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「なあ、ポアム。所長が言ってた今後のトラブルって何だ?」
「……! ああ、それですか。つまりわたしたちがやったことには多大なリスクもあったということです」
「……?」
「実は反省していることもあるんですよね、わたし」
「え? 何か悪いことでもしたのか?」
イックウとオリク婆が互いに目を合わせて首を傾げる。
「今回所長さんと交渉しに行きましたよね?」
「あ、うん」
「その際、わたしは勝手にリスクを高めた妥協案を提案しました。それでも乗り越えられる可能性が高いと判断しましたから」
「オレのことを信じてくれたんだろ?」
「はい。ですが、今思えば先に滞納金をイックウ様に払ってもらうという選択もあったと思います」
「あ~……でもポアムは店の売り上げでそれを返したいと思ったんじゃないの?」
「そう、ですが……。それでもまずは滞納金を払って、存続期間の猶予をもらった方が良かったと思います。まあ、それに気づいたのは、嵐がきてからですけど」
つまり店の存続が危うくなった時に気づいたということだ。
「わたし、少しムキになってました。オリク婆みたいな良い人の店が潰されるなんて悲しくて、潰そうとする所長さんについ突っかかるような感じで交渉してしまいました。つまりそのせいで本来もっとスムーズにいった交渉も、危険度の高いものにしてしまったんです」
「そう、なんだ。オレはよく分かんねーけど、ポアムが言うんならそうだったんだろうな」
「はい。それに今後起こるトラブルに対しても、早急に対策をしなければなりません」
「そのトラブルって?」
「多分、あと数日くらいなら、今の状態でも問題はそれほどないかと思います。しかしずっと続けるわけにはいきません」
「もしかしてそれは、料理に関することかい?」
オリク婆が尋ねると、ポアムはコクリと頷く。
「そうです。今回、手に入りにくい食材を使った料理を提供して、その価格もまた破格といえるものです。しかしそれを続けると、他の店とのトラブルにもなるでしょう」
「……どういうこと?」
「もう、少しは考えてください、イックウ様!」
「わ、悪い!」
「こちらはSランクやSSSランクの食材を使ってるんですよ? しかも激安を超えた激安価格で提供してます。それを続けてしまうと、それができない店から敵視され、余計なトラブルになりかねません。ですから最高でも続けられるのは、あと数日くらいにした方が良いでしょう」
「そこからは通常値段?」
「はい。ビラにも一週間限定価格と書いておきました。見てないんですか?」
「え……ああ~、まあポアムが作ったやつだし大丈夫だろうって思ってさら~っとしか見てない」
「もう……。ですがお客さんの呼び込み自体は成功しました。あとはイックウ様の料理の腕と接客で、お客さんを繋ぎ止める必要があります。メニューも豊富ですし、高級メニュー以外も頼んでくださったお客さんもいますので、リピーターはあるかと思います。つまり通常時に戻った時からが、本当の勝負だということです!」
なるほど。所長が言ってた危ない橋というのは、こういうことだったのかと理解できた。確かに価格破壊をし続ければトラブルの原因になるかもしれない。
まったくそんなことを露ほども思っていなかったオレ一人だったら、このままの状態をずっと続けて結局店を潰していたかもしれない。
繁盛させるだけでいいと思っていたが、そこにはいろいろ暗黙のルールみたいなのがあるようだ。
オレも旅館を経営するためには、いろいろ学んでいかないといけない。今回は、ポアムがいたから大丈夫だったが、いつまでも彼女に頼りっきりもいけないだろう。
とはいっても、結局ポアムに頼ってしまう未来がうっすらと見え隠れしているが。
「とにかく、今後はオレの腕次第で客を引き止められるかにかかってるってことだな!」
「そうですね。高級メニューがなくなっても、イックウ様の料理を好きになってくれるお客さんもいるはずですから」
「よし! なら頑張るしかないよな!」
ここからがオレの新世界生活での夢を掴むための一歩である。
するとポアムが思い出したかのようにハッとなって詰め寄ってきた。
「――そういえばイックウ様っ!」
「は、はいっ!」
「いつからあんなに仲良くなったのですかっ!」
「え、な、何が?」
「メルヴィスさんのことです! 何かもうあれです! つまり乙女のレーダーがビンビンです!」
「お、乙女? レーダー?」
「いいから彼女と、いつ親密になったのか教えてください!」
「いや、だからそれは……」
「拝聴です! つまり隅々まで教えてくださいっ!」
「そ、それはだからね……!」
物凄いポアムの剣幕にたじたじになる。
「アハハハハハ! 罪作りな坊やだね、イックウは」
「ちょっ、笑ってないで助けてよ、オリク婆!」
「アハハ! 悪いね。それは男の通る道さね。しっかり味わうといいよ」
「何それっ!?」
「イックウ様っ! 早く教えてください! きっちり! かっちり! さあ早く!」
誰か助けてぇぇぇぇぇっ!
とにもかくにも、ようやく腰を落ち着かせる場所を得られた。
これからもいろいろなことがあるけれど、こうなったら難しいことは後回しだ。
まずは全力で楽しむ。何が起ころうと、オレの世界はもうココだから。
そうして自分に言い聞かせるんだ。
――いつか絶対に、最高の旅館を作ってやるって!
「……! ああ、それですか。つまりわたしたちがやったことには多大なリスクもあったということです」
「……?」
「実は反省していることもあるんですよね、わたし」
「え? 何か悪いことでもしたのか?」
イックウとオリク婆が互いに目を合わせて首を傾げる。
「今回所長さんと交渉しに行きましたよね?」
「あ、うん」
「その際、わたしは勝手にリスクを高めた妥協案を提案しました。それでも乗り越えられる可能性が高いと判断しましたから」
「オレのことを信じてくれたんだろ?」
「はい。ですが、今思えば先に滞納金をイックウ様に払ってもらうという選択もあったと思います」
「あ~……でもポアムは店の売り上げでそれを返したいと思ったんじゃないの?」
「そう、ですが……。それでもまずは滞納金を払って、存続期間の猶予をもらった方が良かったと思います。まあ、それに気づいたのは、嵐がきてからですけど」
つまり店の存続が危うくなった時に気づいたということだ。
「わたし、少しムキになってました。オリク婆みたいな良い人の店が潰されるなんて悲しくて、潰そうとする所長さんについ突っかかるような感じで交渉してしまいました。つまりそのせいで本来もっとスムーズにいった交渉も、危険度の高いものにしてしまったんです」
「そう、なんだ。オレはよく分かんねーけど、ポアムが言うんならそうだったんだろうな」
「はい。それに今後起こるトラブルに対しても、早急に対策をしなければなりません」
「そのトラブルって?」
「多分、あと数日くらいなら、今の状態でも問題はそれほどないかと思います。しかしずっと続けるわけにはいきません」
「もしかしてそれは、料理に関することかい?」
オリク婆が尋ねると、ポアムはコクリと頷く。
「そうです。今回、手に入りにくい食材を使った料理を提供して、その価格もまた破格といえるものです。しかしそれを続けると、他の店とのトラブルにもなるでしょう」
「……どういうこと?」
「もう、少しは考えてください、イックウ様!」
「わ、悪い!」
「こちらはSランクやSSSランクの食材を使ってるんですよ? しかも激安を超えた激安価格で提供してます。それを続けてしまうと、それができない店から敵視され、余計なトラブルになりかねません。ですから最高でも続けられるのは、あと数日くらいにした方が良いでしょう」
「そこからは通常値段?」
「はい。ビラにも一週間限定価格と書いておきました。見てないんですか?」
「え……ああ~、まあポアムが作ったやつだし大丈夫だろうって思ってさら~っとしか見てない」
「もう……。ですがお客さんの呼び込み自体は成功しました。あとはイックウ様の料理の腕と接客で、お客さんを繋ぎ止める必要があります。メニューも豊富ですし、高級メニュー以外も頼んでくださったお客さんもいますので、リピーターはあるかと思います。つまり通常時に戻った時からが、本当の勝負だということです!」
なるほど。所長が言ってた危ない橋というのは、こういうことだったのかと理解できた。確かに価格破壊をし続ければトラブルの原因になるかもしれない。
まったくそんなことを露ほども思っていなかったオレ一人だったら、このままの状態をずっと続けて結局店を潰していたかもしれない。
繁盛させるだけでいいと思っていたが、そこにはいろいろ暗黙のルールみたいなのがあるようだ。
オレも旅館を経営するためには、いろいろ学んでいかないといけない。今回は、ポアムがいたから大丈夫だったが、いつまでも彼女に頼りっきりもいけないだろう。
とはいっても、結局ポアムに頼ってしまう未来がうっすらと見え隠れしているが。
「とにかく、今後はオレの腕次第で客を引き止められるかにかかってるってことだな!」
「そうですね。高級メニューがなくなっても、イックウ様の料理を好きになってくれるお客さんもいるはずですから」
「よし! なら頑張るしかないよな!」
ここからがオレの新世界生活での夢を掴むための一歩である。
するとポアムが思い出したかのようにハッとなって詰め寄ってきた。
「――そういえばイックウ様っ!」
「は、はいっ!」
「いつからあんなに仲良くなったのですかっ!」
「え、な、何が?」
「メルヴィスさんのことです! 何かもうあれです! つまり乙女のレーダーがビンビンです!」
「お、乙女? レーダー?」
「いいから彼女と、いつ親密になったのか教えてください!」
「いや、だからそれは……」
「拝聴です! つまり隅々まで教えてくださいっ!」
「そ、それはだからね……!」
物凄いポアムの剣幕にたじたじになる。
「アハハハハハ! 罪作りな坊やだね、イックウは」
「ちょっ、笑ってないで助けてよ、オリク婆!」
「アハハ! 悪いね。それは男の通る道さね。しっかり味わうといいよ」
「何それっ!?」
「イックウ様っ! 早く教えてください! きっちり! かっちり! さあ早く!」
誰か助けてぇぇぇぇぇっ!
とにもかくにも、ようやく腰を落ち着かせる場所を得られた。
これからもいろいろなことがあるけれど、こうなったら難しいことは後回しだ。
まずは全力で楽しむ。何が起ころうと、オレの世界はもうココだから。
そうして自分に言い聞かせるんだ。
――いつか絶対に、最高の旅館を作ってやるって!
応援ありがとうございます!
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