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「――こうなるよなぁ……」
区役所に入った瞬間、見知った顔の兵士とかち合いになり、今……何故か兵士たちに囲まれてしまっている状態。ポアムは訳が分からないといった感じでオレの服を掴んでいる。
「おお! 見つけましたぞ、イックウ殿!」
「……や、やあ……メルヴィス」
「探しましたぞ! 何故急に去って行かれたのですか!」
一刻も早く君と距離を取りたかったからだとは到底言えない。しかし……ゴクリ。
鎧を着ていない彼女が走って来ているのだが、その豊満過ぎる胸が揺れに揺れている。大きいとは思っていたが、想像以上の化け物を飼っていた。
隣でポアムが「むぅ~」と不機嫌そうなのだが、これも多分、あの凶悪な二つのメロンのせいだ。
「ちょ、ちょっと用事があってさ」
「そうだったのですか。ですが一声くらいかけてほしかったですぞ。……ん? そちらは?」
「あ、ああ。オレのパーティメンバーで」
「い、一番のパートナーのポアムですっ!」
「何? 一番……だと?」
何故かメルヴィスの目が細まり、緊張感が漂う。
「……妹とかではないのかな?」
「ち、違います! わたしはイックウ様に拾って頂いたのです! そこからず~っとパートナーなんですっ!」
「君のような幼い子が……イックウ殿のパートナー? 冗談か何かかな?」
「じょ、冗談じゃありません! イックウ様には身も心も捧げている人生のパートナーですから!」
「い、いやちょっと待って、ポアム! その言い方は何かいろいろとヤバイッ!」
「ど、どうしてですか? もしかして……違うのですか?」
「い、いや……」
「うぅ……」
「…………違わないよ、マイエンジェル」
こんな子を悲しませることなんてオレにはできないっ!
「……イックウ殿、もしやあなたは……」
マズイ! もしかして幼女好きの変態だと思われたか!?
「……身寄りのない子供まで引き取り育てているとは、どこまで素晴らしき殿方なのですか!」
「……はへ?」
「私はあなたの懐の広さに感服致しました! さすがは王級ジョブの持ち主であらせられる!」
「王級……? イックウ様?」
「あ、まあ、そういうことにしてるんだ」
それだけでポアムは分かってくれて、余計なことを話さないようにしてくれるのだから、本当にデキた子である。
「ところで、もしや私に会いにきて頂けたのですかな?」
「ち、違います! イックウ様とわたしは、所長さんに会いにきたんです!」
ギュッとオレの腕に抱きつくポアムを見て、メルヴィスは笑みを浮かべる。
「ハッハッハ! ずいぶんと懐かれていますな。まるで本当の兄妹のようですな! 子は宝と申します。大事になされるがよい」
「むぅ……わたしは妹じゃなくてパートナーなのにぃ……!」
どうやらメルヴィスは思った以上に単純思考のようで助かった。何故かまだポアムは不機嫌ではあるけれど。
「所長に話があるというならば、私が取りなしましょう。その方が口利きしやすいでしょうからな」
「本当に? そりゃ助かる」
「むぅ……確かに助かりますが、何だかあの人は敵です。つまり抹殺対象に認定を」
何か怖いことを口走っているポアムちゃんではあるが、オレは下手に触れないようにして、案内してくれるというメルヴィスの後をついていった。
そして所長がいる部屋に辿り着いて、入室許可をもらって中に入る。中にいたのは恰幅の良い優しそうなおじさんだった。
この人が所長のようだ。
「おや? どうされたのかな、メルヴィス殿?」
「実は、この者たちが所長に話があるとのことで」
「ふむ。メルヴィス殿の紹介です。お聞きしましょう」
オレがビラ配りの許可をもらうように嘆願する。しかし何故か所長は難しい表情を浮かべる。
「……むぅ。【楽あり亭】ですか……」
「何か問題でも?」
「……あそこはご主人がなくなられてから、客足が途絶えていることはご存知ですね?」
「知ってます。ですからこうしてビラ配りをして、客を引こうと」
「一週間後……」
「……っ!」
「一週間後、賃貸料を払えなくては、強制退去をしなくてはならないような店ですよ? 今更ビラ配りをしたところで、どうにかなるとはとても思えませんが」
「所長、それは言い過ぎだ。何事もチャレンジ精神で――」
「これはあくまでもこの街に関すること。メルヴィス殿はお静かにしてください」
所長に言われ、口ごもるメルヴィス。下手に揉め事でも起こしてしまえば、それは彼女個人の問題ではなく、ひいては【コスモス聖王国】の問題になる可能性があるから強くは出られないのだろう。
「さて、私もね。あの店には残ってほしいと思っています。しかしこの街のルールとして、皆が守っているのはいわゆる納税の義務。賃貸料もそのうちの一つでもあります。それを【楽あり亭】はもう四度、滞納してしまっている。先代のブラムがやっていた頃、私も世話になったこともあって、大分辛抱強く様子を見てきましたが、これ以上は引き伸ばしにはできない。これ以上特別扱いをしてしまえば、後々に問題が出てきてしまう」
彼の言うことも正論。あそこの店が滞納しているのに、何故自分の店はダメなんだと言う者たちも出てくるかもしれない。いや、このままだと百パーセント出てくるだろう。
というよりよく四か月分も滞納を許してくれていたものだ。所長も頑張ってくれていたのかもしれない。
区役所に入った瞬間、見知った顔の兵士とかち合いになり、今……何故か兵士たちに囲まれてしまっている状態。ポアムは訳が分からないといった感じでオレの服を掴んでいる。
「おお! 見つけましたぞ、イックウ殿!」
「……や、やあ……メルヴィス」
「探しましたぞ! 何故急に去って行かれたのですか!」
一刻も早く君と距離を取りたかったからだとは到底言えない。しかし……ゴクリ。
鎧を着ていない彼女が走って来ているのだが、その豊満過ぎる胸が揺れに揺れている。大きいとは思っていたが、想像以上の化け物を飼っていた。
隣でポアムが「むぅ~」と不機嫌そうなのだが、これも多分、あの凶悪な二つのメロンのせいだ。
「ちょ、ちょっと用事があってさ」
「そうだったのですか。ですが一声くらいかけてほしかったですぞ。……ん? そちらは?」
「あ、ああ。オレのパーティメンバーで」
「い、一番のパートナーのポアムですっ!」
「何? 一番……だと?」
何故かメルヴィスの目が細まり、緊張感が漂う。
「……妹とかではないのかな?」
「ち、違います! わたしはイックウ様に拾って頂いたのです! そこからず~っとパートナーなんですっ!」
「君のような幼い子が……イックウ殿のパートナー? 冗談か何かかな?」
「じょ、冗談じゃありません! イックウ様には身も心も捧げている人生のパートナーですから!」
「い、いやちょっと待って、ポアム! その言い方は何かいろいろとヤバイッ!」
「ど、どうしてですか? もしかして……違うのですか?」
「い、いや……」
「うぅ……」
「…………違わないよ、マイエンジェル」
こんな子を悲しませることなんてオレにはできないっ!
「……イックウ殿、もしやあなたは……」
マズイ! もしかして幼女好きの変態だと思われたか!?
「……身寄りのない子供まで引き取り育てているとは、どこまで素晴らしき殿方なのですか!」
「……はへ?」
「私はあなたの懐の広さに感服致しました! さすがは王級ジョブの持ち主であらせられる!」
「王級……? イックウ様?」
「あ、まあ、そういうことにしてるんだ」
それだけでポアムは分かってくれて、余計なことを話さないようにしてくれるのだから、本当にデキた子である。
「ところで、もしや私に会いにきて頂けたのですかな?」
「ち、違います! イックウ様とわたしは、所長さんに会いにきたんです!」
ギュッとオレの腕に抱きつくポアムを見て、メルヴィスは笑みを浮かべる。
「ハッハッハ! ずいぶんと懐かれていますな。まるで本当の兄妹のようですな! 子は宝と申します。大事になされるがよい」
「むぅ……わたしは妹じゃなくてパートナーなのにぃ……!」
どうやらメルヴィスは思った以上に単純思考のようで助かった。何故かまだポアムは不機嫌ではあるけれど。
「所長に話があるというならば、私が取りなしましょう。その方が口利きしやすいでしょうからな」
「本当に? そりゃ助かる」
「むぅ……確かに助かりますが、何だかあの人は敵です。つまり抹殺対象に認定を」
何か怖いことを口走っているポアムちゃんではあるが、オレは下手に触れないようにして、案内してくれるというメルヴィスの後をついていった。
そして所長がいる部屋に辿り着いて、入室許可をもらって中に入る。中にいたのは恰幅の良い優しそうなおじさんだった。
この人が所長のようだ。
「おや? どうされたのかな、メルヴィス殿?」
「実は、この者たちが所長に話があるとのことで」
「ふむ。メルヴィス殿の紹介です。お聞きしましょう」
オレがビラ配りの許可をもらうように嘆願する。しかし何故か所長は難しい表情を浮かべる。
「……むぅ。【楽あり亭】ですか……」
「何か問題でも?」
「……あそこはご主人がなくなられてから、客足が途絶えていることはご存知ですね?」
「知ってます。ですからこうしてビラ配りをして、客を引こうと」
「一週間後……」
「……っ!」
「一週間後、賃貸料を払えなくては、強制退去をしなくてはならないような店ですよ? 今更ビラ配りをしたところで、どうにかなるとはとても思えませんが」
「所長、それは言い過ぎだ。何事もチャレンジ精神で――」
「これはあくまでもこの街に関すること。メルヴィス殿はお静かにしてください」
所長に言われ、口ごもるメルヴィス。下手に揉め事でも起こしてしまえば、それは彼女個人の問題ではなく、ひいては【コスモス聖王国】の問題になる可能性があるから強くは出られないのだろう。
「さて、私もね。あの店には残ってほしいと思っています。しかしこの街のルールとして、皆が守っているのはいわゆる納税の義務。賃貸料もそのうちの一つでもあります。それを【楽あり亭】はもう四度、滞納してしまっている。先代のブラムがやっていた頃、私も世話になったこともあって、大分辛抱強く様子を見てきましたが、これ以上は引き伸ばしにはできない。これ以上特別扱いをしてしまえば、後々に問題が出てきてしまう」
彼の言うことも正論。あそこの店が滞納しているのに、何故自分の店はダメなんだと言う者たちも出てくるかもしれない。いや、このままだと百パーセント出てくるだろう。
というよりよく四か月分も滞納を許してくれていたものだ。所長も頑張ってくれていたのかもしれない。
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