異世界帰りの俺は、スキル『ゲート』で現実世界を楽しむ

十本スイ

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第四十六話 逃げるが勝ち

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 ! ……何で姉さんまで?

「…………はぁぁぁぁ」

 そこへ、姉さんが深い溜息を吐き出し、心底鬱陶しそうに頭をかきながら口を開く。

「悪いんだけどさぁ、私は何度も断ってるの知ってんでしょうが。しつこいんだけど?」

 明らかに不機嫌顔だ。もし相手がナンパ野郎とかだったら、速攻ぶっ倒されているところだ。
 ていうか何度も断ってるって……姉さん、コイツらと初めて会うわけじゃねえのか。

「お二方は必ずや『理事会』において強い味方となります。どうか再考して頂けませんか?」
「くどい。何度来ても嫌だっつってんだろ?」

 ヤバイ。口調が変わってきた。……ここで暴れねえだろうな?
 それだけが心配だ。病院内にいるのに、怪我人を出すなんて伝説になりかねない。

 というか姉さんもスカウトされてたのか? まあ実際に強いから分からないでもないが。

「……ではあなたはどうでしょうか、同本日六様」
「いや、俺さっき断ってますよね?」
「一度本部へ足をお運びください。そして幹部の者と話をすれば、きっと『理事会』の素晴らしさを理解して頂けると確信しております」

 そう言われてもなぁ。正直面倒だし。

「もうすぐ行われる『妖祓い認定試験』にも、『理事会』推薦枠として出て頂くことだって可能です。そうすれば第三次試験からシード選手として参加を――」
「あー待って! 待ってください」
「?」
「いきなり試験やらシード選手やら言われてもピンときませんし、そもそも俺は『妖祓い』になるつもりもありませんよ」
「ハハッ、いいぞよく言った我が弟よ! 聞いたか『理事会』ども! 私たち姉弟は、お前らの下につく気は毛頭ねえんだよ!」

 俺が断ったのがそれほど嬉しかったのか、上機嫌で俺の頭に手を置く姉さん。

「…………『理事会』を敵に回すと?」

 おいおい、何でそうなるんだ? ただ勧誘を断っただけだってのに。

「ちょっと、いい加減しつこいんじゃない」
「秋津ソラネ……あなたは黙っていなさい。ここはあなたのような中途半端な『妖祓い』が口を出していい場ではありません」
「なっ……言ってくれるじゃない! これでもAランク任務をこなしたことだってあるのよ」
「それはこちらにおられる同本日六様の力があってのことでしょう?」
「っ…………」

 それを言われたらさすがに言い返せないのか、ソラネも押し黙ってしまう。

 このままじゃいずれ戦闘に発展しちまいそうだな。

 周りの連中も、いつでも動けるような態勢を整えているし、そうなったら俺たちはともかく七呼にも被害が及んでしまうかもしれない。

 ここは逃げるが勝ち……かな。

「――《マルチゲート》」

 俺は姉さんたちの足場に《ゲート》を開く。
 当然いきなり身体が落下していく現象に、姉さんたちは驚き声を上げたが、そこは勘弁してもらいたい。

「しま――っ!?」

 灯廻静音が俺に向けて手を伸ばすが、すでに俺はその場から姿を消していた。
 到着したのは、俺の家のリビングだ。そこに全員いる。

「ここって……! ヒロの家よね? ああなるほど、アンタの力か」

 ソラネが周囲を見回しながら自分で解答を得る。

「――あっ!」

 突然姉さんが声を上げたので、一体どうしたのか聞いてみた。

「車! 私の車は!?」
「ああ、大丈夫だって。ちゃんと家の前まで移動させといたから」

 俺たちを移動させると同時に、車も同時に対象として発動させていたのだ。

「へぇ、気が利くじゃない。褒めてあげるわ」
「へいへい。あんがとさん。しおんも七呼も怪我はないよな?」
「う、うん、ビックリしたけど大丈夫だよ、ろっくん」
「おもしおかったー! もっかいしてほしー!」

 しおんはともかく、七呼にとってはアトラクションみたいな感じらしい。

「ところでヒロ、アンタ……スカウトを受けてたのね」
「あーまあな。朝早くに来やがった」
「何で断ったの?」
「はあ? いやだってな、『理事会』に興味ねえし、さっきも言ったように『妖祓い』になるつもりもねえからな」
「……でもアタシも前に言ったけど、アンタなら凄腕の『妖祓い』になれるわよ? お金だってガッポリよ?」
「ま、まあ……金については確かに魅力的ではあるけど、俺は平凡な人生を過ごしたいんだって。わざわざ幽霊や妖と戦うような生活は嫌だ。つかそんなことはもう異世界で十分やってきたし」

 毎日毎日モンスターと戦闘し、時には瀕死になったことだってあるのだ。
 それもこれも元の世界に戻るためにという希望があったからだ。

 それが成された今、また戦の世界にどっぷり浸かろうとは思わない。

「今回俺が妖と戦ったのは、あくまでもソラネの頼みだったからだ。お前らのために力を振るうのは構わねえけど、どっかの他人のために命を張るなんてしねえよ」
「……そ。アンタらしいわねホント」
「でもソラちゃん、わたしたちろっくんに愛されてるから良かったね」
「へ? ……あ、ああああ愛されてるってどういうことよ、しおん!?」
「だってぇ、ろっくんはわたしたちのためなら命を張ってくれるって言ったんだよ? これはもう愛だと思うなぁ。そうだよね、ろっくん?」

 いや……まあ、どうなんだろうか。俺的には友情のつもりなんだけど……。

 ただ何故か今のしおんに「違う」と言うのは凄く憚られた。何故かはマジで分からないが。

「……にーたん、にーたん」
「ん? どうした七呼?」
「ナナは? あいしてう?」

 コクリと小首を傾げて聞いてくる七呼。その愛らしさに、思わず膝が崩れそうになる。

 何だこれは……天使か?

「もっちろんだぞー、七呼―!」

 身体を持ち上げて回してやると、嬉しそうに「ひゃー」と笑顔を見せてくれる。
 そしてぎゅーっと抱きしめてやると、七呼も抱きしめ返してくれた。

 ああ、癒されるわぁ~。

「ヒロ……アンタってロリコンなの?」

 ……は?

「ろっくん……幼女じゃなくてごめんね?」

 ……おいおい。

「日六……いや、ペドロク」
「ちょっと待て! お前ら言いたい放題か!? 特に姉さん! その呼び名だけはやめてっ!」

 犯罪臭しかしねえ名前じゃねえか! すぐにお巡りさんに囲まれちまうよ!

「……にーたん、ぺどろく?」
「ほら見ろぉっ、天使が侵され始めてるぞ!」
「「「……ぷっ」」」

 三人が俺を見て盛大に笑い始めた。

 コイツら……全員で俺をからかいやがってぇ……。

「んなことより姉さん、どういうことだよ?」
「ん? 何が?」
「惚けんなっつうの。『理事会』に前々から勧誘されたなんてよ」

 ただそういえば『理事会』が俺を訪問してきたことを伝えても、さほど驚いていなかったことを思い出す。あれは自分も同じような環境にいたからなのだろう。

「……あんたにも言ったでしょ? 同本家の血筋のこと」
「ああ、同本の女はみんな霊力が高いって話だろ?」
「えっ、そうだったの!?」

 そこで一番食いついてきたのはソラネだった。

「みたいなんだよ。俺も今日初めて知ったし」
「あれ? でもアタシ、何度か五那さんに会ったことあるけど、そんな強い霊気を感じたことはないわよ?」
「そうなのか? ……姉さん?」
「あー、普段はそりゃ抑えてるからね。別に使うような状況もあまりないし」

 確かに、普通に生活していれば、霊気なんて扱う必要はないか。
 すると姉さんが証明するかのように、自分の身体から霊気を放出させる。



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