異世界帰りの俺は、スキル『ゲート』で現実世界を楽しむ

十本スイ

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第二十五話 秋津怪異相談所

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 ――翌日。

 本日は祝日ということで授業はない。普通なら日がな一日のんびりと過ごすのだが、残念だが予定が入っている。
 そう、ソラネとの仕事だ。
 午前十時にソラネのアパートに向かわないといけない。

 現在時刻――午前九時五十分。

 しかしいまだに俺は家のソファに座ってゆったりしていた。
 物理的に考えて、ここからソラネのアパートまでは車でも十分以上はかかる。
 なら何でこんなにもゆっくりしているのか……簡単だ。
 俺には物理法則なんかを無視した超次元なスキルが使えるからである。

「そろそろ行くかぁ……ふわぁ~」

 別に用意するものもないし、とりあえずスマホと財布を持ったことを確認すると、俺は《ゲート》を開いた。
 当然行先はソラネのアパートである。 

 敷地内の端には隠れられるぐらいの茂みが育っていることは確認していた。
 俺はそこへ《ゲート》を繋いで、一瞬にしてアパートへとやってきたのである。

 うん、やっぱ俺の能力便利だわぁ~。
 いつかこれで海外旅行をパスポート無しで思う存分楽しもう。え、違反? 知らん。バレなきゃオールオッケーだ!

 茂みの中から顔を出すと、すでにソラネがアパートの出口の前でキョロキョロしていた。
 悪戯心が芽生え、ソラネの背後からゆっくりと近づき、

「だ~れだ?」

 と自分が今出せる最大の低音ボイスで、ソラネの目を隠しながら尋ねた。

「えっ、何!? てか、だ、誰!?」

 俺がパッと手を離すと、ソラネは慌てて俺から距離を取って確認してくる。

「ヒ、ヒロッ!? アンタ何で後ろから!?」
「いやぁ、そこの外壁を上ってきた?」
「何でそんなところから来るのよ! バッカじゃないの!」
「ちょっとソラネをビックリさせてやろうって思ってな。にしし、驚いたろ?」
「子供か!? はぁ……最近ちょっと大人びてきた感じだったけど、まだまだガキね。これだから男子は……」
「ははは、悪い悪い。ところで、今日することは? 詳しく聞いてねえんだけど」
「それよりもほら、まずは言うことがあるでしょ?」

 少し胸を張りながら言ってくる。おっぱい、触ってもいいのか? なんてこと聞いたら多分瞬殺されるからなぁ。

「……あ、おはようございます」
「ちがっ……くないけど……おはよ」
「あれ? 他に何か言うことあったか?」
「……はぁぁぁ~。こういう奴だって分かってるけど……我慢よソラネ」

 何だか呆れられた感じだが、これはもしかしてリア充イベントにあるとされているアレか? 女子の服装を褒める的な?
 ソラネは基本的にお洒落だし、褒められ慣れてるけど、それでも言ってほしいものなんだろうか?

 今日の彼女は、もうすぐ夏が到来することもあって、涼し気な格好をしている。
 元々モデル体型をしている彼女なので、スタイルがより良く見えるようなコーデだ。

 トップスは淡い桜色のチュニックで、ロング丈でサイドにスリットが入ったゆったりタイプ。下は黒のスキニーパンツを履いて細い脚を強調している。
 さすがにヒールではなく、動きやすいように白いスニーカーを揃えていた。手には少し大きめの白のバッグを持っている。

「あー……その服、似合ってるぞ」
「! ……そ、そう? 別に……アンタのためにお洒落したわけじゃないけど」

 はい、わっかりやすいツンデレ入りましたー。いやまあ、マジで俺のためとかじゃないだろうけど、そういう言い方はやっぱりオタク心は揺さぶられるよねー。

「……てかヒロももう少しお洒落したら?」
「服に興味ねえしなぁ。そんなもんに金かけるなら俺は食べる方に全戦力を注ぎ込む」
「花より団子ってこと?」
「ま、そんな感じ?」
「ヒロらしいわね」
「俺は俺を貫くぜ、どこまでも!」
「はいはい。じゃあ行くわよ」
「いや、だから今から何するって話を……」
「歩きながら説明するわよ。ほら、まずは駅の方へ向かうわよ」

 忙しい奴だなと思いつつ、俺は先を歩くソラネのあとをついていく。

「駅って、どこか行くのか?」
「違うわよ。事務所があるの」
「? ……ああ、確か【秋津怪異相談所】だっけ? 何しに行くんだ?」
「お母さんにお弁当を届けに行くのよ」

 バッグの中から布に包まれたものを取り出して見せてきた。

「そういやぁ、お前の母ちゃんに会うのも久しぶりかもなぁ」

 実際のところは二年以上ぶりだ。

「そうだったっけ? まあ、ああ見えて忙しいからねぇ。お金にならないことばっかしてるけど」

 やっぱそこだけは許せないのか、口を尖らせながら言っている。
 最寄り駅近くまで来ると、さすがに人通りが多い。サラリーマンやOLらしき人たちが、競歩でもしているかのような勢いで歩いている。
 事務所か駅から徒歩五分ほどの場所にある雑居ビルの中らしい。

 そこそこ大きなビルの二階部分を丸ごと借りているようで、確かに扉の傍の壁には【秋津怪異相談所】という看板が貼られていた。

 おお、マジでこんな事務所があったなんてなぁ。

 まだちょっと半信半疑だったためか、こうして実際に目にすると前の世界の常識が打ち破られた感じでちょっと複雑な気持ちになる。
 もちろん今更感ではあるが、やはり俺の中の常識はずっとものさしとしてあるので、それが逸脱される現実を見れば多少なりとも思うところはある。

 インターホンもついているが、ソラネは気にせず、そのまま扉を開けて中へと入って行く。
 三人しか所属(内一人は事務員)していないのにもかかわらず、広々とした事務所だ。

 三つほど部屋があるようで、一つはシャワー付きトイレ、一つはキッチンスペース、そして一つは仕事部屋として使っているメインフロアってところか。
 その気になったらここでも十分生活できる環境が整っている。

 するとソファの上でうつ伏せに横たわって、一切身動きしない人物がいた。
 一瞬死んでるんじゃないかと思うほど静かだったが、

「ちょっとお母さん、起きて!」

 ソラネがその人物に近づき肩を強く揺する。

「んっ……ん~……酔うぅ~」

 そんな呻き声を上げながら身じろぎし始めた。

「んむぅ……あれぇ? 何でソラネが……いるのぉ?」

 まだ半分寝ぼけ眼のようで、ソラネの顔を見てコクンと小首を傾げている。

「また事務所に泊まって。ほら、お弁当持ってきたわよ」
「……ありがとねぇ~」

 そう言いながら上半身を起こし、ゆったりとした動きでソファに座り込む。
 そしてようやくそこで俺の存在に気づいたのか……。

「……あら? あらあらまあまあ! もしかしてソラネ! そういうこと!?」

 ん? どういうこと?

 何かいきなり俺を見て目が輝き出したんだけども。

「は? 何言ってんのお母さん?」
「いやだって! あなたってば、そっちの男の子――彼氏なんでしょ?」
「んなっ!?」

 瞬間的に真っ赤な顔になるソラネ。

「か、かかかかか彼氏なんかじゃないわよっ! な、何を突然意味不明なこと言ってんのよお母さんはっ!」
「んもう! その反応だけで十分だってばぁ。でもなぁ……あなたはてっきりヒロくんぶふっ!?」
「ちょ、ちょちょちょ! 何言おうとしてんだコラーッ!」
「お、おいおい落ち着けってソラネ! 何だかすっげえ言葉遣いが荒いぞ!」

 ソラネが修羅のような顔になって彼女の母――イズミさん口ではなく首を絞め始めたので焦った。

「ぐっ……ぐるじぃぃぃ~!」
「ええい! この締まりのない口なんて今すぐ縫い合わせてやろうかぁ!」
「だから落ち着けって! えと、お久しぶりですイズミさん!」

 俺はソラネを後ろから羽交い絞めをして、イズミさんから遠ざける。



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