異世界帰りの俺は、スキル『ゲート』で現実世界を楽しむ

十本スイ

文字の大きさ
上 下
37 / 50

第三十六話 多種隔世遺伝

しおりを挟む
「――《火俱夜》っ!?」

 すぐに反撃しようとする《火俱夜》だが、その攻撃もあっさりとかわされ逃げられてしまう。

「まだよ《火俱夜》! ――《火球扇》!」

 扇を振るった瞬間、扇から小さな火球が放出され女へと飛んでいく。
 だが女は少しも動揺を見せず、あろうことか臀部近くから生えている細長い尻尾ではじき返してきたのである。

 火球は《火俱夜》の足元へ落ち、その衝撃で《火俱夜》は後方へと吹き飛んでしまった。

「《火俱夜》!? ……くっ!」

 悔し気におんなを睨みつけるソラネ。
 彼女も相手との力量差が分かっているのだろう。

 しかしさすがはAランクの仕事だ。確かにこれではソラネ一人じゃ荷が重い。
 相手はどうやら戦闘経験も豊富だし、まだ力を隠し持っていようだ。

「ソラネ!」
「待ってヒロ! まだアンタは待機してて!」

 ソラネは敵わないと思いつつも、まだやる気のようだ。

「でもお前がもしやられたら!」
「大丈夫! あと一回、試してみたいことがあるの!」
「…………分かった」

 ああなったソラネに何を言っても無駄か。まあ最悪、俺がフォローに入ればいいしな。
 ソラネも俺がいるからこそ無茶ができるんだと思う。

「やれやれ、まだやるつもりなのぉ? これ以上やるっていうんなら……殺しちゃうわよぉ?」

 女も本腰を入れ始めたのか、それまで比較的穏やかな雰囲気だったが、明らかに強い殺気を含ませてきた。

「っ……一つ聞かせない。二度と悪さをせずに大人しく暮らすことはできないの?」
「言ったでしょう? 人間のために自由を捧げるなんてことはできないわよぉ」
「別に自由なんて奪わないわよ! ただ人間の街に住む以上は、そのルールは守れって言ってるの! 人間だって守ってることよ!」
「知らないわよぉ、そんなこと。人間が勝手に決めたルールなんだからぁ」

 まあ『異種』にとっちゃ、その言い分も一理あるのだろう。
 ただだからといって、問答無用に他者を傷つけていい理由にはならない。

「……アンタ……それでも誇りある純血種の吸血鬼なの!」

 すると女がニヤ~と気持ちの悪い笑みを浮かべ、急に高笑いをし始めた。

「何がおかしいのよ!」
「さっきから何かおかしいって思ってたけどぉ、なるほどねぇ……私が吸血鬼……かぁ。何を勘違いしてるのかしらねぇ」
「!? 何ですって……?」

 俺も今の言葉には納得できない。コイツ、吸血鬼じゃなかったのか?

「私が純血種……それは間違いないわよぉ。でもぉ……吸血鬼じゃないわぁ」
「え……!? だ、だったら何の『異種』だっていうのよ!」
「フフフ、なら自己紹介をしてあげましょうかぁ」

 バサッと大きく黒い翼を開く女。月明りを浴びて、どこか神秘的な佇まいに映っている。

「私の名は――リリー・バット・ルネ。れっきとした――――サキュバスよぉ」
「サ、サキュバスですって!?」

 ソラネは愕然としながら声を上げたが、俺やしおんもまた驚嘆していた。

「う、嘘よ! ならどうしてあなたから吸血鬼の純血種が持つ波長を感じられの!」
「フフフ、そ・れ・はぁ~、私の先祖の一人が吸血鬼だからよぉ」
「……!? そっか、《多種隔世遺伝》!?」
「? 何だよそれは、ソラネ?」
「……百万人に一人いるかいないかって言われる極めて稀な隔世遺伝の持ち主のことよ。普通隔世遺伝っていうのは、祖父母とかそれ以前の世代が持つ遺伝が発現すること。でもそれはあくまでも一種の血族が目覚めるだけのものよ」

 しおんを例にしてみれば、彼女の先祖には吸血鬼がいるからこそ、たとえ両親が人間だったとしても、しおんは吸血鬼としての遺伝が発現し吸血鬼として誕生した。または吸血鬼としての能力が備わった人間として生まれることもある。

「けどね、《多種隔世遺伝》っていうのは、複数の血族の能力や姿を持って生まれるのよ。多分アイツは……姿や能力そのものはサキュバスでも、霊力自体は吸血鬼として生まれてきたのよ」
「な、なるほど……そういうことも有り得るんだな」

 奥が深い世界だ。
 しかしそのお蔭で、目撃者が吸血鬼だと推察したのも無理からぬこと。

 何せ隔世遺伝によって吸血鬼の波長を持って生まれたサキュバスなのだから。

「『理事会』も、まさかそんな稀少なケースが対象だったなんて思いもしてなかったみたいね」

 う~ん、どうだろうか。ただ吸血鬼かもしれないという記述があった以上は、こういう場合も想定していたような気もするけど。

「さあ、名乗ってあげたわぁ。できればあなたたちのことを教えてもらえないかしらぁ。特に……君のことぉ、知りたいわぁ」
「は? お、俺?」

 何故かご指名を受けたんだが……。

「と~っても美味しそうな……精気。今まで見たことがないほど濃厚なオーラだわぁ。早く食べたい……」

 思わずゾクッとするものを感じる。本来なら美女に迫られるのは嬉しいのだが、虎さんみたいになってしまうくらい求められるのはノーサンキューだ。

「相手はこのアタシよ、リリー・バット・ルネ!」
「あらん、そうだったわねぇ。じゃあまずは邪魔者倒してから、ゆ~っくりとあの子を頂くとしましょうかねぇ」

 するとリリーが物凄い速さでソラネへと迫っていくが、その場からソラネがスッと消えてしまう。
 女の爪による攻撃も、そのせいで空を切った。

 ソラネがどこに行ったのか。彼女は――空の上にいた。

 だがソラネ一人じゃない。彼女を横抱きにしている存在がいたのである。

 ――しおんだ。

「!? ……まさかそっちのお嬢ちゃんが『異種』だったなんてね。しかもこの波長……」

 女が面倒そうに発言する。さらにしおんの正体にも気づいたようだ。
 あの瞬間、しおんが自身の吸血鬼としての力を解放し、女と同じように翼をはためかせ、ソラネを抱いて空中へ飛んだのだ。

「ナイス、しおん!」
「うん! けど全力で飛ばれたら、今のわたしじゃ追いつかれちゃうよ」
「分かってるわ――《火俱夜》!」

 吹き飛ばされたはずの《火俱夜》だったが、驚いたことに切断された腕を復活させただけでなく、背中から翼を生やしソラネの傍まで飛翔してきた。
 事前にソラネには一応この能力について聞いていた。

 これは《霊気変装》といって、ソラネが触れている者の特徴を、霊気を物質化して《火俱夜》に装備させることができるらしい。

 あの翼は、しおんの翼を模して作ったもので、ソラネの霊気の塊というわけだ。ちなみに復活した腕も、同じように霊気を費やして元に戻した。
 ただ当然そらなりの霊気量を必要とするので、長期戦は圧倒的に不利になる。

「これで空中戦も問題ないわ!」

 相手を翻弄するかのように、ジグザグに飛行しながらリリーへと迫る《火俱夜》。

「こしゃくなんだからぁ」

 それでも余裕の笑みを崩さず、リリーは逃げることなく迎え撃つ。
 《火俱夜》の振るう扇に対し、両手の爪でいとも簡単に捌いていく。

「たかが空を飛べるだけで強くなったつもりかしらぁ!」

 確かに攻撃手段が増えたというだけで、別段強さが増したわけじゃない。
 しかし徐々に《火俱夜》の攻撃速度が上がっていく。

 するとピッ……と、リリーの頬に扇が掠め傷がついた。

「!? ……何ですってぇ?」

 そう、リリーは知らない。ソラネは、触れている者の霊気を自分のものに加算し、それを《火俱夜》の強さへと変換できることを。
 今、《火俱夜》にはしおんの霊気も備わっているのだ。

 しかも純血種の吸血鬼の霊気は強力ということもあり、徐々にだが《火俱夜》の力が増した結果、ようやく一撃を当てることができたのである。
 まさか攻撃を受けるとは思っていなかったのか、その表情が驚愕と同時に憤怒の感情を露わにしていく。

「こ、この私の顔に傷を……っ!」

 怒りで震えるリリーの全身から、それまで見たこともないほどの霊気が溢れてくる。


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

1枚の金貨から変わる俺の異世界生活。26個の神の奇跡は俺をチート野郎にしてくれるはず‼

ベルピー
ファンタジー
この世界は5歳で全ての住民が神より神の祝福を得られる。そんな中、カインが授かった祝福は『アルファベット』という見た事も聞いた事もない祝福だった。 祝福を授かった時に現れる光は前代未聞の虹色⁉周りから多いに期待されるが、期待とは裏腹に、どんな祝福かもわからないまま、5年間を何事もなく過ごした。 10歳で冒険者になった時には、『無能の祝福』と呼ばれるようになった。 『無能の祝福』、『最低な能力値』、『最低な成長率』・・・ そんな中、カインは腐る事なく日々冒険者としてできる事を毎日こなしていた。 『おつかいクエスト』、『街の清掃』、『薬草採取』、『荷物持ち』、カインのできる内容は日銭を稼ぐだけで精一杯だったが、そんな時に1枚の金貨を手に入れたカインはそこから人生が変わった。 教会で1枚の金貨を寄付した事が始まりだった。前世の記憶を取り戻したカインは、神の奇跡を手に入れる為にお金を稼ぐ。お金を稼ぐ。お金を稼ぐ。 『戦闘民族君』、『未来の猫ロボット君』、『美少女戦士君』、『天空の城ラ君』、『風の谷君』などなど、様々な神の奇跡を手に入れる為、カインの冒険が始まった。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

処理中です...