異世界帰りの俺は、スキル『ゲート』で現実世界を楽しむ

十本スイ

文字の大きさ
上 下
19 / 50

第十八話 妖と妖祓い

しおりを挟む
 俺は一人家への帰路を歩きながらスマホをポケットから取り出すと……。

「げっ、着信とメッセージが山ほど」

 しかもほとんどはしおんからだった。
 内容はやはりソラネとのことである。完全に怪しかったから無理もないが。

 でもなぁ、本当のことを言うわけにもいかねえし。

 そもそもカテゴリー的には吸血鬼だって妖に入っていると思うし、『妖祓い』についての知識くらいあるかもしれない。
 俺はしおんに電話をかけて、一応彼女からの話を聞いておこうと思った。

「もしもし……ろっくん?」
「ほいほい、ろっくんだぞー」
「ろっくん! もう! いきなりソラちゃんに連れていかれたと思ったら、あれから連絡も取れないし心配したんだよ!」
「あー悪い悪い。ちょっと込み入った事情があってな」
「事情? 何か大変なこと?」
「大丈夫大丈夫。ある程度はもう解決したから」
「そうなの? それなら良かったけど、ソラちゃんと何してたの?」

 ん~? どことなく言葉の端々に冷たさを感じるけど……怒ってねえよな?

「だからあれだって。アイツの弟と会ってゲームに突き合わされてたんだよ」
「……ほんと?」
「……ああ」
「嘘でしょ? ろっくんって嘘つけない人だって分かってるもん」

 あちゃあ……バレて~ら。ていうか俺、そんなに嘘吐くの下手なの? それはそれでショックなんだけど。

「……でも言えないこと、なんでしょう? しかもソラちゃんに関しての」
「……悪いな」

 どうせバレてるならこれ以上嘘を吐く必要もない。

「やっぱりそっかぁ。ソラちゃん、何か必死だったもんね。……でも私には相談できないことなんだ……」

 二人は友達だし、話してもらえないことが残念なのは分かる。
 ただ俺は、ソラネの事情を知っている以上、確かにおいそれと話して良い内容でもないことを知っているので……。

「親友だからこそ話せねえことだってあるだろ? お前ならそれが分かると思うが?」
「! ……そう、だね。はは、私ったら自分のこと棚に上げちゃってた。私だって隠してることあるのにね」
「ソラネには話そうって思わねえのか?」
「う~ん……やっぱり怖い、かな」
「拒絶されるのが?」
「……うん。ろっくんは受け入れてくれたけど、今までにもいろいろあったから」

 それはしおんに聞いた。
 小学生の頃、ソラネのように仲が良かった友人がいたらしいが、正体がバレた時に怯えられ拒絶された経験をしおんはしている。
 だからこそ普通の人間であるソラネに告白できずにいるのだ。

「俺はソラネなら大丈夫だって思うけどな。そんな小さいことなんて気にする必要ないわよって言いそうだ」
「ふふ、それソラちゃんの真似? 似てないよぉ」

 実際にソラネならマジで言いそうだ。
 ただ問題はソラネが『妖祓い』という仕事をしていること。
 ソラネが妖に対して絶対的な討伐対象と考えているなら、しおんの正体は隠しておいた方が良いかもしれないが、ソラネは問答無用で討伐するような人間じゃない。
 幽霊相手でも、できれば対話をして自ら成仏をするように促すくらいに優しい奴だ。

 だからきっとしおんのことも受け入れてくれるとは思うが……。

「そういや『異種』ってこの街に結構いるもんなのか?」
「ん~どうだろう。そういうことはお姉ちゃんの方が詳しいよ。聞こうか?」
「いや、単なる雑談程度だし別にいいよ。しおんは他の『異種』に会ったことは?」
「そうだね、あまりないかな。ヴァンパイアに限らず『異種』って閉鎖的だから、あまり他種族と交流を持たないんだよ」
「そんなだから世継ぎ問題とか出てくるんじゃねえの」
「はは、多分ろっくんの言う通り。けど……怖いんだと思う。自分たち以外の血族を受け入れるのが。だから受け入れるとしても慎重に慎重を重ねて婚姻相手を選ぶんじゃないかな」

 怖い……か。

 俺だったらどうだろう。
 例えば俺がヴァンパイアで、その血筋を何よりも大事にしているとする。
 そこへ他種族の血を入れなければならないとなると…………確かに不安かもしれない。

 もしかしたらヴァンパイアの血が、その他の血によって飲み込まれてしまうかもしれないし、そうなればいずれヴァンパイアの立場は弱まり、他種族の支配下に置かれてしまうのでは?

 なるほど。悪いことを考えれば考えるほど怖くなるのも分かる。
 身内だけで事を為すことができれば、やはりそれが一番良いと判断するだろう。
 血族の問題というのは、俺が思っている以上に深刻なのかもしれない。

「じゃあもしかしたら俺たちが通ってる学校にも、しおん以外の『異種』がいたりって可能性もあるか?」
「その可能性もあると思うよ」
「そういう『異種』同士って気配とかで分かったりしねえの?」
「普段はそういう気配は隠してると思うよ? ほら、私だってそうだし」
「あーそういえば、しおんがヴァンパイアの力を使う時って、何か呪文みたいなもんを唱えるんだよな?」
「うん。〝ヴァンデ〟って言うの。これで力を解放し、普段抑えていたヴァンパイアの血を目覚めさせるんだよ」
「他の『異種』も、普段はしおんと似たように力を封印してるってわけか」
「そうしないと余計な争いや問題が発生しちゃうからね」

 まあ、しおんの場合は牙が伸びるし目の色も変わるので、確かに他人が見たらビックリしてしまうだろう。
 その他にも単純に力が上がったり、強い吸血衝動なんかも起こるそうだ。
 他の『異種』も、そうした本能が暴走しないように通常は力を封印しているらしい。

「それに私たちみたいな存在を捕まえたり、やっつけようっていう人もいるから」

 やっつけようという言葉に俺は反応した。

「ふぅん。あれか? 漫画みたいな幽霊や妖怪を退治したりする連中がいるってか?」
「うん、そういうことを仕事にしてる人たちもいるしね。『妖祓い』っていうんだよ」

 ――ビンゴ。

 ようやく彼女からその言葉を引き出せた。しかしやっぱり『妖祓い』のことを知ってたか。

「そんな連中もいるんだな。つまりはしおんたちの敵……ってことか?」
「そう……だね。あまり関わり合いになりたくない人たちかも」

 あちゃあ……こりゃ益々今日のことは言えねぇや。

「ということは、しおんたちって『妖』ってカテゴリーに入るのか?」
「世間一般的には『異種』って呼んでるけど、昔は『妖』とか『妖怪』とか『妖魔』なんて呼ばれてたみたいだよ?」
「妖怪ねぇ……じゃあ一反木綿とか座敷童とかいるんかねぇ」
「お姉ちゃんはいるって言ってたけど」
「マジか……座敷童にはちょっと会ってみてえな」

 基本的に可愛らしい童子として描かれているので、本当にそうなのか見てみたい。

「あ、でも気をつけてね、ろっくん」
「ん? 何をだ?」
「『異種』……『妖』にもその……人間が嫌いなタイプもいるから。もし襲われたら……」
「おう、その時はサクッと返り討ちに遭ってもらうわ」
「に、逃げてって言おうと思ったのに……。でもろっくんなら大丈夫そうなのも事実なんだよね」

 たとえ鬼やドラゴンが現れても討伐できる自信はある。
 何と言っても俺は世界を滅亡させようとしていた災厄を討ち倒した男なのだから。

「まあでも、そんな奴とは一生会わないで平和に過ごすことが一番だけどな」
「ふふ、わたしもそう思う。あ、今、お姉ちゃんにお風呂入るように言われたから切るね」
「おう、湯冷めしないようにちゃんとあったまれよ」
「分かってるよ。じゃあまた明日ね、ろっくん。おやすみなさい」
「おやすみ、しおん」

 電話を切ると「ふぅ~」と溜息を吐きながら天を仰ぐ。

「マジでどうすっかなぁ……」

 親父、お袋……俺の傍に『妖』と『妖祓い』がいるんだけど、どうしたらいい?

 何だか二人して、天国で「「ドンマイッ!」」ってグーサインを向けているような気がしてイラっとした。

「ま、なるようにしかならねえか」

 どうか二人が今後とも仲の良い友人同士でいられるようにと俺は願った。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

1枚の金貨から変わる俺の異世界生活。26個の神の奇跡は俺をチート野郎にしてくれるはず‼

ベルピー
ファンタジー
この世界は5歳で全ての住民が神より神の祝福を得られる。そんな中、カインが授かった祝福は『アルファベット』という見た事も聞いた事もない祝福だった。 祝福を授かった時に現れる光は前代未聞の虹色⁉周りから多いに期待されるが、期待とは裏腹に、どんな祝福かもわからないまま、5年間を何事もなく過ごした。 10歳で冒険者になった時には、『無能の祝福』と呼ばれるようになった。 『無能の祝福』、『最低な能力値』、『最低な成長率』・・・ そんな中、カインは腐る事なく日々冒険者としてできる事を毎日こなしていた。 『おつかいクエスト』、『街の清掃』、『薬草採取』、『荷物持ち』、カインのできる内容は日銭を稼ぐだけで精一杯だったが、そんな時に1枚の金貨を手に入れたカインはそこから人生が変わった。 教会で1枚の金貨を寄付した事が始まりだった。前世の記憶を取り戻したカインは、神の奇跡を手に入れる為にお金を稼ぐ。お金を稼ぐ。お金を稼ぐ。 『戦闘民族君』、『未来の猫ロボット君』、『美少女戦士君』、『天空の城ラ君』、『風の谷君』などなど、様々な神の奇跡を手に入れる為、カインの冒険が始まった。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...