異世界帰りの俺は、スキル『ゲート』で現実世界を楽しむ

十本スイ

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第四話 これぞ求めた平和

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 ……………………制服がキツイ。

 やはりこの二年で成長した分だけ、学園の制服がかなり小さい。
 こればかりはどうしようもないので、今は我慢して先生に新しいのを頼むしかない。
 俺は動きにくい制服を着用しながら、これまた久々である【私立洛真学園】に向かう。

 さすがに二年間で道は忘れてはいないが、やはり歩いているとどこかワクワクしている自分がいる。
 すると目の前に、ソラネとしおんの後姿を発見。

「よっ、今日も仲が良くて何よりだなお二人さん」

 陽気に声をかけたにもかかわらず、こちらを振り向いたソラネの表情は芳しくない。
 まるで変なものでも見るような目つきである。

「何? 何で朝からそんなにテンション高いのよアンタ。いつもだったら気怠い感じで、こっちが挨拶してもお~とかう~しか言わないくせに」

 うっ……そういえばそうだった。基本的に毎日の学校が憂鬱ということもあり、朝は最低のテンションだったのである。

「えと……何か良いことでもあったの、ろっくん?」

 しおんも俺の様子がおかしいことに気づいたようで、やはり追及してきた。

「あー……そうそう! 実は今やってるスマホゲームのガチャで、SSRの武器をゲットしたんだよ!」

 ……してねえけど。でも向こうに行く前はしていたので、辻褄は合うだろう。

 でも知らず知らずテンションが上がってるのは、やはり久方ぶりの学園だからに違いない。こんなに通学を楽しんでいるのはピッチピチの小学生以来ではなかろうか。

「アンタまた課金したの? もったいないから止めなさいよね。あんなもん何の価値もないんだから」
「それは聞き捨てならないぞソラネ! 世の中には課金に命をかける奴らだっているんだぞ! 総額数百万数千万なんてザラだ!」
「マジで意味わかんないし。ただの自己満足でしょ?」
「ぐっ、正論を言うな正論を! 本人たちはそれで心の豊かさを保ててるんだから無価値なんかじゃないんだよ」

 まあこう言っている俺も、さすがに廃課金者というわけじゃないので、あまり大きなことは言えないし、さすがに数百万規模となると引いてしまうのも確かだ。

「あんまり課金やり過ぎちゃうと、また五那さんに叱られちゃうよ?」

 そこで姉の名前を出してくるとは……。
 いや確かに限度を考えろって二時間説教を受けた記憶はあるが。あれは恐ろしかった。

 ただ二年間も離れていたからか、今はスマホゲームを課金してまでやりたいっていう欲求はない。
 俺たちは三人並んで、我が母校である【洛真学園】へと足を踏み入れる。

 おお……懐かしいなぁ。まったく変わってねえや。……当たり前だけど。

 三人で教室まで一緒に向かい、そして自分の席へと座る。
 廊下側の一番奥の席で、昼休みになると真っ先に購買へダッシュすることができるベストポジションだ。

 クラスメイトも次々と登校してきて、俺も軽く挨拶をかわしていく。別に親しいってわけじゃないが、挨拶くらいはする程度にコミュニケーションはある。
 チャイムが鳴ると、皆が自分の席へと落ち着く。担任の教師が登場し、ロングホームルームが行われた。

 心の中で、先生、久しぶり! と言いつつ、次の授業である国語の教科書を机に出す。
 そしてこれまたお久しぶりの国語の教師が姿を見せた。 

 懐かしき授業が開始されるが……。
 俺は後ろからクラスメイトたちを見回し、不思議な気持ちになる。

 コイツらって、普通なんだよなぁ。

 何の力も持たない、多少差はあっても平均的な強さの集まりである。
 もちろん《スキル》なんて持ち合わせていないし、本物の剣や槍などの武器を振り回した経験などもないだろう。

 毎日モンスターや盗賊に襲われる恐怖だって感じていないし、平々凡々と日々を過ごしているのだ。

 ……うん。これだよこれ。こんなありふれた日常を俺は欲してたんだよ!

 ここなら誰かに命を狙われることも、俺の力を利用しようと近づいてくる輩なんかもいない。
 普通に生活をし、普通に友達と笑って、普通に日常を楽しむ。
 こんな日本では当たり前なことを、俺はこの二年間心待ちにしていた。
 その念願がようやく叶ったことで、思わず目頭が熱くなってくる。

 ダメだぞ日六。ここで泣いたら変人扱いされちまうからな。我慢しろ耐えろ、そして平和に感謝しろ!

「……なあなあ、同本の奴、何かずっとニヤニヤしてんだけど?」
「うっそ。……マジだ。何で?」
「何か嫌らしいことでも考えてんじゃないの? これだから男子って」

 …………鍛えたことでヒソヒソ声も聞き取れるようになった聴力が恨めしい。

 ああもう! 俺のバカ~ッ!

 思わず机に突っ伏して猛省する。
 耳を澄ませばソラネの呆れたような溜め息と、しおんの渇いた笑い声が聞こえてくる。

 俺の《ゲート》で過去に戻ろうかなと本気で思った瞬間であった。
 案の定、授業が終わったあとにソラネとしおんから心配されてしまったのである。
 懐かしい思いに浸りたいが、同時に早く慣れろと俺の魂が葛藤していた。

 昼休みに入ると、すぐに俺は購買へと駆け出す。
 いつもなら、これでもすでに大勢の人で賑わっている購買だが、鍛え上げられた俺の超スピードのお蔭で、ファースト生徒として商品を購入することができた。 
 豊富な品揃えから、こうしてじっくり選べるのは初めてで嬉しい。

 すぐ売り切れる焼きそばパンとカツサンドをゲットし、追加でいちご牛乳とアンパンとメロンパンを購入して購買を出た。
 普段は屋上で食べたり、日当たりが良い外の広場かどこかで食べるのだが、今日はどうしたものか。

 たまには部室で食べるかと思い、恐らくはあの人がいるであろう部活棟へと向かった。
 その部屋の一つに辿り着くと、俺はノックをして中からの返事を聞いてから入る。


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