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「……アレがフレイムファングだ」

 岩に身を潜ませながらオレは、小声で傍にいるポアムとヒノデに言った。
 フレイムファングというのは、見た目はサーベルタイガーのような風貌をしており、その口から生えている牙が炎で形成されているという変わったモンスターだ。……熱くないのだろうかと、つい突っ込んでしまいがちだ。

「いいか、前線はヒノデ、それをサポートするのはポアムだ。今から君たちはチーム。互いにフォローをすることを忘れずに」
「「はい!」」

 素直に返事をしてくれるので助かる。

「オレは最後尾で見守っているから。二人で力を合わせれば、実力的には討伐できるはず」
「わ、分かりました。ヒノデくん、よろしくお願いします!」
「こ、こちらこそ! 足を引っ張らないように尽力するでござる!」

 ヒノデが一緒にフレイムファングを討伐したいと言ったので、オレはちょうどいいから、ポアムとの連携をしてみないかと話した。
 一人で討伐する経験も大切だが、それ以上に必要なのは仲間との連携だ。まだ一人でも何とかできるモンスターだけしか対峙していなかったポアムだが、この先もしかしたらレイドボス級が出現する可能性だってある。

 レイドボスというのは、簡単にいえば一人では討伐はほぼ不可能なほど強いモンスターのこと。普通はパーティを組んで討伐する。それがレイドボス。
 無論レイドボスにもランクがあり、以前イックウが倒したボルケーノドラゴンは、普通のボスとしては上位に位置するが、レイドボスランクとしては、恐らくは下位。 

 さすがのイックウも相手が上級のレイドボスならば、一人で倒すことは不可能に近いのだ。
 今後どんな状況にならないとは思うが、ポアムには何があっても対処できるようにいろいろなことを教えておきたい。

 う~ん、オレって結構育成ゲームも好きだったしなぁ。何かこう育て甲斐がありそうな子を見るとどうもウズウズする。

「ではイックウ様、行って参りますね!」
「まずは拙者が敵を引きつけるでござる!」
「おう、頑張ってな!」

 二人が頷くと同時にフレイムファングの視界に入る。そのままヒノデは周囲を観察しながらポアムより数メートル前に立つ。

 うん。ちゃんと周りを確認してた。オッケーだ。

 もしかしたら目の前だけではなく、左右にも敵が隠れている可能性もあった。それを警戒できたヒノデはなかなかに優秀だ。

「いきます! 《トリッキング》ッ!」

 ポアムの魔法。対象の移動速度を向上させる効果を持つ。無論その対象は、前衛のヒノデ。

「感謝するでござる! はあぁぁぁっ!」

 真っ直ぐ突っ込み、フレイムファングの群れに飛び込む。
 う~ん……ちょっと減点かな。群れに飛び込むのは、相手よりも自分が圧倒的に実力が上の時か何かしらの罠を設置している時。無策で突っ込むのはダメだぞ。

 オレはジッと観察しながら、今後の課題を頭の中にメモっていく。
 案の定、何も考えていなかったのか、すぐに周りを囲まれてしまい孤立するヒノデ。

「くっ……ならば! 《火魔斬り》っ!」

 鋭い一閃が走り、一体のフレイムファングを倒すことができたが、まだ周りには四体のフレイムファングがいる。そのうちの二体が背後からヒノデに襲い掛かった。

「させませんっ! 《スロウサークル》ッ!」

 フレイムファングの足元に魔法陣が敷かれ、その中にいた二体のフレイムファングの動きが鈍くなる。動きが遅くなった二体に向かって、ヒノデが振り向き様に刀を振るい斬撃を繰り出す。見事急所を突いたのか、二体とも地面に倒れた。

 《スロウサークル》は、相手の動きを鈍くさせる《スロウムーブ》の派生型。サークルを構築し、その中にいる対象に《スロウムーブ》をかけられるのだ。
 ポアムのナイスフォローにオレは感心する。ヒノデが少し先走ったみたいだったが、上手くポアムがサポートできている……が、彼女も少し忘れていることがあった。

 それは残りの二体。それがポアム目掛けて突進してくる。

「ポアム殿っ!」
「だ、だいじょ……きゃっ!」

 しかしフレイムファングの動きが予想以上に速く、一体の突進攻撃により、《スチールスタッフ》でガードしたものの、その突進力により吹き飛ばされてしまう。
 今度はもう一体が跳び出し、ポアムに向かって炎の牙を突き立てようとする。

「ま、負けないもんっ! 《ライトパンク》ッ!」

 ポアムの杖から光の玉が発現し、向かって来たフレイムファングに当たるとパァンッと弾けて周囲が眩い光に包まれた。
 爆発力はそれほどないので、ダメージはほとんど与えられないが、牽制にはなるし、この光で目を晦ませることもできる。それにいくら爆発力がそれほどでもないといっても、空中にいるフレイムファングを少し弾くことはできた。

 その隙にポアムは立ち上がり、よろめいているフレイムファングに向かって杖を全力で振り下ろす。バキィッと乾いた音とともにフレイムファングが「ギャンッ!?」と悲鳴を上げて地に伏し痙攣する。

「ポアム殿、後ろでござる!」
「え?」
「――《斬り捨て御免》っ! ござるぅぅぅっ!」

 ヒノデの速度が上がり、ポアムに襲いかかろうとしていたフレイムファングの身体を、刀でもって斬る。
 鮮血が迸り、ヒノデの頬にピッと相手の血がつく……が、まだ手を緩めず、さらに追撃を開始し、今度は突きを繰り出し相手の身体を貫くと、ようやくそこで相手は絶命した。

 うん。今のは良い感じに互いをフォローできている。ヒノデの使った《斬り捨て御免》は対象物を見定めると、速度を上げて斬撃を繰り出せることができるスキル。普通だったら間に合わなかったけど、ポアムの《トリッキング》がプラスされてるし、かなりの高速を実現していたからこそポアムを守れた。二人ともよくやった…………けど、

 戦闘が終了し、大きく息を吐き出しているポアムとヒノデ。だがそこへ、ポアムに殴られ痙攣していたはずのフレイムファングがムクッと起き上がり、ポアムたちに跳び掛かった。

「「しまっ――っ!?」」

 二人して相手の思わぬ反撃にギョッとなっていたが、

「――ギャインッ!?」

 フレイムファングがそのまま真っ逆さまに地面に激突して沈黙した。
 それを行ったのは、オレだ。

「「イ、イックウ様(殿)っ!?」」

 オレはそのままよくやったと褒めてあげたいところだが……。

「こ~ら、二人とも最後の最後に油断しただろ?」
「「あ……うぅ」」

 似た者同士なのか、二人してシュンとなる。

「いいか? 案外モンスターってのは生命力が高い。手足を引き千切ったって、身体を斬ったって死なない奴がいる。そんな奴らの反撃にあって死んじまう。そんな“冒険者”だって少なくない」

 実際ゲーム時にも、オレだってそれで死んだことがある。

「だから最後まで絶対気を抜かないようにな」
「「うぅ……はい」」

 はは、やっぱり二人は似た者同士だ。けど、こうも消沈してる二人を見るのも、こっちとしては辛いんだよなぁ。

 そう思ったから、オレは二人の頭にそっと手を乗せて撫でてやった。

「まあでも、よく頑張ったと思うぞ」
「イックウ様……!」
「イックウ殿……!」

 またも二人して同時に満面の笑みを浮かべる。……ま、眩しい!
 実際頭を撫でたら「勝手に撫でないでよ!」とか思われるかもしれないと若干不安だったが、この様子ならそういう心配もないみたいだからホッとした。

「んじゃ、討伐部位を確認してギルドに帰ろうか」
「「はい!」」

 …………いや、元気よく返事しているけど、ヒノデも?


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