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第九十五話 ギルドホーム
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「そうでした。すみません。試験の時はお世話になりました」
俺の入学試験で試験官を務めていたオリビアである。先のドラゴン退治の時にも会っていた。
しかし……。
「どうかしたか? そんなにジロジロ見て」
「いえ、何だか雰囲気が違うので」
会っていた時は、いつも冒険者っぽい、少し物々しい恰好をだったが、今日はTシャツとパンツルックで、とてもラフさを感じさせた。
「ああ、この恰好かい? 今日は休日でね。休みの日は、大概こういう動きやすい恰好をしているんだ」
「そうだったんですね。こちらにはよく?」
「うむ。この和菓子店はお気に入りでね。よく利用させてもらっているよ」
「和菓子……」
「もしかして食べたことがないのかい?」
「はい。目についたので入ってみようと思って。ちょうど甘いもの好きの知り合いに、何をプレゼントするか考えていて」
「なるほど。ならちょうど良かった。実は昨日新商品が出たんだよ。試しに買ってみたらどうかな?」
「新商品、ですか?」
「うむ、これだ」
オリビアが指を差した先にはガラスケースに入った商品があって、なるほど、確かに傍には〝新商品〟と書かれた札が設置されていた。
「昨日私も買ってな。美味しかったから、さっそくリピーターになっているというわけだ」
なるほど。連日で買いにくるほどのものなら間違いないだろう。
俺は店員を呼ぶと、ありがたいことに試食を進められたので、とりあえず食べてみることにした。
それは三色団子になっていて、串に刺さっている。
さらに三つともそれぞれ味が異なっていて飽きさせない工夫がされていた。
一つ目は苺風味で苺の甘みと酸味がほどよく、二つ目は抹茶の香りが少し大人の舌をも唸らせる。最後には餡子が入った白団子で締める。
「うん、これは美味いな」
思わず言葉を発してしまうほどの美味。こんな菓子は今まで食べたことがなかった。
このモチモチとした食感もいいし、何より味変というのが面白い。この串一本で、いろんな楽しみを感じさせてくれるとは素晴らしい。
「どうやら気に入ってくれたようだな」
「はい。教えてくれてありがとうございます。是非これを購入したいと思います」
俺は少し多めに購入し、今日の夜はオルルと一緒に団子パーティでもしようと思った。きっと彼女や妖精さんたちも喜んでくれるはずだ。
購入した商品を持って外に出ると、改めてオリビアには礼を言った。
「いや、和菓子好きが増えるのは私としても喜ばしいことだ。……そうだ、このあと少し時間はあるか?」
「はあ、今日は一日中予定はないので問題ありませんが」
「なら良かったらだが、一緒にお茶でもしないか?」
「お茶……ですか」
「ああ。それに君にも紹介したい人がいてな」
「…………」
「どうだろうか? まあ、無理にとは言わないが」
オリビアには、こんな美味いものを教えてくれたお返しがしたい。ここは一つ、彼女について行くのも一興だろう。
「分かりました。ではお世話になろうと思います」
「おお、そうか! ではついてきてくれ」
どこか弾んだ声を出した彼女は、上機嫌な足取りで俺を先導していく。
目的地はそれほど遠くなく、十分程度歩いたら到着した。
「……ここが?」
今、俺の目の前には一件の建物がある。レンガ造りで結構な規模だ。まるで何かの店のような佇まいだが果たして……。
オリビアが「さあ、入ってくれ」と扉を開けてくれた。
そのまま中へ入ると、屋敷のような広さに思わず言葉を失う。もしかしてここに住んでいるのだろうか。だとしたらやはり冒険者というのは稼げる職業だということが分かる。
突き当たりには二階へ通じる階段があって、するとそこから一人の女性が降りてきた。
「ふわぁ~、よぉく寝たぁ」
大きな欠伸をしながらの登場だ。というよりも、俺はあまり直視できなかった。
何故ならその女性は、上はダルダルのシャツで、下には下着一枚しか身に着けていなかったからである。
「こらっ、サンテッ! 何て恰好をしている!」
「ふぇ? おぉ、オリビアじゃ~ん、おっは~」
「今何時だと思っている! また昨日も夜更かししたのだろ!」
「だってぇ、昨日は良いアイデアが思いついてさぁ。捗っちゃって捗っちゃってぇ……って、あれぇ? 誰それぇ? ……もしかしてオリビアの彼氏?」
「か、かかかか彼氏なわけがないだろう! 彼は私が誘った客だ! いいからお前はさっさと身嗜みを整えて来い!」
「えぇ、分かったよぉ。じゃあお客さんもまたねぇ」
一切恥ずかしがりもせずに、その女性はフラフラとどこぞへ消えていった。
「はぁ……すまんな、アオスくん。同僚が失礼をした」
「いえ……同僚?」
「ああ、言ってなかったな。ここは私が所属するギルド――『無限の才覚』のギルドホームなのだよ」
ギルドホーム――それはギルドが有する拠点である。会議や仕事の斡旋などはそこで行われるらしい。またメンバーの中にはそこに住む者もいるようだ。
「じゃあ会わせたい人というのは、今の……?」
「あーいや、アイツではない。こちらに来てくれ」
階段を上がっていき、長い廊下を進んでいくと、その突き当たりには扉があった。
「少しここで待っていてくれ」
オリビアが扉をノックして、「入るぞ」と言って中へ入っていった。
そしてしばらくすると、また扉が開き、顔を覗かせたオリビアが、俺に中に入るように促してきたので、「失礼します」と口にしてから足を踏み入れた。
するとそこには、不敵な笑みを浮かべた女性が待ち構えていたのである。
俺の入学試験で試験官を務めていたオリビアである。先のドラゴン退治の時にも会っていた。
しかし……。
「どうかしたか? そんなにジロジロ見て」
「いえ、何だか雰囲気が違うので」
会っていた時は、いつも冒険者っぽい、少し物々しい恰好をだったが、今日はTシャツとパンツルックで、とてもラフさを感じさせた。
「ああ、この恰好かい? 今日は休日でね。休みの日は、大概こういう動きやすい恰好をしているんだ」
「そうだったんですね。こちらにはよく?」
「うむ。この和菓子店はお気に入りでね。よく利用させてもらっているよ」
「和菓子……」
「もしかして食べたことがないのかい?」
「はい。目についたので入ってみようと思って。ちょうど甘いもの好きの知り合いに、何をプレゼントするか考えていて」
「なるほど。ならちょうど良かった。実は昨日新商品が出たんだよ。試しに買ってみたらどうかな?」
「新商品、ですか?」
「うむ、これだ」
オリビアが指を差した先にはガラスケースに入った商品があって、なるほど、確かに傍には〝新商品〟と書かれた札が設置されていた。
「昨日私も買ってな。美味しかったから、さっそくリピーターになっているというわけだ」
なるほど。連日で買いにくるほどのものなら間違いないだろう。
俺は店員を呼ぶと、ありがたいことに試食を進められたので、とりあえず食べてみることにした。
それは三色団子になっていて、串に刺さっている。
さらに三つともそれぞれ味が異なっていて飽きさせない工夫がされていた。
一つ目は苺風味で苺の甘みと酸味がほどよく、二つ目は抹茶の香りが少し大人の舌をも唸らせる。最後には餡子が入った白団子で締める。
「うん、これは美味いな」
思わず言葉を発してしまうほどの美味。こんな菓子は今まで食べたことがなかった。
このモチモチとした食感もいいし、何より味変というのが面白い。この串一本で、いろんな楽しみを感じさせてくれるとは素晴らしい。
「どうやら気に入ってくれたようだな」
「はい。教えてくれてありがとうございます。是非これを購入したいと思います」
俺は少し多めに購入し、今日の夜はオルルと一緒に団子パーティでもしようと思った。きっと彼女や妖精さんたちも喜んでくれるはずだ。
購入した商品を持って外に出ると、改めてオリビアには礼を言った。
「いや、和菓子好きが増えるのは私としても喜ばしいことだ。……そうだ、このあと少し時間はあるか?」
「はあ、今日は一日中予定はないので問題ありませんが」
「なら良かったらだが、一緒にお茶でもしないか?」
「お茶……ですか」
「ああ。それに君にも紹介したい人がいてな」
「…………」
「どうだろうか? まあ、無理にとは言わないが」
オリビアには、こんな美味いものを教えてくれたお返しがしたい。ここは一つ、彼女について行くのも一興だろう。
「分かりました。ではお世話になろうと思います」
「おお、そうか! ではついてきてくれ」
どこか弾んだ声を出した彼女は、上機嫌な足取りで俺を先導していく。
目的地はそれほど遠くなく、十分程度歩いたら到着した。
「……ここが?」
今、俺の目の前には一件の建物がある。レンガ造りで結構な規模だ。まるで何かの店のような佇まいだが果たして……。
オリビアが「さあ、入ってくれ」と扉を開けてくれた。
そのまま中へ入ると、屋敷のような広さに思わず言葉を失う。もしかしてここに住んでいるのだろうか。だとしたらやはり冒険者というのは稼げる職業だということが分かる。
突き当たりには二階へ通じる階段があって、するとそこから一人の女性が降りてきた。
「ふわぁ~、よぉく寝たぁ」
大きな欠伸をしながらの登場だ。というよりも、俺はあまり直視できなかった。
何故ならその女性は、上はダルダルのシャツで、下には下着一枚しか身に着けていなかったからである。
「こらっ、サンテッ! 何て恰好をしている!」
「ふぇ? おぉ、オリビアじゃ~ん、おっは~」
「今何時だと思っている! また昨日も夜更かししたのだろ!」
「だってぇ、昨日は良いアイデアが思いついてさぁ。捗っちゃって捗っちゃってぇ……って、あれぇ? 誰それぇ? ……もしかしてオリビアの彼氏?」
「か、かかかか彼氏なわけがないだろう! 彼は私が誘った客だ! いいからお前はさっさと身嗜みを整えて来い!」
「えぇ、分かったよぉ。じゃあお客さんもまたねぇ」
一切恥ずかしがりもせずに、その女性はフラフラとどこぞへ消えていった。
「はぁ……すまんな、アオスくん。同僚が失礼をした」
「いえ……同僚?」
「ああ、言ってなかったな。ここは私が所属するギルド――『無限の才覚』のギルドホームなのだよ」
ギルドホーム――それはギルドが有する拠点である。会議や仕事の斡旋などはそこで行われるらしい。またメンバーの中にはそこに住む者もいるようだ。
「じゃあ会わせたい人というのは、今の……?」
「あーいや、アイツではない。こちらに来てくれ」
階段を上がっていき、長い廊下を進んでいくと、その突き当たりには扉があった。
「少しここで待っていてくれ」
オリビアが扉をノックして、「入るぞ」と言って中へ入っていった。
そしてしばらくすると、また扉が開き、顔を覗かせたオリビアが、俺に中に入るように促してきたので、「失礼します」と口にしてから足を踏み入れた。
するとそこには、不敵な笑みを浮かべた女性が待ち構えていたのである。
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