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第三十二話 対話の覚悟
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しおんがソラネと遭遇し、その正体がバレたことを告げた。
黙って話を聞いていた俺もそうだが、真鈴さんもまた困ったように顔をしかめている。
「…………どうしよう……わたし…………」
落ち込むしおんを見て、覚悟を決めたのか真鈴さんが軽く深呼吸をして口を開き始める。
「しおん、聞いて欲しいことがあるんです」
「お姉ちゃん……?」
「ソラネさんがあなたを見た時、どうしてすぐに吸血鬼だと断定できたと思いますか?」
……なるほど。そういう流れから説明していくつもりか。
「え? ……そういえば……波長を感じてって言ってた……え? どうして?」
普通、『異種』に詳しくなければ、いや、波長を感じられるほどの霊力がなければ、しおんを一目見て吸血鬼だと断定はできないだろう。
黒い翼や瞳の色だけで、吸血鬼だって判断することは不可能だ。他にも同じような特徴を持つ『異種』だっているのだから。
吸血歯にしたって、そこまで分かりやすく唇の外にまで伸び出ているわけもないので、それで判断することもできなかったはず。
だからこそ、ソラネの断定にしおんは疑問を抱いたのだ。
「落ち着いて聞いてくださいね。……秋津ソラネさんは――『妖祓い』なんです」
「!? ソ、ソラちゃんが? 嘘……だよね?」
「いいえ。彼女と、彼女の母……こう言い換えましょうか。秋津家は立派な『妖祓い』の家系でもあるんです」
「そんな……ソラちゃんが『妖祓い』? ……どうして今まで教えてくれなかったの?」
「すみません。どうしても言い出せなかったんです。本当に……ごめんなさい」
「お姉ちゃん…………ううん。お姉ちゃんはきっとわたしのことを想って黙っててくれたんだと思う」
良かった。苛烈な言い合いに発展するかもってドキドキしたぞ。
「でもだったらなおさら……どうすればいいんだろ? ソラちゃんがもし……妖嫌いだったらわたし……」
ソラネが『妖祓い』と聞いて、幾分かホッとした様子を見せていたしおん。何も知らない人間よりかは、妖への免疫が高いからだ。受け入れてくれる可能性もまた高い。
しかし妖が嫌いで『妖祓い』になる者も多い。つまりは基本的に両極端な人種なのだ。
好きか嫌いか。
もし好きなら和解できるが、嫌いなら……。
しおんの不安は、そんな後者による恐怖でいっぱいだろう。
そして俺と真鈴さんはもう知っている。
ソラネが妖のことをあまりよく思っていないことを。俺は直に言葉としてそう聞いている。
だからこそ、それを告げるのは断腸の思いに等しい。
真鈴さんも悲痛な表情で、伝えようか伝えまいか躊躇している様子が窺える。
俺は真鈴さんだけに任せることなんてできない。俺だって真実を知っているんだから。
――キィ。
ゆっくりと扉を開けて姿を見せると、俺に気づいた真鈴さんはハッとなっているが、しおんは顔を俯かせている状態なので、まだ気づいていない。
「……しおん」
「!? え? え? な、何でここにろっくんが!?」
「悪いな、実は――」
少し前にここへ来て、真鈴さんとちょうど二人のことについて話していたことを伝えた。
「……そう、だったんだ。そっか……だからソラちゃんてば、わたしには言えなかったんだね」
「ああ。ソラネもまたヤクザな商売をしてるからな。別に誇りを持ってねぇってわけじゃねえけど、普通の人間って思われてたしおんを巻き込みたくなかったんだよ」
「はは、でも驚きだな。ろっくんがまさかスカウトされてたなんて」
「俺だってビックリだ。つか『妖祓い』なんて仕事があることも初めて聞いたし、幽霊だって初めて見たんだぜ。ありゃビビったな」
「そっかぁ……」
しおんの言葉のあとに、少しだけ沈黙が流れる。
そこで俺は静かに口を開く。
「……ソラネは過去に妖に殺されそうになった記憶があるんだよ」
「!? ……ソラちゃん……が?」
「ああ、アイツに直接聞いたから間違いねえ。だからか、あまり妖に対してよく思ってねえ」
「っ……やっぱりそう……なんだ」
期待が無惨にも散ったと感じ取ったのか、しおんの両目から涙が零れ落ちる。
「けどよ、アイツは別に妖を憎んでるわけじゃねえぞ」
「……え?」
「こんなことも言ってたんだ。妖だけじゃない。『異種』と人とを繋ぐこともまた、自分の仕事だって」
「ソラちゃん……が?」
「だからきっと……大丈夫だ。まったく見知らぬ同士ならともかく、お前とソラネなら……」
するとその時、ピンポーンとインターホンが鳴り響いた。
そこへ滝宮さんが、扉をノックして、こう報せた。
「しおんお嬢様――秋津様がお見えになられました」
その言葉を受け、目を見開くしおん。
「ほらな。もし拒絶するなら、お前を追いかけては来ないよ」
「ソラちゃん……!」
そもそもアイツが親友が『異種』だったからって排除するような奴かよ。
「さあ、行ってこい、しおん」
「ろっくん…………ついてきてくれる?」
「お、俺も!?」
「日六くん、ついていってあげてください。それにあなたもソラネちゃんに説明しなければならないことがあると思いますし」
「あー……ですね。じゃ、一緒に行くか、しおん」
「うん!」
こうして俺としおんは、ともに友人を出迎えに行ったのである。
リビングに入ると、そこにはソファに座ってジッとしているソラネの姿があった。彼女はまだこちらには気づいていない。
俺が向かおうとしたら、隣にいたしおんがまるで足を掴まれているかのように動かない。
見れば僅かに身体を震わせている。やはりまだ不安がいっぱいなのだろう。拒絶されるかもしれないという想像を拭えずにいるのだ。
俺はそんな彼女の背中を優しくポンと叩いてやる。
そして俺の顔を見上げてきたしおんに、俺も大丈夫だという意味を込めて頷く。
するとしおんが大きく深呼吸をし、意を決したように前に進み始めた。
「――――ソラちゃん」
声を掛けられたことで、ビクッとしてすぐに振り向きしおんを確認したソラネ。同時にそこに俺がいたことの衝撃も相まって、口をパクパクさせている。
「ソラネ、しおんと話すために来たんだろ? 俺もまあ……話すことがあってな」
良い機会だから、俺のことも話しておこう。それがソラネの友人としてやるべきことだと思ったから。
だがまずはしおんとソラネの二人についてだ。
俺たちはソラネと対面する形に設置されたソファへ腰を下ろす。
声をかけたはいいものの、しおんはどう話せば良いか定まっていないのか沈黙したままだ。
それを見かねてか、ソラネが先に口を開いた。
「……しおんは…………妖……『異種』だったの?」
そう尋ねられたら、もう逃げ場はない。さあしおん、覚悟を決めろ。
黙って話を聞いていた俺もそうだが、真鈴さんもまた困ったように顔をしかめている。
「…………どうしよう……わたし…………」
落ち込むしおんを見て、覚悟を決めたのか真鈴さんが軽く深呼吸をして口を開き始める。
「しおん、聞いて欲しいことがあるんです」
「お姉ちゃん……?」
「ソラネさんがあなたを見た時、どうしてすぐに吸血鬼だと断定できたと思いますか?」
……なるほど。そういう流れから説明していくつもりか。
「え? ……そういえば……波長を感じてって言ってた……え? どうして?」
普通、『異種』に詳しくなければ、いや、波長を感じられるほどの霊力がなければ、しおんを一目見て吸血鬼だと断定はできないだろう。
黒い翼や瞳の色だけで、吸血鬼だって判断することは不可能だ。他にも同じような特徴を持つ『異種』だっているのだから。
吸血歯にしたって、そこまで分かりやすく唇の外にまで伸び出ているわけもないので、それで判断することもできなかったはず。
だからこそ、ソラネの断定にしおんは疑問を抱いたのだ。
「落ち着いて聞いてくださいね。……秋津ソラネさんは――『妖祓い』なんです」
「!? ソ、ソラちゃんが? 嘘……だよね?」
「いいえ。彼女と、彼女の母……こう言い換えましょうか。秋津家は立派な『妖祓い』の家系でもあるんです」
「そんな……ソラちゃんが『妖祓い』? ……どうして今まで教えてくれなかったの?」
「すみません。どうしても言い出せなかったんです。本当に……ごめんなさい」
「お姉ちゃん…………ううん。お姉ちゃんはきっとわたしのことを想って黙っててくれたんだと思う」
良かった。苛烈な言い合いに発展するかもってドキドキしたぞ。
「でもだったらなおさら……どうすればいいんだろ? ソラちゃんがもし……妖嫌いだったらわたし……」
ソラネが『妖祓い』と聞いて、幾分かホッとした様子を見せていたしおん。何も知らない人間よりかは、妖への免疫が高いからだ。受け入れてくれる可能性もまた高い。
しかし妖が嫌いで『妖祓い』になる者も多い。つまりは基本的に両極端な人種なのだ。
好きか嫌いか。
もし好きなら和解できるが、嫌いなら……。
しおんの不安は、そんな後者による恐怖でいっぱいだろう。
そして俺と真鈴さんはもう知っている。
ソラネが妖のことをあまりよく思っていないことを。俺は直に言葉としてそう聞いている。
だからこそ、それを告げるのは断腸の思いに等しい。
真鈴さんも悲痛な表情で、伝えようか伝えまいか躊躇している様子が窺える。
俺は真鈴さんだけに任せることなんてできない。俺だって真実を知っているんだから。
――キィ。
ゆっくりと扉を開けて姿を見せると、俺に気づいた真鈴さんはハッとなっているが、しおんは顔を俯かせている状態なので、まだ気づいていない。
「……しおん」
「!? え? え? な、何でここにろっくんが!?」
「悪いな、実は――」
少し前にここへ来て、真鈴さんとちょうど二人のことについて話していたことを伝えた。
「……そう、だったんだ。そっか……だからソラちゃんてば、わたしには言えなかったんだね」
「ああ。ソラネもまたヤクザな商売をしてるからな。別に誇りを持ってねぇってわけじゃねえけど、普通の人間って思われてたしおんを巻き込みたくなかったんだよ」
「はは、でも驚きだな。ろっくんがまさかスカウトされてたなんて」
「俺だってビックリだ。つか『妖祓い』なんて仕事があることも初めて聞いたし、幽霊だって初めて見たんだぜ。ありゃビビったな」
「そっかぁ……」
しおんの言葉のあとに、少しだけ沈黙が流れる。
そこで俺は静かに口を開く。
「……ソラネは過去に妖に殺されそうになった記憶があるんだよ」
「!? ……ソラちゃん……が?」
「ああ、アイツに直接聞いたから間違いねえ。だからか、あまり妖に対してよく思ってねえ」
「っ……やっぱりそう……なんだ」
期待が無惨にも散ったと感じ取ったのか、しおんの両目から涙が零れ落ちる。
「けどよ、アイツは別に妖を憎んでるわけじゃねえぞ」
「……え?」
「こんなことも言ってたんだ。妖だけじゃない。『異種』と人とを繋ぐこともまた、自分の仕事だって」
「ソラちゃん……が?」
「だからきっと……大丈夫だ。まったく見知らぬ同士ならともかく、お前とソラネなら……」
するとその時、ピンポーンとインターホンが鳴り響いた。
そこへ滝宮さんが、扉をノックして、こう報せた。
「しおんお嬢様――秋津様がお見えになられました」
その言葉を受け、目を見開くしおん。
「ほらな。もし拒絶するなら、お前を追いかけては来ないよ」
「ソラちゃん……!」
そもそもアイツが親友が『異種』だったからって排除するような奴かよ。
「さあ、行ってこい、しおん」
「ろっくん…………ついてきてくれる?」
「お、俺も!?」
「日六くん、ついていってあげてください。それにあなたもソラネちゃんに説明しなければならないことがあると思いますし」
「あー……ですね。じゃ、一緒に行くか、しおん」
「うん!」
こうして俺としおんは、ともに友人を出迎えに行ったのである。
リビングに入ると、そこにはソファに座ってジッとしているソラネの姿があった。彼女はまだこちらには気づいていない。
俺が向かおうとしたら、隣にいたしおんがまるで足を掴まれているかのように動かない。
見れば僅かに身体を震わせている。やはりまだ不安がいっぱいなのだろう。拒絶されるかもしれないという想像を拭えずにいるのだ。
俺はそんな彼女の背中を優しくポンと叩いてやる。
そして俺の顔を見上げてきたしおんに、俺も大丈夫だという意味を込めて頷く。
するとしおんが大きく深呼吸をし、意を決したように前に進み始めた。
「――――ソラちゃん」
声を掛けられたことで、ビクッとしてすぐに振り向きしおんを確認したソラネ。同時にそこに俺がいたことの衝撃も相まって、口をパクパクさせている。
「ソラネ、しおんと話すために来たんだろ? 俺もまあ……話すことがあってな」
良い機会だから、俺のことも話しておこう。それがソラネの友人としてやるべきことだと思ったから。
だがまずはしおんとソラネの二人についてだ。
俺たちはソラネと対面する形に設置されたソファへ腰を下ろす。
声をかけたはいいものの、しおんはどう話せば良いか定まっていないのか沈黙したままだ。
それを見かねてか、ソラネが先に口を開いた。
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