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第十九話 ソラネの自宅訪問
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――翌日。
ソラネが俺と二人っきりになる度に勧誘してくる。
何故それほどまでに必死になるのか分からない。
ただ有名になって金を稼ぎたいだけ、というのも何か違う気がする。
確かにそういう目的もあるだろうが、根本的な理由というものがある感じだ。
昼休みが終わり、五時間目の授業中、やはりどうしても気になったので、俺はスマホでメッセージを送った。
内容は――『何でそこまで俺にこだわるんだ? 何か言い難い理由でも抱えてたりするんじゃないか?』
すると俺からのメッセージを見たソラネが息を呑んだようにハッとなり、難しそうな表情で下を向いた。
やっぱ何かありそうだな、あの顔は。
つまり昨日、アイツは俺に語ってない何かがあるということだ。
しばらくすると、ソラネから返信が送られてきた。
そこには『分かったわ。教えてあげるから、今日の放課後も時間ちょうだい』と書かれている。
幸い今日は虎さんが学校を欠席していて、部活は中止ということになっているから、いちいち言い訳を考える必要もないわけだ。
またしおんに対しても、今日は家の用事があるらしく、彼女の家でのボードゲームテストプレイはまた今度ということになり、これもまた言い訳を作らなくても良くなったのでホッとした。
ちなみに昨日は、しおんが虎さんに俺たちについてそれらしい欠席の説明をしてくれたらしい。
そして放課後になると、俺はソラネとともに下校することになった。
行先は昨日とは違い、彼女が住む家の方へと向かっていく。
何度かお邪魔したことがあるので道は分かっている。
ソラネの実家は古いアパートの一室で、そこで両親、弟と四人暮らしだ。
お世辞にも裕福とは言えない暮らしなのは俺も知っている。だから有名になって金を稼ぐというソラネの野望も理解できるし、健全な夢でもあると思う。
【はばたき荘】というアパートに到着し、一階の一番奥にある部屋へと向かう。
相変わらず古い建物だよなぁ。地震がきたら一発でぶっ壊れそうだし。
それに駅やバス停からも遠く、コンビニ行くにも結構歩かないといけない。かなり交通の便も悪い場所である。
そのため家賃は激安らしいが、雰囲気的に何かが出そうなので嫌だ。
何せ隣に墓地があるのだから、よくもまあこんなところで住んでいられると感心してしまう。
「――ただいま」
そう言ってソラネが家の扉を開けると、
「お姉が帰ってきた! お父、お姉が帰ってきたぞー!」
「こら、静かにしなさい陸馬! 近所迷惑でしょ!」
「んなこといっても、このアパートに住んでんの俺らだけだし~!」
「それでも静かにするのがマナーなの!」
「わぁー、お姉が怒ったぁ……って、あれ! アニキがいるぅ!?」
ようやく俺の存在に気づいたのか、ソラネの弟である陸馬が口をあんぐりと開けている。
「アニキだ! アニキだ! 何で! おーい、ウミノー! アニキが来たぞー!」
陸馬の呼び声を受け、家の中からひょっこりと顔を覗かせたのは、おかっぱで小柄の女の子だった。
そのか細い両腕でギュッとイルカの人形を抱きしめている姿は、とても愛らしく保護欲を誘う。
この幼女は、陸馬の双子の妹であるウミノである。
二人は今年小学生になったばかりの六歳児だ。
「おにーに? あ、おにーにだぁ」
トコトコと俺の前に駆け寄ってきたので、
「久しぶりだな、ウミノ」
と言って頭を撫でてやると、ウミノは気持ち良さそうに目を閉じる。
「陸馬も久しぶり。相変わらず元気な奴だな」
「おう! 元気だけがトリオだからな! へへへ!」
取り柄、な。それだと三人に増えちゃってるから。
「ほらあんたたち、それだとヒロが中に入れないでしょ。奥に行く奥に」
「「はーい」」
ようやく玄関から中に入れるようになり、そのまま居間の方へと向かう。
そこには布団の上でうつ伏せになっている男性がいた。
「お、おお……こんな姿で悪いねぇ、日六くん」
「いえ。ギックリ腰らしいじゃないっすか。安静にしててください」
この人がソラネの父親である秋津森也さんだ。
「はは、ちょっと張り切り過ぎちゃったみたいだよ。いやぁ、歳には勝てんよ」
ギックリ腰になったことが無いので分からないが、立てないくらいの激痛らしい。俺もそのうち経験するのだろうか。……嫌だなぁ。
「なあなあアニキ! 遊ぼうぜ!」
「ダメ。おにーにはウミと遊ぶ」
「こーら二人とも、ヒロにはアタシが用事あって来てもらったのよ。だから遊んでもらうのはまた今度ね」
「えぇー、お姉のケチー」
陸馬は不満を口にするが、ウミノはシュンとして落ち込んでいる。
こういう姿を見せられると弱えんだよなぁ。
「そうだなぁ。今度動物園にでも連れてってやっから、今日は我慢な?」
「「ど、動物園!?」」
二人が同時に目を輝かせ始めた。
「ほ、ほんとかアニキ! ほんとに連れてってくれるのか!」
「おにーに、ほんと? ほんとだとウミ、よろこぶよ?」
「ああ、約束だ約束。ちゃ~んと連れてってやっから」
俺は二人の頭を撫でてやると、嬉しそうに笑顔を見せてくれた。
「ちょっと、ホントにいいの? そんな約束なんかしちゃって」
「別にいいって。コイツらは俺の弟や妹みたいなもんだしな」
「「えへへ~」」
俺はできることなら弟か妹が欲しかった。それに子供も好きだし、こういうのは大歓迎だ。
「ほら、あんたたちは宿題もあるでしょ? ちゃんとやっておきなさいよ」
そう言われ、二人はちゃぶ台の上で宿題をし始めた。
「じゃあお父さん、隣使うから」
「! ……そうか、彼には信用して話すんだね?」
「ん、ヒロなら信用できるから」
今のやり取りで、父と子の会話が成立したようで、森也さんは真剣な眼差しで頷くと、もうそれ以上は何も言わなかった。
「ヒロ、ついてきて」
「は? どこに……」
「いいから、ほら」
と、手を引っ張られながら何故かまた外に出て、そのまま隣の部屋へと入って行った。
「……勝手に入っていいのか?」
そこは空き部屋じゃなくて、どこか生活感溢れる内装だったため、誰かが住んでいると判断したのだ。
「いいのよ。ここもウチが借りてる部屋だから」
「二つも?」
「うん。さっき陸馬も言ってたけど、このアパートってアタシたち以外住んでないからさ。別にもう一室くらい使ってもいって、管理人さんがここの家賃を無料で貸してくれてるの」
へぇ、ずいぶんと気前の良い管理人もいたもんだ。まあ……ソラネには悪いけど、このボロアパートに住みたいという人はそうそういないだろうが。
「こっちはね、アタシと母さんが主に使っててね。ほら、上がって」
「あ、ああ。お邪魔します」
間取りは隣と全く一緒ではあるが、内装は確かに女性っぽさが目立つようなお洒落な感じだ。
「あんまジロジロ見んなし」
「あ、悪い。こっちの部屋に入るのは初めてだったからな」
「……しおんのと比べないでよ?」
「比べるかよ。それにしおんのお姫様チックは部屋よりは、どちらかってーとこっちのシックな感じの方が好きだしな」
「そ、そう……なんだ。ふ~ん……今お茶入れるから待って」
俺は居間に腰を下ろすと、ソラネが湯呑みに麦茶を入れて持ってきてくれた。
ソラネが俺と二人っきりになる度に勧誘してくる。
何故それほどまでに必死になるのか分からない。
ただ有名になって金を稼ぎたいだけ、というのも何か違う気がする。
確かにそういう目的もあるだろうが、根本的な理由というものがある感じだ。
昼休みが終わり、五時間目の授業中、やはりどうしても気になったので、俺はスマホでメッセージを送った。
内容は――『何でそこまで俺にこだわるんだ? 何か言い難い理由でも抱えてたりするんじゃないか?』
すると俺からのメッセージを見たソラネが息を呑んだようにハッとなり、難しそうな表情で下を向いた。
やっぱ何かありそうだな、あの顔は。
つまり昨日、アイツは俺に語ってない何かがあるということだ。
しばらくすると、ソラネから返信が送られてきた。
そこには『分かったわ。教えてあげるから、今日の放課後も時間ちょうだい』と書かれている。
幸い今日は虎さんが学校を欠席していて、部活は中止ということになっているから、いちいち言い訳を考える必要もないわけだ。
またしおんに対しても、今日は家の用事があるらしく、彼女の家でのボードゲームテストプレイはまた今度ということになり、これもまた言い訳を作らなくても良くなったのでホッとした。
ちなみに昨日は、しおんが虎さんに俺たちについてそれらしい欠席の説明をしてくれたらしい。
そして放課後になると、俺はソラネとともに下校することになった。
行先は昨日とは違い、彼女が住む家の方へと向かっていく。
何度かお邪魔したことがあるので道は分かっている。
ソラネの実家は古いアパートの一室で、そこで両親、弟と四人暮らしだ。
お世辞にも裕福とは言えない暮らしなのは俺も知っている。だから有名になって金を稼ぐというソラネの野望も理解できるし、健全な夢でもあると思う。
【はばたき荘】というアパートに到着し、一階の一番奥にある部屋へと向かう。
相変わらず古い建物だよなぁ。地震がきたら一発でぶっ壊れそうだし。
それに駅やバス停からも遠く、コンビニ行くにも結構歩かないといけない。かなり交通の便も悪い場所である。
そのため家賃は激安らしいが、雰囲気的に何かが出そうなので嫌だ。
何せ隣に墓地があるのだから、よくもまあこんなところで住んでいられると感心してしまう。
「――ただいま」
そう言ってソラネが家の扉を開けると、
「お姉が帰ってきた! お父、お姉が帰ってきたぞー!」
「こら、静かにしなさい陸馬! 近所迷惑でしょ!」
「んなこといっても、このアパートに住んでんの俺らだけだし~!」
「それでも静かにするのがマナーなの!」
「わぁー、お姉が怒ったぁ……って、あれ! アニキがいるぅ!?」
ようやく俺の存在に気づいたのか、ソラネの弟である陸馬が口をあんぐりと開けている。
「アニキだ! アニキだ! 何で! おーい、ウミノー! アニキが来たぞー!」
陸馬の呼び声を受け、家の中からひょっこりと顔を覗かせたのは、おかっぱで小柄の女の子だった。
そのか細い両腕でギュッとイルカの人形を抱きしめている姿は、とても愛らしく保護欲を誘う。
この幼女は、陸馬の双子の妹であるウミノである。
二人は今年小学生になったばかりの六歳児だ。
「おにーに? あ、おにーにだぁ」
トコトコと俺の前に駆け寄ってきたので、
「久しぶりだな、ウミノ」
と言って頭を撫でてやると、ウミノは気持ち良さそうに目を閉じる。
「陸馬も久しぶり。相変わらず元気な奴だな」
「おう! 元気だけがトリオだからな! へへへ!」
取り柄、な。それだと三人に増えちゃってるから。
「ほらあんたたち、それだとヒロが中に入れないでしょ。奥に行く奥に」
「「はーい」」
ようやく玄関から中に入れるようになり、そのまま居間の方へと向かう。
そこには布団の上でうつ伏せになっている男性がいた。
「お、おお……こんな姿で悪いねぇ、日六くん」
「いえ。ギックリ腰らしいじゃないっすか。安静にしててください」
この人がソラネの父親である秋津森也さんだ。
「はは、ちょっと張り切り過ぎちゃったみたいだよ。いやぁ、歳には勝てんよ」
ギックリ腰になったことが無いので分からないが、立てないくらいの激痛らしい。俺もそのうち経験するのだろうか。……嫌だなぁ。
「なあなあアニキ! 遊ぼうぜ!」
「ダメ。おにーにはウミと遊ぶ」
「こーら二人とも、ヒロにはアタシが用事あって来てもらったのよ。だから遊んでもらうのはまた今度ね」
「えぇー、お姉のケチー」
陸馬は不満を口にするが、ウミノはシュンとして落ち込んでいる。
こういう姿を見せられると弱えんだよなぁ。
「そうだなぁ。今度動物園にでも連れてってやっから、今日は我慢な?」
「「ど、動物園!?」」
二人が同時に目を輝かせ始めた。
「ほ、ほんとかアニキ! ほんとに連れてってくれるのか!」
「おにーに、ほんと? ほんとだとウミ、よろこぶよ?」
「ああ、約束だ約束。ちゃ~んと連れてってやっから」
俺は二人の頭を撫でてやると、嬉しそうに笑顔を見せてくれた。
「ちょっと、ホントにいいの? そんな約束なんかしちゃって」
「別にいいって。コイツらは俺の弟や妹みたいなもんだしな」
「「えへへ~」」
俺はできることなら弟か妹が欲しかった。それに子供も好きだし、こういうのは大歓迎だ。
「ほら、あんたたちは宿題もあるでしょ? ちゃんとやっておきなさいよ」
そう言われ、二人はちゃぶ台の上で宿題をし始めた。
「じゃあお父さん、隣使うから」
「! ……そうか、彼には信用して話すんだね?」
「ん、ヒロなら信用できるから」
今のやり取りで、父と子の会話が成立したようで、森也さんは真剣な眼差しで頷くと、もうそれ以上は何も言わなかった。
「ヒロ、ついてきて」
「は? どこに……」
「いいから、ほら」
と、手を引っ張られながら何故かまた外に出て、そのまま隣の部屋へと入って行った。
「……勝手に入っていいのか?」
そこは空き部屋じゃなくて、どこか生活感溢れる内装だったため、誰かが住んでいると判断したのだ。
「いいのよ。ここもウチが借りてる部屋だから」
「二つも?」
「うん。さっき陸馬も言ってたけど、このアパートってアタシたち以外住んでないからさ。別にもう一室くらい使ってもいって、管理人さんがここの家賃を無料で貸してくれてるの」
へぇ、ずいぶんと気前の良い管理人もいたもんだ。まあ……ソラネには悪いけど、このボロアパートに住みたいという人はそうそういないだろうが。
「こっちはね、アタシと母さんが主に使っててね。ほら、上がって」
「あ、ああ。お邪魔します」
間取りは隣と全く一緒ではあるが、内装は確かに女性っぽさが目立つようなお洒落な感じだ。
「あんまジロジロ見んなし」
「あ、悪い。こっちの部屋に入るのは初めてだったからな」
「……しおんのと比べないでよ?」
「比べるかよ。それにしおんのお姫様チックは部屋よりは、どちらかってーとこっちのシックな感じの方が好きだしな」
「そ、そう……なんだ。ふ~ん……今お茶入れるから待って」
俺は居間に腰を下ろすと、ソラネが湯呑みに麦茶を入れて持ってきてくれた。
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