異世界帰りの俺は、スキル『ゲート』で現実世界を楽しむ

十本スイ

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第二十三話 板挟み

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 ――翌日。

 今日も一人で登校していると、後ろからやってきた車が俺の近くで停まり、そこから一人の少女が下りてきた。

「おはよう、ろっくん!」
「お、おお、しおんか。おはようさん」
「滝宮さん、ろっくんと一緒に行きます」
「畏まりました。ではお気をつけて行ってらっしゃいませ」

 滝宮さんは、俺に会釈をすると、車に乗り込んで走り去って行った。

「えへへ、久しぶりに一緒に登校だね!」
「まあな。最近は物騒なことは起きてねえのか?」
「うん。あれから実家からも連絡なさそうだし。……無人島で重道おじさんたち死んだのかな? 死んでくれてるといいけど」

 怖い! 怖いよ! 最後すっげえ声低かったし!

 まああれだけのことをされたし、貞操だって危なかったのだ。そりゃもう二度と顔なんて見たくねえだろうな。
 あの時、素直に殺しておけば良かったかねぇ。けどさすがにしおんたちの前で惨殺するのは躊躇してしまった。
 俺も無人島でオッサンたちがくたばっていることを祈っておこう。

「昨日は放課後どうだった? またソラちゃんと一緒に帰ったみたいだけど」

 あ、あれぇ? 何気ない会話のはずなのに、何故かしおんから冷たい風が吹いている感じなんだけど。

「え、まあ……そうだな。ほら、ソラネの親父さんギックリ腰になったって言ってただろ?」
「あーそういえばそうだったね」
「それで力仕事とかできなくてな。俺が手伝ってるって感じだ」
「ソラちゃんたら、水臭い。私にも手伝わせてくれたらいいのに」
「いやぁ、女の子に力仕事なんか頼めるかよ」
「だってわたしはこれでもヴァンパイアだよ? その気になったら普通の人よりも力強いし」
「バカ。ヴァンパイアの力を一般人の前で解放させるわけにはいかねえだろ?」
「それもそっか。うん、ごめんね」

 俺は舌をペロリと出しあざとさをアピールするしおんを見て苦笑する。
 そして同時に心の中で深い溜息を吐く。

 その理由は何故か?

 それは昨日、ソラネに聞いたAランクの仕事に関係する妖の種族について頭を悩ませているからである。
 何せソラネが探している相手こそが吸血鬼――ヴァンパイアなのだから。
 そしてこの界隈には、吸血鬼はしおんと真鈴さんしかいないことは真鈴さんから聞いている。
 つまりソラネのターゲットが、まさかの俺たちの友人だということ。

 これ、どうすんべ?

 まさかこんな事態になるなんて思いもしなかった。
 いやまあ、しおんは『異種』――妖だし、いずれはソラネとも接触するというか、どちらかがカミングアウトするような流れになるとは思っていたが。
 ただこんな形で相対しなければならなくなるとはさすがに予想外過ぎた。

 どうする。もう前もって俺がソラネに伝えとく? いや待て……そんなことして、もしソラネのしおんを見る目が変わったりしたら……。

 実は昨日、ソラネからこんなことを言われていたのだ。

『アタシね、実はあまり妖って好きじゃないのよ』

 当然その理由は聞いた。すると彼女はこう答えた。

『小さい頃にね。妖に殺されそうになったことがあって。もちろんすべての妖が危険ってわけじゃないことも知ってるわ。でもタガが外れた妖は、悪霊なんかよりもずっと危険で怖い存在なの。だから……できればアタシの周りには近づかないでほしい』

 正確には自分の身内や友達の周りにはという意味らしい。妖に傷つけられる人を見たくないのだろう。
 ただそういう経験がある故に、彼女は妖に良い感情を持っていないのだ。

 もししおんが、吸血鬼だって知ると、ソラネがしおんと距離を取るかもしれない。さすがに討伐することはないだろう。しおんも真鈴さんも良い人……じゃなかった。良い『異種』だし、人間と対立しようとも思っていないのだ。
 だから平和的に仕事は終われるかもしれないが、二人の間に溝が生まれる可能性がある。

 それを考えるとマジで胃が痛くなってくるのだ。
 俺だけが真実を知っているこの板挟み状態。マジホント……誰か助けてくれねえかなぁ。
 無論誰にも相談できないし、ソラネとの仕事を請け負った以上は、彼女を優先して動く必要がある。

 もし仮に……仮にソラネが、この街からしおんを追い出そうとしたらどうする?
 そんなこと有り得ないとは思うが、万が一そうなった場合、俺はどうすればいいんだ?

 当然二人には仲良くしてもらいたい。仮に互いの正体を知ったとしても、これまで通り友人という間柄でいてほしい。
 しかしもし……。
 最悪な状況を考えてしまうと憂鬱になってくる。

「ん? どうしたのろっくん? ちょっと元気ない?」
「え? あーちょっと寝不足でな」
「ゲームでもしてたの?」
「いや、ちょっとエッチな動画を――」
「ろっくん?」
「ひぃっ!?」

 直後に俺を貫いてきた冷たいオーラに、百戦錬磨の俺が思わず後ずさってしまった。

「ねえろっくん、そういうのは観ちゃいけないと思うなぁ。まだ学生なんだし」
「い、いや、ほら、俺はこう見えてももうそろそろ二十歳だし」
「うん、でもそんなの関係ないよ。観ちゃいけないとわたしは思うの。ろっくんはどう思う?」
「…………すみませんでした」
「うん、よろしい! もう、エッチなのはダメだよ、ろっくん! どうしてもその……そういうことがしたかったら……わたしが相談に乗るから……ね?」
「いやいや、女の友達にエッチな相談って、俺そこまで勇気ねえから」

 恥ずかし過ぎるだろ、そんな奴。男友達ならともかく。

「むぅ……そういうことじゃないのに」
「何だよ、そういうことって?」
「別に何でもないよーだ。ろっくんのバーカ」
「何で罵倒されるんですかね。レベル245でも傷つく時は傷つくんだけど」
「ふふふ。あ、ソラちゃんだ! ソラちゃーん!」

 何だとぉ! またタイミング悪いなオイ!
 まあ教室に行ったら否応なく顔を合わせるからしょうがねえんだけども。

 前を歩くソラネに手を振るしおん。
 俺たちに気づいたソラネが足を止め横に並ぶ。

「おはよ、二人とも。しおんってば今日は車じゃないの?」
「途中でろっくんを見つけたから降りたんだよー」
「そうなのね。……てかヒロ、何かアンタ、景気の悪い顔してるわね。何か変なものでも食べたの?」

 全部あなたたちのせいなんですが……とは言えん。
 俺は仲睦まじく談笑している二人を見て、どうかこのまま平和に過ごせますようにと願った。

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