異世界帰りの俺は、スキル『ゲート』で現実世界を楽しむ

十本スイ

文字の大きさ
上 下
4 / 50

第三話 二年ぶりの我が家

しおりを挟む
 ――二日後、熱海の温泉から帰ってきた俺は、駅で同好会のメンバーたちと別れて、家へと戻っていく。

「あぁ、楽しかったなぁ。温泉も気持ち良かったし」

 温泉街ではいろいろ食べ歩きもできたし、気心知れた連中とワイワイやれて本当に楽しかった。
 まあ僅か一日で、ずいぶんと逞しくなった俺を見て三人は理由を聞いてきたが、何となく誤魔化しておいた。
 三人も無理には追及してこず、仲良く旅を楽しめたのである。

 ……うん、やっぱ戻ってきて良かったわ。

 もちろんあっちの世界でも、親しくなった連中はいる。
 こっちに戻る時も、寂しさを感じたさ。けど……それでも俺はやっぱりこっちの世界が良い。

 だってココが……この世界が俺の居場所なんだから。

 それに同好会のメンバーと久々に親睦を深められて良かった。何も変わっていない。普通の世界にいるということが何よりも俺の心を落ち着かせてくれたのだ。
 あっちでは常に気を張っていたから。特に強くなってからは。
 命だって狙われたし、何せ世界を救うためにやるべきことは山のようにあった。

 それが無駄だったとは言わないが、やはり平和な日本で過ごすのが俺には性に合っている。
 俺は一人、ほくほく顔で帰宅した。
 二年経っても何も変わっていない。まあ当然だけどね。

「――ただいま」

 鍵を開けて中に入る。
 だが家の中から出迎えの声が返ってくることはない。

「ま、知ってたけどな」

 俺はリビングへと入り電気を点ける。
 どこもかしこも綺麗に片づけられていて、俺が異世界に行く前と何ら変わらない光景がそこにあった。

 そのままの足で、和室がある部屋へと向かった。
 そこには仏壇が置かれていて、俺はその前に座る。
 こうやって顔を合わせるのも久しぶりだな。

「…………ただいま。久しぶり――――親父、お袋」

 飾られてある写真立ては一つ。一枚の写真には俺の父と母が仲睦まじい様子で映っている。
 今から約三年前に両親は飛行機事故に遭った。

 結婚してから互いに仕事が忙しく、時間ができた時には姉が生まれ、そのあとはまた仕事が立て込み、次に時間が出来た時には俺が生まれるという巡り合わせが悪かった。
 いや、落ち着いて子育てができたことを考えれば運が良かったのかもしれない。

 とにかく両親は新婚旅行をしていなかったのだ。
 そこでようやく五年前に、その機会がやってきた。

 その頃、姉はすでに大学を卒業する年齢となり、立派な大人の仲間入りを果たしていたし、俺の面倒は姉が見られるということで、二人にのんびりと旅行を楽しんでもらうように勧めた。もちろん俺も喜んで納得したのである。

 しかしその道中、両親が乗っているヨーロッパに向かう飛行機が落下したという報が流れ、遺体こそまだ発見されていないものの、あれから一度も連絡がないことから死んだと認定されてしまったのだ。

 こうして仏壇に手を合わせてはいるが、俺も姉ちゃんもあの両親が死んだとは思っていない。きっとどこかで生きていると信じている。
 いつかまた再会できることを願い、線香は立てないようにしているのだ。

 ちなみにこの仏壇は、親戚がほぼ強制的に置いていったもので、仕方なく使わせてもらっているだけだ。写真置きとして。
 現在、この家には俺だけが住んでいる。

 二十五歳の姉ちゃんは、すでに愛する夫を得ていて子供もいるのだ。
 近所に住んでいるので、たまに様子を見に来たりする。

 その度に、掃除しろや自炊しろなど、いちいちうるさく言われるが、姉ちゃんが連れてくる三歳の娘がカワイイので我慢していた。
 幸い両親にはかなりの蓄えがあるため、生活するにはまったく困っていない。
 それでもできるだけ無駄遣いしないようにしているが。

「晩飯何すっかなぁ。やっぱここはカップラーメンだよな!」

 異世界にはなかった、俺が恋焦がれるほどに欲したもの!

 ポットの湯を沸かすためにスイッチを入れて今か今かと待っていると、スマホがブルブルと震え始めた。
 液晶には〝しおん〟の文字が現れている。

「しおん? 用があったなら別れる前に言やいいのに」

 そう口にしながらも着信に出た。

「おう、どうしたしおん?」
「あ、ろっくん? 今いいかな?」
「別にいいぞー」
「ありがとう。あのね、さっき言い忘れてたんだけど、新作ゲームの試作版が完成したの。だからその……またね……」
「テストプレイしてほしいってか?」
「う、うん。ダメ……かな?」
「とんでもない。大歓迎ですよ、お姫様」
「お、お姫様とかじゃないよぉ!」

 相変わらず冗談は通じない奴だ。旅行の間も、つい懐かしくていろいろからかってしまった。ちょっとやり過ぎてソラネに怒られたけども。

「今度こそね、虎先輩にギャフンって言わせようって思って」
「OKOK。じゃあ明日の放課後にお邪魔すりゃいいんだな?」
「うん。ソラちゃんも楽しみにしててくれるって」

 実はこのボードゲーム同好会は、虎さんが発足したもので、ほぼ彼に無理矢理勧誘されたのが俺たちだ。
 最初はボードゲームなんて、テレビゲームより劣ると思っていたが、まず驚いたのはボードゲームの種類の豊富さだった。

 こんなにもあったのかと、まさに青天の霹靂だったのを覚えている。
 しかもやってみればこれまたハマるほど面白い。特に駆け引きが必要なゲームほど燃える。

 そうして知らず知らずにのめり込み、虎さんの思惑通りまんまと入会することになったわけだ。
 そしてメンバーはそれぞれ新作のボードゲームを作って、それをメンバーにやってもらい評価をしてもらう。

 出来が良いやつは、文化祭などにも発表したりするので手が抜けないのだ。
 作ってみるとクリエイター魂が震えるというか、全員をアっと言わせたくなるもので、特にボードゲームの評価に厳しい虎さんに褒められると最高に嬉しかったりする。

 以前しおんのゲームは、虎さんにかなりのダメ出しをくらってしまったのだ。だからこそリベンジのために燃えているというわけである。

「最高のゲームを作って、虎さんをボッコボコにしてやろうな!」
「うん! 頑張る! じゃあまた明日ね、おやすみ!」

 俺も「おやすみ~」と返して耳からスマホを離す。
 ちょうど湯も沸いたようなので、俺は久しぶりのカップラーメンに舌鼓を打った。
 感動で涙を流したのはここだけの秘密ということにしておこう。
 それから幾つもの久しぶりを堪能しながら、俺はその日を終えた。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

おばあちゃん(28)は自由ですヨ

美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。 その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。 どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。 「おまけのババアは引っ込んでろ」 そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。 その途端、響く悲鳴。 突然、年寄りになった王子らしき人。 そして気付く。 あれ、あたし……おばあちゃんになってない!? ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!? 魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。 召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。 普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。 自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く) 元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。 外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。 ※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。 ※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要) ※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。 ※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...