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 翌日早朝、もしかしたら“第三師団”の師団長であるメルヴィスに見つかるかもしれないと思って、早々に【クオール王国】を後にすることにした。
 もし彼女がオレを探していたとしたら面倒だからだ。ここらへんでフラグはバキバキに折っておこう。

 もう少しゆったりとして、ポアムのサブジョブ問題もクリアしておこうとも思ったが、それは次の国でもできるので問題は無い。当初の目的である、彼女にジョブを持たせるということはできたのだから。

「質問です! つまりこれからどこに向かわれるんですか、イックウ様!」
「そうだなぁ。そろそろ腰を落ち着かせられるようなところを探すかな~」
「温泉がある場所を探すんですね!」
「一番良いのは、閉鎖された旅館とかあれば一番良いな。そこを買い取って、使えるように修復していけばいいし」
「でもそう都合良く行かないですよね」
「まーね。でもいいさ。別に夢に生き急いでるわけじゃねーし。のんびり行くよ」
「えと、それなら思いつきです。つまり一つ提案があるんですけど」
「ん? 何?」
「えっとですね、イックウ様は将来は旅館を開きたいんですよね?」
「おうさ」
「ですがそのための準備はまったくといっていいほどしていないですよね?」
「う、うん。現実を直視するとグサッとくるよね」

 まだ土地も金も何もかも不十分である。

「それにお客さん相手の商売をされた経験もないんですよね?」
「うん、そうだね」

 何せニート学生だったから。

「でしたら、旅館の前に小料理屋などを開いてみてはどうですか?」
「……その心は?」
「そうすれば、客商売の知識も得られます。つまりお金の使い方とか、お店の扱い方とかも学べると思うんです」
「お、おお……!」

 これまた目から鱗の提案過ぎて、瞬きを忘れてポアムを見入ってしまう。

「確かイックウ様は、おいしいお料理をお客さんにお出ししたいと言ってました。つまり小料理屋を開くことで、腕を磨くこともできますし、もし将来旅館を開けるようになった時、そこに通って頂いたお客さんを呼び込むことだってできるんじゃないでしょうか?」

 今、オレは彼女を天使か女神にしか思えていない。
 これほど的確なアドバイスがあっただろうか。いや、オレがあまりにも何も考えて無さ過ぎなだけなのかもしれないけど……。いや、それでも彼女の言葉は的の中心を射ている。

「て、天才だよ君はっ!」
「きゃっ!? イ、イックウ様……!」

 オレは感極まって、彼女を抱え子供にやるように高い高いをしながらグルグルと回転する。

「おお~! もう君は絶対将来はオレの旅館の女将決定だ! 誰が何といっても決定だからなっ!」

 オレはここまで考えてくれた彼女のことを心底大好きになっていた。あ、もちろん家族としてね。だからこそ、一緒に旅館をやっていきたいと思える。

「あ、あのぉ、は、恥ずかしいですぅ……!」
「あ、ごめんごめん! でもさ! 本当にありがとう、ポアム! うん! 君の言う通りだ! よし! んじゃまずは小料理屋から始めよう! そこでいろいろ勉強して、いろいろ準備が整ったら旅館を開こう!」
「は、はい!」

 ポアムも自分の提案が通ったのが嬉しいのかにこやかに笑ってくれている。

「でも小料理屋かぁ。料理の腕には自信あるけど、まずは何をすればいいんだろうか」
「もう、イックウ様は本当に勢いだけなんですから! つまりわたしがいないとダメということですね!」
「う……面目ない」
「大丈夫です。わたしもいっぱいお勉強しますから、一緒に頑張っていきましょう!」
「おう! それに少しくらいビジョンはあるんだよ!」
「ビジョンですか?」
「うん。オレってさ、戦闘には自信があるから、誰も手にできないレアな食材モンスターとか狩ってさ、格安で店で振る舞えば、それって特大の目玉にならね?」
「あ、それいいです! つまりそれは採用です!」
「だよな! SSSランクのドラゴン肉の料理とか、一千ジェマで出したらみんな驚くと思うんだよな!」
「あ、いえ……それはさすがに国が傾くほどの驚愕を得られるかと……」

 基本的にSSSランクのモンスターの素材の相場は、ゆうに一億ジェマを普通に超えるものがほとんど。それなのに、その素材を使った料理がたった一千ジェマで出すとしたら、価格破壊もいいところだろう。

「こ、これはわたしがしっかりしなきゃ、イックウ様はどこかズレてるから」
「ん? 何か言った?」
「い、いいえ! つまり何も言っていません!」
「そう? よーし! んじゃ速く次の街まで行こう! そこに良い物件があったら買って、店を開くぞー!」

 もっともっとこの世界を満喫してやろう。そしていつか、最高の旅館を作って、のんびり温泉生活だ!



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