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「ずいぶん暇な奴だな。オッサン」
「けっ、おいどういうことだ、これは?」
ボルドが奴隷商人から、事情を聞いている。そして楽しげに頬を緩めると、
「ほほう。何だテメエ、テメエもその奴隷が欲しいのか? だったら五千万ジェマと《アイテムボックス》で考えてやってもいいぜ?」
「……ふざけてんのか?」
「あァ?」
「オレはこの子を解放したいだけだ。買うために助けたわけじゃない」
「……頭いかれてんのかァ? 奴隷だぞ、そいつァ」
「だから? 奴隷かどうかなんて、オレには関係ねえ」
そうだ。この世界がオレの知ってるRONの世界とは食い違いがあったとしても、ここでこの少女を見捨てるなんてことは到底できない。
「……忌々しいガキめ。ルールってもんを知ってっか? 奴隷は金を出して買う。そして死ぬまでボロボロにこき使う。それがこの世界のルールだぜ?」
「……はは」
「あ? 何がおかしいんだ?」
「ルール……ね。確かに大切だよな。人が生きてく上じゃ必要だと思う」
「ったりめえだろうが」
「けどな。ルールよりも大切なもんがあんだよ」
「……何言ってんだ、テメエ?」
「オレは、この世界に来て正直嬉しかった。まだ戸惑ってることも多いけど、それでもやっぱ嬉しかった。オレも本気になれるかもって思えたから」
「テメエ……ホントにいかれたか?」
いかれた……。違う。これは覚醒。そうだ、オレは覚醒したんだ!
「オレはこの世界で好き勝手に生きる! ルールなんてある程度守ってりゃそれでいいだろ!」
「なっ」
「守りたくねえルールなんて守らねえ! ガキで結構! 異端で結構! 元々オレはこの世界じゃ異端だしなっ!」
だから自由に、自分の信念に従って生きよう! 好きなことをしよう! 超人気の旅館を作って、温泉入ってのんびり新世界生活を満喫するんだっ!
「だから! この子はオレが貰い受ける! もちろん、無料でなっ!」
告白にも等しい宣言。かなり恥ずかしかった。だって腕の中にいる少女もジッとこっちを見つめているんだから。もしキモイとか思われてたらどうしよう……。
「ふ、ふっざけんなァッ!」
ボルドが大地を蹴り出し、怒りに震わせた拳をオレに向けて放ってくる。少女もいるというのに何も考えていない攻撃に呆れてしまう。
オレは軽く大地を蹴ってその場から脱出する。だが軽く動いただけで、その場から数メートル離れた場所まで移動できる身体能力が備わっている。
これはスキルにある《縮地》である。簡単に言えば、物凄く速く動ける移動術のこと。
キョロキョロと顔を動かしてオレを見つけたボルドが睨みつけてくる。
「――っ!? な、何をしたテメエッ!?」
オレを一瞬でも見失ったことで明らかに動揺している。
「別に。ただ少し速く動いただけだ」
「テメエ……まさかジョブは《アサシン》か《忍者》か!?」
確かに彼の言ったジョブ――《アサシン》や《忍者》は、一番の素早さを誇る中級ジョブである。極めていけば、音もなく人を暗殺することも容易い身体能力を有するのだ。
オレは少女をそっと地面に下ろす。
「片づけてくるから、ちょっち待っててな」
「え……ぁ」
ようやくだがか細い声が聞こえた。オレは彼女の頭を軽くポンと叩くと、ボルドを見据える。
「――教えてやるよ。たかが中級ジョブでいい気になってるクソ野郎に、本物の理不尽さってのをな」
オレはバチンッと拳同士を突き合わせると、静かに一歩ずつボルドに向かって歩く。
「な、舐めんなコラァァァァッ!」
素早い動きでオレとの距離を詰め、ハンマーのように腕を振り下ろしてくる。オレはその腕を―――あっさりと右手で受け止めてやった。
「んなァッ、何だとォォォッ!?」
「……軽いな、お前」
開いている左拳を震わせ、そのままアッパーをお見舞いしてやる。
「ぐべへェェェェッ!?」
自分でもそんなに威力があったのかと思うほど、ボルドが空へと舞い上がる。だがお仕置きはまだ続いているのだ。
オレは腰を落とし、右拳を腰まで引いて力を集中させる。
「味わわせてやるよ――――――神級ジョブ《拳神》の力をな!」
オレは大きく跳び上がり、ボルドの目前へと瞬時に移動した。右拳から赤い炎が放たれ拳を覆っていく。
「―――《紅炎拳》っ!」
目にも止まらない速度で放たれた拳は、空気を切り裂きボルドの腹部へ突き刺さった。
「ぐぼほォおゥゥゥゥゥゥゥゥッ!?」
一瞬にしてボルドの身体は火に包まれ、かなり先にある池まで吹き飛んでいく。見事、狙い通りに池を貫くようにしてボルドは落下する。
オレは大地に下り立つと、ギロリと鋭い視線で呆気に取られている奴隷商人を睨みつけながら、
「あの子はオレが貰う。いいな?」
「ひ、ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
奴隷商人は情けない声を出しながらその場から逃げ出していった。
オレは池の方角を見ながら、
「……ま、かな~り手加減したし、死にゃしてねーだろ」
殺しはさすがに抵抗あるけど、別にあんな野郎が死のうが生きようがどうでもいいとさえ思ってるしな。
オレは奴隷商人のように現況に言葉を失っている少女に近づく。オレを見てビクッと彼女は身体を震わせたので、拒絶感を感じて若干ショックではあるけれど、勇気を出して手を差し出した。
「なあ、オレと一緒に旅館――やってみねーか?」
「けっ、おいどういうことだ、これは?」
ボルドが奴隷商人から、事情を聞いている。そして楽しげに頬を緩めると、
「ほほう。何だテメエ、テメエもその奴隷が欲しいのか? だったら五千万ジェマと《アイテムボックス》で考えてやってもいいぜ?」
「……ふざけてんのか?」
「あァ?」
「オレはこの子を解放したいだけだ。買うために助けたわけじゃない」
「……頭いかれてんのかァ? 奴隷だぞ、そいつァ」
「だから? 奴隷かどうかなんて、オレには関係ねえ」
そうだ。この世界がオレの知ってるRONの世界とは食い違いがあったとしても、ここでこの少女を見捨てるなんてことは到底できない。
「……忌々しいガキめ。ルールってもんを知ってっか? 奴隷は金を出して買う。そして死ぬまでボロボロにこき使う。それがこの世界のルールだぜ?」
「……はは」
「あ? 何がおかしいんだ?」
「ルール……ね。確かに大切だよな。人が生きてく上じゃ必要だと思う」
「ったりめえだろうが」
「けどな。ルールよりも大切なもんがあんだよ」
「……何言ってんだ、テメエ?」
「オレは、この世界に来て正直嬉しかった。まだ戸惑ってることも多いけど、それでもやっぱ嬉しかった。オレも本気になれるかもって思えたから」
「テメエ……ホントにいかれたか?」
いかれた……。違う。これは覚醒。そうだ、オレは覚醒したんだ!
「オレはこの世界で好き勝手に生きる! ルールなんてある程度守ってりゃそれでいいだろ!」
「なっ」
「守りたくねえルールなんて守らねえ! ガキで結構! 異端で結構! 元々オレはこの世界じゃ異端だしなっ!」
だから自由に、自分の信念に従って生きよう! 好きなことをしよう! 超人気の旅館を作って、温泉入ってのんびり新世界生活を満喫するんだっ!
「だから! この子はオレが貰い受ける! もちろん、無料でなっ!」
告白にも等しい宣言。かなり恥ずかしかった。だって腕の中にいる少女もジッとこっちを見つめているんだから。もしキモイとか思われてたらどうしよう……。
「ふ、ふっざけんなァッ!」
ボルドが大地を蹴り出し、怒りに震わせた拳をオレに向けて放ってくる。少女もいるというのに何も考えていない攻撃に呆れてしまう。
オレは軽く大地を蹴ってその場から脱出する。だが軽く動いただけで、その場から数メートル離れた場所まで移動できる身体能力が備わっている。
これはスキルにある《縮地》である。簡単に言えば、物凄く速く動ける移動術のこと。
キョロキョロと顔を動かしてオレを見つけたボルドが睨みつけてくる。
「――っ!? な、何をしたテメエッ!?」
オレを一瞬でも見失ったことで明らかに動揺している。
「別に。ただ少し速く動いただけだ」
「テメエ……まさかジョブは《アサシン》か《忍者》か!?」
確かに彼の言ったジョブ――《アサシン》や《忍者》は、一番の素早さを誇る中級ジョブである。極めていけば、音もなく人を暗殺することも容易い身体能力を有するのだ。
オレは少女をそっと地面に下ろす。
「片づけてくるから、ちょっち待っててな」
「え……ぁ」
ようやくだがか細い声が聞こえた。オレは彼女の頭を軽くポンと叩くと、ボルドを見据える。
「――教えてやるよ。たかが中級ジョブでいい気になってるクソ野郎に、本物の理不尽さってのをな」
オレはバチンッと拳同士を突き合わせると、静かに一歩ずつボルドに向かって歩く。
「な、舐めんなコラァァァァッ!」
素早い動きでオレとの距離を詰め、ハンマーのように腕を振り下ろしてくる。オレはその腕を―――あっさりと右手で受け止めてやった。
「んなァッ、何だとォォォッ!?」
「……軽いな、お前」
開いている左拳を震わせ、そのままアッパーをお見舞いしてやる。
「ぐべへェェェェッ!?」
自分でもそんなに威力があったのかと思うほど、ボルドが空へと舞い上がる。だがお仕置きはまだ続いているのだ。
オレは腰を落とし、右拳を腰まで引いて力を集中させる。
「味わわせてやるよ――――――神級ジョブ《拳神》の力をな!」
オレは大きく跳び上がり、ボルドの目前へと瞬時に移動した。右拳から赤い炎が放たれ拳を覆っていく。
「―――《紅炎拳》っ!」
目にも止まらない速度で放たれた拳は、空気を切り裂きボルドの腹部へ突き刺さった。
「ぐぼほォおゥゥゥゥゥゥゥゥッ!?」
一瞬にしてボルドの身体は火に包まれ、かなり先にある池まで吹き飛んでいく。見事、狙い通りに池を貫くようにしてボルドは落下する。
オレは大地に下り立つと、ギロリと鋭い視線で呆気に取られている奴隷商人を睨みつけながら、
「あの子はオレが貰う。いいな?」
「ひ、ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
奴隷商人は情けない声を出しながらその場から逃げ出していった。
オレは池の方角を見ながら、
「……ま、かな~り手加減したし、死にゃしてねーだろ」
殺しはさすがに抵抗あるけど、別にあんな野郎が死のうが生きようがどうでもいいとさえ思ってるしな。
オレは奴隷商人のように現況に言葉を失っている少女に近づく。オレを見てビクッと彼女は身体を震わせたので、拒絶感を感じて若干ショックではあるけれど、勇気を出して手を差し出した。
「なあ、オレと一緒に旅館――やってみねーか?」
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