異世界帰りの俺は、スキル『ゲート』で現実世界を楽しむ

十本スイ

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第四十話 イズミとの対話

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 見事三人力を合わせてAランク任務を達成できた俺たち。
 あのあとすぐに真鈴さんに知らせるために、しおんの自宅に戻って何があったのかを詳しく伝えた。

 真鈴さんも突然現れた『理事会』のやり口に関しては不快に思っていたものの、大したお咎めもないことも安堵していたようだ。
 その日は、真鈴さんのご厚意で泊まらせてもらうことになった。

 そして翌日、土曜日なので授業は無い。だから俺とソラネは、一度自分の家へ戻ることになり、そのあと俺はある事実を確かめるために、一人で【秋津怪異相談所】へとやってきていた。

「――ふふ、来ると思っていたわよ、ヒロくん」

 イズミさんは俺が一人で尋ねてきたことに対し驚いていない。本当に俺がこうしてやってくることを予見していたらしい。

「どうもっす、イズミさん」
「昨夜は大変だったわねぇ。あの子のお守、ご苦労様~」
「……やっぱイズミさん、あの場にいたんですね?」
「え~何のことかなぁ~」
「誤魔化しても無駄っすよ。イズミさんでしょ? リリーに霊気で作った針を投げつけて動きを止めたのは」

 あの時、俺以外の二人は気づいてなかったが、俺は何者かが針を投げつけたことを察していた。

 そしてその針は霊気で形作られていて、その霊気がイズミさんの波長と一致していたのだ。

「まあ、君がいれば必要なかったみたいだけどねぇ」
「まったく、最初から手を貸すつもりなら、一緒に仕事をすれば良かったじゃないですか」
「ん~、ちょっと今回の仕事はあまり出張りたくなかったのよねぇ」
「……『理事会』っすか?」
「あらら、ほんと~に察しが良くなっちゃって。一体この見なかった日に、君に何があったのかしらねぇ。あの力についてもほんと~に不思議だし」

 見定めるような眼差しをぶつけてくる。俺はそんな視線をモノともせずに見返しながら発言する。

「そんなことはどーでも良いじゃないですか。イズミさん、もしかして『理事会』が絡んでいる仕事を頑なに断ってないですか?」
「……どうしてそう思うのぉ?」
「いや、何となくそう思っただけっすよ。昨日直接『理事会』の連中に会って、どうもそいつらとイズミさんって合わなさそうだなって」

 実際ソラネとも性格的に合っていなかった。俺がいなければ、あのまま衝突していたかもしれない。

「……ねえヒロくん、『理事会』の在り方は間違いなく正しいし、人間にとって無くてはならない組織なのよ」

 イズミさんが「でもね」と肩を竦めながら続ける。

「『理事会』の上層部は、今大きく二つに分かれちゃってるのよ」
「二つに?」
「そう。穏健派と強硬派に、ね。穏健派は、『異種』との共存共栄を未来永劫守り抜く姿勢を見せているんだけど、強硬派はそうじゃないの」
「……まさか」
「言葉で言うなら徹底的な〝人間主義〟。つまり……そういうことよ」

 それは……確かにイズミさんやソラネとは相容れない存在だろう。
 彼女たちは、『異種』もまた人間社会とともに過ごしていける存在だと信じているし、そうあってほしいと願っている。

「じゃあ今回の依頼って、その強硬派が?」
「多分……ね」
「捕縛されたリリーはどうなるんです?」
「そこまで詳しくはまだ分からないわ。けれど……まともじゃないのは確かよね」
「っ……何で今回の依頼について、もっと詳しくソラネに教えてやらなかったんですか?」
「あの子にはまだ……伝えるにはショックが大き過ぎる問題があってね」
「ショック……ですか?」

 イズミさんが「ええ」と返事をするが、その顔には陰りが見える。

「聞いてもいい話っすか?」

 もしダメなら無理には聞こうとは思わないが。

「構わないわよ。ただできればソラネには秘密にしててもらえると助かるんだけど」
「約束します」
「そう。じゃあ話すわね」

 そう言うと、軽く深呼吸をしたあと、イズミさんが語り出す。

「ソラネにはね、とても憧れている『妖祓い』がいるのよ」
「……! あーその話、ソラネの奴に聞いたことありました。確か小さい頃に助けてもらったって」
「ええそう。あの子は六歳の頃に、凶悪な妖に攫われてしまってね。そしてもう少しで殺されてしまう。そんな時にある人物がソラネを救い出してくれたのよ」
「その人物って……?」
「秋津天象てんしょう――アタシの兄よ」
「お兄さんがいたんですか……!」
「あの子にとっては伯父ね。兄さんがあの子を間一髪のところで助け出してくれた。だから私もあの子も、ううん、家族全員が感謝してる。けれど……」

 それまで頬を緩めていたイズミさんが、突然険しい顔を見せた。

「……ある事件があってね、その事件をきっかけに兄さんは変わってしまったのよ」
「変わった?」
「兄さんは秋津家でも優秀で、本来女の方が高い霊力を持つにもかかわらず、他の『妖祓い』と比べても逸した力を持って生まれたの。それこそお母さん――秋津たたらの再来とまで言われるほどにね」

 ちょくちょくソラネに聞いた『恐山の仙女』ってやつだ。

「自分にとても厳しい人で努力も怠らず、気づけば誰もが認めるほどの『妖祓い』になっていた兄さんは、ある日『異種事案対策理事会』に誘われ所属することになったの。そこでも兄さんはバリバリ活躍して、次第に発言力を持つような立場にもなっていった」
「ほぇ~、マジで凄い人なんすね」

 いわゆるエリートってところだ。ソラネにも聞いたが、並みの『妖祓い』じゃ、『理事会』にスカウトされたりしないらしい。
 スカウトされるだけでも凄いのに、その中でも上位に入るのは本当に選ばれた人間という話だ。

「そして兄さんは、誰よりも人を愛し、『異種』を愛する心優しい人だった。さっきも言ったけれど、『理事会』の中では穏健派に属し、多くの者たちから支持を受けるような存在だったのよ」

 さっきから過去形ばかりだが、とても嫌な予感が過ぎる。少し前にイズミさんが口にした変わったという理由が次に分かるだろうが……。

「でも今兄さんは――強硬派に所属しているのよ」
「!? ……どうして、ですか? ある事件をきっかけにって言ってましたけど……」

 しかしイズミさんは答え辛いのか、苦々しい表情のまま固まっている。
 これ以上はさすがに聞き出せないと思い、俺は別の質問へと変えた。

「ソラネに今回の依頼について詳しく話さなかったのは、その伯父さんとやらが関係してるってことですか?」
「恐らく……ね」

 今回の依頼は、強硬派が絡んでいる。すなわちソラネの憧れている秋津天象という人物が関わっている可能性が高い。
 強硬派は『異種』との共存を望んでいない。

 憧れている人が、まさかそんな立場にいるなどとイズミさんは言えなかったのだ。少なくとも今はまだ……。

「分かりました。このことは俺の胸の内に留めておきます。来るべき時は、イズミさんが教えてやってください」
「ありがとうね、ヒロくん」

 俺だって、わざわざソラネがショックを受けるようなことを言いたくないし、いずれ知るにしても、ちゃんと受け止められるくらいにまでソラネが成長してからでも遅くないと思う。……多分。

「それにしてもヒロくん、君は一体何者なのかなぁ? おばさん、と~っても気になっちゃうんだけどぉ~」

 凄い変わり身ぶりだ。さっきまであんなにシリアスしてたのに……。

「いやまあ……別に教えてもいいんすけど」

 ソラネの家族だし、言い触らしたりするような人じゃないと思うしさ。それに昨日の戦闘だって見られてるだろうから。

「ただ突拍子もない話なんで、信じるか信じないかはイズミさん次第っすよ?」
「うんうん、教えて!」

 まるで新しい絵本でも読んでもらう幼児のような、ワクワクとした表情を浮かべるイズミさんに、俺は自分がどういった経緯で力を手に入れたのかを伝えた。

「すっごぉぉぉぉぉぉいっ! 何それ何それ!? 少し前までは普通の少年だったのに、今じゃ異世界の英雄!? ヒロくん、もう主人公じゃないそれ!」
「ちょ、ちょちょ近い近い! 近いですって!?」

 その凶悪的にデカイ胸が当たってるんですけどぉぉ!?
 それに良いニオイだし、綺麗だし、この人マジで人妻なのかよオイ!

「あ、ごっめーん。けど、なるほどねぇ……君の霊力が急に強くなってたのって、そういうことだったのかぁ。それにしても転生……ね」
「何ですか、イズミさんも転生したいんすか? 止めといた方が良いっすよ。自称神様が言うには、俺みたいなのは特殊なケースらしいんで」

 そうそう簡単に転生なんてさせてくれない。普通はただ生まれ変わるだけ。当然記憶も何もない状態で。しかも人間かどうかなど定かではない。

「あ、ううん。そんな便利なものがこの世にあったらいいなーって思っただけよぉ」

 まあ確かに記憶を維持したまま蘇ることができるのは良い。それを実感してるからな。
 ただ創作物のように、赤ん坊にまで戻るのはちょっとアレかも。
 熟した精神力を持ったまま、赤ちゃんプレイなんて恥ずかし過ぎるし。

「あ、そういや今回のこと、『理事会』から何か言ってきてないんすか? 一応違反行為みたいですし」
「別に何もないわよ。ただすこ~し面倒なことになるかもねぇ。特に……ヒロくんは」
「……へ?」


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