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教会の地下へと戻ると、オレは即座に階段を駆け上がり急いで遺跡から脱出した。無論途中でオレを呼ぶメルヴィスの声などがしたが、悪いと思いつつも無視してポアムとオリク婆が待つ【楽あり亭】へと帰って行く。
何故こんなにも急いで帰ったか疑問を思い浮かべる人もいるだろう。あのままあの場にいたら、恐らくはメルヴィスに勧誘されること間違い無しだからだ。
確かに今回、黙っていられずに彼女たちを助けることになったが、本来は騎士団と関わり合いにはなりたくないと思っていたのだ。
できればこのまま彼女たちと別れる方が、オレにとっては平和を掴めると判断した。当然彼女はオレを探すだろうが、まさか【楽あり亭】にいるとは気づかないはず。
遺跡から出たすぐに、一応《蒼狼の闘衣》から、ツーランクほど下の、黄色い服に衣替えもしておいたし、装飾品の帽子も被っておいたので、目撃情報でオレを追うことはできないはずだ。
遺跡の中には数時間ほどいたこともあり、日も暮れ始めていた。もう夕方だ。
店の装飾などを任せていたが、どうなったかなと思い戻ってみると、あの古臭くて小さかった立て看板が、小奇麗な可愛らしい女の子文字とイラストなどで色付けをされてあった。
オレが扉を開けて中に入ると、
「あっ、おかえりなさい、イックウ様!」
可愛い天使が出迎えてくれた。たった数時間ぶりだが、彼女の姿を見るとホッとして癒しを感じる。
「ただいま、ポアム! ていうか、お~! 壁に貼られてたメニューも新しくなってるなぁ~! 大きな字で見やすいし、テーブルクロスもあって、女性にも入り易い内装になってるじゃん!」
「はい! まだまだ途中ですけど、この店の良いところは残して、少しアレンジしてみたんです。どうですか?」
「うん。いいと思う。少なくとも、最初の味気ない感じに比べればね」
「悪かったね、味気なくて」
「おっと、ごめんごめん、オリク婆」
「ったく、ずいぶん早かったね。遺跡調査はまだ終わってないのかい?」
「いんや、食材ならすっげえ良いもんを手に入れたよ! 何と! SSランクのモンスター! ボルケーノドラゴンの肉だ!」
あんぐりと二人が口を開けて固まっている。
「……あれ? どったの?」
「ど、ど、どったのじゃありませんよっ! え、SSランク!?」
「おお、しかも亜種だからレア中のレアだぜ~!」
実は奴を倒した後、ちゃっかりと肉をゲットしておいたのだ。それにそれだけではなく、【アビッソの穴】を攻略中に出会って倒したモンスターの素材や具材もちゃんと収めてある。
「あれ? もしかして信じられね? んじゃ……ほれ」
《アイテムボックス》から、黒っぽい肉の塊を出す。
「こ、こ、こんな高価なもん、初めて拝んだぞ……!」
「わ、わ、わたしもです……!」
「他にもいろいろ手に入れてきたぞ。まあ、あとはSランク級の食材だけどさ」
そう言って、次々とテーブルの上に食材を並べる。
「へっへ~ん! こんだけありゃ、立て直しも立派にできるはずだ!」
「り、りっぱどころか、これを売りに出せば物凄いことになりそうなんですけど……!」
「何で二人とも顔が引き攣ってんの?」
「あなたのせいですよっ!」「あんたのせいさねっ!」
おお、二人してハモるとは。オレがダンジョンに潜っている間にずいぶんと仲良くなったみたいだ。
「ちょっと待ってくださいね……。価格破壊を起こさせないためにも、SSランクのお肉を使ったお料理は、できればVIP専用とかにした方が良いのかもしれません。いいえ、ですがせっかくの高級肉、お客さんを呼び込むためにもリーズナブルな値段で売った方が集客が見込めるかも。でもでも、SSランクのお肉を使ったお料理の相場ってどれくらいなんでしょうか……う~ん……」
すっごい悩んでいるポアム。何か悪いことをしたような気分になってくる。
ただ良い食材を手に入れてきただけなのに、何か問題でもあるのだろうか……?
「はぁ、イックウよ、お前さん、本当に凄い”冒険者”だったんだね」
「へ? そう言ったでしょ?」
「いや、まさか一人でSSランクのモンスターを狩ってくるとは……」
「亜種だから一応SSSランクに相当すると思うけど」
「…………頭が痛くなるわ」
何故二人が頭を抱えているのか、まったくもって意味不明だ。
「ん~まあいいや、経営方針とかはポアムに任せる! オレはただ美味い料理を作るだけだ!」
「…………分かりました。つまりわたしがいないと本当にイックウ様はダメだということですね」
「ハハハ! そうかもなー!」
「……よし! では今後の方針として、まずはお店の宣伝をします! つまりビラ作りと声掛けも必要ですね。料理メニューはイックウ様にお任せしておくとして、あ、でも一応どのような料理を作るか決定したらわたしに教えてくださいね」
「オッケー!」
「……しかし、ポアムよ、声掛けはともかく、ビラ配りには所長の許可が必要さね」
「そうなんですか? ……では、イックウ様、一緒に区役所へ行ってくれませんか?」
「え……マジで?」
「何か問題でも?」
「い、いやぁ……別に大した問題はねーんだけど……」
「ん? あ、ところで疑問です。つまり何故そのような姿なんですか?」
「……まあ、オレの着用してる服ってSSSランク級だしさ、目立つから。それに料理するのに必要ないしね」
「あの服もSSSランクだったんですね……!」
ポアム、オリク婆、再び唖然となる。
「……まあいいです。ですが威厳を出すために、一応元の服装に戻しておいてくださいね!」
……え? マジで? ということは……。
「では問題ないのであれば、さっそく向かいましょう!」
「や、やっぱり今から!?」
「……何か?」
「……いいえ」
正直に言えば行きたくはない。行くならもっと日を置いてから行きたい。だって……。
何故こんなにも急いで帰ったか疑問を思い浮かべる人もいるだろう。あのままあの場にいたら、恐らくはメルヴィスに勧誘されること間違い無しだからだ。
確かに今回、黙っていられずに彼女たちを助けることになったが、本来は騎士団と関わり合いにはなりたくないと思っていたのだ。
できればこのまま彼女たちと別れる方が、オレにとっては平和を掴めると判断した。当然彼女はオレを探すだろうが、まさか【楽あり亭】にいるとは気づかないはず。
遺跡から出たすぐに、一応《蒼狼の闘衣》から、ツーランクほど下の、黄色い服に衣替えもしておいたし、装飾品の帽子も被っておいたので、目撃情報でオレを追うことはできないはずだ。
遺跡の中には数時間ほどいたこともあり、日も暮れ始めていた。もう夕方だ。
店の装飾などを任せていたが、どうなったかなと思い戻ってみると、あの古臭くて小さかった立て看板が、小奇麗な可愛らしい女の子文字とイラストなどで色付けをされてあった。
オレが扉を開けて中に入ると、
「あっ、おかえりなさい、イックウ様!」
可愛い天使が出迎えてくれた。たった数時間ぶりだが、彼女の姿を見るとホッとして癒しを感じる。
「ただいま、ポアム! ていうか、お~! 壁に貼られてたメニューも新しくなってるなぁ~! 大きな字で見やすいし、テーブルクロスもあって、女性にも入り易い内装になってるじゃん!」
「はい! まだまだ途中ですけど、この店の良いところは残して、少しアレンジしてみたんです。どうですか?」
「うん。いいと思う。少なくとも、最初の味気ない感じに比べればね」
「悪かったね、味気なくて」
「おっと、ごめんごめん、オリク婆」
「ったく、ずいぶん早かったね。遺跡調査はまだ終わってないのかい?」
「いんや、食材ならすっげえ良いもんを手に入れたよ! 何と! SSランクのモンスター! ボルケーノドラゴンの肉だ!」
あんぐりと二人が口を開けて固まっている。
「……あれ? どったの?」
「ど、ど、どったのじゃありませんよっ! え、SSランク!?」
「おお、しかも亜種だからレア中のレアだぜ~!」
実は奴を倒した後、ちゃっかりと肉をゲットしておいたのだ。それにそれだけではなく、【アビッソの穴】を攻略中に出会って倒したモンスターの素材や具材もちゃんと収めてある。
「あれ? もしかして信じられね? んじゃ……ほれ」
《アイテムボックス》から、黒っぽい肉の塊を出す。
「こ、こ、こんな高価なもん、初めて拝んだぞ……!」
「わ、わ、わたしもです……!」
「他にもいろいろ手に入れてきたぞ。まあ、あとはSランク級の食材だけどさ」
そう言って、次々とテーブルの上に食材を並べる。
「へっへ~ん! こんだけありゃ、立て直しも立派にできるはずだ!」
「り、りっぱどころか、これを売りに出せば物凄いことになりそうなんですけど……!」
「何で二人とも顔が引き攣ってんの?」
「あなたのせいですよっ!」「あんたのせいさねっ!」
おお、二人してハモるとは。オレがダンジョンに潜っている間にずいぶんと仲良くなったみたいだ。
「ちょっと待ってくださいね……。価格破壊を起こさせないためにも、SSランクのお肉を使ったお料理は、できればVIP専用とかにした方が良いのかもしれません。いいえ、ですがせっかくの高級肉、お客さんを呼び込むためにもリーズナブルな値段で売った方が集客が見込めるかも。でもでも、SSランクのお肉を使ったお料理の相場ってどれくらいなんでしょうか……う~ん……」
すっごい悩んでいるポアム。何か悪いことをしたような気分になってくる。
ただ良い食材を手に入れてきただけなのに、何か問題でもあるのだろうか……?
「はぁ、イックウよ、お前さん、本当に凄い”冒険者”だったんだね」
「へ? そう言ったでしょ?」
「いや、まさか一人でSSランクのモンスターを狩ってくるとは……」
「亜種だから一応SSSランクに相当すると思うけど」
「…………頭が痛くなるわ」
何故二人が頭を抱えているのか、まったくもって意味不明だ。
「ん~まあいいや、経営方針とかはポアムに任せる! オレはただ美味い料理を作るだけだ!」
「…………分かりました。つまりわたしがいないと本当にイックウ様はダメだということですね」
「ハハハ! そうかもなー!」
「……よし! では今後の方針として、まずはお店の宣伝をします! つまりビラ作りと声掛けも必要ですね。料理メニューはイックウ様にお任せしておくとして、あ、でも一応どのような料理を作るか決定したらわたしに教えてくださいね」
「オッケー!」
「……しかし、ポアムよ、声掛けはともかく、ビラ配りには所長の許可が必要さね」
「そうなんですか? ……では、イックウ様、一緒に区役所へ行ってくれませんか?」
「え……マジで?」
「何か問題でも?」
「い、いやぁ……別に大した問題はねーんだけど……」
「ん? あ、ところで疑問です。つまり何故そのような姿なんですか?」
「……まあ、オレの着用してる服ってSSSランク級だしさ、目立つから。それに料理するのに必要ないしね」
「あの服もSSSランクだったんですね……!」
ポアム、オリク婆、再び唖然となる。
「……まあいいです。ですが威厳を出すために、一応元の服装に戻しておいてくださいね!」
……え? マジで? ということは……。
「では問題ないのであれば、さっそく向かいましょう!」
「や、やっぱり今から!?」
「……何か?」
「……いいえ」
正直に言えば行きたくはない。行くならもっと日を置いてから行きたい。だって……。
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