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 オリク婆の店で働くことになったオレとポアム。
 しかしやるべきことはたくさんあった。まずは店の状況を詳しく知ること。調理台などはオリク婆がメンテナンスをしていたらしく、いつでも使える。それは《親子丼》を作った時にも確認していたので問題無い。

 料理の腕もこのオレの《調理師》スキルがあれば大丈夫だ。何といってもレベルはカンストしているのだから。作る速度も、尋常じゃないくらい速いし、調味料なども目分量で最高の味を引き出すことができる。
 しかし問題は食材だ。土地の賃貸料金すら払えていない状況で、オリク婆が新しい食材を購入できるわけがなかった。

 つまりは備蓄がほとんど無い。種類も無いので、このままでは作れるメニューも決まってくる。これでは、たとえ味が良くても客を引き寄せるのは難しい。
 それに一番重大な問題。それは――。

「――次に賃貸料を払えないと、強制的に退去……か」

 そう、オリク婆によって追い出されていた男たちは、区役所の役人であり、滞納している賃貸料金を回収しにきていたのだ。
 オリク婆が払えないと言うと、最後通告として一週間後を指定してきた。あと一週間で、せめて滞納分の金を払えなければ強制退去させられるというわけだ。

 ……金は問題無い。その気になればオレが持ってる素材を売れば何とかなる。けどそれじゃ根本的な解決にはならねー。

 大事なのは一人も客が来ない店に客を呼び込み、繁盛させ続けること。店を残す価値があると思わせなければならない。

「それにはやっぱり目を引く何かが必要になりますよね」
「けどあたしの店には、そんなもんはないよ? 米も肉も魚も、ここらで売ってるものだしね」

 ポアムの言葉にオリク婆が答えるが、確かにオリク婆の言う通り、この店にある食材では、目新しいものはなく、客引きは困難だ。

「なら、簡単だ」
「え? 何か思いついたんですか?」
「ああ、オレが食材を手に入れてくればいい」
「オレがって……あっ!」
「思い出したか? 言ってただろ? オレが珍しい食材を手に入れて、料理として出せば繁盛するかもって」
「……ですが、ここらへんに珍しい食材があるんですか?」

 彼女の危惧した通り、ここら周辺にはそれほど珍しいといった食材はない。食材になるモンスターも、弱いものばかりで、手に入れようと思えば誰でも手にできる。

「……食材モンスター……か」

 オレはそこであることを思い出した。それはこの街にあるはずの遺跡のこと。
 ゲームでは遺跡から隠しダンジョンへ行けた。そこには通常のモンスターよりも強力で、食材になるモンスターもいた。

「そいつらを手にできれば、目玉商品として売り出せる!」

 オレは意気込むが、二人は分からずキョトンとなっている。

「よし! 善は急げだ! なあポアム、店の内装を整えて、ポップとか、立て看板とか、目を引きそうな感じで作れるか?」
「えと、はい。やります」
「よし。んじゃ、オリク婆と一緒にオレが帰ってくるまで、それを頼めるか?」
「ど、どこか行かれるんですか?」
「ああ、ちょっちダンジョンへ行ってくる」
「ダ、ダンジョン!?」

 オレは遺跡のことを二人に話す。

「むぅ、そんな話は聞いたことないさね」
「まあ、そうかもしれねーけど、行って調べるだけでも調べてくる。ダメだったら、どっか他の場所で珍しい食材を狩ってくるからさ!」
「で、でも危険なんじゃないですか? つ、つまり不安です」
「大丈夫だって、ポアム! オレの強さを一番知ってるのはポアムだろ?」
「そ、それはそうですけど……」

 オレはポンと彼女の頭を軽く叩いてからグーサインを出す。

「オレに任せろって! 何たってオレは最強キャラだしな!」
「イックウ様……」
「んじゃ、オリク婆、ポアムのこと、頼んだぞ!」

 オレはそう言って出かけようとしたが、

「ちょ、ちょっと待ってください、イックウ様!」
「へ? な、何?」
「ちょっとそこで待っていてください!」

 彼女はそのまま厨房へと姿を消し、数分後――。

「これを……」
「これは……《おにぎり》?」

 銀紙で包まれた二つの温かい物体。

「どうか、気をつけてくださいね」
「……ありがと、ポアム。んじゃ、行ってくる!」

 オレは彼女の心遣いにほんわかしながら、彼女が作ってくれた《おにぎり》を《アイテムボックス》に入れると、そのまま店から出て行った。




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