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第三十話 突然の告白
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「……私の方でも情報を集めてみます」
「いいんですか?」
「必要なのでしょう? どうやら何かまた事件に巻き込まれているみたいですし」
「はは……」
「日六くんには、私たち姉妹を救ってもらった大きな恩があります。だから力になりたいんです」
「真鈴さん……けど」
「分かっています。詳しくは聞いていませんが、吸血鬼が絡んでいるというのなら、下手をすれば私たちにも害が及ぶかもしれない。それを懸念しているからこそ、しおんには秘密にしておきたい。違いますか?」
「害……どうでしょう。ただちょっと複雑な事情なのは確かです。真鈴さんに確かめられたお蔭で、『理事会』が追ってる吸血鬼があなたたちじゃないってことは分かりました。けど……」
ソラネが真実を突き止めていけばいくほど、きっといつかはこの人たちに辿り着いてしまう。
そうなった時、ソラネがどんな対応を見せるのか……それを考えるとちょっと怖い。
「……その抱えている重荷、少しでも私にも背負わせては頂けませんか?」
どうするか……。しおんに言うよりは良いかもしれない。
この人は俺たちなんかよりも大人だし、『異種』関係だけじゃなく、人と『異種』の関係についても経験があるだろう。
何か良いアドバイスを聞くことができるかもしれない。
「……実はですね」
俺はソラネが『妖祓い』だということを伝えた。
だが驚くことに、彼女から返ってきた言葉は予想外のものだった。
「――――ええ、知っていますよ?」
「ですよね。驚きますよね……って、は? ……い、今知ってるって言いました?」
「はい。ソラネさん……秋津ソラネさんのことですよね? しおんの友達の」
「……えと……ちょっと待ってください。少し時間をください」
あれぇ? 知ってた? 知ってたの? じゃあ何? 今までの俺のこの苦悩は無意味だったってわけ!?
「あ、ですがしおんは知りませんよ? 彼女が『妖祓い』ということは」
「へ? そうなんですか? あ、てかいつ知ったんです?」
「しおんがソラネちゃんの話を家でし始めたくらいでしょうか」
「……てことは、高一の時にはすでに?」
「そうですね。しおんが友人として選んだ子ですから。大丈夫だとは思いますが、一応調べたんです」
これまでもしおんが注目した人物がいれば、必ず秘密裏に真鈴さんはその人物を調査していたらしい。
しおんを傷つけるような人間じゃないか、どの背景にはどんな環境があるかなどなど。
「……シスコン過ぎやしませんか」
「し、仕方ないじゃないですか! 私たちは『異種』で、あの子が中学の時に、それがバレて騒ぎになった経験もありましたから」
そのせいで、それまで付き合っていた人間が、しおんから離れてしまったという。しかもバレたのは、友人として付き合っていた子がバラしたかららしい。
だからしおんが付き合う人間がいれば調査し、しおんに害を成すような人物ではないか把握しておく必要があったのだという。
「……とにかくソラネのことは……てか、家のことも知ってるんですよね?」
「はい。彼女があの『恐山の仙女』と言われた秋津たたらの孫だということも」
「そういえばソラネからも聞きましたね。そんなに凄いんですか、アイツの祖母って」
「凄いなんてもんではありませんよ。この業界で知らない人はいないくらい有名な方ですから。彼女が残している伝説だって数多くありますよ。例えば暴れ回っていたSランクの妖を殴って止めて説教し、心変わりさせたとか。妖同士の戦争を、たった一人で止めたとか。そんな逸話がいろいろ」
何その勇者みたいな人。異世界でも十分に戦っていけるんじゃね? つか俺よりもレベルが上だったりして……。
「その強さのせいで、妖……『異種』には恐れられていますが、同時に敬われてもいるんです。多くの『異種』を救ってきた方でもあるらしいので」
「そうなんですか」
「ふふ、中には『異種』同士の結婚式に是非仲人としてって呼ばれることもあるらしいですよ」
「滅茶苦茶信頼されてるじゃないですか」
「ええ。だからこそ……ソラネちゃんがしおんの友達になったと聞いても、別に反対はしませんでした。そのような方の血を引く子ですから」
「『妖祓い』でも、ですか?」
「妖と友好関係を結んでいる『妖祓い』もたくさんいます。しおんには、そういった方たちに対して、怖がらずに向き合って行ってほしいと思っているんです」
「でもまだソラネのことは話してないんですよね?」
「…………」
少しだけ困った様子を見せる真鈴さん。これはやっぱ……あれだよな。
「もしかしてソラネが妖に対してあまりよく思ってないってこと知ってます?」
「! ……はい」
どうやら考えは的中したらしい。
「何やら過去に妖に襲われた経験からそうなったらしいことは分かっていますが」
それ以上の詳しいことは真鈴さんでも知らないらしい。
だがそんな過去を持っているにもかかわらず、ソラネのことを忌避しないのは、彼女が妖に対して真摯に向き合っているかららしい。
仕事にしても私情を挟まず、感情のままに妖を攻撃したりしない。必ず手を取り合えるよう対話をすることから、ソラネならと真鈴さんは許容しているようだ。
ただそれでもやはり妖に心を許すのは難しいものがあるだろう。
そう考え、いまだしおんにソラネのことを伝えるのを渋っているとのこと。
「やっぱ教えるのは躊躇しますよね。俺だって……マジでどうしようか悩んでますし」
「ですよね……」
「「……はぁ」」
当然二人には、変わらない友人関係でいてほしい。しかしこればかりはどう転ぶかは二人次第。
「まあでも少しはホッとしましたよ。真鈴さんがソラネのことを知ってて、その上でアイツを認めてくれてるみたいで」
「ソラネちゃんは本当に良い子ですから。それに家庭の事情も……その、不憫で」
「ああ……分かります」
あの母親のことだろう。イズミさんも良い人には違いないが、もう少し家庭を優先して上げてもいいと思う。
「日六くんが話したかったことは話せましたか?」
「はい。かなりスッキリしました。吸血鬼問題も、真鈴さんたちじゃないってことも分かりましたし」
それに可能性は低いかもしれないが、『夜統』という目星もつけられた。これからはそっちの線で動くことができる。
するとその時だった。
玄関の扉が勢いよく開いた音がして、真鈴さんは「あら、しおんが帰ってきたみたいです」と口にしたが、この部屋に向かって物凄い速度で、そのしおんらしき人物が走ってくる。
「とりあえず俺、隠れますね!」
慌てて部屋にある出入口とは違う扉を開いて中へと入る。そこは衣裳部屋になっていて、物凄い数の服や靴などが並べられていた。
――バタンッ!
大きな音を立てて出入り口の扉が開く。
俺はそっと扉を開き、覗き込む形で確認する。
やって来たのは、やはりしおんで間違いなかった。
何をそんなに慌てているのか、肩を上下させて疲れた表情を見せている。
「そんなに慌ててどうかしたんですか、しおん?」
「はあはあはあ……お、お姉ちゃぁん……」
何だか縋るような眼差しで、よく見れば涙まで浮かべている。
「どうしよぉ……どうしよぉぉ……」
只事ではない様子を感じ取り、心配そうに真鈴さんがしおんに近づこうとすると、しおんはそんな真鈴さんの胸の中へと飛び込んだ。
「一体何があったのですか?」
そんな問いに対し、しおんは――愕然とするような一言を口にする。
「ソラネちゃんに…………正体がバレちゃったよぉぉぉぉぉっ!」
……な、何ですとぉぉぉぉぉぉっ!?
俺は思わず声を上げそうになったが、真鈴さんもまた、しおんの突然のカミングアウトに絶句状態だ。
無理もない。今まさにどうソラネのことを話せば良いか考えていたところだったのだから。
できれば穏便に、それとなく伝えられるような環境が好ましいのは、俺も真鈴さんも考えていたことだろう。
突発的な事故で、互いのことを知るよりは、互いが真実を告げる覚悟をし、ちゃんとした場を整えてやった方が、分かり合える確率が高くなるのではと思ったのだ。
それなのに、まさかこのタイミングでとんでもない事件が舞い込んでくるとは誰が予想できただろうか。
「と、とりあえず何があったか教えてくれませんか、しおん?」
真鈴さんの腕の中で泣きじゃくるしおん。彼女の悲痛さは理解できるつもりだ。
一度こんな彼女を実際に目にしているから。
それはしおんのことが俺にバレた時、あの時も今みたいに悲しみに打ちひしがれたような姿をしていた。
真鈴さんはベッドの方へしおんを誘導し、二人で並んで座り込む。
俺はできるだけ存在感を消し、静かに耳を澄ませていた。
そして静かに、しおんが語り出す。
「いいんですか?」
「必要なのでしょう? どうやら何かまた事件に巻き込まれているみたいですし」
「はは……」
「日六くんには、私たち姉妹を救ってもらった大きな恩があります。だから力になりたいんです」
「真鈴さん……けど」
「分かっています。詳しくは聞いていませんが、吸血鬼が絡んでいるというのなら、下手をすれば私たちにも害が及ぶかもしれない。それを懸念しているからこそ、しおんには秘密にしておきたい。違いますか?」
「害……どうでしょう。ただちょっと複雑な事情なのは確かです。真鈴さんに確かめられたお蔭で、『理事会』が追ってる吸血鬼があなたたちじゃないってことは分かりました。けど……」
ソラネが真実を突き止めていけばいくほど、きっといつかはこの人たちに辿り着いてしまう。
そうなった時、ソラネがどんな対応を見せるのか……それを考えるとちょっと怖い。
「……その抱えている重荷、少しでも私にも背負わせては頂けませんか?」
どうするか……。しおんに言うよりは良いかもしれない。
この人は俺たちなんかよりも大人だし、『異種』関係だけじゃなく、人と『異種』の関係についても経験があるだろう。
何か良いアドバイスを聞くことができるかもしれない。
「……実はですね」
俺はソラネが『妖祓い』だということを伝えた。
だが驚くことに、彼女から返ってきた言葉は予想外のものだった。
「――――ええ、知っていますよ?」
「ですよね。驚きますよね……って、は? ……い、今知ってるって言いました?」
「はい。ソラネさん……秋津ソラネさんのことですよね? しおんの友達の」
「……えと……ちょっと待ってください。少し時間をください」
あれぇ? 知ってた? 知ってたの? じゃあ何? 今までの俺のこの苦悩は無意味だったってわけ!?
「あ、ですがしおんは知りませんよ? 彼女が『妖祓い』ということは」
「へ? そうなんですか? あ、てかいつ知ったんです?」
「しおんがソラネちゃんの話を家でし始めたくらいでしょうか」
「……てことは、高一の時にはすでに?」
「そうですね。しおんが友人として選んだ子ですから。大丈夫だとは思いますが、一応調べたんです」
これまでもしおんが注目した人物がいれば、必ず秘密裏に真鈴さんはその人物を調査していたらしい。
しおんを傷つけるような人間じゃないか、どの背景にはどんな環境があるかなどなど。
「……シスコン過ぎやしませんか」
「し、仕方ないじゃないですか! 私たちは『異種』で、あの子が中学の時に、それがバレて騒ぎになった経験もありましたから」
そのせいで、それまで付き合っていた人間が、しおんから離れてしまったという。しかもバレたのは、友人として付き合っていた子がバラしたかららしい。
だからしおんが付き合う人間がいれば調査し、しおんに害を成すような人物ではないか把握しておく必要があったのだという。
「……とにかくソラネのことは……てか、家のことも知ってるんですよね?」
「はい。彼女があの『恐山の仙女』と言われた秋津たたらの孫だということも」
「そういえばソラネからも聞きましたね。そんなに凄いんですか、アイツの祖母って」
「凄いなんてもんではありませんよ。この業界で知らない人はいないくらい有名な方ですから。彼女が残している伝説だって数多くありますよ。例えば暴れ回っていたSランクの妖を殴って止めて説教し、心変わりさせたとか。妖同士の戦争を、たった一人で止めたとか。そんな逸話がいろいろ」
何その勇者みたいな人。異世界でも十分に戦っていけるんじゃね? つか俺よりもレベルが上だったりして……。
「その強さのせいで、妖……『異種』には恐れられていますが、同時に敬われてもいるんです。多くの『異種』を救ってきた方でもあるらしいので」
「そうなんですか」
「ふふ、中には『異種』同士の結婚式に是非仲人としてって呼ばれることもあるらしいですよ」
「滅茶苦茶信頼されてるじゃないですか」
「ええ。だからこそ……ソラネちゃんがしおんの友達になったと聞いても、別に反対はしませんでした。そのような方の血を引く子ですから」
「『妖祓い』でも、ですか?」
「妖と友好関係を結んでいる『妖祓い』もたくさんいます。しおんには、そういった方たちに対して、怖がらずに向き合って行ってほしいと思っているんです」
「でもまだソラネのことは話してないんですよね?」
「…………」
少しだけ困った様子を見せる真鈴さん。これはやっぱ……あれだよな。
「もしかしてソラネが妖に対してあまりよく思ってないってこと知ってます?」
「! ……はい」
どうやら考えは的中したらしい。
「何やら過去に妖に襲われた経験からそうなったらしいことは分かっていますが」
それ以上の詳しいことは真鈴さんでも知らないらしい。
だがそんな過去を持っているにもかかわらず、ソラネのことを忌避しないのは、彼女が妖に対して真摯に向き合っているかららしい。
仕事にしても私情を挟まず、感情のままに妖を攻撃したりしない。必ず手を取り合えるよう対話をすることから、ソラネならと真鈴さんは許容しているようだ。
ただそれでもやはり妖に心を許すのは難しいものがあるだろう。
そう考え、いまだしおんにソラネのことを伝えるのを渋っているとのこと。
「やっぱ教えるのは躊躇しますよね。俺だって……マジでどうしようか悩んでますし」
「ですよね……」
「「……はぁ」」
当然二人には、変わらない友人関係でいてほしい。しかしこればかりはどう転ぶかは二人次第。
「まあでも少しはホッとしましたよ。真鈴さんがソラネのことを知ってて、その上でアイツを認めてくれてるみたいで」
「ソラネちゃんは本当に良い子ですから。それに家庭の事情も……その、不憫で」
「ああ……分かります」
あの母親のことだろう。イズミさんも良い人には違いないが、もう少し家庭を優先して上げてもいいと思う。
「日六くんが話したかったことは話せましたか?」
「はい。かなりスッキリしました。吸血鬼問題も、真鈴さんたちじゃないってことも分かりましたし」
それに可能性は低いかもしれないが、『夜統』という目星もつけられた。これからはそっちの線で動くことができる。
するとその時だった。
玄関の扉が勢いよく開いた音がして、真鈴さんは「あら、しおんが帰ってきたみたいです」と口にしたが、この部屋に向かって物凄い速度で、そのしおんらしき人物が走ってくる。
「とりあえず俺、隠れますね!」
慌てて部屋にある出入口とは違う扉を開いて中へと入る。そこは衣裳部屋になっていて、物凄い数の服や靴などが並べられていた。
――バタンッ!
大きな音を立てて出入り口の扉が開く。
俺はそっと扉を開き、覗き込む形で確認する。
やって来たのは、やはりしおんで間違いなかった。
何をそんなに慌てているのか、肩を上下させて疲れた表情を見せている。
「そんなに慌ててどうかしたんですか、しおん?」
「はあはあはあ……お、お姉ちゃぁん……」
何だか縋るような眼差しで、よく見れば涙まで浮かべている。
「どうしよぉ……どうしよぉぉ……」
只事ではない様子を感じ取り、心配そうに真鈴さんがしおんに近づこうとすると、しおんはそんな真鈴さんの胸の中へと飛び込んだ。
「一体何があったのですか?」
そんな問いに対し、しおんは――愕然とするような一言を口にする。
「ソラネちゃんに…………正体がバレちゃったよぉぉぉぉぉっ!」
……な、何ですとぉぉぉぉぉぉっ!?
俺は思わず声を上げそうになったが、真鈴さんもまた、しおんの突然のカミングアウトに絶句状態だ。
無理もない。今まさにどうソラネのことを話せば良いか考えていたところだったのだから。
できれば穏便に、それとなく伝えられるような環境が好ましいのは、俺も真鈴さんも考えていたことだろう。
突発的な事故で、互いのことを知るよりは、互いが真実を告げる覚悟をし、ちゃんとした場を整えてやった方が、分かり合える確率が高くなるのではと思ったのだ。
それなのに、まさかこのタイミングでとんでもない事件が舞い込んでくるとは誰が予想できただろうか。
「と、とりあえず何があったか教えてくれませんか、しおん?」
真鈴さんの腕の中で泣きじゃくるしおん。彼女の悲痛さは理解できるつもりだ。
一度こんな彼女を実際に目にしているから。
それはしおんのことが俺にバレた時、あの時も今みたいに悲しみに打ちひしがれたような姿をしていた。
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