異世界帰りの俺は、スキル『ゲート』で現実世界を楽しむ

十本スイ

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第二十話 ソラネの母親とは

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「悪いわね、こんなもんしか出せないけど」
「気にすんなって。それに麦茶好きだし」

 嘘じゃない。お茶の中では麦茶が一番好きだ。
 俺は一口喉を潤したあと、さっそくソラネの話を聞こうと彼女を見る。

「……そんなにジッと見ないでよ」
「えぇ……じゃあそっぽ向いて会話すんのかよ」
「ちがっ……ああもう、何よ……アタシだけ緊張してるだけじゃん」
「緊張? そんなにこれから話すことってヤバイ話なのか?」
「そ、そういうことじゃなくて……いや、それもそうなんだけど……はぁ、まあアンタだししょうがないか」

 何か勝手に諦められてしまったのだが……?

「そうね……まずは昨日はいきなり連れ回してごめんね」
「は? いや、それは別にいいんだけど。何かお前が素直に謝るなんてな」
「何よ! アタシだってさすがに昨日のは強引過ぎたなって反省してるんだから!」
「おお、そっかそっか。成長したな、ソラネ」
「アンタはアタシの保護者か!」

 いやぁ、ソラネは抜群のツンデレで、あまりデレの部分を俺を含めて男には見せないので貴重なのである。

「はぁ、アンタと話してるとシリアスがギャグになりそうだわ」
「あはは、楽しくて良いじゃないか」
「とにかく真面目に聞いてよね!」
「へいへい。んじゃ大事な話を聞くとしましょうかね」
「ったく…………昨日言ったようにアタシは霊能力者で『妖祓い』として仕事をしているわ」
「ああ。幽霊や妖怪を成仏させたり退治する仕事だろ?」
「そうね。それが主な仕事内容になると思うわ。けれど『妖祓い』には他にもいろいろ仕事があるのよ」
「他にも?」
「ええ。幽霊や妖怪といっても、人間に害を為す連中ばかりじゃないわ。無害な存在だっているの」

 確かに昨日あった幽霊も、別に誰かに手を出しているわけじゃなかった。ただまあやってることはセクハラだったけど、被害者には幽霊の姿が見えていないので実害は生じていない。
 ただそんな悪さばかりすると、負のエネルギーが膨れ上がり悪霊になってしまうから、ソラネはそういう連中に成仏を促したり、悪霊になったものを退治したりしているのだ。

「幽霊にも妖怪にも、平和に過ごしているものだっている。そんな者たちの暮らしを守るのもまた『妖祓い』の仕事でもあるの」
「祓うだけが仕事じゃねえってことか」
「うん。幽霊同士の揉め事に介入して解決をしたり、怪我をした妖怪の手当てや保護をしたり、その仕事は結構幅広いのよ」
「あーつまり人じゃない存在専門の何でも屋って感じか?」
「ん~そんな簡単なことじゃないけど、まあ似たようなものかしらね」
「……幽霊や妖怪って『異種』に入るのか?」
「幽霊は入らないわね。妖怪は人間にもちゃんと見えるし、人間社会にも適応して生活している『異種族』よ」

 つーことは、吸血鬼もやっぱ妖怪のカテゴリーってわけだ。

「実はね、ウチのお母さんもアタシと同じ『妖祓い』なのよ」
「そうだったのか! はぁ……たまにスーパーとかで会うし、特売が好きなただのおばちゃんなのに」

 見た目はまだ若々しく綺麗な人だから、おばちゃん呼ばわりは似合わないかもしれないが。

「特売はアタシらにとっては戦場であり希望だからね。そりゃ好きにもなるわよ」

 貧困にとっては特売は強い味方だろう。
 コイツの母親――イズミさんは特売の日になると目の色が変わり修羅のごときオーラで、他の主婦たちを蹴散らして商品をかっさらっていく。

「森也さんは? まさかギックリ腰って、本当は『妖祓い』の仕事で?」
「ううん。お父さんは普通の人。ギックリ腰も普通に洗濯カゴを持ち上げた時にやったわ」
「ちなみに何の仕事をされてんだ?」
「言ってなかったっけ? 母さんの事務所の事務員よ」
「へぇ……って、イズミさん事務所を持ってんのか?」
「『妖祓い』は、事務所を通じて依頼を受けるからね。アタシも所属してるわ。とはいっても三人だけの小さな事務所だけど。一応【秋津怪異相談所】っていうんだけど」
「独立事務所があるのに儲かってねえのか?」
「……まあ、ね」

 何だか物凄く言い難そうな表情を浮かべるソラネ。それでも彼女は俺が何かを聞く前に答えてくれた。

「実はお母さんって……元々ボランティア活動をメインに働いてたこともあってね。依頼者からあまり……報酬金を受け取らないのよ」
「は? それって仕事として成り立ってないんじゃ」
「そうなのよ! 貧乏な人からの依頼ならともかくとして、そこそこ裕福な家庭からならある程度ふんだくってもいいじゃないって言ったのよ!」
「ちょ、言い方……」

 ふんだくってってすっごく悪い感じに聞こえる。

「けどお母さんってば、別に最低限の暮らしはできてるし問題ないじゃないってあっけらかんとして言うのよ。はぁぁぁ……お母さんがもっと金銭欲が強い人だったら……」
「……もしかして『妖祓い』って儲かる仕事なのか?」
「当然よ! だって幽霊や妖怪が相手なのよ? リスクだって一般的な仕事よりも高いわ! この業界をトップで走り続けている人たちの一仕事がどれくらいか分かる? 少なくても何百万よ! 多い時なんて一仕事で億はくだらないんだから!」
「お、億……すげえなそりゃ」

 つまり腕さえあれば億万長者になれる職業ってことだ。ちょっと気持ちがぐらついたことはソラネには言わないでおこう。

「そうよ! お母さんだってこの業界で名も知れてるのに、ボランティアめいたことばっかしてるから他の『妖祓い』にも評判悪いし……」

 まあ他の『妖祓い』からしたら、イズミさんのしていることは迷惑だろうな。

 なまじ腕利きだから、当然依頼者は少ない報酬で請け負ってくれるイズミさんの方へ行く。

「それって偉いさんから注意を受けたりされないのか?」
「一応『妖祓い』って国家資格だし、大元の『異種事案対策理事会』がトップとしてお母さんにも注意してるはずだけど」

 そんな国家資格があったとは……まあ今更か。

「それでも聞かない……と」
「お母さん、あれでも協会の中でちょっとした権力者でもあってね。ていうか、お婆ちゃんが副理事長だし」
「うわぁ……」

 そりゃ中々咎められないってことかな。この業界の構図がよく分からないが、完全な実力主義だとしたら、理事長クラスが出張ってこないと難しいかもしれない。

「一応……ね。対策としてお婆ちゃんが選別した仕事だけを、お母さんの事務所に回してるんだけど……」
「まさか気に入らないって言って受け付けなかったり?」

 ……コクンと首肯するソラネ。

 何でも自分の足で情報を集め、困ってる人々を無料で救っているらしい。

 おーい、イズミさーん。どんだけボランティア精神が強いんですかぁ。

 確かにやっていることは素晴らしいとは思う。被害者や困っている人にとっちゃ、救世主みたいな存在だろう。
 しかしあんた家族が貧困に喘いでるってのに……いや、実際は楽しく生きてるみたいだけど。

 少なくとも陸馬たちにはちゃんと笑顔はあったし、学校だって通えている。イズミさんの言う通り、最低限の平和は保たれているからまた性質が悪い。

「それで? ソラネはこの現状を変えたいって思って、まさか俺を?」
「……アタシもね、もう国家資格持ってるから仕事を自分で受けてこなせるの。けど事務所に入ってくる依頼は、どれもお母さんに対してのみ。もしそれを受けて失敗し、被害者に損害まで与えてしまったら、下手をしたら資格剥奪になってしまうのよ」
「じゃあどうするつもりだ?」
「だからアンタに力を貸してもらうつもりだったのよ。大きな仕事を成功させて、みんなに認めさせるためにね!」

 そう言いながら、棚に置かれたファイルを一つ取って俺に開いて見せた。

「仕事にはね、ランクがつけられてあるの。昨日の幽霊退治は最低ランクのEね」

 あれでEかぁ。なかなか凄みがあった仕事だと思うが。

「それでこの仕事は――Aよ」



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