異世界帰りの俺は、スキル『ゲート』で現実世界を楽しむ

十本スイ

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第二十七話 異種事案対策理事会

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 中にはいるのだ。突出した才能を有し、一足飛びで飛び級するような存在が。
 そして認められるのは、相応の実績を手にした人物のみ。

 そうだ。つまりソラネの目的は飛び級。
 Aランク以上の仕事をこなし、自身にBランク以上の腕があると認めさせることなのだ。

 ただ当然普通に考えて、預かり人がそんな危険な仕事を、まだDランクの弟子に与えるわけがない。

 これまで飛び級した人物も、突発的な事故に巻き込まれたり、已むに已まれぬ事情があって、結果的にそうなった例がほとんどだ。
 通常、見習いの弟子が事務所(師匠)を通さずに仕事を受けてはならない。

 だから今回のは完全な逸脱行為。本来なら罰せられる事案だ。
 しかしソラネは、これを突発的に巻き込まれたような形にして達成するつもりらしい。

 あの資料も、こっそりと事務所に保管されている資料をコピーしたもの。
 ここまでしてでも、ソラネは早くBランクに上がりたいのだろう。
 そうすれば自分が稼ぐことができるし、陸馬たちにももっと楽な暮らしをさせてやれるから。

「簡単に昇級できないことくらい分かってるわよ! けど今後何が起きるか分からないでしょ! だからもし私が結果を残したら、その時は認めてよ!」
「はいはい。自信を持つのも結構だけど、あまり急ぎ過ぎると痛い目を見ちゃうわよ?」
「っ…………分かってるし」

 イズミさんの言い分は正しい。別に彼女は意地悪がしたくて言っているわけじゃない。
 どんな世界も上を目指すのは簡単ではない。

 それこそ血の滲むような努力をして一人前になっていき、そして周りに認められていくようになるのだ。
 俺だって異世界に飛ばされた当初は、誰よりも弱くて悔しい思いをした。

 一刻も早く、この世界に戻りたくて必死で鍛えたのだ。何度も何度も血反吐を吐くような訓練をして、そのお蔭で今の俺が手に入った。
 正直なところ、ソラネの行為は褒められたものじゃないし、普通は止めるべきなんだろう。ハッキリいって危なっかしい。

 ただ彼女が急ぐ理由も分かるのだ。俺だってそうだったから。
 二年前の俺とどうしても被るからこそ、彼女の力になってやりたいって思う。

 まあ、マジで危ない時は俺も全力でフォローすればいいだけだ。最悪でも逃げ切るくらいはできるという自負はある。

「じゃあアタシたちは行くから!」
「ちゃんと避妊はしなきゃダメよ~」
「だ、だからそんなんじゃないって言ってるでしょっ! バカッ!」

 真っ赤な顔でソラネは、俺を置いて飛び出て行った。

「あんまからかわない方が良いと思うっすよ」
「ふふ、だって面白いんだもん。……ヒロくん、あの子をお願いね」
「お願い……ですか?」

 真剣なトーンで言い放ってきたので少し気になって聞き返してしまった。

「どうせあの子に無茶なことを頼まれてるんでしょ?」
「!? ……何のことっすかね」
「あの子、隠し事とか苦手だからすぐに分かっちゃうもの。それに……あなたのその内に秘めてる霊力。一体何があったのか知らないけれど、決して無関係じゃないでしょ?」

 ……どうもこの人にはお見通しだったみたいだ。

「アイツに無茶をしてほしくないなら、イズミさんが止めるべきでは?」
「若い頃の無茶は……止めないようにしてるのよ」
「どうしてっすか?」
「それもまた良い経験になるから。私がそうだったようにね。だから……たとえ傷ついても、あの子には全部を経験値にしてほしい」
「傷つくだけじゃ済まないかもしれないっすよ?」
「そこはほら、君がいるから」
「いやぁ、ただの青少年にそこまで頼られてもなぁ」
「ただの……じゃないでしょ? だってぇ……多分ヒロくん、今の私よりも強いだろうし」

 マジでこの人何なの? 俺、別に力とか出してねえし、むしろ隠してるのに!

「それにちゃんとフォローもするわよぉ。だから……お願いね?」

 可愛らしくウィンクをされてしまった。

「……はぁ。まあアイツは俺の友達っすから。死なせはしねえっすよ」
「あは、頼もしい! 本当にあの子、もらってくれたらいいのになぁ」
「それは親が決めることじゃないでしょ? じゃ、そういうことで」
「本当にカッコ良くなっちゃって……。頼むわね、ヒロくん」

 俺はイズミさんの言葉を背中で受けつつ部屋から出て行った。 
 雑居ビルの入口まで出ると、そこには不貞腐れたような表情を浮かべるソラネが立っていた。

「遅い!」
「開口一番にそれかよ」
「どうせお母さんに何か言い含まれてたんじゃないの?」
「んなことねえよ。お前のお目付け役を頼まれただけだ」
「ま、まさかヒロ! アンタ、お母さんの味方になったんじゃないでしょうね!」
「安心しろ。俺はお前の味方だ。何があってもな」
「っ…………そ、そう。それならいいわ」

 そこは別に照れるようなことでもないと思うが。

「と、とにかくちょっと早いけど、昼食を取ったらさっそく情報収集に向かうわよ」
「へーへー」
「やる気出す!」
「うおぉぉっしゃぁぁぁっ! やぁぁぁぁってやるぜぇぇぇぇっ!」
「うるさいバカッ!」

 …………解せぬ。




 カフェで軽い昼食を取ったあと、俺たちは例のAランクの依頼をこなすための情報を集めるために街中を散策することになった。

「カフェでも言ってたが、その……吸血鬼がこの街にいるのは事実なんだな?」
「ええ、そうよ。だってこの依頼、『異種事案対策理事会』直々の依頼だもの」

 昼食を食べている時に聞いたが、『異種事案対策理事会』の依頼は基本的にはどれもAランク以上らしい。
 それだけ困難で複雑な事情が絡み合っている仕事とのこと。ただその多くは、人間に害を成すような悪霊や妖の討伐依頼だ。

 今回のように、妖を探索して和解を求めるようなものは依頼は珍しいし、普通ならAランクに認定されない。
 なのに何故高ランクに設定されているのかは、相手が吸血鬼――ヴァンパイアだからだ。

 彼らは妖のランクでいうとBランク。
 ただ非常に珍しい純血種はAランクとされているのだ。何故ならヴァンパイアの血が濃いほど、その身に秘める力は強いから。

 彼らの祖先。始まりのヴァンパイアと呼ばれた者がいたらしいが、その者はSランクという最高の位をつけられている。それほどまでにヴァンパイアというのは、警戒すべき『異種』だということだ。

 そして今回、そんな純血種が絡んでいると目されているからこその高ランク。
 もし和解に失敗し、彼らが人間に敵対するようなら討伐・捕縛へと移行しなければならず、自ずと『妖祓い』としての力量が求められる。

「本来ならこれもイズミさんが行うはずの依頼だったんだよな?」
「まあね。けどそれよりも困っている人たちの依頼を優先して、すっと放置されていた依頼なのよ」
「だったらもう誰かが達成したんじゃねえの?」
「そう思って理事会に問い合わせたけど、まだだったわ」

 くそぉ、まかり間違って依頼破棄になってたら良かったのに……。

「でも被害は出てねえんだろ? 簡単に和解できるんじゃね?」
「少なくても表面上はね。けれどそもそも『理事会』が把握してない『異種』がいるってことが気になるのよ」
「どういうことだ?」
「弱い力しか持ってない『異種』なら見逃しても納得できるけど、吸血鬼みたいな高ランクの『異種』の存在を認知してないのがちょっとね……」
「そういうこともあるんじゃねえの? ほら、向こうだって力を隠してるかもしれないし」
「確かに……けど、だったらどうして吸血鬼がこの街に潜伏してるって分かったのよ?」
「それは……」
「つまりその吸血鬼が、何かしら正体がバレるようなことをしたってことじゃない?」

 なるほど。一理ある。

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