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第二話 俺のスキル
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もしかしたらただ恥ずかしい思いをするだけかもと思ったが、それは杞憂に終わった。
右手の前の空間がグルグルと渦を巻き始め、次第に濃紺に彩られる小さな楕円状の空間が現れたのだ。
「お、おお……マジで使えたし」
これは俺が異世界で戦い抜くために培った、唯一無二の力――《スキル》である。
その名も――《ゲート》。
様々な使い方ができるが、一番使用頻度の多い方法は、やはり空間と空間を繋ぎ合わせた《転移》であろう。
つまりは一瞬で、遠く離れた場所へと行くことが可能なのである。
俺は小さなその空間に顔を突っ込む。
そこは見覚えのあるラーメン店の横にある薄暗い路地裏だった。
待ち合わせ場所へは、そこから徒歩で一分程度。
「……よし、誰もいないな」
俺は《ゲート》を大きく広げ、自分の身体が通り抜けられるようにする。
そしてその中へと飛び込み、路地裏へと足を踏み入れた。
《ゲート》を消失させると、そのままゆったりとした足取りで表通りへと出る。
その先には広場があり、多くの者たちの待ち合わせ場所になっている。
目的の人物を探し見て、そいつらを見つけたので俺は駆け寄っていく。
「よっ、待たせたな!」
そこに立っていた三人の男女に向かって声をかけた。
「え? あれ……ヒロ? 何でいるのよ?」
「おい、その言い方は酷くないか?」
いきなり辛辣な言葉を投げかけてくれたのは、同級生の|《あきつ》秋津ソラネである。
亜麻色の髪をサイドテールで結っているスレンダーな美少女で、俺が通っている学園でも女子ランキングでトップクラスに位置する猛者だ。
コイツとは中学からだが家族ぐるみの付き合いもあって、友人というよりは家族みたいな感じで、気兼ねなく話すことができる相手である。
「そうだよソラちゃん、せっかくろっくんが遅れずに来てくれたのに」
優し気な声音で俺のフォローをしてくれるのは、同じく同級生の夜疋《やびき》しおんだ。
性格は温厚で物静かな読書好きの清楚系美少女で、コイツもランキング上位に入っている。
過激な発言が多いソラネのストッパー役として、普段からその辣腕を振るっているのだ。
「やあやあ、ギリギリだがよく間に合ったな、我が愛しの後輩よ!」
周りの人目など気にせずテンション高く話しかけてくるのは、このボードゲーム同好会の会長で先輩でもある千司堂虎丸《せんしどうとらまる》だ。
虎さんや虎先輩の愛称で親しまれているが、学園でも指折りの変人としても名を馳せている。
科学部でもないのに、いつも白衣を着ているから余計に目立つし、私服の時も白衣を手放さないので、一緒にいるとちょっと恥ずかしい。
それでもこの人は、千司堂グループと呼ばれる大会社の御曹司でもあり、すでに婚約者もいるような羨ましい立場を持っている。
「相変わらず虎さんは目立ってるなぁ。……懐かしい」
「はむ? 懐かしいとな? 昨日の放課後も会っているはずだが?」
すると三人が訝し気に俺に近づいてくる。
「ヒロ、アンタ……背伸びた?」
「私もそう思う。それにどことなく大人っぽくなってる感じが……」
「男子、三日会わざれば刮目して見よと、呉の武将である呂蒙の故事にも出ているが、確かにこれは逞しくなったような気がするではないか」
三人が三人とも、俺がこの二年で成長した姿に驚いているようだが、俺はそれどころではなかった。
ああ、全員マジで懐かしいわぁ。
俺は感極まって、思わず三人に飛びついて抱きしめてしまった。
「ちょっ!?」
「ろ、ろっくんっ!?」
「おやおや?」
「ああもう! 懐かしいなお前らぁぁっ!」
「な、何言ってんのってか、いきなりセクハラとか良い度胸じゃないこのバカッ!」
「そそそそそそそうだよ! こんな人前で……はぅ~!」
「同本後輩よ! 残念ながら僕はバイセクシャルではないのだがね!」
あ、しまった。俺にとっちゃ久しぶりでも、コイツらにとっちゃそうじゃないんだよな。
異世界には約二年ほど過ごした。
だから厳密にいうと、コイツらよりも先輩になってしまったのだが、たとえ言っても信じてはくれないだろう。
それどころか秋津の両親が働く病院に放り込まれてしまうかもしれない。
「おっと、悪い悪い! つい感極まってな! ははは!」
俺はサッと三人から距離を取って謝る。
「な、何が感極まってよ! あ~もう恥ずかしいわね」
「はぅぅぅ……顔が熱いよぉぉ」
「ハーッハッハッハ! 後輩に慕われるのは先輩冥利に尽きるが、些か驚愕はしたぞ?」
「あーほら、ドッキリですよドッキリ。昨日テレビでやってたんで、ちょっと試してみたくなって」
どうやらあまり怒っていないようで助かった。土下座くらいはするつもりだったが。
「ったく、会って早々に訳分からないことしないでよもう。ていうかヒロ、アンタね、寝坊して遅れるって言ってたじゃない」
「いやぁ、もしかしたらって思って送ったんだって。何とか間に合ったんだからもういいだろ」
《スキル》を使って来ましたなんて言えないしな。
「ま、いいわ。じゃあさっさと行きましょ」
「熱海の温泉、楽しみだね~」
「ワッハッハ! 僕が用意させた別荘で、ゆったりまったりと過ごしてくれたまえ!」
さすがは金持ち。ありがたく長いモノには巻かれておこう。
異世界でも金持ちは重宝できたしな。
そう思いながら、俺たちは駅へと向かっていったのである。
右手の前の空間がグルグルと渦を巻き始め、次第に濃紺に彩られる小さな楕円状の空間が現れたのだ。
「お、おお……マジで使えたし」
これは俺が異世界で戦い抜くために培った、唯一無二の力――《スキル》である。
その名も――《ゲート》。
様々な使い方ができるが、一番使用頻度の多い方法は、やはり空間と空間を繋ぎ合わせた《転移》であろう。
つまりは一瞬で、遠く離れた場所へと行くことが可能なのである。
俺は小さなその空間に顔を突っ込む。
そこは見覚えのあるラーメン店の横にある薄暗い路地裏だった。
待ち合わせ場所へは、そこから徒歩で一分程度。
「……よし、誰もいないな」
俺は《ゲート》を大きく広げ、自分の身体が通り抜けられるようにする。
そしてその中へと飛び込み、路地裏へと足を踏み入れた。
《ゲート》を消失させると、そのままゆったりとした足取りで表通りへと出る。
その先には広場があり、多くの者たちの待ち合わせ場所になっている。
目的の人物を探し見て、そいつらを見つけたので俺は駆け寄っていく。
「よっ、待たせたな!」
そこに立っていた三人の男女に向かって声をかけた。
「え? あれ……ヒロ? 何でいるのよ?」
「おい、その言い方は酷くないか?」
いきなり辛辣な言葉を投げかけてくれたのは、同級生の|《あきつ》秋津ソラネである。
亜麻色の髪をサイドテールで結っているスレンダーな美少女で、俺が通っている学園でも女子ランキングでトップクラスに位置する猛者だ。
コイツとは中学からだが家族ぐるみの付き合いもあって、友人というよりは家族みたいな感じで、気兼ねなく話すことができる相手である。
「そうだよソラちゃん、せっかくろっくんが遅れずに来てくれたのに」
優し気な声音で俺のフォローをしてくれるのは、同じく同級生の夜疋《やびき》しおんだ。
性格は温厚で物静かな読書好きの清楚系美少女で、コイツもランキング上位に入っている。
過激な発言が多いソラネのストッパー役として、普段からその辣腕を振るっているのだ。
「やあやあ、ギリギリだがよく間に合ったな、我が愛しの後輩よ!」
周りの人目など気にせずテンション高く話しかけてくるのは、このボードゲーム同好会の会長で先輩でもある千司堂虎丸《せんしどうとらまる》だ。
虎さんや虎先輩の愛称で親しまれているが、学園でも指折りの変人としても名を馳せている。
科学部でもないのに、いつも白衣を着ているから余計に目立つし、私服の時も白衣を手放さないので、一緒にいるとちょっと恥ずかしい。
それでもこの人は、千司堂グループと呼ばれる大会社の御曹司でもあり、すでに婚約者もいるような羨ましい立場を持っている。
「相変わらず虎さんは目立ってるなぁ。……懐かしい」
「はむ? 懐かしいとな? 昨日の放課後も会っているはずだが?」
すると三人が訝し気に俺に近づいてくる。
「ヒロ、アンタ……背伸びた?」
「私もそう思う。それにどことなく大人っぽくなってる感じが……」
「男子、三日会わざれば刮目して見よと、呉の武将である呂蒙の故事にも出ているが、確かにこれは逞しくなったような気がするではないか」
三人が三人とも、俺がこの二年で成長した姿に驚いているようだが、俺はそれどころではなかった。
ああ、全員マジで懐かしいわぁ。
俺は感極まって、思わず三人に飛びついて抱きしめてしまった。
「ちょっ!?」
「ろ、ろっくんっ!?」
「おやおや?」
「ああもう! 懐かしいなお前らぁぁっ!」
「な、何言ってんのってか、いきなりセクハラとか良い度胸じゃないこのバカッ!」
「そそそそそそそうだよ! こんな人前で……はぅ~!」
「同本後輩よ! 残念ながら僕はバイセクシャルではないのだがね!」
あ、しまった。俺にとっちゃ久しぶりでも、コイツらにとっちゃそうじゃないんだよな。
異世界には約二年ほど過ごした。
だから厳密にいうと、コイツらよりも先輩になってしまったのだが、たとえ言っても信じてはくれないだろう。
それどころか秋津の両親が働く病院に放り込まれてしまうかもしれない。
「おっと、悪い悪い! つい感極まってな! ははは!」
俺はサッと三人から距離を取って謝る。
「な、何が感極まってよ! あ~もう恥ずかしいわね」
「はぅぅぅ……顔が熱いよぉぉ」
「ハーッハッハッハ! 後輩に慕われるのは先輩冥利に尽きるが、些か驚愕はしたぞ?」
「あーほら、ドッキリですよドッキリ。昨日テレビでやってたんで、ちょっと試してみたくなって」
どうやらあまり怒っていないようで助かった。土下座くらいはするつもりだったが。
「ったく、会って早々に訳分からないことしないでよもう。ていうかヒロ、アンタね、寝坊して遅れるって言ってたじゃない」
「いやぁ、もしかしたらって思って送ったんだって。何とか間に合ったんだからもういいだろ」
《スキル》を使って来ましたなんて言えないしな。
「ま、いいわ。じゃあさっさと行きましょ」
「熱海の温泉、楽しみだね~」
「ワッハッハ! 僕が用意させた別荘で、ゆったりまったりと過ごしてくれたまえ!」
さすがは金持ち。ありがたく長いモノには巻かれておこう。
異世界でも金持ちは重宝できたしな。
そう思いながら、俺たちは駅へと向かっていったのである。
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