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第十四話 様子がおかしいソラネさん
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――翌日。
俺はしおんの家で目覚め、一緒に朝食を食べていると、慌てて家へと駆けつけてきた人物がいた。
その人物は――滝宮十三。
しおんと真鈴さんに仕えている執事である。
どうやら真鈴さんから昨日の事件について連絡を受け、すぐに帰ってきたのだという。
「なるほど。やはり重道さんは、あなたの家にも手を回していたんですね」
真鈴さんは呆れたように溜息を吐いていた。
聞けば、滝宮さんは家の用事でこの家を空けていたというが、それもオッサンが仕組んだことだったらしい。
手を回して滝宮さんをこの二人から距離を離したのだ。そうして彼がいないところで、この二人を攫う予定だったのだろう。
「この度はお嬢様方を助けて頂き、誠に感謝を致します、同本様」
「あーえと、もうお礼はお腹いっぱいだから気にしなくていいっすよ」
「ですが……もしあなた様がいらっしゃらなかったと考えると……っ」
この人の忠義は本物だ。今も血が出るんじゃないかってくらいに歯と拳に力を入れている。
「……じゃあ今度美味いもんを食わせてくださいよ。できれば甘いもの。それでチャラってことで」
「そ、そのようなことで良いのですか?」
「俺にとって甘いものはご褒美みたいなもんなんで。だから頼んます」
「……承知致しました。では今後、この滝宮十三が精魂込めて至極の逸品を作らせて頂きます故、お待ちくださいませ」
おほ~、これは楽しみだ! 滝宮さんの料理の腕はプロ並みだしな! こりゃ昨日は巻き込まれてマジで良かったぜ!
「あ、ろっくん、そろそろ学校に行く時間だよ!」
「おっと、そんじゃ行くか」
「ではお二方、僭越ながら私がお車で送らせて頂きます」
「え、それって俺も……乗るの?」
「もちろんだよっ、ろっくん!」
「いや……ちょっと恥ずかしいんだけどなぁ」
俺は一般家庭の普通の小市民だぞ? 高級車に乗って送迎なんて当然されたことなんてない。
「……ダメ?」
ぐふっ……そんな泣きそうな上目遣いで見てこないで!?
「…………分かったよ」
「! じゃあお姉ちゃん、行ってくるね! それと、一応気をつけてね!」
「大丈夫ですよ。安心して行ってらっしゃい」
俺たちは真鈴さんに見送られながら、学校へと車で向かうことになった。
徒歩じゃないので、すぐに学校には到着したが……。
「……あぁ、やっぱりめちゃ見られてるぅ……」
ただでさえしおんは美少女で有名なんだ。そんな子と一緒の車に乗って登校となると、そりゃ誰もが気を向けてしまうことだろう。
「ではお迎えにも上がりますので、どうぞ良い一日をお送りくださいませ」
うわぁ、滝宮さん! 俺に向かって頭を下げないで!? 俺は一般人だから慣れてねえんだってばぁぁぁ!?
「ちょ、ろっくん! 歩くの速いよぉ~!」
悪いなしおん。俺は一刻も早く教室に逃げ込みたいんだ。
好奇の視線を浴びながらも、俺は素早く下駄箱で靴を履き替えると、足早に教室へと向かう。その後ろから「待ってぇ~」と言いながら、しおんが追いかけてくる。
悪いが教室まで俺は誰にも止められないぜ。
そうして教室へ入り自分の席に座ってしばらくして――。
「だからそろそろ機嫌治せって」
「……むぅ」
隣の席で脹れっ面のまま俺を睨みつけてくる。
置いてきぼりにしたのが余程お怒りを買ってしまったようだ。
どうすればヴァンパイアの娘さんの機嫌を直すことができるか……。
「ほら、今度アイス奢ってやっからさ」
「…………【フォーティワン】のトリプル」
有名アイスチェーン店のかぁ。しかも三つのアイスを盛ったトリプルかよ。
「うっ…………分かった」
ちくしょう。高くついちまったぜ。
でもお蔭で機嫌が直ったようでホッとする。
「ヤッホー、おはよー!」
そこへ昨日は運良く巻き込まれなかったソラネが登校してきた。
「あ、ヒロってばいた! ちょっと聞いたわよ! アンタね、しおんと同じ車に乗って登校してきたそうじゃない!」
やっぱ噂になってるよなぁ。しょうがねえけど。
「何がどうしたらそうなったのよ? アンタとしおんの家って逆方向でしょうが!」
「いやまあ、カクカクシカジカで」
「なるほど、つまりマルマルウマウマってわけね……って、分かるかーっ!」
「おう、ナイスノリツッコミ! 腕を上げたなソラネ!」
「え? そう? まあ普段からアンタや先輩のボケにツッコんでるしね……って、だから話を逸らそうとすんな!」
あーダメだったかぁ。
「それにしおんも何で? 昨日二人でしおんの作ったボードゲームしたの? それで帰りが遅くなって、仕方なく泊まることにしたとかそんな感じ?」
おお、想像力豊かな奴。しかも辻褄も合ってるし、ここはこの波に乗るしかないな。
「そう――」
「違うよぉ、ソラちゃん。昨日ろっくはね、わたしのために戦ってくれて……あの時のろっくん、カッコ良かったなぁ」
「ちょっ、しおんさん!?」
いきなりのカミングアウトに、思わず声を上げてしまった。
「た、戦った? 何言ってんのよ、しおん? それに何でそんな熱っぽい視線をヒロに送って……はっ、まさかアンタ!?」
「って、何で俺の方を見るんだよ?」
「もしかして……しおんを無理矢理襲ったの?」
「何で今の会話の流れでそんな話になるんだよ! どちらかというと逆だし!」
「逆?」
ああ、俺のバカ! つい俺まで余計なことを!?
「んふふ~、ろっくんってば素敵だったよ?」
「っ……何かアンタたち、いきなり距離が縮まってない? 一体昨日何があったのよ!」
「いや、だからほら……あ、あれだ! しおんが厄介なナンパ野郎に絡まれてしまってな! そんで俺が颯爽と助けたってわけだ!」
「……は? アンタが? ……てかアンタってケンカ強かったっけ?」
「ふっ、バカにすんなよソラネ。見ろ、この力こぶを!」
そう言いながら右腕に力を込めると――ビリィィィィッ!
「「「…………」」」
……うん、力……込め過ぎちゃった!
ただでさえ成長したせいで小さくなっていた制服の右腕部分を破壊してしまった。
「え、えと……ヒロ?」
ちょっと……いや、かなり引いた感じでソラネが……よく見れば、クラスメイトたちが俺を見つめてきている。
うわぁ、どうすんのこれ……。
「もうろっくんってば、最近成長して制服が小さくなってきたって言ってたのに、力なんか込めるから破れちゃうんだよ? ほら、先生に説明しに行こ」
ナイスフォローだ、しおん! けどこうなってるのもお前が余計なことを言ったからなんだぞ!
だがクラスメイトたちも、特に怪しんだりはしていない。
そういや確かにアイツ最近身長伸びたよなぁ、とか言って納得してくれている。ああ、愛するクラスメイトたちがバカで良かった。
「いや、いいよしおん。もうすぐホームルーム始まるし、その時にでも言うよ」
「そう? 分かったよ」
「ほら、ソラネも自分の席に……ソラネ?」
見ればソラネが、驚愕な目で俺の露わになった右腕を見ていた。
「……そんな、今の霊気量……有り得ないし……! 今までこんなことなかったのに……!」
れいき……りょう? 何だかよく分からないことを呟いているソラネ。
「お、おいソラネ?」
「……え? あ、えと……何?」
「いや、そろそろ先生も来るし席に戻った方が良いと思うぞ?」
「……そうね」
さっきまでと違って、明らかに考え込むような仕草を見せながら、ソラネは自分の席へと戻っていった。
授業が始まってもなお、ソラネは難しい顔のままだ。時折何故か俺の方を見てくるし、目が合うと慌てて逸らすということを繰り返している。
……何だアイツ?
完全に挙動不審者だ。場所が場所だったら確実に職務質問をされている。
するとその時、スマホがブルブルブルと震え出したので、先生に見つからないようにチェックしみると……。
〝あのさ、ちょっとアンタに聞いておきたいことがあるんだけど〟
……お? 授業中にメッセージなんて、ソラネにしては珍しいじゃねえか。
俺は続きを読み進めていく。
〝ヒロってさ…………ああ、やっぱあとで直接聞くことにするわ。次の休み時間、逃げないでよね!〟
思わずソラネの方を見てみると、何故かベーと舌を出して挑発された。
……だから何なの一体?
とりあえず次の休み時間には謎が解けそうだが、モヤモヤしたまま授業を過ごすことになった。
あ、ちなみに制服は先生に予備があるということで頂きました。
俺はしおんの家で目覚め、一緒に朝食を食べていると、慌てて家へと駆けつけてきた人物がいた。
その人物は――滝宮十三。
しおんと真鈴さんに仕えている執事である。
どうやら真鈴さんから昨日の事件について連絡を受け、すぐに帰ってきたのだという。
「なるほど。やはり重道さんは、あなたの家にも手を回していたんですね」
真鈴さんは呆れたように溜息を吐いていた。
聞けば、滝宮さんは家の用事でこの家を空けていたというが、それもオッサンが仕組んだことだったらしい。
手を回して滝宮さんをこの二人から距離を離したのだ。そうして彼がいないところで、この二人を攫う予定だったのだろう。
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「ですが……もしあなた様がいらっしゃらなかったと考えると……っ」
この人の忠義は本物だ。今も血が出るんじゃないかってくらいに歯と拳に力を入れている。
「……じゃあ今度美味いもんを食わせてくださいよ。できれば甘いもの。それでチャラってことで」
「そ、そのようなことで良いのですか?」
「俺にとって甘いものはご褒美みたいなもんなんで。だから頼んます」
「……承知致しました。では今後、この滝宮十三が精魂込めて至極の逸品を作らせて頂きます故、お待ちくださいませ」
おほ~、これは楽しみだ! 滝宮さんの料理の腕はプロ並みだしな! こりゃ昨日は巻き込まれてマジで良かったぜ!
「あ、ろっくん、そろそろ学校に行く時間だよ!」
「おっと、そんじゃ行くか」
「ではお二方、僭越ながら私がお車で送らせて頂きます」
「え、それって俺も……乗るの?」
「もちろんだよっ、ろっくん!」
「いや……ちょっと恥ずかしいんだけどなぁ」
俺は一般家庭の普通の小市民だぞ? 高級車に乗って送迎なんて当然されたことなんてない。
「……ダメ?」
ぐふっ……そんな泣きそうな上目遣いで見てこないで!?
「…………分かったよ」
「! じゃあお姉ちゃん、行ってくるね! それと、一応気をつけてね!」
「大丈夫ですよ。安心して行ってらっしゃい」
俺たちは真鈴さんに見送られながら、学校へと車で向かうことになった。
徒歩じゃないので、すぐに学校には到着したが……。
「……あぁ、やっぱりめちゃ見られてるぅ……」
ただでさえしおんは美少女で有名なんだ。そんな子と一緒の車に乗って登校となると、そりゃ誰もが気を向けてしまうことだろう。
「ではお迎えにも上がりますので、どうぞ良い一日をお送りくださいませ」
うわぁ、滝宮さん! 俺に向かって頭を下げないで!? 俺は一般人だから慣れてねえんだってばぁぁぁ!?
「ちょ、ろっくん! 歩くの速いよぉ~!」
悪いなしおん。俺は一刻も早く教室に逃げ込みたいんだ。
好奇の視線を浴びながらも、俺は素早く下駄箱で靴を履き替えると、足早に教室へと向かう。その後ろから「待ってぇ~」と言いながら、しおんが追いかけてくる。
悪いが教室まで俺は誰にも止められないぜ。
そうして教室へ入り自分の席に座ってしばらくして――。
「だからそろそろ機嫌治せって」
「……むぅ」
隣の席で脹れっ面のまま俺を睨みつけてくる。
置いてきぼりにしたのが余程お怒りを買ってしまったようだ。
どうすればヴァンパイアの娘さんの機嫌を直すことができるか……。
「ほら、今度アイス奢ってやっからさ」
「…………【フォーティワン】のトリプル」
有名アイスチェーン店のかぁ。しかも三つのアイスを盛ったトリプルかよ。
「うっ…………分かった」
ちくしょう。高くついちまったぜ。
でもお蔭で機嫌が直ったようでホッとする。
「ヤッホー、おはよー!」
そこへ昨日は運良く巻き込まれなかったソラネが登校してきた。
「あ、ヒロってばいた! ちょっと聞いたわよ! アンタね、しおんと同じ車に乗って登校してきたそうじゃない!」
やっぱ噂になってるよなぁ。しょうがねえけど。
「何がどうしたらそうなったのよ? アンタとしおんの家って逆方向でしょうが!」
「いやまあ、カクカクシカジカで」
「なるほど、つまりマルマルウマウマってわけね……って、分かるかーっ!」
「おう、ナイスノリツッコミ! 腕を上げたなソラネ!」
「え? そう? まあ普段からアンタや先輩のボケにツッコんでるしね……って、だから話を逸らそうとすんな!」
あーダメだったかぁ。
「それにしおんも何で? 昨日二人でしおんの作ったボードゲームしたの? それで帰りが遅くなって、仕方なく泊まることにしたとかそんな感じ?」
おお、想像力豊かな奴。しかも辻褄も合ってるし、ここはこの波に乗るしかないな。
「そう――」
「違うよぉ、ソラちゃん。昨日ろっくはね、わたしのために戦ってくれて……あの時のろっくん、カッコ良かったなぁ」
「ちょっ、しおんさん!?」
いきなりのカミングアウトに、思わず声を上げてしまった。
「た、戦った? 何言ってんのよ、しおん? それに何でそんな熱っぽい視線をヒロに送って……はっ、まさかアンタ!?」
「って、何で俺の方を見るんだよ?」
「もしかして……しおんを無理矢理襲ったの?」
「何で今の会話の流れでそんな話になるんだよ! どちらかというと逆だし!」
「逆?」
ああ、俺のバカ! つい俺まで余計なことを!?
「んふふ~、ろっくんってば素敵だったよ?」
「っ……何かアンタたち、いきなり距離が縮まってない? 一体昨日何があったのよ!」
「いや、だからほら……あ、あれだ! しおんが厄介なナンパ野郎に絡まれてしまってな! そんで俺が颯爽と助けたってわけだ!」
「……は? アンタが? ……てかアンタってケンカ強かったっけ?」
「ふっ、バカにすんなよソラネ。見ろ、この力こぶを!」
そう言いながら右腕に力を込めると――ビリィィィィッ!
「「「…………」」」
……うん、力……込め過ぎちゃった!
ただでさえ成長したせいで小さくなっていた制服の右腕部分を破壊してしまった。
「え、えと……ヒロ?」
ちょっと……いや、かなり引いた感じでソラネが……よく見れば、クラスメイトたちが俺を見つめてきている。
うわぁ、どうすんのこれ……。
「もうろっくんってば、最近成長して制服が小さくなってきたって言ってたのに、力なんか込めるから破れちゃうんだよ? ほら、先生に説明しに行こ」
ナイスフォローだ、しおん! けどこうなってるのもお前が余計なことを言ったからなんだぞ!
だがクラスメイトたちも、特に怪しんだりはしていない。
そういや確かにアイツ最近身長伸びたよなぁ、とか言って納得してくれている。ああ、愛するクラスメイトたちがバカで良かった。
「いや、いいよしおん。もうすぐホームルーム始まるし、その時にでも言うよ」
「そう? 分かったよ」
「ほら、ソラネも自分の席に……ソラネ?」
見ればソラネが、驚愕な目で俺の露わになった右腕を見ていた。
「……そんな、今の霊気量……有り得ないし……! 今までこんなことなかったのに……!」
れいき……りょう? 何だかよく分からないことを呟いているソラネ。
「お、おいソラネ?」
「……え? あ、えと……何?」
「いや、そろそろ先生も来るし席に戻った方が良いと思うぞ?」
「……そうね」
さっきまでと違って、明らかに考え込むような仕草を見せながら、ソラネは自分の席へと戻っていった。
授業が始まってもなお、ソラネは難しい顔のままだ。時折何故か俺の方を見てくるし、目が合うと慌てて逸らすということを繰り返している。
……何だアイツ?
完全に挙動不審者だ。場所が場所だったら確実に職務質問をされている。
するとその時、スマホがブルブルブルと震え出したので、先生に見つからないようにチェックしみると……。
〝あのさ、ちょっとアンタに聞いておきたいことがあるんだけど〟
……お? 授業中にメッセージなんて、ソラネにしては珍しいじゃねえか。
俺は続きを読み進めていく。
〝ヒロってさ…………ああ、やっぱあとで直接聞くことにするわ。次の休み時間、逃げないでよね!〟
思わずソラネの方を見てみると、何故かベーと舌を出して挑発された。
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とりあえず次の休み時間には謎が解けそうだが、モヤモヤしたまま授業を過ごすことになった。
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