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第四十三話 同本の血筋
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ようやく正座を解除された俺は、七呼を膝の上に乗せながらソファの上で相手をしてやっていた。
姉さんは自分でコーヒーを入れたあと、同じようにソファに座ってくる。
「ところで姉さん、何でこんな朝早くに尋ねてきたんだよ?」
「……別に」
「……隠し事ですか、そーですか」
「それは私には関係ないルールだし」
うわぁ、りっふじ~ん!
「てか、どうせまた兄さんとケンカしたとか、だろ?」
ギクッと言葉にすれば分かりやすいほどの反応を示す姉さん。
ああ、やっぱりかぁ。こうやって度々ケンカしては、ココに帰ってくんだよなぁ。
別に仲が悪いわけじゃない。むしろ相性抜群で、毎日ラブラブしていることを知っている。
兄さん――姉さんの旦那さんもまた、姉さんのことを心から愛しているし、俺にも時折姉さんのご機嫌取りやサプライズプレゼントなどのアドバイスを求めてくる。
ただこんな性格の姉さんだから、ちょっとしたことで嫉妬したりして、ついつい口喧嘩になってしまうのだ。
兄さんは優しいし、ほとんど口答えしないのだが、たまに反撃することもある。恐らくはそのたまにが起きて、感情が爆発した姉さんは実家に帰ってきたというわけだろう。
あとで兄さんにはフォローしとくか。
どうせすぐに仲直りすることも予定調和なのだが、一応何があったのか聞いておいた方が、こちらとしてもフォローがしやすい。
「そんなことよりさ、虎丸くんは大丈夫だったの?」
「ああ、あのあとアリシアさんに電話で聞いたけど、経過は順調だってさ。もうすぐ目が覚めるだろうって」
特に外傷などは無いし、処置も問題なくできているので、近いうちに復活するとのこと。その時になればアリシアさんから連絡が入る。
「そっか。けど……まさかしおんちゃんが吸血鬼で、ソラネちゃんが『妖祓い』だったなんてねぇ」
「なあ、マジで驚いたわ。どこのファンタジーだよってな」
「あんたが一番ファンタジーな存在でしょうが」
……さいでした。
「それで昨日、ソラネちゃんの仕事を手伝って、『理事会』の連中に目を付けられたってわけね」
「みたいです、はい」
「……自業自得ね」
仰る通りですね。何も言い返せません。
「ま、事情が分かったから別にいいわ。ところでその……《ゲート》、だっけ? 使ってみてよ」
「え? まあ、別にいいけど――《ゲート》」
俺は姉さんの右隣の空間に《ゲート》を開いた。そして、その先に通じる場所を俺の自室に設定しておく。
「入ってみていい!」
何かテンションが上がってる様子だが、まあ魔法みたいな力だからワクワクするのも分かる。
姉さんは恐れずに、まずは手から《ゲート》に突っ込ませていき、
「おお~、手が埋まってく、ウケるぅ!」
いや、ウケねえよ……ん? ウケるのか?
人によったら面白い現象だし、姉さんみたいに無邪気に喜ぶ者もいるだろう。
そのまま姉さんは身体ごと向こう側へ消え、すぐにピョンと跳ねるように戻ってきた。
「すっごいじゃん、日六! 瞬間移動だぞ瞬間移動!」
「いや、厳密に言うと瞬間移動じゃなく空間移動なんだけど」
「ままー、ナナもー」
「おう、来い来い」
七呼の手を掴んで、歪む空間の中へと消えていく。そしてすぐにまた戻ってくる。
「なぁ、すっごいだろー?」
「うん! おもしおーい!」
どうやら七呼も気に入ってくれたようだ。普通なら怖いと思うが、そこはさすがに姉さんの血を引いているだけある。
「……よし! 海外へ行くぞ日六!」
「いきなりかよ! 嫌だよ! 明日から授業だってあるんだぞ!」
「あーそっかぁ。……ちっ、旦那に国際電話でもして驚かせてやろうって思ったのに」
そりゃ腰抜かすだろうなぁ。家から出てきて間もないのに、いきなり外国から妻の電話があるんだから。
「けど便利じゃない。これから旅行に行く時はアンタに頼むわ」
「人を移動手段に使わんでほしいんだが」
「あ? 何、文句あんの?」
「お言いつけ通り、どんな時も安全に運ばせて頂く所存でございます」
「うむ、くるしゅうない!」
やっぱり逆らえません。逆らうくらいなら、異世界で災厄と戦っていた方が良いし。
「あ、んじゃ力も強くなってんでしょ! よっしゃ、久々に腕相撲やるぞ腕相撲!」
テーブルに肘をつき、挑発的な笑みを浮かべてくる姉さん。
「いや……止めとこうぜ」
「うっせ、早くすっぞ愚弟!」
だってなぁ……。
確かに今まで勝てた試しがなかった。姉が性別的に間違いなく女性だが、いや、母親もそうだったが、何故か物凄い怪力の持ち主なのだ。
ボディビルダーみたいな逞しい身体つきじゃないくせに、ベンチプレスを100キロを、百回も上げられる異常ともいえる身体能力を有している。
他にもスポーツ全般は何をやらせてもトップクラス。勉強はいまいちだったが。
オリンピックに出ろよと言うと、地位や名誉には興味ないと言って、スカウトとかも断っていた。
……今回も俺に勝つつもりなんだろうなぁ。
でもさすがに手を組まなくても分かる。普通にやりあったら、俺が確実に勝つ。
これは戦闘経験によるものだ。相手の力量を察知できなければ、向こうでは殺されてしまうような世界だったから。
ただこうして改めて姉さんを観察して分かる。いや、ここ数日……ソラネの仕事に関わってからだ。
だからこそ理解できる。
姉さんの身体の奥から感じる霊力が。
しかも――強い。少なくても今のソラネよりも力強さを感じる。
もしかしたらこの力があったから姉さんは、異常な身体能力の持ち主だったのかもしれない。
俺の元の世界でも、霊力という力は存在していて、それが彼女の力の源泉になっていた可能性だってある。
「……やる以上は結果に文句言うなよ?」
「へぇ、言うようになったじゃん」
俺はテーブルに肘をつき、姉さんと手をギュッと組む。
瞬間、姉さんの顔つきが変わった。組んだだけで俺の力量をある程度理解したのだろう。明らかに険しい表情になっている。
「……七呼、よーい、ドンって言ってくれる?」
「うん! いくよー、よーい……ドンッ!」
刹那、姉さんが全力で俺の拳を押し、テーブルに叩きつけようとしてくる――が、
「――っ!?」
ビクともしない俺の拳にギョッとしつつも、さらに歯を食いしばって力を込めてくる。
ビキッ……ビキビキッ……。
マズイ、テーブルにヒビが入り出した。このままじゃ、先にテーブルが砕けちまう。
俺はそうなる前に、力を入れて姉さんの手の甲をテーブルへと押し付けた。
「――っくはぁぁぁ!? 負けたぁぁぁぁ~!」
ぐで~んと、仰向けに横たわる姉さん。
「ああもうショックだわぁ~、弟なんかに負けるなんてぇ~」
まあいつも圧倒的な力でねじ伏せてたもんね。そりゃ悔しいよね。
俺も勝てて嬉しいんだが、最初から勝つって分かってたこともあって、少し微妙な気持ちである。
「マジで強くなってんじゃん、日六ってば。しかも……なるほどね。転生ってので、あんたの霊力が跳ね上がったわけか」
「!? 姉さん、霊力って……知ってるのか?」
「あん? ……ああ、そういや言ってなかったっけ? 同本家の女は総じて霊力が高いのよ。私たちのずっと前の先祖なんて、確か有名な『退魔師』だったんじゃなかったっけ?」
「退魔? それって……」
「現代でいうところの『妖祓い』だね」
「嘘ぉん……! あ、でもだったら何で引き継がれてねえんだ? 姉さんは普通の主婦だろ?」
「さあ? 過去に何かあって『退魔師』を引き継がせるのを止めたってことでしょ? 興味ないわよ、そんな昔の話なんて」
うわぁ、サバサバしてやがんなぁ。俺はそういう話は結構好きなんだけど。
「そもそも同本家ってのは、男が生まれにくい家系みたいでね。たとえ生まれても短命だったり、極端に霊力が低く、とても数奇な運命を持った奴ばっかだったらしいわ。母さんがそう言ってた」
「へぇ……って、短命!? 俺、短命なの!? もうすぐ死ぬの!? いや一度死んだけど!」
「そう考えたら、その時があんたの運命の分岐点だったんじゃないの?」
「……!」
「そこで死ぬのが同本家の男の、いつもの運命だった。けどあんたは生き返ってきた。つまり……運命を乗り越えた初めての存在なんかもね」
短命……確かにそう言われたら、あそこで死んでいてもおかしくない運命だったのか。
しかし同本家の男に、そんな逸話があったなんて……。
「あれ? 親父って婿入りってこと?」
「そうよ。ん? 知らんかったん?」
「知らねえよ! だからか! だからあんなに立場が弱かったのか!」
「アハハ、父さんは元々気弱な人ってこともあって、まったく母さんには逆らえないでいたよねー。でもラブラブだったけど」
そうなのだ。確かに力関係は圧倒的に母さんの方が上だったが、どうも母さんの方が親父にベタ惚れしてる感はあった。だからいつも新婚夫婦みたいな感じで、子供の俺たちからしたら気恥ずかしささえあったのである。
「姉さんは『妖祓い』になろうとか思わなかったのか?」
「え? 嫌よ。幽霊とか妖とかぶっ叩くのって面倒そうだし。まあストレス解消にはなると思うけど」
「いや、ぶっ叩くだけが仕事じゃねえんだけど……」
「まあでも命がけの仕事でしょ? 私は平和が一番だし、夢は可愛いお嫁さんだったしね」
「可愛い……ねぇ」
「あん? 何その顔、ぶん殴るよ?」
「その発言! 可愛いお嫁さんがしたらダメなやつだから!」
「これでも近所のママ友には、いつも可愛くて綺麗ねぇって褒められるんだぞ!」
「いやまあ……ルックスは別に悪くねえよ。俺が言ってんのは性格の問題で……」
「それ以上言うならチンコ切るよ?」
「もう二度と言いません、お姉様」
怖えぇぇぇぇぇぇっ!? こんなことで大事な息子を失いかけたのかよ俺は!?
やっぱり姉さんに歯向かうのは止めとこう。命が幾つあっても足りねえ。俺の息子の命が。
その時、俺の電話に着信が入った。出て見ると、アリシアさんからで、内容は虎さんが目を覚ましたとのこと。
話は姉さんも聞いていて、車で病院まで送ってくれることになった。
途中、ソラネとしおんも拾うことになり、彼女たちと一緒に病院へと向かうことになったのである。
姉さんは自分でコーヒーを入れたあと、同じようにソファに座ってくる。
「ところで姉さん、何でこんな朝早くに尋ねてきたんだよ?」
「……別に」
「……隠し事ですか、そーですか」
「それは私には関係ないルールだし」
うわぁ、りっふじ~ん!
「てか、どうせまた兄さんとケンカしたとか、だろ?」
ギクッと言葉にすれば分かりやすいほどの反応を示す姉さん。
ああ、やっぱりかぁ。こうやって度々ケンカしては、ココに帰ってくんだよなぁ。
別に仲が悪いわけじゃない。むしろ相性抜群で、毎日ラブラブしていることを知っている。
兄さん――姉さんの旦那さんもまた、姉さんのことを心から愛しているし、俺にも時折姉さんのご機嫌取りやサプライズプレゼントなどのアドバイスを求めてくる。
ただこんな性格の姉さんだから、ちょっとしたことで嫉妬したりして、ついつい口喧嘩になってしまうのだ。
兄さんは優しいし、ほとんど口答えしないのだが、たまに反撃することもある。恐らくはそのたまにが起きて、感情が爆発した姉さんは実家に帰ってきたというわけだろう。
あとで兄さんにはフォローしとくか。
どうせすぐに仲直りすることも予定調和なのだが、一応何があったのか聞いておいた方が、こちらとしてもフォローがしやすい。
「そんなことよりさ、虎丸くんは大丈夫だったの?」
「ああ、あのあとアリシアさんに電話で聞いたけど、経過は順調だってさ。もうすぐ目が覚めるだろうって」
特に外傷などは無いし、処置も問題なくできているので、近いうちに復活するとのこと。その時になればアリシアさんから連絡が入る。
「そっか。けど……まさかしおんちゃんが吸血鬼で、ソラネちゃんが『妖祓い』だったなんてねぇ」
「なあ、マジで驚いたわ。どこのファンタジーだよってな」
「あんたが一番ファンタジーな存在でしょうが」
……さいでした。
「それで昨日、ソラネちゃんの仕事を手伝って、『理事会』の連中に目を付けられたってわけね」
「みたいです、はい」
「……自業自得ね」
仰る通りですね。何も言い返せません。
「ま、事情が分かったから別にいいわ。ところでその……《ゲート》、だっけ? 使ってみてよ」
「え? まあ、別にいいけど――《ゲート》」
俺は姉さんの右隣の空間に《ゲート》を開いた。そして、その先に通じる場所を俺の自室に設定しておく。
「入ってみていい!」
何かテンションが上がってる様子だが、まあ魔法みたいな力だからワクワクするのも分かる。
姉さんは恐れずに、まずは手から《ゲート》に突っ込ませていき、
「おお~、手が埋まってく、ウケるぅ!」
いや、ウケねえよ……ん? ウケるのか?
人によったら面白い現象だし、姉さんみたいに無邪気に喜ぶ者もいるだろう。
そのまま姉さんは身体ごと向こう側へ消え、すぐにピョンと跳ねるように戻ってきた。
「すっごいじゃん、日六! 瞬間移動だぞ瞬間移動!」
「いや、厳密に言うと瞬間移動じゃなく空間移動なんだけど」
「ままー、ナナもー」
「おう、来い来い」
七呼の手を掴んで、歪む空間の中へと消えていく。そしてすぐにまた戻ってくる。
「なぁ、すっごいだろー?」
「うん! おもしおーい!」
どうやら七呼も気に入ってくれたようだ。普通なら怖いと思うが、そこはさすがに姉さんの血を引いているだけある。
「……よし! 海外へ行くぞ日六!」
「いきなりかよ! 嫌だよ! 明日から授業だってあるんだぞ!」
「あーそっかぁ。……ちっ、旦那に国際電話でもして驚かせてやろうって思ったのに」
そりゃ腰抜かすだろうなぁ。家から出てきて間もないのに、いきなり外国から妻の電話があるんだから。
「けど便利じゃない。これから旅行に行く時はアンタに頼むわ」
「人を移動手段に使わんでほしいんだが」
「あ? 何、文句あんの?」
「お言いつけ通り、どんな時も安全に運ばせて頂く所存でございます」
「うむ、くるしゅうない!」
やっぱり逆らえません。逆らうくらいなら、異世界で災厄と戦っていた方が良いし。
「あ、んじゃ力も強くなってんでしょ! よっしゃ、久々に腕相撲やるぞ腕相撲!」
テーブルに肘をつき、挑発的な笑みを浮かべてくる姉さん。
「いや……止めとこうぜ」
「うっせ、早くすっぞ愚弟!」
だってなぁ……。
確かに今まで勝てた試しがなかった。姉が性別的に間違いなく女性だが、いや、母親もそうだったが、何故か物凄い怪力の持ち主なのだ。
ボディビルダーみたいな逞しい身体つきじゃないくせに、ベンチプレスを100キロを、百回も上げられる異常ともいえる身体能力を有している。
他にもスポーツ全般は何をやらせてもトップクラス。勉強はいまいちだったが。
オリンピックに出ろよと言うと、地位や名誉には興味ないと言って、スカウトとかも断っていた。
……今回も俺に勝つつもりなんだろうなぁ。
でもさすがに手を組まなくても分かる。普通にやりあったら、俺が確実に勝つ。
これは戦闘経験によるものだ。相手の力量を察知できなければ、向こうでは殺されてしまうような世界だったから。
ただこうして改めて姉さんを観察して分かる。いや、ここ数日……ソラネの仕事に関わってからだ。
だからこそ理解できる。
姉さんの身体の奥から感じる霊力が。
しかも――強い。少なくても今のソラネよりも力強さを感じる。
もしかしたらこの力があったから姉さんは、異常な身体能力の持ち主だったのかもしれない。
俺の元の世界でも、霊力という力は存在していて、それが彼女の力の源泉になっていた可能性だってある。
「……やる以上は結果に文句言うなよ?」
「へぇ、言うようになったじゃん」
俺はテーブルに肘をつき、姉さんと手をギュッと組む。
瞬間、姉さんの顔つきが変わった。組んだだけで俺の力量をある程度理解したのだろう。明らかに険しい表情になっている。
「……七呼、よーい、ドンって言ってくれる?」
「うん! いくよー、よーい……ドンッ!」
刹那、姉さんが全力で俺の拳を押し、テーブルに叩きつけようとしてくる――が、
「――っ!?」
ビクともしない俺の拳にギョッとしつつも、さらに歯を食いしばって力を込めてくる。
ビキッ……ビキビキッ……。
マズイ、テーブルにヒビが入り出した。このままじゃ、先にテーブルが砕けちまう。
俺はそうなる前に、力を入れて姉さんの手の甲をテーブルへと押し付けた。
「――っくはぁぁぁ!? 負けたぁぁぁぁ~!」
ぐで~んと、仰向けに横たわる姉さん。
「ああもうショックだわぁ~、弟なんかに負けるなんてぇ~」
まあいつも圧倒的な力でねじ伏せてたもんね。そりゃ悔しいよね。
俺も勝てて嬉しいんだが、最初から勝つって分かってたこともあって、少し微妙な気持ちである。
「マジで強くなってんじゃん、日六ってば。しかも……なるほどね。転生ってので、あんたの霊力が跳ね上がったわけか」
「!? 姉さん、霊力って……知ってるのか?」
「あん? ……ああ、そういや言ってなかったっけ? 同本家の女は総じて霊力が高いのよ。私たちのずっと前の先祖なんて、確か有名な『退魔師』だったんじゃなかったっけ?」
「退魔? それって……」
「現代でいうところの『妖祓い』だね」
「嘘ぉん……! あ、でもだったら何で引き継がれてねえんだ? 姉さんは普通の主婦だろ?」
「さあ? 過去に何かあって『退魔師』を引き継がせるのを止めたってことでしょ? 興味ないわよ、そんな昔の話なんて」
うわぁ、サバサバしてやがんなぁ。俺はそういう話は結構好きなんだけど。
「そもそも同本家ってのは、男が生まれにくい家系みたいでね。たとえ生まれても短命だったり、極端に霊力が低く、とても数奇な運命を持った奴ばっかだったらしいわ。母さんがそう言ってた」
「へぇ……って、短命!? 俺、短命なの!? もうすぐ死ぬの!? いや一度死んだけど!」
「そう考えたら、その時があんたの運命の分岐点だったんじゃないの?」
「……!」
「そこで死ぬのが同本家の男の、いつもの運命だった。けどあんたは生き返ってきた。つまり……運命を乗り越えた初めての存在なんかもね」
短命……確かにそう言われたら、あそこで死んでいてもおかしくない運命だったのか。
しかし同本家の男に、そんな逸話があったなんて……。
「あれ? 親父って婿入りってこと?」
「そうよ。ん? 知らんかったん?」
「知らねえよ! だからか! だからあんなに立場が弱かったのか!」
「アハハ、父さんは元々気弱な人ってこともあって、まったく母さんには逆らえないでいたよねー。でもラブラブだったけど」
そうなのだ。確かに力関係は圧倒的に母さんの方が上だったが、どうも母さんの方が親父にベタ惚れしてる感はあった。だからいつも新婚夫婦みたいな感じで、子供の俺たちからしたら気恥ずかしささえあったのである。
「姉さんは『妖祓い』になろうとか思わなかったのか?」
「え? 嫌よ。幽霊とか妖とかぶっ叩くのって面倒そうだし。まあストレス解消にはなると思うけど」
「いや、ぶっ叩くだけが仕事じゃねえんだけど……」
「まあでも命がけの仕事でしょ? 私は平和が一番だし、夢は可愛いお嫁さんだったしね」
「可愛い……ねぇ」
「あん? 何その顔、ぶん殴るよ?」
「その発言! 可愛いお嫁さんがしたらダメなやつだから!」
「これでも近所のママ友には、いつも可愛くて綺麗ねぇって褒められるんだぞ!」
「いやまあ……ルックスは別に悪くねえよ。俺が言ってんのは性格の問題で……」
「それ以上言うならチンコ切るよ?」
「もう二度と言いません、お姉様」
怖えぇぇぇぇぇぇっ!? こんなことで大事な息子を失いかけたのかよ俺は!?
やっぱり姉さんに歯向かうのは止めとこう。命が幾つあっても足りねえ。俺の息子の命が。
その時、俺の電話に着信が入った。出て見ると、アリシアさんからで、内容は虎さんが目を覚ましたとのこと。
話は姉さんも聞いていて、車で病院まで送ってくれることになった。
途中、ソラネとしおんも拾うことになり、彼女たちと一緒に病院へと向かうことになったのである。
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