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「……実はさ、オレの夢は旅館を開くことなんだ」
「りょ、旅館……? それほどの強さを有しておられるのに……ですか?」
兵士たちもあんぐりと口を開けたまま固まっている。
まあ、驚くのは分かる。ハッキリ言って、オレの強さがあれば、王国騎士に取り立たされることも難しくはないからだ。王国騎士になれば、給金だって名誉だって権力だって得られる。誰もが就けるなら就きたい職業の一つだろう。
「小さい頃の夢でね。こればっかりは譲れないんだ」
「そ、そんな……も、もったいないですぞ! イックウ殿ならば、いずれ我が国でも統括騎士団長すら任されるほどの器があると私は思っておりますのに!」
「あ~ごめん。そのつもりはまったくない」
「そ、そんなぁ……!」
いやいや、そんなこの世の終わりみてーな顔されても……。
「と、とにかく、勧誘は受けないぞ! オレにはオレの道があるんだからな!」
「うぅ……で、ですがぁ……」
何だかまだ諦めていない様子。案外しつこい性格をしているのかもしれない。
「ほらほら、そんなことよりさっさと先に進むぞ!」
オレは少し足早になって、地下九階、そして地下十階へと降り立つ。
地下十階は、長い通路が真っ直ぐ伸びているだけのフロア。
……ここもゲームとは変わらずか。ならこの先には、大扉があって、そこにフロアボスがいるはず。
オレはその旨をメルヴィスたちに伝えると、一気に緊張が走る。
しばらく歩いていると、目の前にゲーム内で見た覚えがある重厚そうな扉が見えてきた。
扉の前で、全員の《ステータス》を完璧に回復しておく。
オレも、ここに来る前にポアムからもらった《おにぎり》を食べる。
「うん、美味い! これで百人力だな!」
喜んでいるポアムの顔が思い浮かび、ついつい顔が綻んでしまう。
オレだけでなく、兵士たちも準備万端でいつでも動ける状態になっている。メルヴィスが近づいてきて、
「イックウ殿、全員の回復整いましたぞ」
「よし。まあでも、回復したっつっても、戦うのはオレ一人でいいからね」
「そ、そんな! フロアボスということならば、かなりの強さのはずです! ここは全員で!」
「いや、ハッキリ言って、メルヴィスならともかく兵士さんたちのレベルじゃ、下手すりゃ一撃で即死してしまう可能性だってある」
ゴクリと兵士たちが息を呑む。
「だからメルヴィスは、兵士たちの護衛を重点的に。まあ、敵の攻撃はオレが全部防ぐつもりではあるけど」
記憶が確かなら、扉の奥にいるフロアボスは――チェインゴーレム。身体が石でできている巨人である。
ゴーレムのクセに両手に持った鎖で攻撃してくるから、距離を取ってもリーチが長いから意味ねーんだよなぁ。
効率の良い戦い方は、鎖の届かない長距離から魔法やスキルで攻撃するか、超接近戦で相手を仕留めるまで連撃を繰り返したり、ヒットアンドアウェイを根気よく続けるか、だ。
「何が起こるか分かんねーから、全員壁を背にしてボスから距離を最大限取ること。そして余計なことは一切しないこと。いい?」
「……本当に大丈夫なのですか?」
「まーね。情報じゃ、ここのボスはゴーレム系のモンスター。レベルもオレよりは低い。ならオレ一人でもやれるから」
そう、情報……なら、だ。問題はそこにイレギュラーが発生した場合。だからこそ、彼女たちにはできるだけ戦闘には参加してほしくない。
オレならばイレギュラーが起こっても対処できるだけのゲーム経験と知識、それにこの肉体がある。
「――よし、んじゃ開くぞ」
オレは扉に触れ、そのまま押していく。ギィ……ッと、乾いた音を響かせながら扉が開いていき、白い霧のようなものが足元へと流れ込んでくる。こういう演出もゲームそのままだ。
一応、この場にきた者たち全員が中に入らないと、フロアボスとの対戦にはならないような仕様になっていたはず。
オレたちが全員扉を潜ると、逃げ道を塞ぐように扉が独りでに閉まる。
「いいか、メルヴィスたちはここに……」
「あ、あれを見てくだされっ!」
「え?」
メルヴィスが部屋の中央を指差すので、オレも目を凝らしながら視線を向ける。白い靄の端々から、ゴツゴツした石の塊が下に落ちているのを確認できた。
「…………は?」
これはどういうことだろうか……? 何で……何で……。
「……何でゴーレムが倒されてんだ?」
さっそくのイレギュラーである。
身体をバラバラにされたゴーレムが、ピクリとも動かずに大地に沈んでいた。
「ど、どういうことでしょうか、イックウ殿? あれは死んでいるのでは? それともこれから復活を?」
「……分からない」
そんな演出はゲーム時にはなかった。扉に入ると、中央にチェインゴーレムが出現し、すぐに戦闘開始だったはず。
それに、あれだけ細切れにされているのだから復活は有り得ない。ということは、チェインゴーレムは何者かに倒されたということだ。
なら、一体誰に……?
するとオレの視界の端で何かが動いた。それはゴーレムの身体の切れ端の陰。そこから真っ赤なローブを見に纏った存在がひょっこり出てきた。
「りょ、旅館……? それほどの強さを有しておられるのに……ですか?」
兵士たちもあんぐりと口を開けたまま固まっている。
まあ、驚くのは分かる。ハッキリ言って、オレの強さがあれば、王国騎士に取り立たされることも難しくはないからだ。王国騎士になれば、給金だって名誉だって権力だって得られる。誰もが就けるなら就きたい職業の一つだろう。
「小さい頃の夢でね。こればっかりは譲れないんだ」
「そ、そんな……も、もったいないですぞ! イックウ殿ならば、いずれ我が国でも統括騎士団長すら任されるほどの器があると私は思っておりますのに!」
「あ~ごめん。そのつもりはまったくない」
「そ、そんなぁ……!」
いやいや、そんなこの世の終わりみてーな顔されても……。
「と、とにかく、勧誘は受けないぞ! オレにはオレの道があるんだからな!」
「うぅ……で、ですがぁ……」
何だかまだ諦めていない様子。案外しつこい性格をしているのかもしれない。
「ほらほら、そんなことよりさっさと先に進むぞ!」
オレは少し足早になって、地下九階、そして地下十階へと降り立つ。
地下十階は、長い通路が真っ直ぐ伸びているだけのフロア。
……ここもゲームとは変わらずか。ならこの先には、大扉があって、そこにフロアボスがいるはず。
オレはその旨をメルヴィスたちに伝えると、一気に緊張が走る。
しばらく歩いていると、目の前にゲーム内で見た覚えがある重厚そうな扉が見えてきた。
扉の前で、全員の《ステータス》を完璧に回復しておく。
オレも、ここに来る前にポアムからもらった《おにぎり》を食べる。
「うん、美味い! これで百人力だな!」
喜んでいるポアムの顔が思い浮かび、ついつい顔が綻んでしまう。
オレだけでなく、兵士たちも準備万端でいつでも動ける状態になっている。メルヴィスが近づいてきて、
「イックウ殿、全員の回復整いましたぞ」
「よし。まあでも、回復したっつっても、戦うのはオレ一人でいいからね」
「そ、そんな! フロアボスということならば、かなりの強さのはずです! ここは全員で!」
「いや、ハッキリ言って、メルヴィスならともかく兵士さんたちのレベルじゃ、下手すりゃ一撃で即死してしまう可能性だってある」
ゴクリと兵士たちが息を呑む。
「だからメルヴィスは、兵士たちの護衛を重点的に。まあ、敵の攻撃はオレが全部防ぐつもりではあるけど」
記憶が確かなら、扉の奥にいるフロアボスは――チェインゴーレム。身体が石でできている巨人である。
ゴーレムのクセに両手に持った鎖で攻撃してくるから、距離を取ってもリーチが長いから意味ねーんだよなぁ。
効率の良い戦い方は、鎖の届かない長距離から魔法やスキルで攻撃するか、超接近戦で相手を仕留めるまで連撃を繰り返したり、ヒットアンドアウェイを根気よく続けるか、だ。
「何が起こるか分かんねーから、全員壁を背にしてボスから距離を最大限取ること。そして余計なことは一切しないこと。いい?」
「……本当に大丈夫なのですか?」
「まーね。情報じゃ、ここのボスはゴーレム系のモンスター。レベルもオレよりは低い。ならオレ一人でもやれるから」
そう、情報……なら、だ。問題はそこにイレギュラーが発生した場合。だからこそ、彼女たちにはできるだけ戦闘には参加してほしくない。
オレならばイレギュラーが起こっても対処できるだけのゲーム経験と知識、それにこの肉体がある。
「――よし、んじゃ開くぞ」
オレは扉に触れ、そのまま押していく。ギィ……ッと、乾いた音を響かせながら扉が開いていき、白い霧のようなものが足元へと流れ込んでくる。こういう演出もゲームそのままだ。
一応、この場にきた者たち全員が中に入らないと、フロアボスとの対戦にはならないような仕様になっていたはず。
オレたちが全員扉を潜ると、逃げ道を塞ぐように扉が独りでに閉まる。
「いいか、メルヴィスたちはここに……」
「あ、あれを見てくだされっ!」
「え?」
メルヴィスが部屋の中央を指差すので、オレも目を凝らしながら視線を向ける。白い靄の端々から、ゴツゴツした石の塊が下に落ちているのを確認できた。
「…………は?」
これはどういうことだろうか……? 何で……何で……。
「……何でゴーレムが倒されてんだ?」
さっそくのイレギュラーである。
身体をバラバラにされたゴーレムが、ピクリとも動かずに大地に沈んでいた。
「ど、どういうことでしょうか、イックウ殿? あれは死んでいるのでは? それともこれから復活を?」
「……分からない」
そんな演出はゲーム時にはなかった。扉に入ると、中央にチェインゴーレムが出現し、すぐに戦闘開始だったはず。
それに、あれだけ細切れにされているのだから復活は有り得ない。ということは、チェインゴーレムは何者かに倒されたということだ。
なら、一体誰に……?
するとオレの視界の端で何かが動いた。それはゴーレムの身体の切れ端の陰。そこから真っ赤なローブを見に纏った存在がひょっこり出てきた。
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