上 下
101 / 114

第百話 ギルド『無限の才覚』

しおりを挟む
 さすがに大規模ギルドということもあって、現在目の前に広がっている光景は圧巻だった。

 仮所属のための契約書にサインし終えると、そのまましばらく客間に待っていてほしいと言われたのだ。

 そしてしばらくするとオリビアが来訪してきて、これからギルドメンバーに紹介するからとホールと呼ばれる大部屋へと連れて来られた。

 そこには先程テラスでティータイムを楽しんでいたソーカやサンテはもちろん、まだ見たこともなかった者たちで溢れ返っていたのである。

 しかも全員が――女性。

 俺の登場に対し、一斉に様々な意が込められた視線が向けられた。
 女所帯にたった一人の男だ。それぞれ思うところがあって然るべきだろう。

 しかし中には敵意のようなものまで込められている。男が苦手、あるいは嫌悪している人物もいるのかもしれない。

 ともかく数十人の女たちの視線を一気に受けるこちらの身にもなってほしい。何とも言えない圧迫感は居心地が悪いものだ。
 俺はソーカの隣に立たされ、自己紹介をすることになった。

「皆の者、この度、我が『無限の才覚』に仮所属となったアオス・フェアリードよ。さあアオス、何か一言を」

 一言……ね。

「たった今ご紹介に預かりましたアオス・フェアリードです。突然のことで戸惑っている人もいると思いますが、少しの間よろしくお願いします」

 するとオリビアとサンテが拍手をし、それを受けて女性たちも次々と手を叩き始める。

 しかし……。

「――待ってください!」

 ビシッと真っ直ぐ手を上げて声を上げた人物がいた。

「あらトリーナ、どうかしたのかしら?」
「ソーカ様! どうして男なんて迎え入れるのですか!」
「どうして?」
「だってここは……ここは私たち女だけの楽園です! 男なんか、下卑たことしか考えられない最低の生物じゃないですか! 絶対に楽園が穢れます!」

 キッと鋭い目つきで俺を睨みつけてきた。
 なるほど。先程の敵意はこの人物からだったらしい。

「トリーナ、あなた……私の決定に逆らうつもりかしら?」
「っ……すみません……ですが……」
「……トリーナ、私は常々才能と美を愛していることは知っているわね?」
「は、はい」
「確かにこれまで私が認めるような男は現れなかったわ。いいえ、私が欲するような男が。けれどここにいるアオスは、その才も見た目も醜悪ではないわ。何故なら彼は冒険者学校の特待生。あのカトレア校長が自ら試験会場に赴き、その場で合格を言い渡したほどの人物なのよ」

 ソーカの発言に対し、ざわつき始める女性たち。

「こ、校長が……! そんなの……まるでソーカ様みたい……!」

 トリーナと呼ばれた少女も驚きの表情を見せるが、どこか悔しそうな様子だ。

「彼ならばこのギルドに迎え入れるに相応しい人物。そしてここにいるオリビアもサンテも認めているわよ」

 側近らしきオリビアたちが認めているということで、女性たちが納得気な表情を浮かべる。

「あのオリビア様も認めてるのね」
「しかもサンテ様も。だったら……私は別にいいけど」
「それにちょっとカッコ良いし」
「うんうん、お話してみたいかなぁ」
「私知ってる! あの『竜殺し』の子でしょ!」

 などと、黄色い声がどんどん大きくなってくる。だがそこへオリビアが咳払いをすると、女性たちはハッとなって押し黙った。

「……で、でもやっぱり納得できません!」

 そんな中、いまだに受け入れ難いのか、トリーナが反発心を剥き出しにする。

「ふむ。ならあなたはどうすれば納得できるというのかしら?」
「そいつと戦わせてください!」

 いきなりの申し出に、俺も少し驚く。周りの者たちも「え?」となっている。

「戦う……ですって?」
「はい! 弱い男なんて絶対に認められません! そんなんじゃソーカ様のお力になれるわけがありませんから!」
「……それでも私は受け入れるとしても?」
「弱さは罪ですから!」

 ソーカの気迫ある睨みに対しても、トリーナは一切目を逸らさず見返している。ただトリーナの身体は若干震えているのが分かった。主に歯向かうことがいかに恐ろしいことか理解しているのか。

 もしかしたら追い出されるかもしれない。それでも貫きたい信念があるのだろう。だから震えてでも立ち向かっているというわけだ。意外に根性がある。

「…………はぁ。アオス、あなたはどうかしら?」
「いや、俺は別に受け入れてもらえないならそれでいいんですけど」

 別に絶対に仮所属にしてほしいと願ったわけじゃない。ダメならそれでいい。

「フン、男のくせに覇気がないわね! やっぱりアンタにココは相応しくないわ!」

 そう言われても。そもそも誘われたのはこっちなんだが……。

「アオスくん、私としては仲間に君を認めてもらいたい。そのためにも強さを示すのはありだと思っている。どうだろうか、この勝負……受けてはもらえないかな?」

 オリビアからの提案。まさか彼女までもがそんなことを言ってくるとは。正直面倒なのだが……。

「…………分かりました。模擬戦という形でなら」

 さすがに殺し合いはしたくないし、ソーカだってさせないだろうが、一応そこは徹底しておく。

「決まったようね。ではこの後、アオスとトリーナの模擬戦を行うことにするわ。両者は準備なさい」

 ソーカの言葉に、トリーナは嬉しそうに微笑む。まるで男をボコることができると喜んでいるかのようだ。

「覚悟することね、たかが冒険者候補生が私にケンカを売ったことを後悔させてあげるわ」

 別に売った覚えはないんだが……はぁ。

 こうしてまたも予想外な展開に発展してしまい、思わず俺は溜息を漏らすのだった。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件

桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。 神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。 しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。 ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。 ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。

国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

はにわ
ファンタジー
ランドール王国最東端のルード地方。そこは敵国や魔族領と隣接する危険区域。 そのルードを治めるルーデル辺境伯家の嫡男ショウは、一年後に成人を迎えるとともに先立った父の跡を継ぎ、辺境伯の椅子に就くことが決定していた。幼い頃からランドール最強とされる『黒の騎士団』こと辺境騎士団に混ざり生活し、団員からの支持も厚く、若大将として武勇を轟かせるショウは、若くして国の英雄扱いであった。 幼馴染の婚約者もおり、将来は約束された身だった。 だが、ショウと不仲だった王太子と実兄達の謀略により冤罪をかけられ、彼は廃嫡と婚約者との婚約破棄、そして国外追放を余儀なくされてしまう。彼の将来は真っ暗になった。 はずだったが、2年後・・・ショウは隣国で得意の剣術で日銭を稼ぎ、自由気ままに暮らしていた。だが、そんな彼はひょんなことから、旅をしている聖女と呼ばれる世界的要人である少女の命を助けることになる。 彼女の目的地は祖国のランドール王国であり、またその命を狙ったのもランドールの手の者であることを悟ったショウ。 いつの間にか彼は聖女の護衛をさせられることになり、それについて思うこともあったが、祖国の現状について気になることもあり、再び祖国ランドールの地に足を踏み入れることを決意した。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

処理中です...