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第九十七話 ティータイム
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「あらサンテ、相変わらずのおそようね」
「ソーカ様、あたしもお茶していいですか~?」
「ええ、構わないわ。アオス、あなたもいいわよね?」
「はい。さっきの方……ですよね?」
「ん? あなた、サンテのことを知っているの?」
オリビアが俺の代わりに、少し前に会ったことを告げた。
「そうだったの。けれど自己紹介はしていないようね。サンテ、食べる前に名乗っておきなさい」
「はぁい。えっとね~、あたしはサンテ・トーネイドだよぉ。よろしく~」
「アオス・フェアリードです。こちらこそ」
「アオス……アオス……じゃあアオちゃんでいい?」
「アオちゃん……?」
「よーし、けってーい! 君は今日からアオちゃんねー。文句は受け付けませーん」
俺がサンテの態度に呆気に取られていると、オリビアが溜息交じりに言ってくる。
「悪いなアオスくん、サンテがああ言ったら誰も止められないのだ」
「はあ……何だか酷く個性的な人なんですね。今も両手に饅頭を掴んで食べてるし……」
しかも餡子が口周りについている。女性的にそれで良いのだろうか。
俺よりも少し歳上に見えるが、その仕草はまるで子供だ。
「こらサンテ、はしたない! もう少し品良く食べられないのか!」
オリビアは面倒見が良いのか、なんだかんだ言ってもハンカチで彼女の口周りを拭いてやっている。
「んむむ……っぷはぁ、ありがとねー、オリビアちゃん」
「ふふふ、さすがはオリビアね。素晴らしい妹力だわ」
「……? 妹? ……あ、そういやトーネイドって確か……」
俺はハッとなってオリビアのことを見ると、彼女は肩を竦めながら「ああそうだ」と口にし、そのまま苦笑交じりに続ける。
「これでも私は双子でね。こっちは実の姉だ。……見た目は似てないかもしれないが」
確かに見た目はあまり似ていない。どこかサバサバとして男っぽい身形をしているオリビアと比べて、サンテは天然系おっとり女性に見える。
髪色もサンテは淡いクリーム色をしていて、オリビアとは異なっていた。
「私は父似、姉は母似でな」
「でもどちらかというとオリビアさんの方が姉に見えますね」
「あーそれよく言われるぅ。けどざんねーん! あたしの方がお姉さんなのです! えっへん! ってあわわわ!?」
「ね、姉さん!」
胸を張り過ぎて椅子から転げ落ちそうなところを、寸でのところでオリビアが支えた。
「ふわぁ……危なかったよー。ありがとねー、オリビアちゃん」
「はぁ、気を付けてくれ姉さん。そんなことで怪我したなんて、他のギルドメンバーに示しがつかん」
うん、やっぱりどう見ても姉妹が逆のように見える。
「そういえばー、何でアオちゃんがここにいるのー? オリビアちゃんが連れてきたのは分かるけどー」
「サンテ、前にオリビアが話していたでしょう? 将来有望な冒険者候補を見つけたと」
「えっとー……そうでしたっけー?」
「まったく、この子は。このアオス・フェアリードは、冒険者学校で特待生を背負っているわ」
「わぁ、それじゃーソーカ様とおんなじなんですねー」
俺は「え?」と反射的にソーカを見た。だが説明したのはまたもやオリビアである。
「そうさ。ソーカ様は、君と同じく冒険者学校を特待生として入学し、そのまま首席でご卒業されたのだ」
そういえば思い出したことがある。
それは入学試験当日。校長が直に試験に現れ、そのまま合格を言い渡された。そして一緒に制服を作るための身体測定をする場所へ行った時のことだ。
確かそこでソーカという人物の話題になった。とはいっても一言や二言くらいだったので、今まで忘れてしまっていたが。
「懐かしいわね。特に入学試験は心が躍ったわ」
心が躍った?
「あのねー、ソーカ様はー、入学試験の時にたった一人だけ試験官と戦って勝っちゃったのよー。しかもそれを見ていた校長せんせーに、その場で特待生って認められてー。凄いよねー」
「しかし姉さん、アオスくんも同じような感じで選出されたのだぞ」
「わお、アオちゃんも凄い人なんだねー」
「いえ、俺は試験官を倒したわけじゃありませんから。ですよね、オリビアさん?」
「う、うむ。確かにそうだが、試験の内容からするとあれは間違いなくオブラ殿の敗北だと思うがな」
「ふふふ、あの生意気なところだけが取り柄のオブラに一泡吹かせたと聞いた時は笑ったわよ」
怖い表情で含み笑いをし続けるソーカを見て、俺はそっとオリビアに聞いてみる。
「あの、もしかしてオブラさんとソーカさんは仲が悪いんですか?」
「同期なのだよ。まあ二人はああいう性格だろう? よくぶつかり合っていたのさ。まあその都度、ソーカ様が買ってはいたがな」
あのオブラと勝負をして一度も屈したことがないという。
俺はオブラと戦ったことがあるから分かる。あの人はとんでもなく強い。しかもあの《白炎》の能力は強力無比。まともに戦っては俺も攻略するのは難しい。
そんな相手をものともしないほどの実力者。それが――ソーカ。
「あら、そんなに熱い視線を向けてきて。もしかして私に心を奪われたのかしら?」
「え? あ、いえ、ただギルドマスターという存在はやはり別格なんだなと思いまして」
「そうね……中にはお飾りだけの凡愚もいるけれど、勇名を馳せているギルドのトップは、皆卓越した才能を有している者たちばかりよ。そしてあなたにもそんなギルドマスターになれるほどの才がある。そうでしょう、『龍殺し』さん」
「……あいにくギルドマスターになるつもりはないので」
「へぇ、それはこちらとしては都合が良いわね」
「え?」
「あなたをこうして直に見て、私は決めたことがあるの。聞きたい?」
聞きたくない。何だか嫌な予感がするから。だがここで断れば角が立ちそうだ。
「……何でしょう?」
「アオス・フェアリード――――私のモノになりなさい」
「ソーカ様、あたしもお茶していいですか~?」
「ええ、構わないわ。アオス、あなたもいいわよね?」
「はい。さっきの方……ですよね?」
「ん? あなた、サンテのことを知っているの?」
オリビアが俺の代わりに、少し前に会ったことを告げた。
「そうだったの。けれど自己紹介はしていないようね。サンテ、食べる前に名乗っておきなさい」
「はぁい。えっとね~、あたしはサンテ・トーネイドだよぉ。よろしく~」
「アオス・フェアリードです。こちらこそ」
「アオス……アオス……じゃあアオちゃんでいい?」
「アオちゃん……?」
「よーし、けってーい! 君は今日からアオちゃんねー。文句は受け付けませーん」
俺がサンテの態度に呆気に取られていると、オリビアが溜息交じりに言ってくる。
「悪いなアオスくん、サンテがああ言ったら誰も止められないのだ」
「はあ……何だか酷く個性的な人なんですね。今も両手に饅頭を掴んで食べてるし……」
しかも餡子が口周りについている。女性的にそれで良いのだろうか。
俺よりも少し歳上に見えるが、その仕草はまるで子供だ。
「こらサンテ、はしたない! もう少し品良く食べられないのか!」
オリビアは面倒見が良いのか、なんだかんだ言ってもハンカチで彼女の口周りを拭いてやっている。
「んむむ……っぷはぁ、ありがとねー、オリビアちゃん」
「ふふふ、さすがはオリビアね。素晴らしい妹力だわ」
「……? 妹? ……あ、そういやトーネイドって確か……」
俺はハッとなってオリビアのことを見ると、彼女は肩を竦めながら「ああそうだ」と口にし、そのまま苦笑交じりに続ける。
「これでも私は双子でね。こっちは実の姉だ。……見た目は似てないかもしれないが」
確かに見た目はあまり似ていない。どこかサバサバとして男っぽい身形をしているオリビアと比べて、サンテは天然系おっとり女性に見える。
髪色もサンテは淡いクリーム色をしていて、オリビアとは異なっていた。
「私は父似、姉は母似でな」
「でもどちらかというとオリビアさんの方が姉に見えますね」
「あーそれよく言われるぅ。けどざんねーん! あたしの方がお姉さんなのです! えっへん! ってあわわわ!?」
「ね、姉さん!」
胸を張り過ぎて椅子から転げ落ちそうなところを、寸でのところでオリビアが支えた。
「ふわぁ……危なかったよー。ありがとねー、オリビアちゃん」
「はぁ、気を付けてくれ姉さん。そんなことで怪我したなんて、他のギルドメンバーに示しがつかん」
うん、やっぱりどう見ても姉妹が逆のように見える。
「そういえばー、何でアオちゃんがここにいるのー? オリビアちゃんが連れてきたのは分かるけどー」
「サンテ、前にオリビアが話していたでしょう? 将来有望な冒険者候補を見つけたと」
「えっとー……そうでしたっけー?」
「まったく、この子は。このアオス・フェアリードは、冒険者学校で特待生を背負っているわ」
「わぁ、それじゃーソーカ様とおんなじなんですねー」
俺は「え?」と反射的にソーカを見た。だが説明したのはまたもやオリビアである。
「そうさ。ソーカ様は、君と同じく冒険者学校を特待生として入学し、そのまま首席でご卒業されたのだ」
そういえば思い出したことがある。
それは入学試験当日。校長が直に試験に現れ、そのまま合格を言い渡された。そして一緒に制服を作るための身体測定をする場所へ行った時のことだ。
確かそこでソーカという人物の話題になった。とはいっても一言や二言くらいだったので、今まで忘れてしまっていたが。
「懐かしいわね。特に入学試験は心が躍ったわ」
心が躍った?
「あのねー、ソーカ様はー、入学試験の時にたった一人だけ試験官と戦って勝っちゃったのよー。しかもそれを見ていた校長せんせーに、その場で特待生って認められてー。凄いよねー」
「しかし姉さん、アオスくんも同じような感じで選出されたのだぞ」
「わお、アオちゃんも凄い人なんだねー」
「いえ、俺は試験官を倒したわけじゃありませんから。ですよね、オリビアさん?」
「う、うむ。確かにそうだが、試験の内容からするとあれは間違いなくオブラ殿の敗北だと思うがな」
「ふふふ、あの生意気なところだけが取り柄のオブラに一泡吹かせたと聞いた時は笑ったわよ」
怖い表情で含み笑いをし続けるソーカを見て、俺はそっとオリビアに聞いてみる。
「あの、もしかしてオブラさんとソーカさんは仲が悪いんですか?」
「同期なのだよ。まあ二人はああいう性格だろう? よくぶつかり合っていたのさ。まあその都度、ソーカ様が買ってはいたがな」
あのオブラと勝負をして一度も屈したことがないという。
俺はオブラと戦ったことがあるから分かる。あの人はとんでもなく強い。しかもあの《白炎》の能力は強力無比。まともに戦っては俺も攻略するのは難しい。
そんな相手をものともしないほどの実力者。それが――ソーカ。
「あら、そんなに熱い視線を向けてきて。もしかして私に心を奪われたのかしら?」
「え? あ、いえ、ただギルドマスターという存在はやはり別格なんだなと思いまして」
「そうね……中にはお飾りだけの凡愚もいるけれど、勇名を馳せているギルドのトップは、皆卓越した才能を有している者たちばかりよ。そしてあなたにもそんなギルドマスターになれるほどの才がある。そうでしょう、『龍殺し』さん」
「……あいにくギルドマスターになるつもりはないので」
「へぇ、それはこちらとしては都合が良いわね」
「え?」
「あなたをこうして直に見て、私は決めたことがあるの。聞きたい?」
聞きたくない。何だか嫌な予感がするから。だがここで断れば角が立ちそうだ。
「……何でしょう?」
「アオス・フェアリード――――私のモノになりなさい」
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