異世界帰りの俺は、スキル『ゲート』で現実世界を楽しむ

十本スイ

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第二十二話 これがラッキースケベというものか

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「ひゃっ!? ……す、凄い……凄いわ! やればできるじゃない!」

 いや、そんなことよりも、この青いのが霊気なの? 今まで見えなかったのに、何で急に見えるようになったのさ?
 だがその疑問はあっさり解決した。

「多分昨日のアタシとの一件で、アタシの近くにいてアタシの霊気を直に触れたからでしょうね。それで本格的に覚醒したのよ」
「何かもう流れ的に、これだけで一本の漫画が描けそうだよなぁ」
「何言ってんの?」

 うん、何言ってんだろうね、俺。ただちょっと非日常な自分に対し現実逃避がしたかっただけさ、はは。

「それで霊気を出す感覚を掴んで」
「う~ん、まあ何となく分かったけど」

 一度意識してしまえば簡単だ。《ゲート》を使う時は、対象の空間に意識を集中させてイメージをするが、霊気の場合は自分の身体に意識を向けて《ゲート》を使うような気分に似ている。
 だからこそコツも簡単に掴めたのだろう。

「へぇ、面白えなコレ。自由に霊気って動かせるんだな」

 俺は放出している霊気の形態をグネグネと自在に変えて見せる。
 だがそれをポカンとした様子でソラネが見ていたので、

「どうかしたか?」
「ど、どうかしたじゃないわよ! 何で!? 何でそんな簡単に霊気操作ができるのよ!?」
「……へ? もしかしてソラネ、できねえのか?」
「できるわよ! って、そうじゃなくて! 普通は訓練しなきゃできないのよ! アタシだって霊気の形を自在に変えるには半年以上かかったってのに!」
「そんなこと言われても……簡単だぞ? ほれ、犬、猫、サメ、クジラ」

 俺は霊気の形をそれぞれ口にした生物へと変化させる。

「しかもそんな緻密なコントロールまで……アンタやっぱ異常者なんじゃない?」
「失敬な奴だな。俺は一般人だっての」

 普通の……とはもう胸を張って言えないが。

「けどこれは嬉しい誤算だわ。これなら霊気をアタシに流すのも簡単なはず。ちょっとアタシに触れて流してみて」
「触って? ……どこでもいいのか?」
「何でアンタの視線が胸に行ってるのか、小一時間ほど説明してもらいましょうか?」
「ごめんなさい」

 いやだってさ、女子に触ってもいいよって言われたら思春期男子ならしょうがなくね?

 そりゃ胸とか尻に目が行くよ。だから俺は決して悪くない。悪いのは男の本能を作った神様だ。

「ったくもう。その……ほら、手を握ってもいいから」
「お、おう」

 ……ギュッと掴む。
 おお……柔らかい。男の手とはまったく違う。向こうにいた時も女子と手を握ったことくらいあるが、やはり同様に柔らかいものだった。何だかずっとニギニギと感触を楽しんでいたいくらいだ。

「……ん? ソラネ、顔赤くない?」
「~~~っ!? 何でもないから!」
「照れ臭いなら別に手じゃなくてもいいんじゃ……」
「だったら胸触るでしょアンタは!」

 いや……肩とか背中とかいろいろ他にもあると思うが。

「いいからそのまま、アタシに霊気を流してみて」

 俺は「はいよ」と返事をして、軽く深呼吸をする。意外にもちょっと緊張してるのは俺の方なのかもしれない。

 てかどの程度、霊気を送り込みゃいいんだ? ……適当でいいのか?

 俺はさっきの要領で霊気を動かしてソラネの身体へと行き渡らせていく。
 
 すると――パァァァンッ!

 何やら風船が割れたような音とともに、信じられないことが起きてしまった。

 何故か……何故かソラネが着用していた制服が弾け飛んだのである。

「え?」
「え?」

 俺とソラネは、現状を上手く処理し切れずに目を丸くしたまま固まる。

「ひゃっ、ひゃあぁぁぁぁぁっ!?」

 先に正気を取り戻し、自分が裸になっていたことに気づいて、身体を隠しながら蹲るソラネ。

 ヤ、ヤバイ! ここはほら、紳士的に何とかしなければ!?

 だがテンパッてしまっていたのか、俺はとんでもないことを口にしてしまうことに。

「ナ、ナイスおっぱい!」

 笑顔で言って気づいた。ああ、これ死ぬなぁ……てさ。

「死ねぇぇぇぇぇっ!」
「すみませんでしたぶぐほぉぉぉっ!?」

 綺麗な顔面パンチをもらいました。
 ただ一つ言えることは――ごちそうさまでした。

 それから俺は、ソラネが着替えるまで外に出て待ち、着替え終わったあとにまた家の中へと入った。
 ギロリと、変態でも睨みつけるかのような視線に、男としての態度を間違えたことに再度謝罪した。

「ったく、いきなりあんな膨大な霊気を流すバカがどこにいるのよ! バカ!」
「いや……素人なもんで」
「あぁ?」
「まことに申し訳ございませんでした」
「……はぁ。もういいわよ。アタシも注意しておかなかったのも問題があったし。……だけど、さっきのは忘れなさい」

 目に焼き付いて離れない場合はどうすればいいのでしょうか? 何て聞けば今度こそ殺されそうなので止めておく。

「今度は気をつけてね。ゆっくりと少ない霊気量でいいから」
「お、おう。じゃあ今度こそは」

 再び俺はソラネの手を握って、霊気を送り始めた。今度は慎重に。

「――っ!? も、物凄い霊力になってる……!? うん、これなら問題ないわ! ううん、絶対にいける!」

 何だか確信めいたものを感じたようで、ソラネが揚々とした笑みを浮かべている。
 だが俺は不意にソラネの額から汗が滲み出ていることに気づく。
 霊気を流すのを止めると、ソラネは「ふぅ~」と疲れたように溜息を吐いた。

「大丈夫か? 何だかしんどそうだが……」
「ええ、ちょっと霊力を抑えるのが難しかっただけよ」
「抑える?」
「ヒロのお蔭でアタシの霊圧は信じられないほど強くなったけど、それと同時に霊力のコントロールが困難になるのよ」
「ん~力が有り余って暴れそうになっている馬を宥めるような感じ?」
「何でそんな例えなんか分からないけど、まあ似たようなものよ」
「抑えることができなきゃ、もしかして暴走するとか?」
「そうね。特に《式神》はアタシの精神体でもあるから、アタシが心を乱せば《式神》は暴走し易いわ」
「なるほど。けどそれで本番は大丈夫か? さっき流した霊気だって、ほんの一割程度なんだが」
「いっ、一割ですってっ!? 嘘でしょ!? てっきり半分くらいだと思ってたのに!?」
「え? あーまあ一割くらい、かな?」

 実際のところ一割も込めていたかと言われると首を横に傾けざるを得ない。
 そもそも《ゲート》を一回使う時よりも、遥かに使用しているエネルギー量は低い。
 しかし俺が全力で霊気をソラネに流すようなことは止めておいた方が良さそうだ。

「……ねえヒロ、本格的に『妖祓い』になったらどう? 前に話したこともそうだけど、ヒロなら絶対に凄い霊能力者になれるわ。それこそ歴代でも五本指くらいに入るような逸材になるかも」
「……悪いけど興味ねえよ。俺が力を貸すのは、あくまでもソラネだからだ。お前が困ってるから俺は力になりてえ」
「ヒロ…………ありがと」
「いえいえ、どういたしまして。それで? 例の仕事っていつするんだ? あ、今の例のって奴は幽霊の霊じゃなくて、例えばの例だからな?」
「うっさいわね、分かってるわよそれくらい。これでも成績は良い方なんだから」

 冷たい視線、頂きました。きっとドMの人には良いご褒美でしょう。

「そうね、できるだけ早い方が良いわ。実はもうすぐあの子たち……陸馬とウミノの遠足があるのよ。お菓子だって持たせてあげたいし、お弁当だって周りの子供たちにバカにされないくらい豪勢なものにしてあげたいのよ」
「……良い姉ちゃんしてんだな」
「っ……うっさいバカ」

 まあ、そういうことなら俺も頑張って力を貸しましょう。

「仕事は……明後日でどう? ちょうど祝日で授業もないし」
「予定はないしOKだ。けどその前に、作戦とか決めておきたいから、さっきの資料を見てもいいか?」

 俺はファイルを手にして開く。その間、ソラネの説明が入る。

「実はね、この街に厄介な妖が潜り込んでるって話らしいのよ。依頼はその妖とコンタクトを取って、人間に牙を剥く存在か確かめること。もし敵対意思があると判断した時は、討伐対象として事に当たること」
「ふぅん……でもそれでAランクなのか? 俺はもっと人間を殺し回ってるとか、そういう物騒な奴を想像してたが」
「そんな騒ぎを起こしてる連中がいたら、多分もうお母さんや他の『妖祓い』が動いてるわよ。けどこの仕事がAランクなのは、その妖自体が稀少かつ……暴れられると危険な種だからよ」
「へぇ……」

 と、俺は何気なく資料を流し読みしていき、あるところで視線が止まる。
 そこに書かれていたのは討伐対象になり得るかもしれない妖の種類。

「お、おい……今回相手する妖って……」

 俺は若干震える声で聞くと、ソラネが剣呑とした声音で答える。

「ええ、古くから妖怪の中でも最強種の一つとされてきた――――吸血鬼よ」



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