!
しかし今はとにかく、呼び出しの件だ。
「一体火急の用とはいかなことか……」
王城の会議室にて、至急師団長が集められることになった。そこには王の側近であるネイファ宰相という女がいるはず。というより、私を呼び出したのはそのネイファ宰相だ。
王が絶大の信頼を寄せている方であり、あの方の献策で国が発展しているといっても過言ではない。いわゆるやり手……である。
人のすべてを見通すような鋭い目つきが、どことなく私は不気味さを感じさせるが、彼女の辣腕ぶりも知っているし、お蔭で国が富むのであればそれは良いことだ。ただ、個人的に彼女の性格は好きにはなれない。
私は会議室の扉の前に立つと、兵士の一人が扉を開けてくれる。
「遅くなり、申し訳ございませぬ! “第三師団”師団長――メルヴィス・オートリア、ただいま参上仕りました」
「遅かったですね、オートリア師団長。さあ、席へと」
「はっ」
今私に席を促したのがネイファ宰相だ。普段王が座る上座には、彼女が腰を落ち着かせている。ストレートの薄紫色の髪に、病的かとも思える程白い肌。眼鏡がよく似合っている大人の女性といったところ。
「――さて、集まって頂いたのは他でもありません」
ネイファ宰相が、円卓に座っている者たちを見回しながら口を開く。
「実は最近、国王様がお倒れになられました」
「「なっ!?」」
彼女の言葉に衝撃を受け同時に立ち上がったのは、私とジャックフリート・ボアという“第四師団”の師団長を務める二十代後半の男だ。ウニのように逆立てた青い髪と、額にしている真っ赤なバンダナが特徴的で、元々吊り上がっている目が、驚きで極限に見開かれている。
「……冗談です」
「「なっ!?」」
またも私たちは一緒に声を張る。私はまたやられたと思った。彼女はこうして嘘か真か分からないことを口にし、周りの反応を楽しむ癖があるので好かない。
私とジャックフリート殿以外は終始落ち着いている。もう慣れたものなのか、最初から冗談だと感づいていたのだろう。
「い、いい加減にしてくださいっ! 言っていい冗談と悪い冗談がございますっ!」
「これはこれは、すみません。ただ変に緊張感があったので、場を和ませようとしただけですよ」
「な、和みません! むしろさらに緊張感が増しましたよ!」
「ですが、今はこうやって和気藹々といった空気になっているではありませんか」
「どこがですか!」
その通りだ。それは私も是非とも突っ込みたいことである。
「その辺にしておけ、ジャックフリート」
「む、しかしレングゥ……」
ジャックフリート殿に制止をかけたのはレングゥ・ジオ・レンジャーという男。彼は“第二師団”を率いる師団長である。細身ではあるが、そこに佇んでいるだけで強者と分かるオーラを醸し出している。
緑色の短髪で、落ち着いた雰囲気を持つ三十代前半ほどの顔立ち。
「いいから大人しくしろ。それよりもさっさと事情を話してくれませんか、宰相殿」
「了解しました。おほん、では本題を」
早く言ってくれと心の中で願う。
「最近方々である噂が飛び交っているのはご存知ですか?」
「噂……ですか?」
私が聞き返す。
「はい。何でもそこにいるはずのないモンスターが出現し、ひとしきり暴れた後、どこかへと去って行くという話です」
「別に不自然なことではないのでは? そういうこともたまには――」
「たまにならこのような場を設けてはいませんよ、オートリア師団長?」
そう言われればそうかもしれない。
「報告ではこの二週間で、八回。一回や二回なら偶然で済ませるのですが、さすがにその短期間で八回は異常です」
「そういや、俺も遠征地でそんな感じの話を聞いたな」
ジャックフリート殿が思い出すように顎に手をやり答える。
「さらに驚くべきは、現れたモンスターの種類です」
「種類?」
私が眉をひそめると、ネイファ宰相の目が鋭くなる。
「SSSランクやSSランクに相当するモンスターなのですよ。しかも一体は、あのレッドフェンリルという報告が上がっています」
「嘘だろっ! レッドフェンリルっていや、災厄級のモンスターだぜ!」
ジャックフリート殿の言う通り、レッドフェンリルというのはSSSランクのモンスターで、とてもではないが私の“第三師団”だけでは相手にもならないだろう。
話では、一度腕を振るえば、森が荒れ地に変わると言われている。恐らく倒すには、“ガラクシアース騎士団”の総力を結集しなければならない。
「それは真か、宰相殿? レッドフェンリルは一体で国を滅ぼせるほどの存在とされている。そんな存在が大陸に現れたと?」
さすがにレングゥ殿も聞き捨てならないようだ。
私――メルヴィス・オートリアは、先日席を置く【コスモス聖王国】へと遠征から帰ってきたばかりだった。
今回の遠征では、いろいろ考えさせられることが多かった。特に【アビッソタウン】にある【アビッソ遺跡】でのことは、生涯忘れられない経験になっただろう。
一歩間違えば、大切な部下たちを失っていたのだから。だからこそ、窮地を救ってくれた一人の少年には感謝してもし切れないほどの恩を感じている。
あれほどの武勇。できれば騎士団に誘い、私の直属の上司となってほしかったが、結局何度も勧誘してみたが、小料理屋が忙しいからといって断られた。
だが私は諦めん。必ずイックウ殿を“ガラクシアース騎士団”に入団させる!
しかし今はとにかく、呼び出しの件だ。
「一体火急の用とはいかなことか……」
王城の会議室にて、至急師団長が集められることになった。そこには王の側近であるネイファ宰相という女がいるはず。というより、私を呼び出したのはそのネイファ宰相だ。
王が絶大の信頼を寄せている方であり、あの方の献策で国が発展しているといっても過言ではない。いわゆるやり手……である。
人のすべてを見通すような鋭い目つきが、どことなく私は不気味さを感じさせるが、彼女の辣腕ぶりも知っているし、お蔭で国が富むのであればそれは良いことだ。ただ、個人的に彼女の性格は好きにはなれない。
私は会議室の扉の前に立つと、兵士の一人が扉を開けてくれる。
「遅くなり、申し訳ございませぬ! “第三師団”師団長――メルヴィス・オートリア、ただいま参上仕りました」
「遅かったですね、オートリア師団長。さあ、席へと」
「はっ」
今私に席を促したのがネイファ宰相だ。普段王が座る上座には、彼女が腰を落ち着かせている。ストレートの薄紫色の髪に、病的かとも思える程白い肌。眼鏡がよく似合っている大人の女性といったところ。
「――さて、集まって頂いたのは他でもありません」
ネイファ宰相が、円卓に座っている者たちを見回しながら口を開く。
「実は最近、国王様がお倒れになられました」
「「なっ!?」」
彼女の言葉に衝撃を受け同時に立ち上がったのは、私とジャックフリート・ボアという“第四師団”の師団長を務める二十代後半の男だ。ウニのように逆立てた青い髪と、額にしている真っ赤なバンダナが特徴的で、元々吊り上がっている目が、驚きで極限に見開かれている。
「……冗談です」
「「なっ!?」」
またも私たちは一緒に声を張る。私はまたやられたと思った。彼女はこうして嘘か真か分からないことを口にし、周りの反応を楽しむ癖があるので好かない。
私とジャックフリート殿以外は終始落ち着いている。もう慣れたものなのか、最初から冗談だと感づいていたのだろう。
「い、いい加減にしてくださいっ! 言っていい冗談と悪い冗談がございますっ!」
「これはこれは、すみません。ただ変に緊張感があったので、場を和ませようとしただけですよ」
「な、和みません! むしろさらに緊張感が増しましたよ!」
「ですが、今はこうやって和気藹々といった空気になっているではありませんか」
「どこがですか!」
その通りだ。それは私も是非とも突っ込みたいことである。
「その辺にしておけ、ジャックフリート」
「む、しかしレングゥ……」
ジャックフリート殿に制止をかけたのはレングゥ・ジオ・レンジャーという男。彼は“第二師団”を率いる師団長である。細身ではあるが、そこに佇んでいるだけで強者と分かるオーラを醸し出している。
緑色の短髪で、落ち着いた雰囲気を持つ三十代前半ほどの顔立ち。
「いいから大人しくしろ。それよりもさっさと事情を話してくれませんか、宰相殿」
「了解しました。おほん、では本題を」
早く言ってくれと心の中で願う。
「最近方々である噂が飛び交っているのはご存知ですか?」
「噂……ですか?」
私が聞き返す。
「はい。何でもそこにいるはずのないモンスターが出現し、ひとしきり暴れた後、どこかへと去って行くという話です」
「別に不自然なことではないのでは? そういうこともたまには――」
「たまにならこのような場を設けてはいませんよ、オートリア師団長?」
そう言われればそうかもしれない。
「報告ではこの二週間で、八回。一回や二回なら偶然で済ませるのですが、さすがにその短期間で八回は異常です」
「そういや、俺も遠征地でそんな感じの話を聞いたな」
ジャックフリート殿が思い出すように顎に手をやり答える。
「さらに驚くべきは、現れたモンスターの種類です」
「種類?」
私が眉をひそめると、ネイファ宰相の目が鋭くなる。
「SSSランクやSSランクに相当するモンスターなのですよ。しかも一体は、あのレッドフェンリルという報告が上がっています」
「嘘だろっ! レッドフェンリルっていや、災厄級のモンスターだぜ!」
ジャックフリート殿の言う通り、レッドフェンリルというのはSSSランクのモンスターで、とてもではないが私の“第三師団”だけでは相手にもならないだろう。
話では、一度腕を振るえば、森が荒れ地に変わると言われている。恐らく倒すには、“ガラクシアース騎士団”の総力を結集しなければならない。
「それは真か、宰相殿? レッドフェンリルは一体で国を滅ぼせるほどの存在とされている。そんな存在が大陸に現れたと?」
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