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「うおぉぉぉ~っ! こ、これがこの世界での初料理かぁ~!」
今、オレはテーブルの上に用意されている夕食に目を奪われていた。豪華とは言い難い料理ではあるけれど、どれもこれも日本では見たことも無い食材で作られているように見える。
一応食事を運んでくれた宿屋の人に料理の説明を頼んでいた。一通り説明が終わったらそそくさと部屋から出て行ったが。
「よし! んじゃ食べよう! いただきます!」
「あ、いただきます!」
もちろんポアムとも一緒だ。
「まずはこの《紅ブリの刺身》! はむ! んぐんぐ……んおっ! こ、この蕩け具合……グッドだぜ……!」
味はまさしく脂ののった鰤だ。しかし見た目はマグロに見えるほどの赤身。それはさながらトロのように舌の上で溶けていく。だが残念なのは、醤油が無いというのは痛い。
刺身なら醤油がベストなんだけど、この世界には無かったっけ?
それでも美味しいのだから、文句は言えない。次に食べるのは――。
「ふむふむ、《かぶと鳥のからあげ》か……喉が疼くぜ」
かぶと鳥というモンスターがいるのだが、ゲーム時でもよくからあげやチキン南蛮にしたりして食べていた頃を思い出す。もちろん味などは分からなかったが。
早く流して来いと喉が激しく鳴り胃が叫ぶ。待ってろよ、今流してやっから。
「はぐ! …………おおっ!? これまた美味えっ! 外の衣はサクサクカリカリで、中から肉汁が溢れ出てくる! ん~良い仕事してるぜまったく!」
見た目は普通のからあげだが、ジューシーで、ご飯のおともによく合う。さらにからあげにかかっているタルタルソースのようなものがまた絶品で、からあげにほのかな酸味と辛みを加えて食欲を刺激してくる。
これは、まさに絶妙のハーモニーだ!
「……あのぉ、イックウ様?」
「んあ? どうした、ポアム? 何かあったか?」
「あ、いえ。表情が蕩けています。つまりその……楽しそうだなと」
「おうよ! 人は美味いもんを食べると幸せになれるからな! オレが建てる旅館も、メインは料理にしようと思ってる! もちろんこのオレが作るんだけどな!」
「イックウ様、料理まで作れるんですか!」
「オレの《サブジョブ》は《調理師》だからな! しかもレベルMAXだぜ!」
「わ~すごいですぅ!」
「料理は良いよなぁ。こう奥が深いっていうか、底なしに挑むオレの探究心がウズウズしやがるんだよ」
「わたしは……不明です。つまり得意なのか苦手なのか分かりません」
記憶が無いのだから仕方ないだろう。
「んじゃ、今度一緒に何か作ってみっか」
「ほ、本当ですか!」
「おう! でも覚えとけポアム。良い料理人ってのは、よく食べる奴のことでもある。たくさん食べて、味を追求していく。それが料理道の極意だ!」
「把握です! つまり頑張ります!」
それからオレたちはいろいろ互いのことを話しながら食事を堪能していく。是非彼女にはいっぱい食べて、元の元気な身体に戻してほしいと思った。
……さて。
ここで一つの選択を迫られることになったオレ。
それは何かと言うと――――――入浴である。
ベランダのようなものがあり、そこにはカーテンも何もなく、ただ五右衛門風呂のような造りの浴槽があり、湯が張ってある。宿屋の人が用意してくれたのだ。
しかしここで問題だ。まず先にどっちが入るか。
オレが先に入るべきなのか? いや、男の汚れが浮かんだ湯になど女性は浸かりたくないだろう。
だったら先はポアム? いや待て。もしかしたら彼女は、オレが彼女が入った残り湯をゴクゴクと喉を潤わせて恍惚の表情を浮かべると考えるかもしれねー。
もちろんオレにそのつもりは無い…………うん、無いよ、絶対無いから。
だが彼女にとっては良い気分じゃないかもしれない。何といっても今日知ったばかりの男と一夜をともにするだけでなく、風呂の湯も同じものを使うのだから。そこに抵抗があるのは当然なのかもしれない。
だったらオレはどういう選択を取ればいいというのだろうか。この際、今日は彼女だけに風呂に入ってもらう? その間、オレはどこにいればいい? いや、悩むな。そんなもん外に出ていればいいだけだ。慌てるな、オレ。まだまだクールのはずだ。落ち着け。
そうだ、それがいい。別に一日くらい入らなくても多少身体が痒くなるくらいだ。その気になったら《願望の紙片》を使って、身体を綺麗に~とかできるんだから。いや、もしそんなことに本気で使うようなら、オレはいろんな人たちに頭を下げなきゃならないかもしれないけど。
だってコレを巡ってギルドパーティ同士で戦争にまで発展したことがあったんだから。
よし、決めた! オレの決断は――
「あ、あのイックウ様」
「ふぇ? あ、な、何かな、ポアム?」
「その……あの……ですね」
何故か彼女が真っ赤な顔をしてモジモジしている。
「拝聴です。つまりその……ぜ、全部……口に出ていましたよ?」
何だってェェェェェェェェェェッ!?
「ど、どういうこと!? オレが心の中で思ってたことが外に漏れてたの!?」
「は、はい」
「ど、どこから?」
「……さて、のところから」
最初過ぎだろオレェェェェェェェェッ!?
せめて途中からにしてほしかった。
「あ、あのですね。わ、わたしは覚悟しています! つ、つまりゴクゴクされても怒ったりしません……よ?」
「はは、ジーザス」
そうだよね。全部聞こえてたんなら、そのくだりも聞いてるよね~。……いや、ちょっと待て、今彼女は怒らないと言わなかったか!
「お、怒らないの?」
「は、はい。は、恥ずかしいですけど……その、飲みたい……のでしたら」
ドキュンッとハートを打ち抜かれるような彼女の照れ姿に、オレは自分がいかに汚い妄想野郎か思い知った。
「……いや、ありがとう、ポアム。オレは悟ったよ。オレという人間の愚かしさをさ」
「へ? あ、あのぉ……」
「さあ、先に風呂に入ってきなさい。大丈夫。今のオレは賢者モードに突入したから。しかも確変だよ。しばらく続くから安心して」
「は、はぁ。ですが先にわたしが入るというのはさすがに……」
「いいんだよ。レディファーストって言葉があるだろ? それにちょっと外に出る用事があったのを思い出したから、その間に入っててくれたら嬉しいな」
「……分かりました。で、でも……不安です。つまりちゃんと戻って来てくれますよね?」
「当たり前だよ。オレの居場所は……ここさ」
いや、別にここじゃないんだけどね。ここ、ただの宿屋だし。というか一刻も早く、外に出て海に向かって叫びたいんだ。
「は、把握です! つまりわ、分かりました。できるだけ早く済ませますから!」
彼女との交渉がスムーズに成立して、オレはすぐさま宿屋から飛び出て、全速力で海へ向かった。そして――。
「オレのバッキャロォォォォォォォォォォォォォォォォッ!?」
思いのたけをすべて暗い海が受け止めてくれた……ように見えた。
今、オレはテーブルの上に用意されている夕食に目を奪われていた。豪華とは言い難い料理ではあるけれど、どれもこれも日本では見たことも無い食材で作られているように見える。
一応食事を運んでくれた宿屋の人に料理の説明を頼んでいた。一通り説明が終わったらそそくさと部屋から出て行ったが。
「よし! んじゃ食べよう! いただきます!」
「あ、いただきます!」
もちろんポアムとも一緒だ。
「まずはこの《紅ブリの刺身》! はむ! んぐんぐ……んおっ! こ、この蕩け具合……グッドだぜ……!」
味はまさしく脂ののった鰤だ。しかし見た目はマグロに見えるほどの赤身。それはさながらトロのように舌の上で溶けていく。だが残念なのは、醤油が無いというのは痛い。
刺身なら醤油がベストなんだけど、この世界には無かったっけ?
それでも美味しいのだから、文句は言えない。次に食べるのは――。
「ふむふむ、《かぶと鳥のからあげ》か……喉が疼くぜ」
かぶと鳥というモンスターがいるのだが、ゲーム時でもよくからあげやチキン南蛮にしたりして食べていた頃を思い出す。もちろん味などは分からなかったが。
早く流して来いと喉が激しく鳴り胃が叫ぶ。待ってろよ、今流してやっから。
「はぐ! …………おおっ!? これまた美味えっ! 外の衣はサクサクカリカリで、中から肉汁が溢れ出てくる! ん~良い仕事してるぜまったく!」
見た目は普通のからあげだが、ジューシーで、ご飯のおともによく合う。さらにからあげにかかっているタルタルソースのようなものがまた絶品で、からあげにほのかな酸味と辛みを加えて食欲を刺激してくる。
これは、まさに絶妙のハーモニーだ!
「……あのぉ、イックウ様?」
「んあ? どうした、ポアム? 何かあったか?」
「あ、いえ。表情が蕩けています。つまりその……楽しそうだなと」
「おうよ! 人は美味いもんを食べると幸せになれるからな! オレが建てる旅館も、メインは料理にしようと思ってる! もちろんこのオレが作るんだけどな!」
「イックウ様、料理まで作れるんですか!」
「オレの《サブジョブ》は《調理師》だからな! しかもレベルMAXだぜ!」
「わ~すごいですぅ!」
「料理は良いよなぁ。こう奥が深いっていうか、底なしに挑むオレの探究心がウズウズしやがるんだよ」
「わたしは……不明です。つまり得意なのか苦手なのか分かりません」
記憶が無いのだから仕方ないだろう。
「んじゃ、今度一緒に何か作ってみっか」
「ほ、本当ですか!」
「おう! でも覚えとけポアム。良い料理人ってのは、よく食べる奴のことでもある。たくさん食べて、味を追求していく。それが料理道の極意だ!」
「把握です! つまり頑張ります!」
それからオレたちはいろいろ互いのことを話しながら食事を堪能していく。是非彼女にはいっぱい食べて、元の元気な身体に戻してほしいと思った。
……さて。
ここで一つの選択を迫られることになったオレ。
それは何かと言うと――――――入浴である。
ベランダのようなものがあり、そこにはカーテンも何もなく、ただ五右衛門風呂のような造りの浴槽があり、湯が張ってある。宿屋の人が用意してくれたのだ。
しかしここで問題だ。まず先にどっちが入るか。
オレが先に入るべきなのか? いや、男の汚れが浮かんだ湯になど女性は浸かりたくないだろう。
だったら先はポアム? いや待て。もしかしたら彼女は、オレが彼女が入った残り湯をゴクゴクと喉を潤わせて恍惚の表情を浮かべると考えるかもしれねー。
もちろんオレにそのつもりは無い…………うん、無いよ、絶対無いから。
だが彼女にとっては良い気分じゃないかもしれない。何といっても今日知ったばかりの男と一夜をともにするだけでなく、風呂の湯も同じものを使うのだから。そこに抵抗があるのは当然なのかもしれない。
だったらオレはどういう選択を取ればいいというのだろうか。この際、今日は彼女だけに風呂に入ってもらう? その間、オレはどこにいればいい? いや、悩むな。そんなもん外に出ていればいいだけだ。慌てるな、オレ。まだまだクールのはずだ。落ち着け。
そうだ、それがいい。別に一日くらい入らなくても多少身体が痒くなるくらいだ。その気になったら《願望の紙片》を使って、身体を綺麗に~とかできるんだから。いや、もしそんなことに本気で使うようなら、オレはいろんな人たちに頭を下げなきゃならないかもしれないけど。
だってコレを巡ってギルドパーティ同士で戦争にまで発展したことがあったんだから。
よし、決めた! オレの決断は――
「あ、あのイックウ様」
「ふぇ? あ、な、何かな、ポアム?」
「その……あの……ですね」
何故か彼女が真っ赤な顔をしてモジモジしている。
「拝聴です。つまりその……ぜ、全部……口に出ていましたよ?」
何だってェェェェェェェェェェッ!?
「ど、どういうこと!? オレが心の中で思ってたことが外に漏れてたの!?」
「は、はい」
「ど、どこから?」
「……さて、のところから」
最初過ぎだろオレェェェェェェェェッ!?
せめて途中からにしてほしかった。
「あ、あのですね。わ、わたしは覚悟しています! つ、つまりゴクゴクされても怒ったりしません……よ?」
「はは、ジーザス」
そうだよね。全部聞こえてたんなら、そのくだりも聞いてるよね~。……いや、ちょっと待て、今彼女は怒らないと言わなかったか!
「お、怒らないの?」
「は、はい。は、恥ずかしいですけど……その、飲みたい……のでしたら」
ドキュンッとハートを打ち抜かれるような彼女の照れ姿に、オレは自分がいかに汚い妄想野郎か思い知った。
「……いや、ありがとう、ポアム。オレは悟ったよ。オレという人間の愚かしさをさ」
「へ? あ、あのぉ……」
「さあ、先に風呂に入ってきなさい。大丈夫。今のオレは賢者モードに突入したから。しかも確変だよ。しばらく続くから安心して」
「は、はぁ。ですが先にわたしが入るというのはさすがに……」
「いいんだよ。レディファーストって言葉があるだろ? それにちょっと外に出る用事があったのを思い出したから、その間に入っててくれたら嬉しいな」
「……分かりました。で、でも……不安です。つまりちゃんと戻って来てくれますよね?」
「当たり前だよ。オレの居場所は……ここさ」
いや、別にここじゃないんだけどね。ここ、ただの宿屋だし。というか一刻も早く、外に出て海に向かって叫びたいんだ。
「は、把握です! つまりわ、分かりました。できるだけ早く済ませますから!」
彼女との交渉がスムーズに成立して、オレはすぐさま宿屋から飛び出て、全速力で海へ向かった。そして――。
「オレのバッキャロォォォォォォォォォォォォォォォォッ!?」
思いのたけをすべて暗い海が受け止めてくれた……ように見えた。
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