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「――イックウ様!」
「お~、終わった?」
「終了です! つまりサブジョブをゲットしちゃいました!」

 Vサインを作って明るく笑うポアム。

「ところで、結局何のサブジョブに?」
「えっとですね、《交渉人》にしました!」

 《交渉人》――人との交渉を有利に進めるられる《交渉》のスキルを得られるサブジョブ。《商人》や《政治家》などがこのサブジョブをゲットしていることが多い。

「……何でそのサブジョブにしたの?」
「だって、これからお店を切り盛りしていく上で、いろんな人たちとのお付き合いも結構欠かせないものになると思うんです」

 それはまったくもってその通りだろう。

「そこでこちらが優位に立つためにも、交渉術のスキルはあった方が断然良いはずです!」
「なるほど。……というか、すっげえな、ポアム。めっちゃ考えてんじゃん!」
「もう! イックウ様が考えなさ過ぎなんですぅ!」

 怒られちまったぜ。でもそんな可愛らしく頬を膨らませて怒っても、ダメージはオレの心臓だけだぞ。
 と、冗談言ってる場合ではなく、本当にポアムは凄い。一度決めたらとことん追求しようとする。絶対に失敗しないように自分のできることを全部やろうとする。その根性と行動力が強い。日本にいた頃のオレには明らかに欠けていたものだ。

 はぁ、オレもポアムみたいに自分から率先して動かなきゃならねーよなぁ。

 彼女ばかりに任せてはいられない。旅館を開くのはオレの夢なのだから。

「よし! んじゃ、さっそくここでお店が開けるような場所があるか探してみるか」
「え!? ここでですか?」
「うん。ここは結構人の出入りも激しい街でさ、食べ物屋もそれなりに多いんだ」

 ゲーム情報ではあるけれど。

「ですが、それならまずは物件探しになりますよね?」
「だよなぁ。まだ金も十分じゃないけど、予定地くらいは確保しておいた方が良いだろ?」
「把握です。つまり確かにそうだと思います」
「ここっていろんな区に別れててさ、商業区ってとこに店とかあるんだ。多分そこの所長に話を通す必要があると思うんだけど」
「残金確認します。つまり物件を借りられる程度のお金はあるんでしょうか?」
「う~ん……とりあえずは、どれくらの金が必要になるか、聞いてみようか」

 次の行動が決まったところで、東側にある商業区に移動して、所長が住んでいると言われている建物を探し始めた。
 すると商業区に来て、人々の熱気に度肝を抜かれてしまう。

「す、すごい人ですね。あ、でも理解できました。つまり今はお昼時ですから」

 眼前に広がっているのは、両端にずらりと建ち並ぶ食べ物屋。それぞれの店には人が列を作り、昼食のために集まっている。

「この街は、居住区が結構大きいし、宿屋も多いからな。飯時になるとこんだけ賑わうのも当然かもしれないかも」

 だがふと視界に端に映った一つの店――。

 そこは誰一人並んでなくて、ひっそりと日陰のごとく佇んでいた。まるで一面真っ白のキャンパスに黒い点があるようなインパクト感。
 店の名前は――【楽あり亭】――と書かれてあった。

 ポアムも気づいたようで、その店を見てコクンと小首を傾げている。

「……お休みでしょうか?」
「……いやぁ、それにしては張り紙とかも出てないし」

 それにメニューが書かれてある小さくて字も見にくい立て看板も出されてある。ということは、店はやっているということだろう。
 何となく気になって見つめていると、店の扉がガラガラと開き、そこからキリッとしたスーツ姿の男たちが急いで出てきた。

「帰っておくれっ! 何度も言ってるけど、ここは絶対手放さないんだからね!」
男たちの後に、物凄い形相で出てきた老婆は、男たちに向かって怒りを露わにしている。

 ……手放さない?

 疑問に思ったのも束の間、老婆がオレを見てニヤリと狡猾そうに笑みを浮かべた。

 うわ、すっげえ嫌な予感が……。

 すると老婆がスタスタと近づいてきて、オレの手を取る。

「ほら、客もお前たちがいると入り辛いだろ! さっさと帰っておくれ!」
「で、ですが期日は決まっていますからね!」
「うるさいね! さっさとどっか行っとくれ!」

 老婆の勢いに負け、男たちは大きな溜め息とともに肩を竦めると、その場から去って行った。
 オレたちは流されるままに、老婆に店の中へと引き摺り込まれる。
 店の中は閑古鳥が鳴いている。まあ、つまりは……客がゼロ。

「……坊やたち、悪かったね」
「え?」
「ああでもしないと、あの連中はいつまでもここにいたからさ」
「あ、えっと……別に……なぁ?」
「は、はい」

 オレとポアムは互いに顔を見合わせて苦笑する。

「そうかい。そう言ってくれると助かるよ。ありがとね。……見たところ、ここらへんで見かけないけど、旅人かい?」
「はい。【始まりの街】から来ました。二人とも”冒険者”です」
「そうかい。最近じゃ”冒険者”っつう職業が流行ってるみたいだね。あんな危険な仕事のどこがいいんだろうね」

 確かに、実入りはいいものの、一番致死率が高い仕事かもしれない。
 老婆は静かに椅子へ腰を下ろすと、ジッとオレたちを見つめてきた。しかし何も言わずにただ見つめられているだけなので、空気が何だか重い。


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