上 下
29 / 51

第二十八話 ダーツでGET

しおりを挟む
「わぁお~! センパイセンパイッ、宝箱ですよぉ! お宝ですよぉ! やったぁぁぁっ!」
「ちょ、待て待て! まだ罠かもしれんのに迂闊に近づくんじゃない!」
「大丈夫ですってばぁ! こ~んな仕掛けに隠されたもんですよぉ! お宝に決まってるじゃないですかぁ!」

 ダメだコイツ。金銀財宝に我を忘れるタイプみたいんだ。

「気持ちは分かるが、本当に少しだけ待て。今《鑑定》使うから」

 そう言いながら、宝箱に害がないか調べてみる。

〝宝箱 トラップ無し〟

 どうやら罠ではなさそうだ。

「うん、良いぞ。開けてみて」
「やったぁ! じゃあしっつれいしまぁす!」

 そんなに嬉しいのか、喜色満面で宝箱を開ける姫宮。

 すると――パンパカパーン、パパパパンパカパーンッ!

 何やらどこかで聞いたような賑やかな効果音とともに、宝箱から突然丸いパネルのようなものが浮き上がってきた。

「な、何ですぅ……これぇ?」

 意気揚々としていた姫宮も、若干引き気味にそう口にした。

〝ボーナスゲーム突入 ダーツでGETのお時間がやってきました〟

 そんな文字が表示された画面が、俺の目前に現れた。
 パネルは均等に三分割されていて、それぞれに〝経験値〟、〝Sポイント〟、〝Tポイント〟と書かれている。

 そしてパネルが急に超高速回転し始めた。とてもではないが俺の動体視力では、文字が書かれていることさえ分からぬほどのスピードで。
 これは狙って射貫くなんてことはできそうもない。

〝一人、代表者を選んでください〟

 そう表示された画面が現れた。

「はいはいはーい! センパイセンパイッ! 私がやりたいですぅ!」
「へいへい、わーったよ。じゃあ代表者は姫宮で」

 俺がそう言った直後、姫宮の手にダーツの矢が握られた。
 そして姫宮の身体がパッと消え、いつの間にか引かれていた白線の後ろへと立たされたのである。

「どうやらそっから投げろってことらしいな。……外すなよ?」
「ちょ、そこは応援してくださいよぉ!」
「頑張れ~」
「棒読み! もうっ、大丈夫ですよぉ! ダーツなら昔お姉ちゃんとやったことありますし!」

 そう言いながら彼女は狙いを定めて、パネルに向かって矢を投げた。
 確かにフォームは綺麗で、矢も真っ直ぐパネルへと向かいグサッと突き刺さった。
 パネルがゆっくりと回転が収まっていく。
 そして三つの枠のどれに刺さったのかというと……。

「きゃーっ! ほらほら見て見てセンパイッ! Tポイントに刺さりましたよぉ! 私ってばもってるぅ~っ!」

 思わず俺も感嘆してしまった。最も欲しいものを当てるとは、これは見事に彼女のお手柄だ。
 しかし幾らくらいもらえるのか……そう思っていると、いきなりパネルが変化し始めた。
 今度は五分割だが、それぞれ数字が刻まれている。

 50、500、5000、50000、500000

 どうやらもらえるTポイントの数らしい。
 しかしさすがに均等に振り分けられているわけではない。多い方は、的がやはり小さいのだ。

「よ~し! 狙うは五十万! このダーツのアイドルと言われた姫宮小色が、見事打ち抜いて見せますよぉ!」

 いや、そんな二つ名初めて聞いたんだけど。

 まあ本人が楽しそうなので別にいいか。
 パネルが回転し始めると、また姫宮の手に矢が出現した。

「むむむぅ…………それっ」

 さあ、今度はどれに刺さったのか……。
 さすがに五十万は無いにしても、五千くらいは欲しい。全体の二十五パーセントはあるから可能性としては高い。

 だが――。

「うにゃあぁぁぁぁぁぁっ! 何でですかぁぁぁぁっ!?」

 項垂れる姫宮。気持ちは分かる。

 だって――――500だもんな。

 まさかそこを当てるとは、最初の運で使い果たしたのだろうか。

「ま、まあまあ、ゲームだしそういうこともあるって。気にすんなよ」
「うぅ……セ……センパァイ……」

 たかがゲームに涙ぐまれても……。
 するとその時、俺の目前にまたも画面が表示された。

〝ファイナルチャンス チャレンジしますか? ただし失敗するとボーナスは無しです〟

「……! お、おい、まあチャンスがあるみてえだぞ? どうする?」
「マジですくわぁっ!?」

 ひ、必死だなおい……。

 俺は物凄い形相で立ち直った姫宮に説明する。

「……でもやっていいんですかぁ?」
「まあ500っぽっちもらってもアレだしな。どんなチャンスがあるか分からんが、やってみたらいいと思うぞ」

 別に失敗しても所持Tポイントが削られるなんていうリスクもなさそうだしな。

「分かりました! 次こそはセンパイのご期待に応えてみせますからぁぁぁ!」

 おお……後輩が燃えとる。

 チャレンジすることを了承すると、またパネルが変化し始めた。
 今度もまた五分割だ。

 ×0 ×10 ×100 ×1000 ×10000

 なるほど。上手くいけば、さっき獲得したポイントを大幅に増やせることができる。
 ただし問題なのは〝×0〟がパネルの半分を占めていることだ。
 せめて〝×10〟にでも当たれば良いのだが……。

「お願いっ! 神様仏様天国のお姉ちゃん! ――えいっ!」

 実の姉に祈るのはどうかと思うが、さてさて……。
 矢はちゃんとパネルに刺さったが果たして姫宮の願いが届いたのだろうか……。
 パネルの回転力が次第にゆっくりとなっていき、そして――。

 ガクッと、姫宮がダラリと頭を下げた。
 直後、プルプルと身体を震わせ――。

「やったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ――満面の笑みで両拳を高く突き上げた。

 見れば、姫宮が放った矢は見事〝×10000〟に命中していた。
 全体の約1%ほどしかない的を撃ち抜くとは、なかなかに運が良い。
 てっきりこの流れは0になるんだろうなって思ってた。そうなったら腹を抱えて笑ってやるつもりだったが……。

「やったじゃねえか、姫宮」
「んふふ~! どうですかぁ! 見てましたか私の雄姿をぉ! えへへへへ~!」

 相当嬉しいのか表情が緩みっぱなしだ。
 しかしこれで俺たちの目的である大豪邸購入へ、大きく近づいたのは確かだった。

「んじゃ、あとはコアモンスターをサクッと倒して先輩のとこに戻るぞ。きっと先輩も褒めてくれると思うしな」
「はぁい! それじゃあ行っきましょう~!」

 スキップで部屋を出て行く姫宮についていき、そのまま屋上へと戻っていく。
 だが辿り着く前に、屋上からけたたましい獣が叫ぶような声が聞こえてきた。
 俺と姫宮は顔を見合わせてから、足早に屋上へと駆け上がる。

 そしてそこで見たものは、断末魔のような咆哮を上げているオークジェネラルの姿だった。
 両腕が切断された上、全身が傷だらけの血塗れ。まさに満身創痍ともいうべき様相を呈している。
 一体何が……と思ったが、オークジェネラルはそのまま仰向けに倒れる瞬間に光の粒となって消失した。つまりは討伐されたというわけだ。

 そしてオークジェネラルの巨躯によって見えなかったが、奴が消えたせいでそこに一人の人物が立っているのが分かった。
 俺はその人物を見て思わず身が固まってしまう。

「あららぁ、もしかして先越されちゃったパターンってやつですかねぇ……って、センパイ?」

 何でアイツがこんなとこに……っ!?

 そいつは以前、東京駅で先輩と一緒に見た不気味な少女だった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

キモオタ レベル0★世界最弱のオタク高校生の僕だけレベルアップ!美女に囲まれハーレム青春物語

さかいおさむ
ファンタジー
街中にダンジョンが現れた現代日本。 人々には戦士としてのレベルが与えられる。 主人公は世界最弱のレベル0。 レベルの低さに絶望していたある日、戦士のレベルの10倍の強さになるというボスが現れる。 世界で倒せるのレベル0の主人公だけ。 ダンジョンで戦うことは諦めていた主人公だが、その日から自分だけがレベルアップできることに。 最強戦士になって、美女の仲間たちとダンジョンの秘密を解き明かす。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

俺の旅の連れは美人奴隷~俺だって異世界に来たのならハーレムを作ってみたい~

ファンタジー
「やめてください」「積極的に行こうよ」「ご主人様ってそういう人だったんだ」様々な女の子とイチャイチャしながら異世界を旅して人生を楽しんでいこう。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

処理中です...