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 今、オレが何をしてるって?

 そ、そうだな……一言で言えば、デ、デ、デートのようなものだとでも言おうか。

 だってさ、美少女と一緒に街中を歩いてるんだから、これはもうデートでしょ?

 ただ一つ気になることは……ある。

「あ、あのさ」

 言葉と同時にオレが足を止めると、少女もまた足を止める。……オレの一メートルほど後ろで。

「……?」

 いやいや、そんな可愛らしく「何ですか?」的な感じでの上目遣いは反則だ。つい抱きしめたい衝動にかられるのはおかしくはないだろうか。

「え、えっとさ、その……できれば隣を歩いてほしいんだけどなぁ……なんて」
「……それは、拒否です。……つまりできません」
「な、何で?」
「だって……わたしは奴隷。つまり主の後ろに付き従うのが普通です」

 胸がズキッと痛む。オレが知っているゲーム世界の奴隷のことならば、これほど辛い思いはしなかった。けど、この世界は……違うのだ。

「……言っただろ? オレはそんなの気にしないって」
「……でも、ダメです。……つまりいけないことです。迷惑……かかりますから」

 何か、独特な喋り方をする子だな……。

 オレが何度奴隷であることを気にしないと言っても、彼女はずっとこれなのだ。ちなみに今は、オレが持っていた回復薬で傷の手当てをして、ローブを着用させているので、見つけた時の包帯塗れからはさよならしていた。
 淡いピンク色の髪が足元くらいの長さにまで伸びている。赤ん坊のような白くてモチモチっとしている肌をしていて、クリッとした大きな銀と緋色のオッドアイを持つ。正直カッコ良い。オレもほしい。身長は大体130センチメートルほどだろうか。

 今でも十分美少女なのだが、これまでの生活のツケからか、痩せ細り髪もボサボサになってしまっている。ちゃんとすれば、誰もが振り向く美の天使になるはずだ。
 それに初めて見た時とは少しマシだが、それでも彼女が何か諦めているような雰囲気を醸し出しているのは、一目して理解できた。

 何とかしてやりたいんだけどなぁ……。

 だが今まで酷い目にあってきたはず。いきなり解放したからオレを信じろと言っても、確かに難しいかもしれない。
 オレは自分の右手に視線を落とす。

 一緒に旅館をやらないかと誘った。どうしてそんなことを言ったのか、ほとんど勢いのような気もするけど、本気で言ったつもりだ。
 けど彼女は、その手を握り返してくれはしたが、

『奴隷は……ご主人様に付き従うまでですから』

 震える手で、そう言った。
 オレが求めてるのはそうじゃねーんだ。オレが求めてるのは、もっとこう対等で、何でも言い合えるような家族的な関係であって……いや、確かにいきなり家族は踏み込み過ぎだけど、せめて友人くらいにはなってほしい。

「――よしっ! とりあえずギルドに行くぞ!」
「……分かりました」

 無表情の彼女を連れて、ギルドへ向かった。
 少女連れというのが目立っているのか、注目を浴びてしまっていたが、クエストである“バタフライ草の採取”の達成報告だ。

「―――お疲れ様でした。こちらが今回の報酬になります」

 そう言って受付嬢に渡されたのはこの世界の貨幣だ。
 これで千八百ジェマか。どうやら日本と貨幣価値は同じみたいである。一応宿屋の一泊料金も調べておいたので、これで何とか一日くらいは大丈夫らしい。ただし、一人分。

 しょうがねーな、雑貨屋にでも行ってアイテムを売るか。いや、ここでも確か素材や鉱石を買い取ってくれてたよな。

「あの、知り合いにもらった素材とかあるんですけど、買い取ってもらえますか?」
「え、あ、はい。買い取れるものであるならば、こちらで査定し、買い取らせて頂きます」

 よっしゃ。

 オレは《アイテム》画面を開いて、その中の《素材》の欄をクリック。錬金とかするのに便利なので、本当なら売りたくはないけど。
 売っても差し支えない素材を選択してクリックすると、目の前に実体化する。

「んじゃ、これをお願いします」
「はい……って、えっ!?」

 受付嬢が眼を見開いている。素材とオレとを何度も見比べて息を呑んでいる。

「こ、こ、これって……《ウォーリアウルフの牙》ですよね? Bランクの素材ですよ?」
「あ、いや、ですからこれはオレが手に入れたんじゃなくて、知り合いにですね」
「あ、そういえばそうでしたね。すみません、まだ登録初日ですのに、これほどの素材を出されて取り乱しました。以後気をつけます」
「は、はぁ」

 まあ、確かにFランクの”冒険者”がいきなりBランクのモンスターの素材を持って来たらそりゃ驚くか。下手に目立ちたくはねーから、知り合いからもらった体を貫くけど。

「で、では査定に入りますので、しばらくお待ちを」
「は、はい」

 オレは待っている間に、後ろにいる少女を見る。彼女は興味深そうにキョロキョロと周囲を観察していた。

「……はは、もしかして興味あるのか?」
「え……あ、いえ、その……謝罪します。つまり、すみません」
「謝らなくていいって。いつか……そうだなぁ。一緒にクエストとかやれたらいいしな」
「え……一緒……に?」
「うん、一緒に」
「…………」

 沈黙してしまった。もしかして怒らせてしまったのだろうか……? 

「お待たせ致しました」
「あ、はい」

 気まずい空気が打ち破られる。ナイスタイミング、受付嬢さん!

「こちらが査定額の三万八千ジェマです。よろしいですか?」
「はい。お願いします」

 ずいぶん高く買い取ってくれた。これならしばらく豪遊……は控えよう。
 オレは金を受け取りギルドから出ると、少女と一緒に宿屋へと向かった。


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