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第八話 明日の目的地

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 アパートに帰って来た俺は、今後どうしていこうか計画を立てていた。
 ここらへんのダンジョンは粗方攻略し終えたからだ。
 待っていれば、またどこかしらにダンジョンは復活するだろうけど、オレ的にはそろそろもう少し上のレベルのダンジョンに挑戦したい。
 その方がレベルだって上げやすいし、討伐ポイントだって稼げる。

「ん~やっぱ情報網がないと不便だよなぁ」

 俺が今まで利用してきた情報網は、たまにダンジョンで遭遇する『ギフター』たちだ。
 ただこれが当たり外れがあって、中には今日会ったような変質者もいるから、できれば初対面での接触はオススメできないのだ。
 何度かダンジョンで顔を合わせている人物がいるのだが、専らそいつと情報交換をしている。

「あ、そういや武器の補充もしとかなきゃな」

 俺は〝ショップ〟を開き、今日失った刀の分を補充することにした。
 アイテムボックスにはまだ予備の武器は確保しているが、それを使うのは時間に余裕が無い時だ。
 今は時間に余裕があるので、失った分を補充しておく方が賢い。

「どうっすかなぁ。武器って基本どれも高えし」

 現在討伐ポイントは5000ほど。
 武器カテゴリーには剣や槍、弓矢などがあるが、何故か銃や大砲といった兵器はない。あれば便利なのに。
 とはいっても俺が扱っているのは短剣や刀類のみ。

「《妖刀・ムラマサ》に《菊一文字》かぁ。どっかで聞いたようなものばっか。しかもどれも五桁だし買えねえ……」

 攻撃力なども表示されていて、やはり優秀なものは相応に値段が高い。

「この最上級ランクの《神刀・スサノオ》なんて百万越えてるしな。あ~恐ろしい」

 その分、すっげえ性能なんだけどね。一撃で八回の攻撃を与えることができるらしいし。

「全額注ぎ込むのは止めときたいし、やっぱ手軽なこの《新羅》にしとくか」

 刀の中でも中の下あたり。そこそこの耐久度と攻撃力があるので使い勝手が良い。
 俺は2000ポイントを消費して《新羅》を購入した。
 腹も減ったので、この前コンビニから拝借させてもらった缶詰を食うことにする。

 こんな世界になって、当然人間が真っ先に走ったのは食料の確保だ。
 ライフラインの多くを失ってしまった現代では、自給自足が基本となってくる。
 食材となるモンスターを狩れば飢えることはないが、それはあくまでも俺のような『ギフター』だからこそのもの。 

 ただ結局はそれも調理を必要とするので、料理が苦手な俺としては、やはりこうしてすぐに食すことができる缶詰などの方がありがたい。
 しかし当然ながらコンビニやデパート、飲食店などは真っ先に人間たちの襲撃に遭っている。

 もちろん犯罪だし、人としてやっちゃいけないってこともみんな分かっているだろうが、生きるためには仕方のない行為でもある。
 こんな時代だからこそ倫理や秩序が大切だと謳う者もいれば、強きこそ正義と口にし好き勝手に暴れる者もいるのだ。

 もうこれ……終末だろ。 

 そんなふうに思ってしまうのも無理はないと思う。実際に国家権力だって機能していないし、完全に法治国家としての体裁は崩壊してしまっているのだ。
 今では無法国家日本として、皆が力に怯える世界になっている。
 まあ俺もどちらかというと平和な方が好きではあるが、こういう非日常もまた興味がなかったわけじゃない。

 RPGは好きだし、大学生になった今でもハマってるジャンルでもある。
 とはいっても自分が『ギフター』だからこその考えでもあるだろうが。これが何の力も持たない一般人だとしたら、ただただ現状に怯えるだけで引きこもりの生活をしていたかもしれない。

 すべては巡り合わせということなのだろう。
 何の因果か、こうして『ギフター』になったからには、最大限利用して人生を楽しむ方が良いと思う。

「こういう刀を振るうっていうのも普通じゃできねえ経験だしな」

 俺はアイテムボックスから《新羅》を取り出して手に取る。
 本物の刀なんて手に持つなんて考えられなかったし。
 ちょっと自分が侍とか忍者になった気分で心地好いのも確かなのである。

「そういやしばらく大学にも行ってねえなぁ」

 当然っちゃ当然なんだが、今あそこはどうなっているのだろうか。
 不意に気になったので、一度確かめに行こうと思った。

「じゃあ明日大学に向かうとして、いろいろ準備しとくか」

 再びアイテムボックスを開いて、今あるものをちゃんと把握しておく。
 〝ショップ〟には、この地球で売ってないものも存在している。

 特に《スタミナポーション》や《オーラポーション》なんてこの世にはないものだ。これらはそれぞれ、服用すれば体力と気力を回復できる代物である。
 他にも一時的に身体能力を上げる《フィジカルポーション》や、解毒作用のある《アンチドートポーション》などといったものまで存在しているのだ。

 科学者や研究者にとっちゃ喉から手が出るほど欲しい魅惑的な薬だろう。
 それが僅か討伐ポイント200~500くらいで手に入るのだから、『ギフター』は本当に恵まれているといえる。

 そして当然ながら、俺も幾つか購入して保持していた。いつ何があっても対処できるようにである。

「よしよし、食料もあるし飲料だって二週間分はあるな。武器も薬もこれだけバリエーションが豊富なら安心だ」

 あとは明日のコンディションだが、『ギフター』になって体調を崩したこともないので、恐らくは万全な身体で臨むことができるだろう。

 とまあまるで戦場にでも行く雰囲気ではあるが、普通に大学に様子を見に行くだけなんだよなぁ。

 しかしこうしてしっかりした準備をしている自分が、何か割と好きな自分がいる。
 遠足前日に浮かれている感じの小学生みたいで、ちょっとこの姿は他人には見せたくないが。
 こうして俺は明日の目的を定め、今日はゆっくりと身体を休めることにしたのである。

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