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ポアムとともに次の街へ繋がる街道を行く。途中何度もモンスターが出現し、逃げずにポアムのレベル上げのためにバトルを繰り返す。
「あっ、またレベルが上がっちゃいました!」
ここの街道に出現するモンスターはそれほど手強くなく、経験値も低い方なのだが……。
「本当にイックウ様がくださった《グロースリング EXPタイプ》はすごいです!」
「まーね。オレもそいつにはずいぶん助かったからなぁ。何といっても、それをつけてモンスター討伐すると、1,5倍の経験値がもらえるからね! レベルが上げやすい。けど本当はこっちも装備してほしいんだけど」
そう言ってバッグから取り出して見せたのは、《グロースリング ジョブタイプ》である。これはジョブレベルを上げやすくなる効果を持っている。
「ん~ですが、無理です。つまり私のレベルじゃまだそれを装備できないんですよね……」
「装備レベルってのがあるからなぁ。これを装備できるのは20レベルになってからなんだよね」
RONの設定上の話ではあるが、装備品にはそれぞれ装備できるレベルが設定されている。《グロースリング ジョブタイプ》は20レベルに達しなければ装備することができない。
「でももうすぐ20レベルになります! つまりは装備できるようになります!」
「そうだな! コツコツやっていこー!」
これでポアムは17レベルになった。レベルを上がる楽しみをもう味わえないのは残念だが、人を育てるためにサポートするというのもまた面白いものだと思い始めている。
それに……。
例の《憤怒の心得》が、もしスキルなら、レベルを上げられるようになるかもしれねーしな。
謎過ぎるアイテムではあるが、少しくらい期待を持っていようと思った。
そして街道を突き進んでいくと、眼前に街が見えてくる。
「あそこはどんな街なんですか?」
「【アビッソタウン】――初心者”冒険者”にとって、結構馴染みやすい街だな」
ゲーム時でも比較的最初に到達する街であり、ギルドや武器屋などももちろん、教会に素材屋などもあるので重宝できる場所である。
またゲームのストーリ―をクリアすると、この街に残されている遺跡から謎のダンジョンに行けるという隠しサブストーリーがあったりする。
確か【アビッソ遺跡】の地下ダンジョンに行けるのは、ストーリーをクリアしてからだけど……まあ、ここはゲーム世界であってゲーム世界じゃないような感じだからなぁ。食い違いもあるし。
それでも一応はあとで調べておこうと思い、【アビッソタウン】へと入っていく。
「ちょうど教会もあるし、サブジョブが決まってるなら先に向かうけど?」
「決定です! つまりバッチリキッチリ確定申告します!」
「確定申告とは違うと思うけど……ま、先に行こっか」
「はい!」
教会は国には必ずあるが、街や村にあるとは限らない。ここ、【アビッソタウン】のような大きな街では教会も建てられてあったりするので便利なのだが、無い街もあるので注意が必要になる。
教会は街の西側にひっそりと存在しており、中に入ると司祭風の女性がいて、サブジョブの件について説明すると祭壇へと案内してくれた。
「では、行ってきます!」
「おう、んじゃここで待ってるから」
司祭風の女性とともに祭壇の上まで向かって行くポアムの背中を見つめていると、遺跡のダンジョンを思い出したことで、《拳神の心得》を手にしたダンジョンのことを考える。
もしそのダンジョンがこの世界にもあるとして、そこをクリアすればまた同じものが手に入るのか? いやまあ手に入れたとしても、このジョブから変えることはできないけどさ。
仮に他の神級ジョブになれるアイテムを手に入れたとしても、もう変更が効かないオレには無用の長物になるだろう。まあ、売れば多分、人生を十回ほど遊べるくらいの金は手に入りそうではあるけれど。
そもそもRONってのは結構不思議なゲームではあったんだよなぁ。拡張パックが次々と注ぎ込まれて、システムとかが新しくなっていって……。
けどそんなことするより、新しいシリーズのゲームを出せば良いと思うんだよなぁ。結局あんだけ人気だったにもかかわらず、第二シリーズが出る噂はあったけど、あくまでも噂だけだったし。
まるで一作目を出すことが目的で、その一作目をどんどん大きくしていけばいいっていう感じのゲームだったよな。
そう、ユーザーとしては面白ければ何でも良いというのが本音だが、あれだけ超人気がありながらも、一つのソフトに拘り、わざわざ拡張パックや新システムをアップし続けるゲームというのは謎である。
今冷静に考えてみると、RONを出してる会社も大手のゲーム会社じゃなかったはずだ。しかも出しているゲームはRONだけ。というより、RONが初めてのゲームらしい。
会社については別に詳しく調べたこととかないけど、今思えばあれだけ一世風靡したにもかかわらず、あまりメディアには会社について情報が流されてなかったな。まるで意図して情報を流さないようにしている節もあった。
一部のユーザーからは、大手の会社が子会社を作って、そこで作って売ったのではという噂も流れていたけど……。
……ま、考えても分かんねーか。今更調べようともどうしようもできねーし。だってオレ、ゲームの中だし。
まったくもって不可思議体験である。オレとしては大歓迎な出来事ではあるが、やはり一抹の不安は覚えているのだ。
せっかく一度行ってみたいと思っていた楽しい世界に飛び込めたのに、また元の世界に戻ったらどうしようとか思ってしまっている。
ライトノベルとかによくあるのは、元の世界に戻る術を探そうとする主人公という存在。それはきっと元の世界には大切な何かがあるからだろう。残しておきたくないものがあり、未練があるから。
しかしオレにはそういうものは無い。確かにまだ家族は健在だが、誰もオレには期待していなかったし、オレもまた好きに生きていた。
だからこんなことになっても、別に元の世界に戻りたいとかは思わない。むしろせっかく手に入れたイックウというキャラで、この世界を満喫したいと考えている。
だからどうか、夢なら覚めないでほしいと願うのだ。
「あっ、またレベルが上がっちゃいました!」
ここの街道に出現するモンスターはそれほど手強くなく、経験値も低い方なのだが……。
「本当にイックウ様がくださった《グロースリング EXPタイプ》はすごいです!」
「まーね。オレもそいつにはずいぶん助かったからなぁ。何といっても、それをつけてモンスター討伐すると、1,5倍の経験値がもらえるからね! レベルが上げやすい。けど本当はこっちも装備してほしいんだけど」
そう言ってバッグから取り出して見せたのは、《グロースリング ジョブタイプ》である。これはジョブレベルを上げやすくなる効果を持っている。
「ん~ですが、無理です。つまり私のレベルじゃまだそれを装備できないんですよね……」
「装備レベルってのがあるからなぁ。これを装備できるのは20レベルになってからなんだよね」
RONの設定上の話ではあるが、装備品にはそれぞれ装備できるレベルが設定されている。《グロースリング ジョブタイプ》は20レベルに達しなければ装備することができない。
「でももうすぐ20レベルになります! つまりは装備できるようになります!」
「そうだな! コツコツやっていこー!」
これでポアムは17レベルになった。レベルを上がる楽しみをもう味わえないのは残念だが、人を育てるためにサポートするというのもまた面白いものだと思い始めている。
それに……。
例の《憤怒の心得》が、もしスキルなら、レベルを上げられるようになるかもしれねーしな。
謎過ぎるアイテムではあるが、少しくらい期待を持っていようと思った。
そして街道を突き進んでいくと、眼前に街が見えてくる。
「あそこはどんな街なんですか?」
「【アビッソタウン】――初心者”冒険者”にとって、結構馴染みやすい街だな」
ゲーム時でも比較的最初に到達する街であり、ギルドや武器屋などももちろん、教会に素材屋などもあるので重宝できる場所である。
またゲームのストーリ―をクリアすると、この街に残されている遺跡から謎のダンジョンに行けるという隠しサブストーリーがあったりする。
確か【アビッソ遺跡】の地下ダンジョンに行けるのは、ストーリーをクリアしてからだけど……まあ、ここはゲーム世界であってゲーム世界じゃないような感じだからなぁ。食い違いもあるし。
それでも一応はあとで調べておこうと思い、【アビッソタウン】へと入っていく。
「ちょうど教会もあるし、サブジョブが決まってるなら先に向かうけど?」
「決定です! つまりバッチリキッチリ確定申告します!」
「確定申告とは違うと思うけど……ま、先に行こっか」
「はい!」
教会は国には必ずあるが、街や村にあるとは限らない。ここ、【アビッソタウン】のような大きな街では教会も建てられてあったりするので便利なのだが、無い街もあるので注意が必要になる。
教会は街の西側にひっそりと存在しており、中に入ると司祭風の女性がいて、サブジョブの件について説明すると祭壇へと案内してくれた。
「では、行ってきます!」
「おう、んじゃここで待ってるから」
司祭風の女性とともに祭壇の上まで向かって行くポアムの背中を見つめていると、遺跡のダンジョンを思い出したことで、《拳神の心得》を手にしたダンジョンのことを考える。
もしそのダンジョンがこの世界にもあるとして、そこをクリアすればまた同じものが手に入るのか? いやまあ手に入れたとしても、このジョブから変えることはできないけどさ。
仮に他の神級ジョブになれるアイテムを手に入れたとしても、もう変更が効かないオレには無用の長物になるだろう。まあ、売れば多分、人生を十回ほど遊べるくらいの金は手に入りそうではあるけれど。
そもそもRONってのは結構不思議なゲームではあったんだよなぁ。拡張パックが次々と注ぎ込まれて、システムとかが新しくなっていって……。
けどそんなことするより、新しいシリーズのゲームを出せば良いと思うんだよなぁ。結局あんだけ人気だったにもかかわらず、第二シリーズが出る噂はあったけど、あくまでも噂だけだったし。
まるで一作目を出すことが目的で、その一作目をどんどん大きくしていけばいいっていう感じのゲームだったよな。
そう、ユーザーとしては面白ければ何でも良いというのが本音だが、あれだけ超人気がありながらも、一つのソフトに拘り、わざわざ拡張パックや新システムをアップし続けるゲームというのは謎である。
今冷静に考えてみると、RONを出してる会社も大手のゲーム会社じゃなかったはずだ。しかも出しているゲームはRONだけ。というより、RONが初めてのゲームらしい。
会社については別に詳しく調べたこととかないけど、今思えばあれだけ一世風靡したにもかかわらず、あまりメディアには会社について情報が流されてなかったな。まるで意図して情報を流さないようにしている節もあった。
一部のユーザーからは、大手の会社が子会社を作って、そこで作って売ったのではという噂も流れていたけど……。
……ま、考えても分かんねーか。今更調べようともどうしようもできねーし。だってオレ、ゲームの中だし。
まったくもって不可思議体験である。オレとしては大歓迎な出来事ではあるが、やはり一抹の不安は覚えているのだ。
せっかく一度行ってみたいと思っていた楽しい世界に飛び込めたのに、また元の世界に戻ったらどうしようとか思ってしまっている。
ライトノベルとかによくあるのは、元の世界に戻る術を探そうとする主人公という存在。それはきっと元の世界には大切な何かがあるからだろう。残しておきたくないものがあり、未練があるから。
しかしオレにはそういうものは無い。確かにまだ家族は健在だが、誰もオレには期待していなかったし、オレもまた好きに生きていた。
だからこんなことになっても、別に元の世界に戻りたいとかは思わない。むしろせっかく手に入れたイックウというキャラで、この世界を満喫したいと考えている。
だからどうか、夢なら覚めないでほしいと願うのだ。
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