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 ――――【クオール王国】。

 別名“煙突の国”と称されるほど、煙突のついた建物が多い。それもそのはずで、ここは工業が盛んな国であり、物作りに特化し、武器や防具、その他魔法具などに使用される鉱石などを加工する工場が多いのだ。
 絶えず煙突からは煙が天へと立ち昇っている。

 工場には用が無いので、さっそくオレたちは教会を探す。ゲーム時でもこの国には来たことがあったが、実際に街の中に立ってみると、ゲーム画面で見るよりも複雑で入り組んだ道が多いので迷わないか心配である。
 幸い掲示板などには街の地図なども示されているので、それを頼りに教会を探した。

 王城の左側に位置する場所に教会は建てられてあり、さっそくオレたちは向かうことに。その際、王城の城門近くを通りかかった時に、城から荘厳な白銀で覆われた鎧を着込んだ団体が出てきた。

 お、あれって確か……!

 団体が身に着けているマントには、金色の刺繍が施されてあり、それは三日月を模った紋様になっている。

「……あの、お知り合いでも?」

 オレが少し立ち止まって団体を見ていたので、気になったのかポアムが尋ねてきた。

「ううん。知り合いじゃないよ。アイツらが何者かは知ってるけどね」
「そうなんですか?」
「うん。オレの知識が間違ってなかったら、アレは――“ガラクシアース騎士団”だよ」
「ガラクシアース……騎士団……ですか」
「知らない? 結構有名なんだけどなぁ。世界最大規模と言われてる【コスモス聖王国】に仕える騎士団の一つだしね。あのマントを見る限りだと、第三師団の“ルナティック師団”みたいだけど」
「第三? 幾つも部隊があるんですか?」
「何しろ規模が大きいからね。師団長が複数いて、それぞれが団員たちを率いているからさ。確か騎士団は全部で五つの師団に分かれてたんじゃないかなぁ」
「さ、さすがはイックウ様です! 学者さんです! つまり物知りです!」
「フッフッフ! まーね!」
「あ、でもそんなに有名な【コスモス聖王国】の騎士団が、何でこの国に?」
「多分視察か何かだろうなぁ。それともたまたま遠征してて、近くを通りかかったら挨拶したとか?」
「フレンドリーなんですね!」

 う~ん、それをフレンドリーと言ってもいいものかどうかは悩みどころだけど。挨拶とはいっても、明らかに立場が上なのは騎士団なのだ。相手が国家なのに、騎士団の方が立場が上ということは、それだけ【コスモス聖王国】の威厳が強いということ。

「まあ、あまり関わり合いになっても面倒だから、オレたちはさっさと教会に行こっか」
「はい!」

 実際、騎士団とはあまり関わりたくない。その理由として、ゲームをやっていた時に、主人公と意見の食い違いで衝突があり、敵対関係になるなどのイベントがあったからだ。

 ストーリーを進めると、国王暗殺未遂などの責任を強制的に押し付けられたりと、面倒事が絶えなかった。
 騎士団の中にも話を分かってくれる者はいたが、何度襲われたことか分からない。

 ま、あくまでゲームの内容だったんだけどね。

 奴隷の扱いに関して食い違いがある以上、ゲームの知識がそのまますべて通じるとはもう思えない。これはゲームではないのだから、決められたストーリーが強制的に進むわけでもないだろう。
 しかしながら、高い権力者と通じるのはリスクも高いので、平和に暮らしたいオレにとっては無用の長物として無視した方が無難だ。

 そういやぁ、RONで主人公が最初に目をつけられたのも確か“ルナティック師団”だっけ? 

 その時はたまたまという設定で、一緒にクエストを行うことになり、彼らに手を貸すという形になったのだが。それから強さを見込まれ国に連れて行かれ、そこで暗殺未遂事件に巻き込まれた。

 ……うん、やっぱり関わらないでおこう。

 そう思いオレはそそくさと教会へと急いだ。
 教会では、司祭と話し、祭壇へ連れて行ってもらってからジョブを入手するという手順だった。
 教会に入ると、人の良さそうな司祭らしき人がいて、用件を聞いてきてくれたので、

「この子のジョブを選びに来ました」
「分かりました。では祭壇の方へ」

 突き当たりにある祭壇へと司祭の後を追いながら、オレたちは向かった。
 祭壇には階段が設置されており、階段を上った先には魔法陣が刻まれてある。

「さて、ジョブ獲得に関してご質問はございますか?」
「そうですね。一つお聞きしたいのですが、中級に上がらなければ、初級ジョブは何度でも変更は可能ですか?」
「可能です。ただし中級に昇格してしまうと、もう二度と変更はできません」

 そこはゲームの時と同じようだ。

「分かりました。……ポアム、準備はできた?」
「も、問題ありません! つ、つまりいつでも大丈夫です!」

 完全に緊張しているのが分かる。もうカチコチの表情だ。

「あはは、そんなに緊張しなくても大丈夫だって。もうジョブは決まったんだろ?」
「は、はい!」
「よし、なら行っといで」

 司祭とともに祭壇の上段へと上がっていくポアム。オレはそれを懐かしさを覚えながら見つめていた。
 とはいっても経験したのはゲーム画面越しではあったが。



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