異世界帰りの俺は、スキル『ゲート』で現実世界を楽しむ

十本スイ

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第三十三話 絆の強さ

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「…………うん。黙ってて……ごめんなさい」

 いまだソラネのことを真正面から見ることができないようで、顔を俯かせたままだ。

「……まったくよ。ほんっとーに信じらないわ」

 その言葉を受けて、さらにしおんの恐怖が増したようで震えが増す。

 しかし――。

「もっと早く教えてほしかったわ。それだったらアタシのこともすぐに話せたのにさ」
「え……?」
「ん? 何よその顔は? ……あ、まさかアタシがしおんのことを怖がるとでも思った? お生憎さま。アタシも言ってなかったけど、これでも『妖祓い』なのよ。しおんなんかよりも怖~い妖なんていっぱいいるんだから」
「ソラちゃん……」
「もう一度聞くわ、しおん。しおんは……吸血鬼なのね?」
「…………そう。吸血鬼――ヴァンパイアだよ」
「そっかぁ……まさかしおんがねぇ」
「あ、あのソラちゃん……本当にその……わたしが吸血鬼でも何とも思わないの?」
「何ともってわけじゃないけど、親友が『異種』だったってだけでしょ?」
「それは……でも……お姉ちゃんに聞いたよ。ソラちゃん……妖が苦手って」
「何で真鈴さんが知って……いや、しおんの友達ってことで調べたってわけか」

 さすがはソラネ。すぐに勘づいたようだ。

「まあ、ね。じゃあ聞くけど、しおんは人を問答無用で襲う妖なの?」
「違う! わたしやお姉ちゃんはそんなことしないよ!」
「だったらいいじゃない」
「ふぇ?」
「確かにアタシは小さい頃に妖に襲われたことで、妖が苦手……てか、あまり良く思ってないわ。でもね、それは人間だってそうでしょ? 人間の中にだって酷い連中はいるし、小さな子供を襲ったりする奴もいる。でもそれで人間が嫌いになる?」

 まあ極論みたいな感じだが、確かにそれだけで種族すべてを嫌いになる可能性は低い。余程死にたくなるようなトラウマでも植え付けられたなら別だが。

「じゃあ……ソラちゃんはわたしがヴァンパイアでも、今まで通りでいい……の?」
「つか態度とか変えたら怒るし。しおんはしおんで、アタシの大切な親友なんだからね!」

 出ました、デレ発言! 

「それにしおんはどうなのよ? アタシはその……『妖祓い』だし、それでも……いいわけ?」
「うん。ソラちゃんはソラちゃんだし、ね」
「あ、パクったわね」
「ふふふ」
「あはは」

 互いに顔を見合わせ笑い始める。
 俺は遠目に様子を見ていた真鈴さんに気づき、彼女もどこかホッとした様子だった。

「それで? 何でヒロがいんのよ? まあ話の流れから、アンタは最初からぜ~んぶ知ってたみたいだけど?」

 うっ……その追及するような眼差しは止めてくれ。これでも君らの板挟みで結構悩んだんだからね! あー、俺のデレは気持ち悪いなこれ。つかデレにもなってねえか。

 俺は苦笑しながらも、今回のことについて二人に話した。真鈴さんに話した内容のすべてを。

「ろっくん、ごめんね? わたしたちのために、そこまで悩ませてしまって」
「悪かったわ、ヒロ。そりゃしんどかったわね」
「いやいや、こうして二人が変わらずに友達でいてくれるならそれでいいって。何だか報われた気分だし。……それとソラネ、お前にはまだ話してなかったことがあるんだ」
「ん? 何よ改まって。……! まさかアンタも『異種』だったとかじゃないでしょうね!」
「あー『異種』じゃねえけどぉ……」

 チラリとしおんを見ると、彼女が「あはは……」と乾いた笑いを浮かべるので、

「しおんは知ってるみたいだけど……一体何よ? さっさと話しなさい」

 ジト目でソラネが急かしてきた。
 俺はしおんと真鈴さんに話した自分のことをソラネにも話して聞かせた。

 当然「冗談でしょ?」的な感じの顔をしていたが、しおんが後押しする形で「本当だよ」と言うので、ソラネもまた信じざるを得なくなった。

「……じゃ、じゃあその《ゲート》? っていうスキル、見せてみてよ。そうしたら信じるから」
「わーったよ。――《ゲート》」

 俺は座っている場所に開き、そこから姿を消す。

「ちょっ!? ええっ!? ヒロ!?」
「こっちこっち」
「ひゃっ!? い、いつの間に後ろに……!?」
「いや、だから《ゲート》を開いて、お前の背後に移動したんだよ」
「…………」

 さすがに初見は驚くようで絶句して固まってしまっている。
 すると唇に手を当てて、ブツブツと何か呟き始めた。

「…………つまり空間転移? 嘘でしょ……どんな優れた霊能力者でも自らを転移できる人はいないのに……!」
「えーと……ソラネ?」
「え? あ、うん?」
「今ので理解してくれたか?」
「そ、そうね。けどヒロがまさか異世界を救った英雄だなんて……何だかウケるわね」
「ウケるなよ。俺だって自分がそんなことになるとは思ってなかったんだしよぉ」
「……でもあんまり無茶しないでよ。生き返ったから良かったものの、死ぬなんて……絶対許さないんだからね」
「そうだよ、ろっくん! わたしたちの前からいなくなっちゃヤだからね!」

 二人に詰め寄られながらも、こうして心配してくれることが素直に嬉しい。心がぽわっと灯がともったようにあったかくなる。

「おう。まあ今の俺は最強レベルだしな。そう簡単に死なねえよ」

 実際ドラゴンがやってこようが、隕石が降ってこようが生き残れる自信があるし。

「でもなるほどねぇ。アンタの霊力の強さに納得したわ。転生かぁ……きっとそのお蔭で魂が強化されたのね。アタシも転生できないかしら」
「ちょ、ダメだよソラちゃん、危険だよ!」
「じょ、冗談だってば! ……あ、そういやしおんと真鈴さんに聞いておかないといけないことがあったんだった」

 思い出したかのようにソラネがハッとなる。
 俺はすぐにそのことに思い当たり、

「あー大丈夫だぞ、ソラネ。二人は依頼とは何の関係もないから」

 そう言い、真鈴さんに聞いたことをソラネにも話してやった。

「――――そうだったのね。しおんと真鈴さんが純血種だったことも驚いたけれど、『夜統』っていう吸血鬼の血筋が残ってるかもって話の方が興味深いわね。しおんも会ったことはないのよね?」
「うん。わたしもお姉ちゃんから話を聞いただけ」
「そっか。でも手掛かりはそれだけだし、そっちの線で探ってみるしかないわね」
「えと……ろっくんはソラちゃんを手伝ってるんだよね?」
「そうだぞ。それがどうかしたか?」
「わたしも何かお手伝いできないかな?」
「へ? しおんも? 『妖祓い』の仕事は危険よ?」
「心配してくれてありがと。でもほら、わたし一応ヴァンパイアだし」
「そういえばそうだったわね……。見た目じゃ分からないけど、純血種なんだからそこらの妖よりもランクが上だったわ」

 仮にしおんがヴァンパイアの力を全開放して戦ったとしたら、ソラネでは相手にならないほどの潜在能力はあるらしい。

「お姉ちゃん、ソラちゃんを手伝ってもいい?」

 後ろの方に控えていた真鈴さんに顔を向けたしおん。
 真鈴さんもまた声を掛けられたことによって、こちらへと近づきながら答える。

「そうですね。条件があります」
「条件?」
「はい。一人で行動は絶対にしないこと。そして無理を押し通さないこと。ソラネちゃんの言うことを聞くこと。守れますか?」
「うん! 守れるよ!」
「なら許可します」
「やった! ねえソラちゃん、ろっくん、わたしもこれから一緒だからね!」

 余程省かれた形になっていたことに思うところがあったのか、心から嬉しそうな笑顔を見せてくる。

「しょうがないわね。じゃあここにいるメンバーで、必ずAランク任務を達成するわよ!」
「「おー!」」

 こうして俺たちは、絆にヒビを入れることなく、いや……さらに絆を強めることができたのであった。

 しかし翌日、俺たちが慕う先輩である虎さんが、何者かに襲われて入院するという報を受けたのだった。


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