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翌日から、オレたちは忙しく動き回った。足りない食材の調達はオレが担当し、ビラ配りや声掛けなどはポアムやオリク婆がやってくれた。
店の再オープンは明日。つまり実質、オレたちに残されているのは二日間だけ。
ビラ効果は結構あるようで、街のあちこちで、口々に【楽あり亭】の噂が飛び交っている。
「なあおい、このSランクの食材って本当かな!」
「いや、嘘だろ? だって【楽あり亭】だぜ?」
などや、
「でも外見とか、立て看板とかキレイになってたわよね!」
「うんうん、ちょっとオシャレ感もあったし」
女性も話題にしている。
オレは一日を使って、大量の食材を狩ったり、購入し、《アイテムボックス》へと収めていった。
「あ、そうだ。せっかくだから、この街には無いジャンクフードを作るのもいいかもな」
日本では普通にあるが、この世界には無い食べ物は貴重だ。入口は狭いかもしれないが、一度手を出してしまえば病み付きになるジャンクフードなんでいくらでも知識にはある。
「よし! 帰ったら明日に向けて仕込み開始だ!」
食材調達が終わり店へ帰ると、にこやかにポアムが出迎えてくれた。
一緒に仕込みを手伝ってくれるとのこと。オリク婆は、まだ外で声掛けをしているらしい。
二人で厨房で作業をしていると、
「……絶対にこの店を守りましょうね、イックウ様」
「ポアム……」
「わたし、こんなにドキドキワクワクするのは初めて……じゃないかもしれませんけど、とっても心地好いんです」
彼女は記憶喪失なので、過去と比べることはできない。それでも、今のこの状況を楽しんでいるのだろう。
「それに、オリク婆のお店を守ってあげたい。こんなあったくて良い店。潰れてほしくないですから」
「……だな。でも大丈夫だって」
「え?」
「だって、ポアムはオレを信じてくれた。ならそれに応えるのがパートナーってもんだしな!」
「イックウ様……!」
「明日から、踏ん張るぞ、ポアム!」
「はいっ!」
そうして、夜は更けていった。
翌日早朝――。
時刻は開店前の七時五分前。かなり早目の開店だが、少しでも長くオープンすることが、勝利への鍵だ。
そして、時計の針が、勝負の時間を指し示す。
「――よし! 開店だっ!」
ポアムが扉を開いたその向こうには、ビラを手にした客が列を成していた。
「おはようございます! どうぞ、お入りくださーい!」
一気になだれ込んでくる客たち。その光景にうるっときているのか、オリク婆は感動気に唇を震わせている。
「へへ、まだまだ始まったばっかだぞ、オリク婆! 気合入れてよ!」
「わ、分かっておるわ、バカタレ!」
口を尖らせながらオリク婆が注文を取りに行く。
「イックウ様、《プラチナトースト》を三つです!」
「坊や、こっちも同じものを二つだよ!」
「おうさ! 任せろぃ!」
さて、最強キャラによる調理の開始だ!
朝ということもあって、ほとんどの客は軽めの食事を頼んでくる。定食やサラダなんかも頼む客も。
「この世界にない《フレンチトースト》。それをオレ流にアレンジしたのが《プラチナトースト》だ!」
実はビラには、ある程度の料理名と詳細を書いていたのだ。そうすることで、頼み易くするためだ。これもまたポアムの案。
ただそれ以上の集客を望むためにある工夫も施した。それが最後に出す――デザート。
これはビラを持ってやって来てくれた客だけに無料提供するもの。しかも、ダイエット効果も期待できるという謳い文句で、女性客の呼び込みも狙った。
食材費はオレが手に入れてきた食材を使うので、無料と同格。まあ、労力は使っているが。
まずは一口程にパンと切っていき、Sランクの《ヒートバードの卵》を使って、《フレンチトースト》を作っていく。
ちなみに卵は【アビッソの穴】でヒートバードを倒して手に入れたものである。黄身が大きくて濃厚な味が特徴で、焼くと香ばしいニオイを漂わせる卵だ。
「だけどまだまだ。これで完成じゃない。最後にトーストにかけるのは、この――《プラチナチーズ》だ!」
これはオレとポアムが昨日作った即席のチーズだ。白銀色に近い色をしているので、《プラチナ》と呼んでいる。それを溶かして、出来上がった《フレンチトースト》に満遍なくかけていく。
チーズの独特の香りが厨房に漂う。とても美味そうなニオイだ。腹が減ってたら、間違いなく齧りついてるだろう。
「ほれ、お待たせっ!」
カウンターからポアムたちに手渡し、客のところに持って行ってもらう。
「んほーっ! 何だよコレ! めっちゃうんめぇっ!」
「マジこんなすげえもん食べたことねーっ!」
「甘くて香ばしくて美味しいわー!」
「ええ、外はカリカリしてるのに、中はフワッとしてて」
「それにこのトロッとしたチーズが良い! パンってこんなに美味いのかよ!」
口々に店の中に絶賛の嵐。
「うし! デザートもできあがったぜ!」
ビラを持っている者限定無料のデザート。
それは――《かき氷》だ!
どうやら今の季節な夏のようで、時期としては気に入られる確率が高い。ちなみにゲーム時には《かき氷》は無かった。
氷自体は、オレの魔法で作って、シロップはというと、抹茶やレモン、苺、メロンなど様々に用意している。
テーブルをチラ見すれば、ほぼ全員が《かき氷》の造形に最初は驚くが、一口食べて恍惚の笑顔を浮かべているみたいだ。
この笑顔こそ、料理人としての喜びである。
はは、まさかニート学生だったオレが、こんな全力で働くなんてな。疲れるから嫌だとか思ってたけど、この身体のスペックのお蔭で全然疲れねーし。
本当に最強キャラさまさまである。
客は途絶えることなく、昼になっていく。そこで、二十分間だけ店として休みをもらい、客たちに待ってもらうことになった。
この間にオレたちは休息と、食事を摂る。
「よし、良い感じだ。昼は朝よりも忙しくなるぞ」
「わたしは大丈夫ですけど、イックウ様やオリク婆は大丈夫ですか?」
「あたしは平気さね。むしろ懐かしいんだ」
夫のブラムと店を切り盛りしていた頃を思い出しているのだろう。
「オレも大丈夫。昼になったら、アレを注文してくる客も出てくるはず。一気に売上アップだぞ!」
「はい!」
「任せな!」
二人もまだまだいけそうだ。
店の再オープンは明日。つまり実質、オレたちに残されているのは二日間だけ。
ビラ効果は結構あるようで、街のあちこちで、口々に【楽あり亭】の噂が飛び交っている。
「なあおい、このSランクの食材って本当かな!」
「いや、嘘だろ? だって【楽あり亭】だぜ?」
などや、
「でも外見とか、立て看板とかキレイになってたわよね!」
「うんうん、ちょっとオシャレ感もあったし」
女性も話題にしている。
オレは一日を使って、大量の食材を狩ったり、購入し、《アイテムボックス》へと収めていった。
「あ、そうだ。せっかくだから、この街には無いジャンクフードを作るのもいいかもな」
日本では普通にあるが、この世界には無い食べ物は貴重だ。入口は狭いかもしれないが、一度手を出してしまえば病み付きになるジャンクフードなんでいくらでも知識にはある。
「よし! 帰ったら明日に向けて仕込み開始だ!」
食材調達が終わり店へ帰ると、にこやかにポアムが出迎えてくれた。
一緒に仕込みを手伝ってくれるとのこと。オリク婆は、まだ外で声掛けをしているらしい。
二人で厨房で作業をしていると、
「……絶対にこの店を守りましょうね、イックウ様」
「ポアム……」
「わたし、こんなにドキドキワクワクするのは初めて……じゃないかもしれませんけど、とっても心地好いんです」
彼女は記憶喪失なので、過去と比べることはできない。それでも、今のこの状況を楽しんでいるのだろう。
「それに、オリク婆のお店を守ってあげたい。こんなあったくて良い店。潰れてほしくないですから」
「……だな。でも大丈夫だって」
「え?」
「だって、ポアムはオレを信じてくれた。ならそれに応えるのがパートナーってもんだしな!」
「イックウ様……!」
「明日から、踏ん張るぞ、ポアム!」
「はいっ!」
そうして、夜は更けていった。
翌日早朝――。
時刻は開店前の七時五分前。かなり早目の開店だが、少しでも長くオープンすることが、勝利への鍵だ。
そして、時計の針が、勝負の時間を指し示す。
「――よし! 開店だっ!」
ポアムが扉を開いたその向こうには、ビラを手にした客が列を成していた。
「おはようございます! どうぞ、お入りくださーい!」
一気になだれ込んでくる客たち。その光景にうるっときているのか、オリク婆は感動気に唇を震わせている。
「へへ、まだまだ始まったばっかだぞ、オリク婆! 気合入れてよ!」
「わ、分かっておるわ、バカタレ!」
口を尖らせながらオリク婆が注文を取りに行く。
「イックウ様、《プラチナトースト》を三つです!」
「坊や、こっちも同じものを二つだよ!」
「おうさ! 任せろぃ!」
さて、最強キャラによる調理の開始だ!
朝ということもあって、ほとんどの客は軽めの食事を頼んでくる。定食やサラダなんかも頼む客も。
「この世界にない《フレンチトースト》。それをオレ流にアレンジしたのが《プラチナトースト》だ!」
実はビラには、ある程度の料理名と詳細を書いていたのだ。そうすることで、頼み易くするためだ。これもまたポアムの案。
ただそれ以上の集客を望むためにある工夫も施した。それが最後に出す――デザート。
これはビラを持ってやって来てくれた客だけに無料提供するもの。しかも、ダイエット効果も期待できるという謳い文句で、女性客の呼び込みも狙った。
食材費はオレが手に入れてきた食材を使うので、無料と同格。まあ、労力は使っているが。
まずは一口程にパンと切っていき、Sランクの《ヒートバードの卵》を使って、《フレンチトースト》を作っていく。
ちなみに卵は【アビッソの穴】でヒートバードを倒して手に入れたものである。黄身が大きくて濃厚な味が特徴で、焼くと香ばしいニオイを漂わせる卵だ。
「だけどまだまだ。これで完成じゃない。最後にトーストにかけるのは、この――《プラチナチーズ》だ!」
これはオレとポアムが昨日作った即席のチーズだ。白銀色に近い色をしているので、《プラチナ》と呼んでいる。それを溶かして、出来上がった《フレンチトースト》に満遍なくかけていく。
チーズの独特の香りが厨房に漂う。とても美味そうなニオイだ。腹が減ってたら、間違いなく齧りついてるだろう。
「ほれ、お待たせっ!」
カウンターからポアムたちに手渡し、客のところに持って行ってもらう。
「んほーっ! 何だよコレ! めっちゃうんめぇっ!」
「マジこんなすげえもん食べたことねーっ!」
「甘くて香ばしくて美味しいわー!」
「ええ、外はカリカリしてるのに、中はフワッとしてて」
「それにこのトロッとしたチーズが良い! パンってこんなに美味いのかよ!」
口々に店の中に絶賛の嵐。
「うし! デザートもできあがったぜ!」
ビラを持っている者限定無料のデザート。
それは――《かき氷》だ!
どうやら今の季節な夏のようで、時期としては気に入られる確率が高い。ちなみにゲーム時には《かき氷》は無かった。
氷自体は、オレの魔法で作って、シロップはというと、抹茶やレモン、苺、メロンなど様々に用意している。
テーブルをチラ見すれば、ほぼ全員が《かき氷》の造形に最初は驚くが、一口食べて恍惚の笑顔を浮かべているみたいだ。
この笑顔こそ、料理人としての喜びである。
はは、まさかニート学生だったオレが、こんな全力で働くなんてな。疲れるから嫌だとか思ってたけど、この身体のスペックのお蔭で全然疲れねーし。
本当に最強キャラさまさまである。
客は途絶えることなく、昼になっていく。そこで、二十分間だけ店として休みをもらい、客たちに待ってもらうことになった。
この間にオレたちは休息と、食事を摂る。
「よし、良い感じだ。昼は朝よりも忙しくなるぞ」
「わたしは大丈夫ですけど、イックウ様やオリク婆は大丈夫ですか?」
「あたしは平気さね。むしろ懐かしいんだ」
夫のブラムと店を切り盛りしていた頃を思い出しているのだろう。
「オレも大丈夫。昼になったら、アレを注文してくる客も出てくるはず。一気に売上アップだぞ!」
「はい!」
「任せな!」
二人もまだまだいけそうだ。
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