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第十六話 タイプ

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「……ふぅ。ここまで結構長かったなぁ」

 それは船旅のことではない。
 俺はベッドの上に寝そべり、これまでの六年間を振り返っていた。

 ようやく夢を叶えるための一歩を踏み出すことができたのだ。
 その最初の関門である出来る限り穏便な追放処分を受けるということはクリアし、今度は第二関門。

 当然冒険者学校への入学だ。しかも特待生を勝ち取らないといけない。

 二年制のカリキュラムで、僅か五十名しか入試は通らない非常にシビアな学び舎である。

 ただ優秀な成績を修めれば、在学中でも現行の冒険者の目に留まり、ともに仕事をこなしたりもするのだ。まあ、珍しいことではあるが。

「アオスさんアオスさん、もうすぐたんじょうびですけど、おいわいしましょうねー」
「プレゼントをかんがえておかないといけないですねぇ」
「よし! ならばわたしはひざまくらをしてやろう! じゅうびょうだけな!」

 前の二人は思わずほっこりするが、最後の妖精さん……どうやって膝枕するのかな? しかも十秒って短くない?

 俺の頭よりも小さいのに、そんなことをしたら妖精さんがプチッといくかもしれない。

「あはは、そんじゃ楽しみにしてよっかな」

 そして二日後、妖精さんたちから綺麗な石や栞、そして焼いたら美味いらしい虫をもらった。

 プレゼントはどれもありがたく受け取り、もちろん虫もちゃんとジックリ焼いたのちに食べた。タンパクでクリーミーな味だったとだけ言っておこう。

 その日に願書をもらいに冒険者学校へと向かい、そこで必要事項を記入したあとに、身分証明書と一緒に提出した。オルルの言った通り、身分証明書が必要だったので助かった。

 問題なく願書は受理されたが、街中を歩いているとシン助たちがいたので、見つからないように宿へと戻る。見つかると絶対に絡まれるから。

 宿の場所も教えてないので、さすがにわざわざ探しには来ないだろう。常識のある九々夜も傍にいることだし、大丈夫のはずだ……多分。

 だが期待は裏切られ、受験の前日、店で優勝を食べている時に、偶然にも店に入ってきたシン助たちに見つかってしまったのだ。
 そして当然のように相席になった。

「うんめぇ! やっぱ帝都の飯はどれもうめぇよなぁ! もうサイッコー!」
「も、もうお兄ちゃん、ちょっとは大人しく食べてよぉ」

 目の前で大量の料理をガツガツと食べているシン助と、恥ずかしそうに周りを見回しながら必死で兄を嗜めている九々夜。

 この光景も久しぶりだな……。

 できればもう勘弁してもらいたかったが、捕まってしまった以上は仕方ない。

「九々夜、放っておいてお前もさっさと食べたらどうだ?」
「え……ですが……」
「お前が食べ終わらないと、いつまでも店から出て行けないぞ」
「えぅ……そう、ですよね。……食べます」

 二人とも、ここへ来た時と違って和服ではないので、彼らが【日ノ本】出身だからと目立っているわけじゃないが、シン助の騒がしさのせいで皆の視線が集まっている。

 どっちにしろ注目を浴びる存在なんだよなコイツは……。
 まあ船の時とは違って、イチャモンをつけてくるような奴がいないことが幸いか。

 妖精さんたちは、あまりシン助たちに興味ないようで、俺が与えた砂糖菓子を美味そうに齧っている。

 ちなみに妖精さんたちは俺以外の者には見えていないが、彼女たちが手にしている菓子もまた見えていない。どういう原理かは不明だが、彼女たちが触れているものは他人には見えないようになるらしい。

 そうでなければ砂糖菓子が宙に浮いている形になるので、こちらとしては弁明の機会が減って助かっている。

「そういえばアオスよぉ、願書はもう出したんだよな!」
「ん? ああ、出したぞ」
「そっか。俺らもだ。……試験は明日、どうだ調子は?」
「別にいつも通りだな」
「ウッハッハ! そっかそっか! 明日は三人全員合格しような!」

 別に俺的にはシン助たちが受かろうが落ちようがどうでもいい。いや、できればシン助だけが不合格になった方が、平和な学校生活を送れるので助かる。

「おお、もう料理が空になっちまったぜ! また取ってくるわ!」

 そう言って席を立って、店の奥へと向かっていくシン助。

 この店はバイキング方式で、金を払い時間内であれば、幾らでも好きなだけ料理を食べることができる。料理の種類も豊富で、またどれも唸るほどの美味さなので俺も気に入っていた。

「相変わらず騒々しい奴だな」
「すみません……アオスさん」
「いや、お前のせいじゃないだろ。もし一緒に入学したら、あれがついて回ると思うと溜息が出るけどな」
「あはは……」
「そういえば【日ノ本】出身で受験するのってお前たちだけなのか?」

 俺は皿に乗っているローストビーフを口に運びながら何気なく聞いてみた。

「恐らくそうだと思います。少なくとも受験を許可されたのは私たちだけなので」
「じゃあもし受かっても他の連中に注目されるわけだ」
「ま、まあ……【日ノ本】出身じゃなくても、お兄ちゃんがいればどうしても目立っちゃいますけど」
「違いないな。……そういや九々夜は刀を持ってないのか?」

 船で会った時もそうだが、シン助は腰に携えていたし、今もそうだが、彼女は武器を携帯しているように見えなかった。

「あ、はい。その……私は魔法士なので」
「! ……なるほどな」

 魔法士の中には二つのタイプが存在する。

 一つは武器を用いた格闘術をもこなす魔法士。これを――『魔法闘士』という。
 そしてもう一つは魔法のみを駆使する魔法士。これを――『魔道士』という。

 多くは九々夜のような『魔道士』タイプばかりだ。

 そもそも格闘術もこなすとなると、どうしても二足の草鞋になってしまい、中途半端な魔法士になってしまうからだ。

 故に余程格闘術の才がなければ、『魔法闘士』という選択はしない。
 グレンも槍の才はあったが、ジラスほどでもなかったため、どちらかというと『魔道士』タイプである。

 ただカイラは幼い頃からどちらの才も突出しており、当然のように『魔法闘士』としての道を歩んでいた。

「一応護身用に短刀だけは懐に忍ばせていますけど」
「へぇ、じゃあシン助は『魔法闘士』タイプってことなのか?」
「え? あ、いいえ……その、お兄ちゃんは魔法は使えないので」
「そうなのか」

 てっきり双子だからどちらも……と思ったが、そういや俺もそうだったと肩を竦めた。

 実際魔法の才は、遺伝するとも言われている。 
 事実、親や先祖に『魔法士』がいる一族は、『魔法士』が誕生するケースが多い。

 ジェーダン家もまた、母親の血筋がそうだったこともあり、見事隔世遺伝として二人の『魔法士』を授かったのである。

 そう考えれば、ジラスがあの母親と結婚したのも、もしかしたら魔法の才を狙ってのことだったのかもしれない。
 あの男のことだから、この考えが正しい可能性が非常に高い。まあ今となってはどうだっていい話だが。

「つまりアイツは『武闘士』としての冒険者を目指してるってわけか」
「はい。お兄ちゃんは武才に恵まれてましたので」

 あの体格だってその才の一つだろう。まだ成長期は止まってないだろうから、これからもっと大きくなっていくはず。

 体術において、やはり体格は大きく影響する。
 俺が導力を使わずに体術だけでシン助と戦えば、恐らく負けてしまうかもしれない。

 俺も弓術と道術と、二足の草鞋タイプなので、どちらか一つを極めようとしている者には、やはり劣ってしまう部分はあるだろう。
 無論何でもありだったら負けるつもりは毛頭ないが。

「うっひょひょー、大量~大量~!」

 そこへ両手にバカほど料理を盛り付けた皿を持ったシン助が現れ、席に着くなり一心不乱に食べ始めた。

 コイツの食欲は一体どうなっているのか。俺も結構食べる方だが、見ているだけで腹がいっぱいになってくる。
 しかもこのあと、時間いっぱいまでおかわりし続けたのだから、開いた口が塞がらなかった。

 久しぶりに賑やか過ぎる夕食を堪能し、俺たちはそれぞれの宿へと帰って行ったのである。


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