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第四十二話 クラス代表戦

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「……アリア先生、あなたの苦悩はあなた自身のものだ。そしてその経験があるから、トトリが持つ才が眩しく見える。でもトトリには、どうしてあなたがそこまで冒険者にこだわるのか分からない。……大切に思ってるなら、そのことをちゃんと告げた方が良いと思いますよ?」
「……あなたは……」
「すれ違いで済んでいるうちにはまだマシです。話し合って修復できるでしょうしね。家族の絆でも壊れることはあります。そうなりたくないなら向き合うべきです」
「……あなたと話していると、とても年下とは思えないですね。まるで人生経験が豊富なご年配の方と話している気分になります」

 失礼な、とも言いたいが、実際に老人も経験しているので決して間違いはない。精神的には、同年代より確実に熟成していると言えよう。

 ただ精神が肉体に引っ張られているのか、老人だった時のような老成っぷりは何となく薄くなってきているように思える。

「そろそろ時間も時間ですし、集中させてもらってもいいですか?」
「……分かりました。どうもあなたには私の言葉は必要ないようですしね」
「そんなことはありませんよ。誰かと離せたお蔭で、少し緊張が解けましたし」
「とてもそのようには見えませんでしたが。まあいいでしょう。あとは黙って結果を楽しみに待つとします」

 そうしてアリア先生が踵を返して部屋から出て行こうとするが、ふと立ち止まって、俺に背を向けたまま口を開く。

「……あなたの言葉、とても参考になりました。ありがとうございます」

 そう言うと、彼女は今度こそ立ち止まらずに去った。
 俺は彼女を見送ったあと、軽く溜息を吐く。

「かぞくにもいろいろあるんですね」
「おたがいをおもっているからこそのすれちがい……なんだかレンアイみたいですねぇ」
「いいたいことはガマンなんてしないでいいあう! わたしなんてかくしごとはまったくないぞー! だからアオス、あまいものをしょもうする! いっぱい!」

 確かに世の中には様々な家族の形がある。俺のような歪な繋がりだったものもあれば、トトリたちのようなすれ違い、いつも円満で楽しい形などたくさんあるだろう。

 ただ恋愛とはまったく別物だと俺は思うけどな。それと、たまには我慢することも大切だぞ。

 俺はそう思いながら、ポケットからキャラメルを取り出して、妖精さんたちに渡してやると、みんなが嬉しそうに食いつき始めた。
 そんな妖精さんたちを微笑ましく思いつつ、静かに目を閉じて瞑想を行う。

 今日の相手はカイラだ。俺の双子の弟。ジェーダン家始まって以来の天才児である。
 前の人生から今まで、直接戦って勝利をしたことは一度もない。

 武も智も、何もかもカイラに上を行かれていた。

 『導師』として、毎日毎日必死になって鍛錬してきて、自分が強くなったという自負はある。
 しかしそれでも、過去のトラウマもあって、やはりカイラには苦手意識があるのも事実だ。

 もしかしたら負けてしまうかもしれないという不安は拭えないのだ。
 特待生を取ったし、負けるわけがないと思っていても、一度刻みつけられた劣等感は、そうそう消えてくれやしないらしい。

 するとその時、不意に両頬に温もりを感じた。
 見れば妖精さんたちが俺の頬に触れていたのだ。

「だいじょうぶなのです! アオスさんはだれにもまけないのですよ!」
「わたしたちは、アオスさんがいままでどれだけがんばってきたのかをしっています。カイラさんなんてめじゃありません」
「そうだ! アオスはつよい! あんなヤツ、けっちょんけっちょんにしてやれ!」

 …………はは。そうだな。前の俺とは違う。俺にはもう戦う力がちゃんとあるんだ。

「……ありがと、妖精さんたち。元気が出たよ。俺は妖精を導く『導師』だ。でも今日ばかりは、俺自身を勝利に導く『導師』として戦う。だから……見ててくれ」

 妖精さんたちが一斉に笑顔で返事をしてくれた。
 そしてそのタイミングで、〝代表戦〟が始まる時間帯がやってきた。

「さて、行くか」

 俺は会場に向かって、躊躇いなく歩き始めた。

 そして会場の中央まで来ると、すでにそこには審判役の教師と、俺の相手であるカイラが立っていた。

「やぁ、フェアリードくん、結局棄権はしなかったんだね?」
「する必要性がないからな」
「っ……言うようになったじゃないか。『無価値』のくせに」

 俺は観客席を見回すと、俺のクラスメイトたちも興味津々にこちらを見つめていた。
 その中には、当然シン助や九々夜たちもいる。

「よっしゃー、きばってけよアオスーッ!」
「が、頑張ってくださーいっ!」

 二人のエールが耳に届く。彼らの声はよく通る。

「フフ、君のクラスメイトたちもガッカリするだろうね。いや、クラスメイトだけじゃない。この会場に集まった全員が呆れ返ることだろう。何の見応えもないこの模擬試合にね」
「相変わらず自信しかない奴だな。そういう慢心は、身を亡ぼすぞ?」
「ハハハ、この僕が身を亡ぼす? 将来を約束されたこの僕が? どうやらユニークな冗談を言うスキルは上がったようだね」

 本当に僅かほども自分が敗北するなど考えていないようだ。それは言い変えればポジティブ精神で良い面に反映することもあるが、コイツの場合はただの過信でしかない。

 何故ならカイラは敗北や挫折を経験していないからだ。

 自信を強さに変えられる人物は、壁にぶつかった経験のある者だけである。
 自分の弱さを知るからこそ、人は努力を自信に、自信を強さに変えることができるのだ。

「僕は見苦しい模擬試合を長引かせるつもりなどないからね。前にも言ったけど、すぐに終わらせてもらうよ。ただできれば、十秒くらい持たせてくれ」

 そこへ、開始時刻が迫り、教師が〝代表戦〟の説明に入った。

「説明は事前に受けていると思うが、今一度確認しておくぞ。〝クラス代表戦〟は一対一。降参するか、戦闘不能になった時点で決着だ。制限時間は三十分。いいな?」
「「はい」」
「よし、なら指定位置に着け」

 会場の中央には、一定の距離に対面する形で白線が二本引いてある。それぞれ俺とカイラが白線のところまで向かい対峙した。

 もう始まるというのに、手にしている槍を構えるでもなく、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべているカイラ。
 俺は軽く手と足、そして首を回し準備を整える。

 そしてスッと、教師が右手を高々と上げた。これが振り下ろされた瞬間に開始となる。
 全員が開始の合図を待っていて静寂が場を支配していた。

 妖精さんたちも、上空で俺を静かに見守っている。

「〝クラス代表戦〟――」

 教師の言葉が静かに発せられ、

「――始めっ!」

 開始の宣言が響いた。


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