異世界帰りの俺は、スキル『ゲート』で現実世界を楽しむ

十本スイ

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第二十六話 秋津イズミ

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「けほっ、けほっ、けほっ。もう……実の母親に何てことを……って、久しぶり?」
「あ、はい。俺ですよ、同本日六です」
「………………! ええぇぇぇぇっ!? あ、ほんとだ! 何だか急に大人っぽくなっちゃってて、一瞬別人かって思ったよぉ! 久しぶりねぇ~!」

 はは、まあ二年の成長度があるから、あまり会わない人にとっちゃ別人みたいに見えるのかもしれない。

「へぇ~、何だか男前が上がったわねぇ、ヒロくん」
「そ、そうですか?」
「うん! 私がもう少し若かったら手を出すくらいね!」
「お母さんっ!」

 いやいや、ソラネ。ただの冗談だって、何故分からん。ちょっと熱くなり過ぎ。

 それにしてもこの人は相変わらず高校生の娘がいる母親に見えない。
 大学生ですって言われても十人いたら十人とも信じると思うほど綺麗で若々しい。

 またスタイルもソラネより良くて、特にタンクトップに収まり切れていない母性の象徴には、つい目線が行ってしまう。
 そして俺のそんな男としての忠実な欲に気づいたのか、

「あらぁ、ヒロくんったら、こ~んなおばさんのココに夢中なのかしらぁ?」

 などと、とんでもない爆弾を投げつけきた。

「!? ヒィィィロォォォ……ッ!」
「い、いや、誤解だ! ちょっと視線がイズミさんのおっぱいに行っただけだし!」
「どこが誤解なのよ! このスケベッ!」

 あ、ですね。全然誤解じゃありませんでしたわ。

「お母さんも早く着替えてきて!」
「えぇーめんどくさぁい」
「い・い・か・ら! 早くっ!」
「あん、もう! 乱暴な子ねぇ」

 ソラネに無理矢理立たされて、そのまま背中を押されてキッチンスペースの方へと消えていった。
 あの奥にはもう一つ部屋があったようで、そこには服やら日用品やらがあるらしい。

 しばらくすると、ソラネと一緒にイズミさんが戻ってきた。
 所長専用のテーブルに着いたイズミさんが、ソラネから受け取った弁当を手にし微笑みながら口を開く。

「わざわざ届けてくれてありがとねぇ。せっかくデートの最中だったのにぃ」
「だ~か~ら~、デートなんかじゃないって言ってるでしょうが!」

 ソラネも大変だな。俺は明らかに面白がっていることが分かっているので、いちいち反応はしないが。

「けれど……ソラネ」

 するとスッと目を細めたイズミさんの雰囲気が少し変わった。

「な、何よ?」
「……ヒロくんをここに連れてきたっていうことは、もう彼にはすべて話してるのね?」
「……うん」

 ソラネが頷くと、イズミさんがニコッと嬉しそうな笑みを浮かべた。

「良かったわねぇ。『妖祓い』ってことを言える友達ができて。今までずっと隠してきたものねぇ」
「…………別に、今まで話す理由がなかっただけだから」

 頬を紅潮させながらも、プイッとそっぽを向くソラネ。
 俺は少し気になっていることをイズミさんに問う。

「俺もソラネやイズミさんが、こんな仕事をしていたことを知って驚きましたよ。でも、そんなに珍しいことなんですか? 聞くところによると国家資格でもあるらしいですし」
「んーそうねぇ。堅気な商売ってわけじゃないのは確かね。何せ相手は幽霊とか妖だし、世間では忌避されがちの職業なのよぉ」
「そんなもんですかね」
「ヒロくんは受け入れてくれたようだけど、私たちのような異質な力を持つ存在を認められないって人もいてね。中には過激な反応をしてこられることもあるの」

 それは……分かる。

 普通ではない力を持つ存在。
 人間はそんな異質なものを嫌う。理解できない力に怯え、遠ざける。
 霊能力者だって例外じゃないだろう。何せ普通の人間にはどうしようもない幽霊や妖相手に戦えるほどの強さを有しているのだから。

 もしその力が自分たち向けられたらと恐怖し、不安を募らせるからこそ、多くの者は排除したがる傾向にあるのだ。
 実際俺も異世界で災厄をぶっ倒した時、英雄と持て囃されることもあったが、裏ではその力に怯えられて排除されそうになったこともあった。

「力を持ってるって、必ずしも幸せに繋がるわけじゃないですからね」
「! ……ヒロくん、あなた……やっぱり私が知ってるヒロくんとはどこか違う感じだわ」
「え……!」
「何だか急激に成長したような……それも通常では有り得ない形で」

 この人は……!?

 俺は思わず息を飲んでしまった。
 もちろんイズミさんの洞察力に、だ。
 さすがに俺が異世界で死線を潜り抜けていたなどといった突拍子もない事実には気づいていないだろうが、それでも尋常ではない世界に揉まれたということを見抜いた。

 いや、さすがは『妖祓い』として名を馳せているだけの経験者と言えよう。

 はは、こっちの世界のイズミさんは鋭いな。恐ろしいまでに。

「ちょっとお母さん、そんなことより事務所に泊まるのは止めてって言ったよね!」
「えぇー、別にいいじゃなぁい。ここにいた方が仕事だって取りやすいしぃ~」
「それがお金に繋がるなら大歓迎よ。けどどうせ無報酬なんでしょ?」
「だ、だってだってぇ……困ってる人を助けるのは良いことでしょぉ?」
「良いことだけど! それでもお婆ちゃんからの仕事くらいはちゃんとやって! そしてお金をもらって!」
「も、もう~、そんな目くじらばっか立ててるとヒロくんに嫌われちゃうぞ?」
「お母さん?」
「ひゃっ! マ、マジでその目つき止めて……怖いからぁ」

 どうやら毎度毎度こんな感じでソラネはイズミさんに説教しているのだろう。
 しかしイズミさんもまた頑固なのか、ソラネの言葉を受け入れはしない。

「はぁぁぁ…………ねえお母さん」
「な、何?」
「前に言ったわよね? アタシがBランクに昇級したら、ちゃんとお金をもらって仕事をするって」
「え、え~とぉ……言ったっけぇ?」
「言った!」
「は、はい! 言いました言いました!」

 おいおい、どんだけ弱いんだよイズミさん。自分の娘にビビり過ぎ。

「絶対に近いうちにBランクに昇級してみせるわ! そんで約束は守ってもらうから!」
「で、でもぉ……Bランクに上がるには、Bランクの依頼を幾つかこなす必要があるのよぉ? あなたはまだDランクでしょ? そんなすぐに昇級なんてできないわよぉ」

 ここで『妖祓い』のランクについて説明しておこう。
 まず国家試験で合格し、免許証を交付された瞬間から『妖祓い』として認定を受ける。

 この時、ランクは――E。

 資格は取れたとしても、まだ見習いの範囲で、基本的に仕事も一人では受けることはできない。だから初心者はベテランの預かりとなり、経験を積む義務が与えられている。

 そこで一人でも依頼をこなせると、預かり人が認めたら晴れてDランクに昇級するのだ。
 Dランクになると、ようやく初めて一人でDランク相当の依頼をこなすことが可能になる。

 数々の依頼をこなしていき、Cランクの依頼を一つでも達成することができれば、また一つランクが上がりかCとなるのだ。
 そしてBランクに上がるには、Bランク相当の依頼を幾つかこなす必要がある。その結果を見て預かり人が判断し、『異種事案対策理事会』へと昇級申請を出す。

 そこで十分に資格ありと認められたらBランクを名乗ることができるというわけだ。
 ちなみにBランクになると独立もできるようになるし、一人前の『妖祓い』として仕事をしていけるのだ。

 ソラネは、以前イズミさんに、Bランクになったら独立すると宣言している。
 しかしイズミさんはそれを許さなかった。

 ならせめてと、ソラネは一人前になったら、ちゃんとお金をもらって仕事をするように嘆願し、イズミさんはそれを受けたらしいのだ。
 イズミさんも、そんなに早くソラネがBランクになるとは思っていない。だからこその条件なのだろう。

 聞けば一般的な『妖祓い』を例にすれば、CランクがBランクに昇級するには平均で4~5年かかるのが普通らしい。

 それだけ厳しい世界だということだ。当然だ。一歩間違えば、すぐに死んでしまうようなリスクがある仕事だ。
 だからこそ預かり人には、弟子として一人前になるまで見守り育てていく義務が生じる。

 特にこの世界は経験がものを言う世界なので、多くの経験を積ませた上での判断が求められるのだ。

 ただ――例外はある。
 それは明らかにBランク以上の腕が認められること。


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