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プロローグ

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 俺は【リオンモール】という大型ショッピングモールを一人歩いていた。
 特に買い物の予定などはない。ただここを突っ切った方が、俺が通っている大学への近道になるだけだ。
 それにもうすぐ夏ということもあって、外は暑いので涼みの意味も兼ねての通行である。

 しかし……しかしだ……!

「ねえねえ、次どこ行くぅ?」
「そうだなぁ。映画館でどう?」
「おい、あんま引っ付くなって」
「えーいいじゃーん。嬉しいくせに~」
「ほら、あーん」
「あむ。ん~美味しい~」

 右を見ても左を見ても、イチャイチャイチャイチャ……。

 どうやら今日は『カップルデイ』というやつらしく、ココには大勢の脳内ピンク野郎どもが溢れ返っているのだ。

「はいはい、羨ましくなんてないですよ。だって俺、草食系だし? いやいやむしろ絶食系だし? 女なんてこっちからお断りだし」

 などと誰にも聞かれないように呟くながら歩く姿は、さながら『負け組』と称するのにピッタリかもしれない。

 ……はぁ、彼女が欲しい。

 生まれてこのかた恋人なんてできたことがない。
 まあそれもこれも中学の頃に、女に騙されて笑いものにされた経験があり、女を信用できないようになったせいかもしれないが。

 それでも……二次元に出てくるような純情で可愛い子が彼女になってくれたらなぁってやっぱ思う。
 だって現実世界は……。

「あんもう、今おっぱい触った、エッチー!」
「違うって、ちょっと当たっただけだって」
「なあ、今日このあと俺の家行こうぜ」
「え? う、うん……いい……よ?」
「ねえ……二人っきりになれるとこ行こ?」
「それって誘ってる? しょうがねえなぁ」

 …………ああもうっ! 視線だけで人は殺せないかなぁぁぁぁぁぁっ!
 このバカップルどもがっ! イチャイチャするなら家かホテル行けや! それとも何か? 人に見せつけて興奮するタイプですか、ああそうですか、変態なんですね!

 とは心の中で激昂してはみたものの、今日はカップルたちのための祝宴。つまり俺こそがここではイレギュラーな存在なのである。

 ああ、早く出よう、こんなとこ。

 自ずと歩幅も大きく、歩く速度も速くなっていく。
 するとその時だ。

「――――きゃあぁぁぁぁぁっ!」

 突如、上階の方から女性の悲鳴が聞こえてきた。
 いや、女性だけじゃない。男性の声もだ。しかも一人ではなく複数……どんどんその悲鳴が強く多くなっていく。

「な、何だよ一体!?」

 思わず足を止めて上を見上げる。
 この建物は六階階建てになっていて、この市内では一番の集客率を誇る場所で、連日祭りかと思うくらいの人が通う。
 だからこそかあちこちから悲鳴が轟くと、その声音は凄まじい振動を生んでビリビリと床を震わせている。

 いや、これは音だけじゃない。大勢の人間が走っているせいもあるか。

 すると今度はあらゆる場所から、ガラスを割った音や、物を壊した音などがこだましてくる。
 同時に俺がこれから向かう先の通路から、津波のように人がこっちへ向かって押し寄せてきた。

「おいおい、一体何だよ!?」

 波に飲まれないように、右脇にある自動販売機と休憩用の椅子が設置されている通路へと身を隠す。
 次々と大勢の人たちが、道なりに走り去っていく姿は、まるで何かから逃げているようだった。
 途中転倒する人や、我先にと他人を押しのけて前に走る者まで様々だ。

「何でコイツら逃げて……っ!?」

 脇道から顔を出して、コイツらが逃げている理由を確かめようとして思わず絶句してしまう。


 その視線の先にいたのは――――――――――ドラゴンだった。



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