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第三十二話 翌日の掲示板では

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「――なるほど。それはまた大変なお役目を背負わされたみたいですね」

 寮の自室から【ユエの森】へ転移した俺は、今日体験したことをオルルに伝えていた。

 初授業に関しては別に問題はなかったが、そのあとの〝代表戦〟と〝攻略戦〟に出ることになったのは、確かに面倒なことではある。

「ですがそれはアオス様が周りに認められた証拠でもありますし、わたしとしては嬉しいですよ? それに妖精たちも」

 オルルが現在周囲にいる大勢の妖精たちに「そうですよね?」と尋ねると、全員が賛同して声を上げ始めた。

「わたしや妖精たちは皆、アオス様がどのような仕打ちをされてきたかを知っています。ですから実際のところ、人間たちしかいない街で生活するということに不安を覚えたのも事実です」
「オルル……」
「ですがお話を聞くに、屋敷にいたような劣悪な環境ではないことを知りホッとしております。それもすべてはアオス様がご自身の手で掴み取ったものです。誇っても良いかと思いますよ」
「そうは言われてもな。俺は別に人間に認められたいって思ってるわけじゃないしな。あくまでも冒険者の資格を得るために学校に通ってるだけだし」
「それでもです。周りがアオス様を認め始めているのは、アオス様のお力に他なりません。わたしたちはいつもアオス様のお傍におります。ですから自由に思う存分人生を楽しんでください」
「ありがとな、オルル。妖精さんたちも」

 俺が素直に礼を言うと、妖精さんたちが照れ臭そうに笑う。

 そうだ。俺が誰にも認められるような冒険者になれば、もしかしたらオルルたちはもっと喜んでくれるかもしれない。

 だったら何が何でも冒険者になる必要がある。
 そしてこれまでオルルと一緒に鍛え上げてきた力で成り上がるのだ。

 誰にも負けるつもりはない。それでオルルたちが笑顔になってくれるなら、『導師』として、その誇りを胸に最強であろう。

 俺は〝代表戦〟も〝攻略戦〟も、必ず勝ってオルルたちを喜ばせようと思った。





 ――翌日。

 学校の掲示板には、早くも〝クラス代表戦〟と〝ダンジョン攻略戦〟に参加する、それぞれのメンバーが書かれた紙が貼り出されていた。
 多くの生徒たちが興味津々といった感じで集まっている。

 登校した俺も、途中で会ったシン助と一緒に掲示板を確認しようとした……が、そこへ――。

「――まさかここまで身の程を知らないとはね」

 声を聞くだけで分かる。思わずうんざりしてしまう。
 振り返ると、そこにはやはりと言おうか、カイラとその取り巻きらしき者たちがいた。

「やあ、フェアリードくん。君はそんなに恥をかきたいのかい?」
相変わらず嫌みたっぷりな態度である。取り巻きもニヤニヤとしながら俺を見つめている。
「恥? 何のことだ?」
「ハハ、まだ分からないのかい? それとも現実逃避かな? 見たまえ、貼り出されている紙を」

 カイラが掲示板を指差し、俺は再度掲示板に注目する。
 

〝【クラス代表戦】 Aクラス:アオス・フェアリード  Bクラス:カイラ・ゼノ・アーノフォルド・ジェーダン〟


 なるほど。予想はしていたが、やはりこういう流れになったか。

 俺は特待生、つまり首席でカイラは次席だ。順当に考えれば、この二人で対戦するのは明らかである。だから俺は別に驚きはしない。 

 ただカイラは、いまだに俺が特待生だと気づいていないようなので、この選出がバカげた行為とでも思っているのだろう。

「恐らく君は僕の力を図るための捨て駒にされたんだろう?」
「捨て駒?」
「てっきりそっちの首席が出てくると思ったけど、どうやら主席もまともに僕とやり合う気概はないらしい。入試では僕の上を行ったようだが、実戦での腕はまた別物だしね。僕の実績を聞いて恐怖し、〝代表戦〟は僕の実力を図るだけの捨て戦なんだろう?」

 ……コイツ、こんなバカだったっけか?

 よくもまあ、そんなに自分の都合の良い解釈ができるものだと逆に感心してしまう。

 幼い頃から何不自由なく生き、才能に溢れ周りからチヤホヤされてきた。劣等感も挫折も味わったことがない奴は、こんなにも自分を中心に考えを構築できるものらしい。

「……ジェーダン、お前は主席が誰か知らないのか?」
「知る必要があるかい? 入試は入試さ。どうせこの学校ですぐに分かるんだ。どっちが本当に選ばれた人種なのかがね」

 ああ、コイツはもうダメだ。選民思想の塊でしかない。やはりあの父や兄にしてこの弟ありって感じである。

 確かにカイラが天才なのは認める。実際に幼い頃から同年代の子らと比べても、明かに優秀だった。

 あの自尊心の害虫みたいな兄――グレンでさえ、素直にカイラには敵わないと口にするほどだ。嫉妬さえしない。それほど別格過ぎると評価していた。

 そして父であるジラスもまた、カイラにはグレン以上の期待を寄せ、金をかけあらゆる英才教育を施していたのである。

 まだ十歳にもかかわらず、ジラスと一緒に帝国の騎士団の鍛錬に参加させ、顔と名前を売っていた。
 恐らく何事もなく、順調に育っていけば帝国を代表するような人物に成り得るだろう。

 しかしこの性格だ。

 力を持っている者が溺れる利己的で狂信にも似たナルシスト。
 自分だけが清く、正しく、気高く、強い存在である。

 カイラの思想は、もう取り返しのつかないところまできているのだと、俺は判断した。

「精々僕の力を引き出すことだね。そうすれば、次の〝ダンジョン攻略戦〟じゃ、少しはまともな競争ができるかもしれないよ。まあ……十秒くらいで終わると思うけれど」

 そう言いながら踵を返して去って行く。
 取り巻きだけじゃなく、彼のクラスメイトの女子らしき者たちも、黄色い声を上げて彼についていった。

 見た目も実力もあるし、今のうちにお近づきになっておきたいっていう連中ばかりなのだろう。特に女子は優良物件として手に入れようとしているらしい。
 カイラは女に対しても積極的だったから、昔からモテていたが。

「んだアイツ、自信があるのはいいけどよぉ、主席のアオスのこと知らねえってバカなんじゃねえの?」

 おい、バカ代表みたいなシン助に言われてるぞカイラ。

 それが面白くて、思わずクスリと笑ってしまう。

「あ? 何笑ってんだアオス? つか、お前も言いたい放題言われてんじゃねえよ。クラスの代表なんだし、ガッツリ言い返しゃ良かったのによ!」
「どうでもいいって」
「は? 何でだよ?」
「それに……アイツがあんな顔をしてられるのは多分今のうちだけだろうしな」
「へ?」
「ほら、さっさと教室へ行くぞ」
「あ、おい! ちょっと待てよアオス!」

 俺はカイラのせいで集まった野次馬の注目を浴びながらも、まったく気にしないで教室へと向かっていった。

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