異世界帰りの俺は、スキル『ゲート』で現実世界を楽しむ

十本スイ

文字の大きさ
上 下
38 / 50

第三十七話 圧倒的な力

しおりを挟む
 ! ……コイツはマズイっぽいな。

 俺も霊力を強さを感じ取れるようになったが、ソラネと比べても圧倒的なまでの力強さを感じる。
 単純計算でいえば、ソラネの十倍以上もの強さ。

 これが恐らくは純血種の力なのだろう。
 一応妖怪というカテゴリーでもあるので、昔は霊気を妖気、霊力を妖力といっていたそうだが、『異種』という括りになってからは、同じように霊気・霊力と呼ぶようになったらしい。

 しかし今でも妖力などと呼ぶ『妖祓い』もいるとのこと。

「この小娘どもがぁっ! 調子に乗ってんじゃねえぞぉっ!」

 口調も形相も変わり、ソラネとしおんの表情も強張る。

「――《火俱夜》!」

 今のうちに無力化しようということなのか、ソラネが《火俱夜》を操作して畳みかけようとする――が、

「鬱陶しいんだよクソがぁぁぁっ!」

 両手の爪を、目にも止まらない速度で伸ばして、回避することもできずに《火俱夜》はその身体を貫かれてしまう。

「ヒャハハハハハ! くっしざしぃぃ~! これで終わりじゃないぞ!」

 直後、《火俱夜》の身体から爪を伝って霊気がリリーへと流れていく。
 どうやら《火俱夜》を通して、ソラネの霊気を吸収しているようだ。

「――《アブソプション》!」

 恐らくが、この技が虎さんから生気を奪ったのだろう。
 その証拠に、ソラネの霊気がどんどん減っていき、彼女が疲弊していく様子が窺える。

「ソラちゃん! しっかりして!」
「くっ……ち、地上に降りて……しおん」
「う、うん、分かった!」

 ソラネの指示を受け、ゆっくりとソラネを地上へと下ろすしおん。
 しかしそのままソラネは片膝をついてしまう。

「アイツ……《火俱夜》を通してアタシの生気を……!」

 ソラネも気づいたのか、歯を食いしばりながらも立ち上がろうとするが、吸収する速度が速く、しおんの支えでしか立っていられないようだ。

「しょ、しょうがない……わね」

 ボボンッと、《火俱夜》がその場から煙のようになって消失する。
 リリーの爪に刺さっていた《霊符》を、リリーは爪を短くさせてその手に取った。

「ンフフ……格の違いを理解できたかしらぁ?」

 空から愉悦を含ませた表情で、ソラネたちを見下ろすリリー。
 ソラネも悔しそうだが、さすがにAランクの仕事だと痛感しているみたいだ。

「そっちの吸血鬼、確かに純血種だけどぉ、まだまだヒヨッコ。多分戦闘経験なんてないでしょう? それじゃあ純血種の力なんてま~ったく発揮できないわよぉ」

 真鈴さんから聞いたことがある。
 純血種だからといって、すべてが強靭な強さを持っているわけではない。

 あくまでも潜在的な能力が高いというだけだ。つまりどんな能力を秘めていても、それを使いこなせなければ宝の持ち腐れなのである。

 本来ならしおんには、リリーにすら勝てる潜在能力があるのだ。しかし普段から力を封印し、鍛えることもしてこなかったしおんが、純血種としての力を常に解放し続けてきたリリーに勝てる道理はないのである。

「さあ、もう終わりにしましょうかぁ! 私の大事な時間を奪った報い、その身で受けるといいわぁ!」

 リリーが、ソラネに向かって再度爪を伸ばしてきた。
 しおんが庇おうと前に出るが、このままだと二人とも串刺しだ。
 そうなることを予見してか、愉快気にリリーは笑みを浮かべるが……。

 ――――――バキィィンッ!

 爪がしおんに届く前に、乾いた音を立てて砕け散った。

「んなっ!?」

 当然リリーは驚くだろう。

 何せ――。

「悪いな。こっからは選手交代だ」

 今まで大人しくしていた俺が、彼女の爪を呆気なく砕いたのだから。

「っ……ヒロ」
「ソラネ、お前は《火俱夜》を出せるように、少しでも回復しとけ。その間、俺はちょっと遊んどくからよ」
「……大丈夫……なの?」
「はは、誰に言ってんだ? しおん、ソラネの護衛よろしくな」
「うん! 気をつけてね、ろっくん!」

 しおんは俺の強さを直に見ているから信頼してくれている。彼女はソラネを連れてその場を離れていく。

「さて、俺の相手をしてくれよ、リリーさんや」
「……いいわよぉ、元々私は坊やを狙っていたものぉ。その有り余るほどの精気! この私が頂くわぁ!」

 疾風のような動きで、一瞬にして俺の背後を取るリリー。そして口を大きく開けて、俺の首へと噛みつこうとする。
 しかし触れる寸前で、その場から消えた俺にリリーは困惑した。

「――こっちこっち」
「!? ……なかなか素早いのねぇ、坊や」
「まあ、アンタよりかは、な」
「へぇ……益々いいわねぇ。あなたほどの器を持つ精気を頂けば、もしかしたら私は〝至れる〟かもしれないわぁ」
「よく分かんねえけど、さっさと来いよ。退屈だぜ?」
「! 言うわねぇ、後悔させてあげるわぁ!」

 するとリリーの霊気が物質化し、コウモリのような形へと無数に変化した。
 そしてそのコウモリたちを、俺に向けて放ってくる。

「我が眷属にすべてを吸い尽くされなさい!」

 その言葉を受け、どうやらこのコウモリたちに噛まれると、リリーと同じように生気を吸われるらしい。
 四方八方から襲い掛かってくるコウモリ。

 俺はそれらを――。

「ほっ、そっ、やっ、はっ、しっ!」

 回避を交えながら、両手を素早く動かして叩き落していく。

「何ですってっ!?」

 背後からやってくるコウモリにも適応し、見事にかわしながらカウンターで仕留めていく。

「す、凄い……!」
「うん。ろっくん……まるで踊ってるみたいだね」

 ソラネとしおんも、俺の姿に呆気に取られているようだ。
 しかし当然一番愕然とした表情を浮かべているのはリリーである。

「な、何よそれぇっ! 一体あなた何者なのよぉ!」
「おぉらぁぁぁぁっ!」

 そこそこ力の入れた回転回し蹴りを放つと、その威力により生まれた竜巻が、コウモリどもを弾き飛ばしてしまった。
 無数にいたはずのコウモリたちが、今じゃ俺の周りに積み重なって倒れている。

「「「…………」」」

 三人が三人とも、まるで珍獣でも見つけたかのような顔で固まっている。

「おーい、もう終わりかぁ、リリー?」
「……!? あ、あなた一体……!」
「終わりなら今度は俺から行くぞ」
「へ……!?」

 一瞬にして、空中にいたリリーの背後をついた俺。
 俺はしっぺをする要領で、二本指を作り彼女の背中を叩きつけた。

「し~っぺ!」
「あきゃっ!?」

 まともに俺のしっぺをくらったリリーは、隕石のように地上へと落下していった。
 地面に突き刺さると、そこには小さなクレーターが生まれ、粉塵が巻き上がる。

 並みの奴なら、今のでも十分致命傷だが、たださすがは純血種といったところか。

「いったぁぁぁぁい!」

 ダメージにはなったが、戦闘不能まではまだ遠いようだ。

「はは、ずいぶんタフだなぁ」
「くっ、ちょっと坊や! いい加減にしないといくら極上の獲物でも殺しちゃうわよぉ!」
「やれるもんならやってみな。お次は――」

 またもリリーには反応できない速度で動き、彼女の目前へと立つ。

 そして今度は――。

「デ~コピン!」
「あがっ!?」

 またも無防備に俺のデコピンを額に受け、ピンボールのように弾き跳んでいく。
 その先にあった土嚢の壁に突っ込み、倒れてきた土嚢に埋もれてしまうリリー。



しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

処理中です...