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第二十一話 霊力と霊気
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「おいおい、いきなりそんな大仕事をしてもいいのか?」
「アタシみたいな新人が手を出して良いもんじゃないわ」
聞けば上から二つ目の、ベテラン『妖祓い』でも失敗する可能性が高い仕事らしい。
しかしだからこそ成功した時、大きなバックボーンになるという。
「いや、言いたいことは分かるけどよぉ……」
「Aランクはまぐれでどうにかなるような仕事じゃないわ。だからもし達成できれば、それはアタシの……ううん、アタシたちの実力ってことになるの。そうすれば周りだって認めざるを得ないし、アタシ宛ての仕事だって増える」
そうすればたとえイズミさんがボランティアを続けたとしても、自分が稼げるからとのことだ。
「確かにね、貧乏でも別にアタシは苦じゃないわよ。あの子たちだって……笑って過ごせてる。でも……アタシは、あの子たちにはもっとのびのびと暮らせる環境を与えてあげたいのよ! 好きなものを食べて、好きな服を着て、好きなゲームで遊んで、そんな普通の子みたいに! だから……アンタには力を貸してほしいのよ」
「ソラネ……」
どうしよう。ここで断ったら俺……罪悪感がハンパねえんだけど。
俺だって陸馬たちのことは好きだ。兄貴やおにーにと慕ってくれる奴らなんだから、当然幸せに暮らしてほしい。
でもソラネを手伝うってことは、完全に非日常へと戻ることになる。
俺の平和で普通な日常はどこに行ったのやら……。
そこで不意に思い出すのは、この世界で現れた神が最後に言い残した言葉である。
『この世界は、君が思っている以上に複雑で……面白いからさ』
なるほどね。あれはこういう意味だったってわけだ。
世界に『異種』って存在がいる以上は、どう考えても俺が思い描いていた日常とはかけ離れるものになるってこと。
ああくそぉ、こんなことなら〝平和で安穏とした日常を送れる日本へ〟という追加注文しておくべきだったか……。
まあ……今更悔いても遅いし、そもそもこの世界が俺が転生するベストな世界だったみたいだし、嘆いたところで無意味だ。
それに……しおんの時もそうだったけど、ソラネだって俺の大切な友人だ。
困ってるならたとえ非日常へ突っ込むんだとしても助けてやりたい。
「…………わーったよ」
「!? ホ……ホント? 手伝ってくれる……の?」
「ああ、けど死にそうになったら逃げるからな」
お前を連れて、な。
「うん……うん! ありがと……ありがとっ、ヒロ!」
おお、百点満点の笑顔。普段からその顔をしてりゃ、もっと男にモテるだろうなぁ。
「んで? 手伝うって言っても俺は何すりゃいいんだよ?」
「アタシの霊気タンクになってほしいの」
「霊気……タンク? ……すまん、分からん」
「えーと、昨日アタシの力は見せたわよね?」
「ああ。確か《式神》……だっけか?」
「うん。それがアタシの霊能なの」
ソラネ曰く、霊能というのは人それぞれ異なるらしい。
霊具と呼ばれるものに霊気を流して、武器として使う者もいれば、霊気で自身の身体能力を上げて物理的手段を講じる者もいる。
また霊気そのものを変質させたり、形態変化させて、それを霊などにぶつけて除霊するという能力を有している者など様々だ。
「その中でアタシは《霊符《れいふ》》っていう霊具を使って戦うタイプよ。これね」
そう言いながらポケットから昨日見た札を出して見せた。
「その札そのものが《式神》ってこと?」
「違うわね。この《霊符》は、あくまでもアタシから精神体を引っ張り出す媒体なのよ」
「なるほど、分からん」
「アンタね……」
そんなジト目で見られてもなぁ。この業界に詳しくねえし、分からんもんは分からん。
「つまり昨日見た《火俱夜》……覚えてる?」
「おう、あのからくり人形みたいな奴だろ?」
「そう。あの子はもう一人のアタシなのよ」
「もう一人のソラネ?」
「ええ。アタシの霊力を形にした――魂の化身とも呼ぶべき存在ね」
「霊力って魂の力なのか?」
「そうよ。詳しくいうなら霊力っていうのは魂の強さで、霊気っていうのが魂のエネルギーってとこかしら?」
「ほーん、外に放出することができるのが霊気ってわけだ」
俺の解答に対し、ソラネが「正解」と言って頷く。
「この《霊符》は、アタシの霊力に呼応して、魂の化身を顕現させてくれるの」
「へぇ、結構貴重なもんじゃねえの」
「そうでもないわよ。この札自体は普通の紙だもの」
「はい? ただの紙? そこらに売ってる?」
「そうよ。重要なのは、この札に刻む《霊紋《れいもん》》だもの」
おっと、また分からない単語が出てきましたよ。そろそろいい加減にしてほしい。
ちなみに彼女の説明によると、札に霊気を流した血液で文字や模様を刻み込む。そうすることで、ただの札が《霊符》という媒体に早変わりするらしい。
「『式神使い』の中には、複数の《式神》を顕現させる人もいるけど、アタシには《火俱夜》だけで精一杯」
「ソラネの力については分かった。それで? 霊気タンク……だったか? そこにどう俺の力を介入させるってんだ?」
「簡単よ。戦闘中にアタシの身体に触れて霊気を流して欲しいの」
「霊気を?」
「うん。そうすることで、アタシを通じて《火俱夜》へとアンタの霊気が加算され、《火俱夜》がパワーアップするわ」
「ほうほう」
「今の《火俱夜》でもDランクくらいの妖なら相手にできるけど、それより上じゃ結構厳しい」
「……ちょっと待て。俺一人分の霊気を加えたくらいでAランクの妖を倒せるのか?」
「アンタは気づいてないかもしれないけど、アンタの霊気量は普通じゃないわ。それこそAランク……ううん、Sランクの妖にすら匹敵するほどだもの。人間でこれは異常なことよ。うん、とっても異常者」
「おい、誰が異常者だ。こんな平和を愛する一般市民に対して」
「まあアンタほどの霊能力者なんて、アタシに見つからなくてもそのうち他の『妖祓い』に目を付けられていたわよ。ていうか今までそういう連中との付き合いが無かったことが信じられないし」
そんなこと言っても、この世界に来てまだ初心者ですし……。
でも俺に何でそんな膨大な霊気があるんだ? 生まれつきなのか?
俺はそう考えてハッとした。
霊気とは魂のエネルギー。
俺は一度死に、異世界で死線を何度もくぐり抜けてきた。そしてこの世界に転生することになったのだ。
こんな人生を送っている人間なんてそうはいないのではなかろうか。
異世界を救うほどの強い魂を持つ存在だからこそ、それが圧倒的な霊力や霊気に繋がっているのかもしれない。
ていうかそうとしか考えられない。
「でも霊気を流すなんてことしたことないぞ?」
「それは……そうね、さすがに訓練が必要だと思うけど。じゃあ霊気を出してみて」
「……は?」
「だから霊気を出してみてって言ってるの」
「いやいや、そう言われても分からんて。どうすんだよ、コツとかないのか?」
「う~ん……あっ、ほらヒロ、教室で制服の右腕部分を壊したことがあったでしょ? あの時みたいにしてみて」
あの時みたいって……別に特別なことはしてねえんだけど。
ただ力こぶを見せようと右腕に意識を集中させ力を込めただけだ。
とりあえず言われた通りにしてみる。
「――ふんっ!」
すると俺の腕から青白いオーラのようなものが噴出する。
「アタシみたいな新人が手を出して良いもんじゃないわ」
聞けば上から二つ目の、ベテラン『妖祓い』でも失敗する可能性が高い仕事らしい。
しかしだからこそ成功した時、大きなバックボーンになるという。
「いや、言いたいことは分かるけどよぉ……」
「Aランクはまぐれでどうにかなるような仕事じゃないわ。だからもし達成できれば、それはアタシの……ううん、アタシたちの実力ってことになるの。そうすれば周りだって認めざるを得ないし、アタシ宛ての仕事だって増える」
そうすればたとえイズミさんがボランティアを続けたとしても、自分が稼げるからとのことだ。
「確かにね、貧乏でも別にアタシは苦じゃないわよ。あの子たちだって……笑って過ごせてる。でも……アタシは、あの子たちにはもっとのびのびと暮らせる環境を与えてあげたいのよ! 好きなものを食べて、好きな服を着て、好きなゲームで遊んで、そんな普通の子みたいに! だから……アンタには力を貸してほしいのよ」
「ソラネ……」
どうしよう。ここで断ったら俺……罪悪感がハンパねえんだけど。
俺だって陸馬たちのことは好きだ。兄貴やおにーにと慕ってくれる奴らなんだから、当然幸せに暮らしてほしい。
でもソラネを手伝うってことは、完全に非日常へと戻ることになる。
俺の平和で普通な日常はどこに行ったのやら……。
そこで不意に思い出すのは、この世界で現れた神が最後に言い残した言葉である。
『この世界は、君が思っている以上に複雑で……面白いからさ』
なるほどね。あれはこういう意味だったってわけだ。
世界に『異種』って存在がいる以上は、どう考えても俺が思い描いていた日常とはかけ離れるものになるってこと。
ああくそぉ、こんなことなら〝平和で安穏とした日常を送れる日本へ〟という追加注文しておくべきだったか……。
まあ……今更悔いても遅いし、そもそもこの世界が俺が転生するベストな世界だったみたいだし、嘆いたところで無意味だ。
それに……しおんの時もそうだったけど、ソラネだって俺の大切な友人だ。
困ってるならたとえ非日常へ突っ込むんだとしても助けてやりたい。
「…………わーったよ」
「!? ホ……ホント? 手伝ってくれる……の?」
「ああ、けど死にそうになったら逃げるからな」
お前を連れて、な。
「うん……うん! ありがと……ありがとっ、ヒロ!」
おお、百点満点の笑顔。普段からその顔をしてりゃ、もっと男にモテるだろうなぁ。
「んで? 手伝うって言っても俺は何すりゃいいんだよ?」
「アタシの霊気タンクになってほしいの」
「霊気……タンク? ……すまん、分からん」
「えーと、昨日アタシの力は見せたわよね?」
「ああ。確か《式神》……だっけか?」
「うん。それがアタシの霊能なの」
ソラネ曰く、霊能というのは人それぞれ異なるらしい。
霊具と呼ばれるものに霊気を流して、武器として使う者もいれば、霊気で自身の身体能力を上げて物理的手段を講じる者もいる。
また霊気そのものを変質させたり、形態変化させて、それを霊などにぶつけて除霊するという能力を有している者など様々だ。
「その中でアタシは《霊符《れいふ》》っていう霊具を使って戦うタイプよ。これね」
そう言いながらポケットから昨日見た札を出して見せた。
「その札そのものが《式神》ってこと?」
「違うわね。この《霊符》は、あくまでもアタシから精神体を引っ張り出す媒体なのよ」
「なるほど、分からん」
「アンタね……」
そんなジト目で見られてもなぁ。この業界に詳しくねえし、分からんもんは分からん。
「つまり昨日見た《火俱夜》……覚えてる?」
「おう、あのからくり人形みたいな奴だろ?」
「そう。あの子はもう一人のアタシなのよ」
「もう一人のソラネ?」
「ええ。アタシの霊力を形にした――魂の化身とも呼ぶべき存在ね」
「霊力って魂の力なのか?」
「そうよ。詳しくいうなら霊力っていうのは魂の強さで、霊気っていうのが魂のエネルギーってとこかしら?」
「ほーん、外に放出することができるのが霊気ってわけだ」
俺の解答に対し、ソラネが「正解」と言って頷く。
「この《霊符》は、アタシの霊力に呼応して、魂の化身を顕現させてくれるの」
「へぇ、結構貴重なもんじゃねえの」
「そうでもないわよ。この札自体は普通の紙だもの」
「はい? ただの紙? そこらに売ってる?」
「そうよ。重要なのは、この札に刻む《霊紋《れいもん》》だもの」
おっと、また分からない単語が出てきましたよ。そろそろいい加減にしてほしい。
ちなみに彼女の説明によると、札に霊気を流した血液で文字や模様を刻み込む。そうすることで、ただの札が《霊符》という媒体に早変わりするらしい。
「『式神使い』の中には、複数の《式神》を顕現させる人もいるけど、アタシには《火俱夜》だけで精一杯」
「ソラネの力については分かった。それで? 霊気タンク……だったか? そこにどう俺の力を介入させるってんだ?」
「簡単よ。戦闘中にアタシの身体に触れて霊気を流して欲しいの」
「霊気を?」
「うん。そうすることで、アタシを通じて《火俱夜》へとアンタの霊気が加算され、《火俱夜》がパワーアップするわ」
「ほうほう」
「今の《火俱夜》でもDランクくらいの妖なら相手にできるけど、それより上じゃ結構厳しい」
「……ちょっと待て。俺一人分の霊気を加えたくらいでAランクの妖を倒せるのか?」
「アンタは気づいてないかもしれないけど、アンタの霊気量は普通じゃないわ。それこそAランク……ううん、Sランクの妖にすら匹敵するほどだもの。人間でこれは異常なことよ。うん、とっても異常者」
「おい、誰が異常者だ。こんな平和を愛する一般市民に対して」
「まあアンタほどの霊能力者なんて、アタシに見つからなくてもそのうち他の『妖祓い』に目を付けられていたわよ。ていうか今までそういう連中との付き合いが無かったことが信じられないし」
そんなこと言っても、この世界に来てまだ初心者ですし……。
でも俺に何でそんな膨大な霊気があるんだ? 生まれつきなのか?
俺はそう考えてハッとした。
霊気とは魂のエネルギー。
俺は一度死に、異世界で死線を何度もくぐり抜けてきた。そしてこの世界に転生することになったのだ。
こんな人生を送っている人間なんてそうはいないのではなかろうか。
異世界を救うほどの強い魂を持つ存在だからこそ、それが圧倒的な霊力や霊気に繋がっているのかもしれない。
ていうかそうとしか考えられない。
「でも霊気を流すなんてことしたことないぞ?」
「それは……そうね、さすがに訓練が必要だと思うけど。じゃあ霊気を出してみて」
「……は?」
「だから霊気を出してみてって言ってるの」
「いやいや、そう言われても分からんて。どうすんだよ、コツとかないのか?」
「う~ん……あっ、ほらヒロ、教室で制服の右腕部分を壊したことがあったでしょ? あの時みたいにしてみて」
あの時みたいって……別に特別なことはしてねえんだけど。
ただ力こぶを見せようと右腕に意識を集中させ力を込めただけだ。
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