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「一泊お願いできますか? 二部屋で」
「はいよ。二人……だね。だったら、三千四百ジェマ、前払いね」
その時、後ろからクイッと服を引っ張られる。少女だ。
「えと、どうしたの?」
「……一緒です。つまり同じ部屋でいいです」
「は、はい!? え、えとそれはさすがにさ……」
「……わたしはどれ」
「ああ! おっけおっけ! 分かったから!」
慌てて彼女の口元を押さえる。
宿主が「どれ?」と首を傾げている。危なかった。もしここで奴隷という言葉を口にしたら、もしかした面倒なことになるかもしれない。ゲームでは大丈夫だったが、今大丈夫だとは限らない。
彼女を止めたオレのファインプレーに誰か褒めてほしい。
「え、えと……部屋は一つで」
「へ……はは~ん」
何ですか、その今夜は楽しむんだね的な目は! 楽しまないから! むしろそんな勇気ないから! 悲しいことだけども! あとロリコンでもないから!
「了解したよ。一つで、二人部屋なら二千八百ジェマだよ」
「んじゃ、これで」
金を取り出すつもりで腰に携帯しているバッグの中に手を入れると、きっちり二千八百ジェマが取り出せた。
一千ジェマ銀貨を二枚に、五百ジェマ銅貨一枚に、百ジェマ銅貨を三枚を手渡す。
「ん、確かに」
「宿に風呂ってありますか?」
「簡易式だけど、部屋についてるよ。けど湯の量に制限はあるから使う時は気をつけな」
「分かりました。それと食事は?」
「プラス一千ジェマを払ってくれるなら、夕食と朝食はつくよ」
「なら、これで」
プラスして一千ジェマを渡した。新世界に来て、初めての食事なのだから、是非とも食べてみたい。
それから部屋に案内されて、オレと少女は一心地をつくことができた。ベッドが二つ。小さなテーブルが一つだけあり、窓が備え付けられてある簡素な部屋。
外はベランダのようになっていて、五右衛門風呂のような浴槽があるのを発見した。一泊するだけなら、こういう感じの部屋でも全然良い。
だが少女は部屋の隅で座りもせずに、ずっと何かを待っているように立ったまま。
「あ、あの……座らないの?」
「……命令? つまり強制ですか?」
「……よし、とりあえず命令でいいから、座って」
「……座ります」
しかもその場に腰を下ろす少女。何かもう女の子との二人っきり宿泊にドキドキって感じじゃなくなってる。
そんなことより、とにかく少しでも打ち解ける必要があるようだ。
「おほん! とにかく、先送りになってた自己紹介からしよう!」
そうなのだ。今まで一緒にここまで歩いてきたが、肝心の自己紹介がまだである。
「ほら、目の前に座って」
「…………はい」
怯えている様子は無い。かなり遠慮している様子は見て取れるが。
「まずはオレね。オレは高木……いや、イックウだ」
高木一空というのは、日本にいた時の名前だ。今のオレはゲーム世界に飛び込んだ“イックウ”である。
「一応今日初めてギルド登録した”冒険者”だよ」
「……今日……初めて?」
「うん。……何か変?」
「変というか……驚愕です。つまり……あの強さでしたから信じられなくて」
「え、ああ……そっか。まあ、普通はそう思うよなぁ」
けど真実を話したところで理解できるとは思えないし、話したら話したで可哀相な目で見られたら立ち直れないかもしれない。だから……。
「登録したのは今日だけど、冒険は結構してたんだよ」
「そう……なのですか?」
「うん。世界中を旅したよ。だからレベルもカンストしちゃうほど高い!」
「カンスト? つまり……100レベルということですか?」
「まーね。凄い?」
「す、すごい……です」
素直に感動している少女の表情を見て無性に嬉しくなる。だって100レベルになるには相当苦労したのだから。
そもそもRONの世界では、何といってもレベルが上げにくい。50レベルくらいまではある程度やり尽くす人ならば辿りつけるが、それ以降はまさに悪魔的な経験値を必要とするのだ。
数値的に言うと、49から50までの必要経験値を十万くらいとしよう。次に51になるに必要な経験値は――――百万になるのだ。
単純計算で十倍。これこそ、玄人ゲーマーでさえカンスト不可能と諦めるほどの壁の高さ。しかしオレは来る日も来る日も戦い続け、ようやくつい最近100レベルに達したのだ。
あの時の喜びは一生わすれないだろうなぁ。一日中顔がニヤけていたから。女の子に告白されるよりも嬉しかったかもしれない。だって達成感と充実感が半端なかったし。
「でも、よくオレの言うこと信じるよな。普通100レベルなんてホラ吹き野郎とか言われても仕方ないのに」
「あ、いえ……把握です。つまり目の前で戦うところも見ましたし。それに嘘を理由も見当たりません」
「それもそっか。んじゃ、次は君のことを教えてくれる?」
実は名前やレベルはすでに分かっている。何故なら彼女の頭上には情報が映し出されているから。これはオレの《鑑定士》の《サブジョブ》の恩恵でもあるけれど。
「はいよ。二人……だね。だったら、三千四百ジェマ、前払いね」
その時、後ろからクイッと服を引っ張られる。少女だ。
「えと、どうしたの?」
「……一緒です。つまり同じ部屋でいいです」
「は、はい!? え、えとそれはさすがにさ……」
「……わたしはどれ」
「ああ! おっけおっけ! 分かったから!」
慌てて彼女の口元を押さえる。
宿主が「どれ?」と首を傾げている。危なかった。もしここで奴隷という言葉を口にしたら、もしかした面倒なことになるかもしれない。ゲームでは大丈夫だったが、今大丈夫だとは限らない。
彼女を止めたオレのファインプレーに誰か褒めてほしい。
「え、えと……部屋は一つで」
「へ……はは~ん」
何ですか、その今夜は楽しむんだね的な目は! 楽しまないから! むしろそんな勇気ないから! 悲しいことだけども! あとロリコンでもないから!
「了解したよ。一つで、二人部屋なら二千八百ジェマだよ」
「んじゃ、これで」
金を取り出すつもりで腰に携帯しているバッグの中に手を入れると、きっちり二千八百ジェマが取り出せた。
一千ジェマ銀貨を二枚に、五百ジェマ銅貨一枚に、百ジェマ銅貨を三枚を手渡す。
「ん、確かに」
「宿に風呂ってありますか?」
「簡易式だけど、部屋についてるよ。けど湯の量に制限はあるから使う時は気をつけな」
「分かりました。それと食事は?」
「プラス一千ジェマを払ってくれるなら、夕食と朝食はつくよ」
「なら、これで」
プラスして一千ジェマを渡した。新世界に来て、初めての食事なのだから、是非とも食べてみたい。
それから部屋に案内されて、オレと少女は一心地をつくことができた。ベッドが二つ。小さなテーブルが一つだけあり、窓が備え付けられてある簡素な部屋。
外はベランダのようになっていて、五右衛門風呂のような浴槽があるのを発見した。一泊するだけなら、こういう感じの部屋でも全然良い。
だが少女は部屋の隅で座りもせずに、ずっと何かを待っているように立ったまま。
「あ、あの……座らないの?」
「……命令? つまり強制ですか?」
「……よし、とりあえず命令でいいから、座って」
「……座ります」
しかもその場に腰を下ろす少女。何かもう女の子との二人っきり宿泊にドキドキって感じじゃなくなってる。
そんなことより、とにかく少しでも打ち解ける必要があるようだ。
「おほん! とにかく、先送りになってた自己紹介からしよう!」
そうなのだ。今まで一緒にここまで歩いてきたが、肝心の自己紹介がまだである。
「ほら、目の前に座って」
「…………はい」
怯えている様子は無い。かなり遠慮している様子は見て取れるが。
「まずはオレね。オレは高木……いや、イックウだ」
高木一空というのは、日本にいた時の名前だ。今のオレはゲーム世界に飛び込んだ“イックウ”である。
「一応今日初めてギルド登録した”冒険者”だよ」
「……今日……初めて?」
「うん。……何か変?」
「変というか……驚愕です。つまり……あの強さでしたから信じられなくて」
「え、ああ……そっか。まあ、普通はそう思うよなぁ」
けど真実を話したところで理解できるとは思えないし、話したら話したで可哀相な目で見られたら立ち直れないかもしれない。だから……。
「登録したのは今日だけど、冒険は結構してたんだよ」
「そう……なのですか?」
「うん。世界中を旅したよ。だからレベルもカンストしちゃうほど高い!」
「カンスト? つまり……100レベルということですか?」
「まーね。凄い?」
「す、すごい……です」
素直に感動している少女の表情を見て無性に嬉しくなる。だって100レベルになるには相当苦労したのだから。
そもそもRONの世界では、何といってもレベルが上げにくい。50レベルくらいまではある程度やり尽くす人ならば辿りつけるが、それ以降はまさに悪魔的な経験値を必要とするのだ。
数値的に言うと、49から50までの必要経験値を十万くらいとしよう。次に51になるに必要な経験値は――――百万になるのだ。
単純計算で十倍。これこそ、玄人ゲーマーでさえカンスト不可能と諦めるほどの壁の高さ。しかしオレは来る日も来る日も戦い続け、ようやくつい最近100レベルに達したのだ。
あの時の喜びは一生わすれないだろうなぁ。一日中顔がニヤけていたから。女の子に告白されるよりも嬉しかったかもしれない。だって達成感と充実感が半端なかったし。
「でも、よくオレの言うこと信じるよな。普通100レベルなんてホラ吹き野郎とか言われても仕方ないのに」
「あ、いえ……把握です。つまり目の前で戦うところも見ましたし。それに嘘を理由も見当たりません」
「それもそっか。んじゃ、次は君のことを教えてくれる?」
実は名前やレベルはすでに分かっている。何故なら彼女の頭上には情報が映し出されているから。これはオレの《鑑定士》の《サブジョブ》の恩恵でもあるけれど。
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